大人の自閉スペクトラム症の人の接し方のポイントとコミュニケーションの特徴

2025.1.23

大人の自閉スペクトラム症(ASD)の方は、コミュニケーションや人間関係の構築が苦手な傾向があります。現在、社会生活や日常生活で大きなストレスを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、自閉スペクトラム症の方とどう接したらよいかわからないご家族や職場の関係者もいるかもしれません。

自閉スペクトラム症の方のコミュニケーションは、ご自身や周囲の方が接し方を少し変えるだけで、改善できる可能性があります。本記事では、自閉スペクトラム症のコミュニケーションの特徴や改善方法、接し方のポイントなどを解説します。ぜひ最後までご覧ください。

大人の自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉スペクトラム症(ASD)は、「相手の気持ちをくみ取ること」「コミュニケーションをとること」「社会的なルールを理解すること」などが苦手な特性を持つ発達障害*です。

かつては「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」と呼ばれていましたが、現在は自閉スペクトラム症またはASDに統合されています。

自閉スペクトラム症の原因は、遺伝的な要因であることが多く、ほかに出生前のウイルス感染や早産などが発症リスクを高めるとされています。つまり自閉スペクトラム症は先天的な特性であるわけですが、症状の程度や現れ方に幅があるため、本人や周囲が気づかないことも少なくありません。

そのような方が大人になって責任やマナーが求められる場面が多くなると、困りごとが増え、大人になって初めて自閉スペクトラム症だとわかる場合もあります。

自閉スペクトラム症の人のコミュニケーションの特徴

自閉スペクトラム症の方のコミュニケーションには、以下の特徴があります。

  • 会話に結果や成果を求める
  • 相手の立場にたつことや人の表情を読み取ることが難しい
  • 冗談やたとえ話が理解しづらい

これらによって、無用な誤解や人間関係の悪化を招く場合が少なくありません。どのような特徴があるか、具体例を交えて解説します。

会話に結果や成果を求める

自閉スペクトラム症の方は、会話を「目的を達成する手段」として捉えやすく、結果や成果を重視する傾向があります。自閉スペクトラム症には、強いこだわりや興味の範囲が狭い特性があるため、日常会話でも、自分の興味や目的に直接関連する内容を優先し、それ以外の情報に関心を持ちにくいからです。

例えば、仕事の会議では、「この会議で何を決めるのか」「具体的な成果は何か」といった結果を強く求めます。そのため、気持ちの共有や人間関係の強化を目的とした雑談や長い前置きの重要性を理解しにくい傾向があります。

相手の立場にたつことや人の表情を読み取ることが難しい

自閉スペクトラム症の方は、相手の立場にたつことや人の表情を読み取ることが難しい特性があります。自閉スペクトラム症の方は、非言語的な情報(表情、目線、身振り)から相手の感情や意図を察することが苦手です。

そのため、言葉で明確に伝えられなければ、相手が言いたいことを理解できない場合が少なくありません。さらに、「こうあるべき」といった強いこだわりが影響すると、相手の立場で物事を考えたり、相手の感情に寄り添ったりすることが一層難しくなります。

一方で、読み取ることが難しいからこそ、過剰に相手の感情や意図を読み取ろうとして、過剰適応(周囲に合わせようと無理をすること)やカモフラージュ(自分の特性を隠して周囲に合わせること)、マスキング(感情や反応を抑えて社会的に望ましい行動を取ること)といった状況になる人もいます。

冗談やたとえ話が理解しづらい

自閉スペクトラム症の方は、冗談やたとえ話を理解しづらく、言葉通りに受け取ってしまうことがあります。これは、言葉を文字通りに解釈する特性や、想像力が働きにくい特性が関係しています。

例えば、「お前、遅刻したから罰金1万円払えよ!」といった冗談を真に受け、困ってしますことがあります。また、「このミスは氷山の一角だ」と言われた際に、「氷山とは関係ないのに、なぜその話をしているのだろう」と具体的な状況を結びつけられず、話の意図がわからなくなることがあります。

また、理解しづらいからこそ、普通にふるまおうと努力して、大げさに冗談やたとえ話に反応する場合もあることに注意が必要です。このような場合、表面的には冗談が通じているように見えても、本人には負担となっていることがあります。

大人の自閉スペクトラム症の人への接し方のポイント

自閉スペクトラム症の方とのコミュニケーションは、周囲の接し方一つで大幅に改善する場合があります。ここでは、接し方のポイントを4つに分けて解説します。

相手のこだわりを尊重する

自閉スペクトラム症の方に接する際は、相手のこだわりを尊重することが大切です。こだわっていることを無理にやめさせようとすると、パニックになったり、かんしゃくを起こしたりすることがあります。

