「お金の管理が苦手」「気づいたら無駄遣いをしてしまう」という悩みを抱える人の中には、発達障害*の特性が原因となっているケースがあります。特に、アスペルガー症候群(現在の診断名は自閉スペクトラム症:ASD)の人は、金銭管理を苦手とする場合も少なくありません。
本記事では、発達障害の特性がどのようにお金の管理に影響するのかを解説したうえで、具体的な対策や利用できる相談先をご紹介します。お金の管理で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
お金の管理ができないのはアスペルガー症候群の特性?
お金の管理が苦手な背景には、アスペルガー症候群の特性が影響している場合があります。
アスペルガー症候群の方は特定の分野に対してこだわりが強く、興味のあるものに対する購買意欲が抑えられずにお金を使いすぎてしまうことがあります。また、将来を見通すことが難しいため、計画的なお金の管理ができないケースも少なくありません。
なお、「アスペルガー症候群」という名称は現在では使われておらず、診断名は「自閉スペクトラム症(ASD)」に統一されています。以降は、ASDという名称で説明していきます。
発達障害の方がお金の管理が難しい理由
発達障害の方がお金の管理を苦手とする背景には、ASDや注意欠如多動症(ADHD)の特性の影響が考えられます。
ASDの方は先ほど紹介したようにこだわりが強いという特性があり、特定の興味や趣味にお金を使いすぎてしまうことがあります。興味のある分野のものなら、高額な商品でもためらわず購入してしまうケースも少なくありません。また、細かいルールに固執しすぎて、お金の管理が柔軟にできない人もいます。
一方、ADHDには衝動的に行動してしまうという特性があり、「計画的にお金を使うのが難しい」「必要のないものを衝動買いしてしまう」といった困りごとがよく見られます。
ASDの特性が単体で現れる方は、それほど多くありません。ASDとADHDの特性が重なっている方のほうが多く、これによりお金の管理がさらに困難になるケースもあります。例えば、「細かい収支の記録が続かない」「支払いを忘れてしまう」など、日常生活にさまざまな影響が出ます。
発達障害の方に起きやすい買い物依存とは?
買い物依存とは、必要以上の買い物を衝動的に繰り返してしまう状態のことです。物を購入すること自体がストレス解消や満足感を得る手段となっており、欲しいと思っていないものまで購入してしまうことがあります。これにより、金銭的な負担が大きくなり、中には多額の借金を抱えて自己破産に至る人もいます。
発達障害の中で特に買い物依存になりやすいといわれているのは、ADHDの人です。ADHDには衝動性や不注意といった特性が見られ、これらが原因で必要のないものを衝動買いしてしまうことがあります。例えば、「セールだったから」「気分転換になるから」といった理由で、深く考えずに購入してしまった経験がある人もいるでしょう。
さらに、ADHDの人は元気ややる気を感じづらく、より強い刺激を求める傾向があるといわれています。そのため、買い物による一時的な刺激に依存してしまうことがあるのです。
買い物依存の対策については、以下の動画で詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。
発達障害当事者の“お金のプロ”が教える「買い物依存/浪費対策」 イイもの依存になっている?ADHDのあなたが向き合うべき部分と仕組化に頼るべき部分を解説
お金を上手に管理するための7つの対策
発達障害でお金の使いすぎに悩んでいる人は、まず具体的な対策を知ることが大切です。ここでは、お金を上手に管理するための7つの対策を紹介するので、ぜひ実践してみてくださいね。
自分の特性や消費パターンを知る
お金を上手に管理するために、まず自分の特性や消費パターンを把握しておきましょう。どのような特性があり、どんな状況で無駄遣いしやすいのかを知ることで、具体的な対策を立てやすくなります。
例えば、「ネットショップで衝動買いをよくしてしまう」という場合は、「ネットショップを見ないようにする」「必要なものは実店舗で購入する」などの対策が効果的です。
また、「必要ないものまで買ってしまう」というケースでは、「購入前に本当に必要かどうかを考える時間を作る」「事前に買い物リストを用意し、リストにないものは買わない」といった工夫が役立ちます。
まずは、自分の行動や消費パターンを振り返り、客観的に分析することから始めましょう。これにより、自分に合ったルールや予算を立てやすくなり、計画的なお金の管理ができるようになります。
自分の価値観と向き合う
お金の使いすぎに悩んでいる人は、自分の価値観と向き合ってみましょう。「なぜ衝動を抑えられないのか」「なぜ少しいいものを買ってしまうのか」などを、自分に問いかけることが大切です。
衝動的な買い物の背景には、「他人からよく見られたい」「自分へのご褒美が必要」といった心理が隠れている場合があります。これらの価値観に気づき、自分の行動を客観的に見つめ直すことが改善への第一歩となります。
また、「買えないこと」や「節約すること」を恥ずかしいと感じてしまう人もいますが、節約や身の丈に合った買い物は、自分を大切にし、将来をより良くするための賢い選択です。このような考え方を受け入れ、価値観をアップデートすることも大切です。
クレジットカードの限度額は低めに設定する
クレジットカードを使いすぎてしまう人は、限度額を低めに設定すると効果的です。限度額が高すぎると無意識のうちにたくさん買い物をしてしまい、請求額を見て驚くことも少なくありません。
限度額を低く設定しておくと、カードでの買い物に自然と制約がかかり、衝動買いや必要以上の出費を防ぎやすくなります。また、限度額に達すると支出を見直すきっかけができるため、お金の管理に対する意識を高めることも可能です。
限度額の変更はカード会社のサイトや窓口で簡単に行えるので、あえて低めの金額に設定しておきましょう。
お金の使い方を決めておく
無意識にお金を使ってしまう人は、「何にどのくらいのお金を使うのか」を事前に決めておくことが重要です。「生活費」「貯金」「娯楽費」などの項目ごとに使える金額を決めておくと、無駄遣いを防げます。
この方法はお金の使いすぎを防ぐだけでなく、貯金などの目標を達成しやすくなるのもメリットです。また、「娯楽費の範囲内なら好きに使ってよい」といったルールを作ることで、浪費を抑えながら買い物を楽しむ余裕も生まれます。
まずは、家賃や光熱費、食費など必須となる支出項目を洗い出し、自身の収入に合わせて適切な金額を割り振るところから始めてみてください。
一般的な金銭感覚を身につける
お金を上手に管理するには、家賃や光熱費、食費や娯楽費など、項目ごとの一般的な支出金額を知ることも大切です。これにより、自分の支出が適正かどうかを判断しやすくなり、健全な金銭感覚を身につけられるようになります。
金銭感覚を見直すことで、「今月の娯楽費は高すぎる」「この商品の金額は自分の収入に見合っていない」といった考え方ができるようになり、お金の使いすぎを防ぎやすくなります。
まずは、各支出項目の金額の目安をインターネットで調べ、自分の支出額と比較してみましょう。身近な人に相談し、お金の使い方についてアドバイスをもらうのもおすすめです。
お金の管理方法を学ぶ
「家計簿アプリを活用して日々の収支を記録する」「項目ごとに予算を設定し、それを徹底する」など、お金の管理方法を学ぶのも効果的な対策のひとつです。
家計簿アプリを使うと収入と支出のバランスを可視化でき、どの項目にどれだけ使っているかを把握しやすくなります。これにより、自分の消費パターンや改善点が見えてくるでしょう。また、月ごとの予算を設定し、予算内に収めるという目標を持つことで、お金に対する意識が自然と高まります。
こうした正しいお金の管理方法を学び、「毎日の支出を記録する」など小さな工夫を積み重ねていきましょう。
家族や友人など周囲に協力してもらう
お金の管理が一人では難しい場合、家族や友人など信頼できる人に協力を依頼するのも効果的な方法です。例えば、「無駄遣いをしていないか見守ってもらう」「毎月の支出計画を一緒に立ててもらう」といったサポートがあると、管理の負担を軽減できます。
それでも管理が難しい場合は、家族に直接お金の管理を任せる方法も検討してみてください。「通帳やクレジットカードを家族に預ける」「お小遣い制にする」といった対策をとると、物理的に無駄遣いができない環境を整えられます。
お金の管理に自信がない人や負担を感じる人は、一人で抱え込まずに周囲に協力を求めることも大切です。
発達障害やお金の管理に関する相談先
発達障害やお金の管理について悩んでいる人は、専門の相談機関を利用してサポートを受けることも検討しましょう。ここでは、具体的な相談先とその特徴を紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方やその家族を支援するための機関です。日常生活や就労など、発達障害の人が抱えるさまざまな困りごとについての相談を受け付けており、お金の管理に関する悩みも相談できます。