例えば、毎朝特定の順番で物事を行う習慣がある方に対して、その流れを急に変えさせようとすると、混乱するかもしれません。一般的にみればささいなことでも、自閉スペクトラム症の方にとっては重要な意味を持つ場合も少なくありません。

自分の意見を押し付けない

自閉スペクトラム症の方に接する際には、自分の意見や世間の多数派の考えを押し付けないように心がけましょう。自閉スペクトラム症の方は、障害の特性上、相手の気持ちや立場をくみ取りにくい傾向があります。

そのため、「みんなこうしているから」「普通はこうする」といったあいまいで抽象的な基準や、「私はこう思うからあなたもそうしてほしい」という一方的な意見を受け取る際に、それを「押し付けられた」と感じやすい傾向があります。

一般的には、これらの表現を「社会的な常識」や「個人的な意見」として受け流したり、背景を自分なりに推測したりできる場合が多いでしょう。しかし、自閉スペクトラム症の方の場合、暗黙の意図や社会的なニュアンスを読み取ることが難しいため、「強制的」あるいは「理不尽」と感じやすくなるのです。

自閉スペクトラム症は論理的な筋道や具体的な説明を求める場合が多いため、より丁寧な説明が必要です。また、「あなたの考えも教えてください」のような形で相手の理解度、納得度を確認すると、認識のズレを減らせます。

具体的な指示する

自閉スペクトラム症の方に接する際は、あいまいな表現を避け、具体的な指示をすることが重要です。自閉スペクトラム症の方は、あいまいな言葉や抽象的な表現の解釈が苦手な特性があります。そのため、「少し」「適当に」などの幅がある言葉では、指示の意図を正しく理解できない場合があります。

例えば、「この資料を早めにまとめて」といった言い方でなく、「◯日の午後3時までに資料を作成してください」のように正確に伝えるとよいでしょう。

急な予定変更や仕事の依頼は早めに伝える

自閉スペクトラム症の方に対しては、スケジュール変更や仕事の依頼は早めに伝えることが重要です。自閉スペクトラム症の方は、日々の予定や活動がパターン化されていることに安心感を覚える特性があります。そのため、急な変化に臨機応変に対応するのが苦手で、不安や混乱を引き起こす場合があるからです。

そのため、予定変更が決まった時点でなるべく早く伝えておくとよいでしょう。また、「現在の作業は一時中断して、このタスクを優先してください」といったように、取り組んでほしい順序を指示することも有効です。

さらに、相手が納得したようにみえた際も、過剰適応で普通にふるまおうと努力している可能性を頭に入れておきましょう。自閉スペクトラム症の方の負担になりやすい状況を理解し、共感してあげることも大事です。

自閉スペクトラム症の人がコミュニケーション改善のためにできること

自閉スペクトラム症が原因でコミュニケーションがうまくいかない場合、自分の努力で改善する方法はあるのでしょうか。また、周囲の方に配慮を求めるにはどうしたらよいのでしょうか。自閉スペクトラム症の方や周りの方に向けて、4つの方法を紹介します。

自己理解を深める

自閉スペクトラム症の方は、自己理解を深めることで、コミュニケーションを円滑にしたり働きやすい環境をつくったりできるようになります。自分の特性や得意・不得意を理解すれば、必要な配慮を具体的に周囲に伝えやすくなります。

また、特性を活かせる環境を選択し、自分の力を発揮しやすくなるでしょう。自己理解を深める方法としては、以下が挙げられます。

  • 自分が得意なことや苦手なこと、日常生活で困ることを紙に書き出す
  • 自閉スペクトラム症に関する本や記事を読む
  • 信頼できる家族や友人、同僚に、自分の特徴や行動について意見を聞く

必要に応じて、専門的な知識を持つ医師や心理カウンセラー、キャリアアドバイザーなどに相談するのもよい方法です。

ソーシャルスキルを身につける

ソーシャルスキル(社会生活技能)とは、日常生活や社会生活を円滑に進めるための対人関係や行動のスキルです。具体的には、ビジネスマナーや感情のコントロール、良好な人間関係を築くスキルなどがソーシャルスキルに該当します。

ソーシャルスキルを身に付けられる制度の一つに就労移行支援があります。就労移行支援とは、発達障害や精神障害、身体障害を持つ方が一般就労を目指すための支援サービスです。

就労移行支援では、事業所に通いながら、以下のような訓練を受けられます。

  • 職場でのコミュニケーション方法や適切な振る舞いを学ぶ
  • 適切なスケジュール管理や時間厳守の重要性を学ぶ
  • 企業に対して障害への配慮を求める方法を学ぶ

自閉スペクトラム症の方は、「相手の気持ちを察することが難しい」「社会的なルールや暗黙の了解がわかりにくい」などの特性があるため、ソーシャルスキルが十分獲得できていない傾向があります。そのため、就労移行支援のように専門的な知識を持ったスタッフの支援とカリキュラムを受けられるサービスの利用が効果的です。

TEACCHプログラムを実践する

TEACCHプログラムは、自閉スペクトラム症の特性に適応した支援を行うための包括的なプログラムです。自分の能力を最大限に引き出し、より良い社会生活を送るための方法を学ぶことができます。TEACCHプログラムは自閉スペクトラム症の方のほか、ご家族や関係者の方も受けられます。

自閉スペクトラム症の方が利用できるTEACCHプログラムの主な内容は次のとおりです。

  • 視覚的なサポートの活用
    絵カード、写真などを使用して、「いつ」「どこで」「何をするか」を明確にする方法を学びます。
  • 日常生活のルールや流れを構造化する
    活動の順序を視覚的に整理し、「何を」「どのくらい」「どうなったら終わりか」を理解し、伝える方法を学びます。
  • ソーシャルスキルを学ぶ
    あいさつや感謝を伝える練習など、社会生活で必要な基本的な対人スキルを訓練します。
  • 自己表現の方法を学ぶ
    自分の感情や希望を整理し、伝えられるようにする訓練を行います。
  • ストレスを軽減する工夫を学ぶ
    活動や環境を整えることで、コミュニケーションに伴うストレスを減らす方法を学びます。
  • 家族や周囲との協力を得る
    家族や職場関係者などにプログラムの内容を共有し、協力を得ます。

TEACCHプログラムは、TEACCH公認専門職ネットワーク協会、地域の発達障害者支援センター、民間のクリニック、療育施設などで実施されています。また、TEACCHプログラムを明記していなくても、考え方を取り入れている支援機関もあります。

SPELLアプローチを取り入れる

自閉スペクトラム症の方が周囲の方に対して「SPELLアプローチ」を取り入れてもらう方法は、コミュニケーション改善に効果的です。

SPELLアプローチとは、英国自閉症協会(National Autistic Society)が提唱する自閉スペクトラム症の方への支援理念です。以下のそれぞれの頭文字が示す5つの基本原則に基づき、自閉スペクトラム症特有の困難を軽減し、生活の質を向上させることを目的としています。

  • Structure(構造化)
    情報を視覚的に整理し、見通しをたてやすい環境を整えます。
  • Positive(肯定的)
    スモールステップで成功体験を積み重ねることで、自己肯定感を高めるアプローチをとります。
  • Empathy(共感)
    ASD特性に寄り添い、苦痛や困難を理解する姿勢を重視します。
  • Low Arousal(穏やかさ)
    圧迫感のない声のトーンや態度で接し、環境や刺激を穏やかに保ちます。
  • Links(つながり)
    家族、地域、専門機関などとの連携を重視し、支援の一貫性を保ちます。

このように、障害の特性に配慮してもらうことで、コミュニケーションを改善できます。

ただし、自閉スペクトラム症の方が、職場に対して、SPELLアプローチを要請しにくい場合もあるでしょう。こういった場合には、就労移行支援の職場定着支援スタッフ、ハローワークの職場適応援助者(ジョブコーチ)、企業の産業医などに支援を求める方法があります。

自閉スペクトラム症の特性を理解した接し方が重要

自閉スペクトラム症の方は、コミュニケーションが苦手な傾向があります。そのため、大人になり社会的な責任やルール順守が求められるようになった際に、いろいろな困りごとが生じる場合が少なくありません。

現在、自閉スペクトラム症が原因で離職している方や、就職が難しいと考えている方が利用できる支援機関の一つに就労移行支援があります。

Kaienは、自閉スペクトラム症を含む発達障害の方に特化した就労移行支援機関です。専門的な知見を持ったスタッフが、ソーシャルスキルの訓練や特性に合った職業・職場探しをサポートします。また、就職後も職場定着のためのサポートを続けられます。

障害者手帳をお持ちでないグレーゾーンの発達障害の方も利用できる可能性がありますので、お気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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