また、医療や福祉といった関連する支援機関への紹介、生活スキルを身につけるための助言、家族向けの情報提供など、多岐にわたる支援を実施しています。発達障害に特化した専門機関であるため、安心して利用できる相談先です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、就業や生活に関する総合的なサポートを提供している機関です。就労に向けた準備や職場定着の支援だけでなく、日常生活での困りごとにも対応しています。
利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付き、金銭管理を含む日常生活に関するさまざまな支援や助言を受けることができます。支援員が個々の状況に合わせた計画を一緒に立ててくれるため、心強いパートナーとなるでしょう。
相談支援事業所
相談支援事業所は、障害福祉サービスの利用者を支援する機関です。障害のある人やその家族からの相談に応じ、障害福祉サービスを利用するための計画の作成やフォローアップなどを実施しています。
また、自治体によっては、障害福祉サービスの利用有無に関わらず、障害のある人が抱えるさまざまな困りごとに関する相談を受け付けている場合もあります。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある人が日常生活のスキルを向上させ、自立した生活を送れるよう支援する福祉サービスです。支援内容には、食生活や家事といった基本的な生活スキルに加え、金銭管理の指導も含まれています。発達障害のある人も利用できるサービスで、多様なニーズに対応しています。
金銭管理に関する具体的な支援内容は、買い物や支払いのシミュレーション、家計の収支バランスを考える練習などです。「一人暮らしをしている」「障害年金を受給している」など、個々の状況に合わせたサポートや助言がもらえるので、実践的な金銭管理スキルを身につけられるでしょう。
自立訓練(生活訓練)を受けると日常生活の質が向上し、将来的な就労や社会参加にもつながります。まずはお住まいの自治体に相談し、利用可能な施設やプログラムを確認してみましょう。
就労移行支援
就労移行支援は、障害のある人が一般企業への就職を目指す際に利用できる障害福祉サービスです。就労に向けたスキルやマナーの習得だけでなく、日常生活に必要なスキルも身につけられます。その中にはお金の管理に関するサポートも含まれており、金銭管理に悩む発達障害の人にもおすすめのサービスです。
就労移行支援では個々の特性や状況に応じて個別支援計画を作成し、その人に合った目標を立てられます。お金の管理に自信がない人は、まず特性や消費パターンを把握するところから始め、具体的な対策についての助言や訓練を受けられます。
さらに、就職活動の支援や職場への定着支援も行っているので、安定した収入を得るためにも役立つ支援サービスです。就労移行支援の利用については、お住まいの自治体や就労移行支援事業所に問い合わせてみてください。
医療機関
買い物依存やお金の管理が自分で制御できない場合は、医療機関での治療も検討しましょう。買い物依存を含む依存症に特化した医療機関では、専門的な診断と適切な治療、アドバイスを受けることができます。
また、発達障害に関する深い知見を持つ医療機関に相談するのもおすすめです。金銭管理の困難さが発達障害の特性によるものかどうかを診断し、状況に応じた対策や治療法を提案してもらえるため、適切な支援につながります。
自助グループ・当事者会
自助グループや当事者会は、同じ発達障害や金銭管理の悩みを抱える人たちが集まり、情報交換や支援を行うための場です。買い物依存やお金の使いすぎに関する悩みを共有することで孤立感が和らぎ、他の参加者の工夫や成功例から具体的な対策を学ぶことができます。
また、当事者同士の集まりのため、悩みや特性について共感や理解を得られるのも大きなメリットです。
自分の特性を理解して、お金の管理を工夫しよう
お金の管理が苦手な背景には、ASDやADHDといった発達障害の特性が影響している場合があります。発達障害のある人は、自分の特性を理解し、消費パターンを客観的に振り返ることが、金銭管理スキルを身につける第一歩となります。
家計簿アプリの活用など、できるところからお金の管理を工夫してみましょう。一人で取り組むのが難しい場合は、家族や友人の協力を得たり、公的機関に相談したりするのもおすすめです。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)の利用を検討している人は、ぜひKaienへご相談ください。Kaienでは、発達障害の強みを活かした支援プログラムを提供しています。見学・個別相談会やオンライン個別相談を実施しているので、まずはお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。