障害のある方が自立して生活するためには、適切な支援制度を活用することが重要です。しかし、「自立」とは具体的にどのようなことを指し、どのような支援が受けられるのかを知らない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、福祉の分野での「自立」の意味を解説し、障害者の生活や就労をサポートするためのサービスや制度をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
障害者の自立とは?
そもそも「障害者の自立」とは、どのようなものを指すのでしょうか。「自立」という言葉には、「他人の助けを借りずに存在すること」という一般的な意味がありますが、福祉の分野における「自立」はこれとは少し異なります。
厚生労働省は福祉の分野における自立を「自己決定に基づいて主体的な生活を営むこと」や「障害を持っていてもその能力を活用して社会活動に参加すること」と定義しています。障害者がなんの支援も受けずに生活することは現実的には困難ですが、支援や保護されるだけの存在ではありません。
障害者の自立とは、「自分で意思決定を行い、主体的な生活を送ること」を指します。必要に応じて適切な支援を受けながら、自分で選び、行動する生活こそが「障害者の自立」といえるでしょう。
障害者の自立を支援する制度
障害を持つ人が自立した生活を送るためには、障害の内容や程度に応じた支援制度を適切に活用することが重要です。日本には障害者を支援するための制度が多くあり、日常生活や医療、経済面などを支援する仕組みが用意されています。
ここでは、「障害者手帳」「自立支援医療」「障害年金」「特別障害者手当」という代表的な4つの支援制度について詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
障害者手帳
障害者手帳は、障害があることを証明する公的な手帳で、障害の種類に応じて次の3種類に分けられます。
- 身体障害者手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 療育手帳
この3つの総称が「障害者手帳」で、これらの手帳を取得すると次のようにさまざまな支援が受けられます。
- 医療費の助成
- 所得税や住民税の控除
- 交通機関の運賃や公共機関などの割引
- 障害者雇用制度の利用 など
また、映画館や美術館といった民間の施設でも、障害者手帳の提示で利用料金の割引が受けられるケースが多く見られます。このように、障害者手帳は生活のさまざまなシーンで役立つため、該当する場合はぜひ取得を検討してみてください。
障害者手帳を取得するには、お住まいの自治体の障害福祉窓口で手続きが必要です。申請する手帳に応じて医療機関による診断書などが必要になるため、詳細は自治体の窓口に相談しましょう。
自立支援医療
自立支援医療は、障害のある方の医療費の負担を軽減する制度です。この制度を利用すると、医療費の自己負担額が原則1割に抑えられます。医療の種類や世帯年収によって負担額の上限が設定されており、上限を超えた分は公費で補助されるため、利用者の負担が軽減されます。
自立支援医療の種類と対象者は、次の3つです。
- 精神通院医療:統合失調症などの精神疾患により、継続的な通院が必要な人
- 更生医療:身体障害者手帳を持ち、手術などで障害の除去や軽減が期待できる人
- 育成医療:身体障害のある児童で、手術などで障害の除去や軽減が期待できる人
申請には、所定の申請書や医療機関による診断書が必要です。詳しくはお住まいの自治体の障害福祉窓口にお問い合わせください。
障害年金
障害年金は、障害によって日常生活や就労が困難になった方を経済的に支援する制度です。国民年金または厚生年金に加入している方が対象で、障害の程度に応じて支給額が決まります。
国民年金に加入している場合は障害基礎年金が支給され、支給額は障害等級や年齢、扶養している子どもの有無によって変わります。一方、厚生年金に加入していて障害等級が1級または2級に該当する場合は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金を受け取ることが可能です。
障害年金の申請は、お住まいの自治体の窓口、年金事務所、または年金相談センターで受け付けています。
特別障害者手当
特別障害者手当は、精神または身体に重度の障害があり、日常生活で常に介護を必要とする方を支援するための手当です。支給額は一律で月額28,840円となっており、2月・5月・8月・11月に、それぞれの前月までがまとめて支給されます。(2024年12月時点)
対象となるのは、身体や精神に重度の障害があり、施設に入所せず在宅で生活している方です。ただし、本人や配偶者、生計を維持する扶養義務者の前年の所得が一定額を超える場合は、支給対象外となります。
特別障害者手当の申請は、各自治体の窓口で受け付けています。
障害者の自立を支援する施設やサービス
障害のある人が自立した生活を送るには、先ほど紹介した経済的な支援に加えて、日常生活や就労を支援する施設やサービスの利用も必要になります。ここでは、障害者の自立を支援する施設やサービスを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の日常生活や就労に関する一体的な支援を提供する施設です。利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付き、さまざまな困りごとの解決を支援してくれます。
例えば、就業支援では職場探しや面接対策、職場定着に向けたサポート、生活支援では金銭管理や日常生活のスキル向上、住居や地域生活に関する相談など、幅広いサポートを実施しています。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害のある方の就業を支援するための専門機関です。就労の準備から職場への定着まで一貫したサポートを提供しており、具体的には、利用者の職業適性を評価する「職業評価」や、就労に必要なスキルを身につけるための「職業準備支援」などを実施しています。
また、ジョブコーチを派遣して職場定着のための支援を実施しているのも特徴です。ジョブコーチは、障害者本人への直接的なサポートだけでなく雇用側の事業者にもアドバイスを行い、職場での合理的配慮がスムーズに進むようサポートします。
地域活動支援センター
地域活動支援センターは、障害のある方が地域で安心して自立した生活を送れるよう、日中の活動や交流の場を提供する施設です。利用者は生産活動や創作活動を通じてリフレッシュしたり、他の利用者と交流したりすることができます。また、生活上の困りごとについて相談できる窓口としての役割も果たしています。
また、医療機関や支援機関と連携しながらのサポートや、周囲とのコミュニケーションを円滑にするための社会適応訓練などを実施しているセンターもあります。
自立生活援助事業
自立生活援助事業は、地域で暮らす障害のある方に必要な支援を提供するサービスです。地域で一人暮らしやそれに近い形で生活をしている人を対象に、専門スタッフが定期的に訪問して支援します。
具体的な支援内容は、食事や洗濯といった家事のサポート、金銭管理のアドバイス、体調の確認などです。必要に応じて、通院や買い物に同行することもあります。また、定期的な訪問だけでなく、利用者からの相談や要請があれば、電話や追加の訪問で柔軟に対応する体制が整備されています。
グループホーム(共同援助生活事業)
グループホーム(共同生活援助事業)は、障害のある方が地域で自立した生活を送るために、支援スタッフのサポートを受けながら共同生活を行う場です。一人暮らしに不安がある方でも、他の利用者と共に生活することで、安心して自立に向けたステップを踏み出せます。
ホームでは、食事の準備や掃除、金銭管理といった日常生活を支援スタッフがサポートします。さらに、スタッフは利用者の相談に応じて医療や福祉サービスの利用を調整するなど、生活全般を支援します。
ハローワーク
ハローワークは、求職者に対して仕事探しを支援する公的な機関です。全国のハローワークには障害者専門の窓口が設けられており、職業相談や求人紹介、職場定着をサポートするさまざまなサービスを提供しています。
障害者雇用に理解のある企業の求人情報を紹介するだけでなく、履歴書の書き方や面接対策などの具体的なアドバイスも実施しています。また、条件に合うような求人を出してもらえるよう事業主への働きかけも実施しているため、希望の求人がなかなか見つからないという場合はハローワークに相談してみましょう。
障害者の就労支援に特化したハローワークの活用は、自立に向けた重要なステップです。
就労移行支援
就労移行支援は、障害のある方が一般企業での就職を目指す際に利用できる福祉サービスです。働くために必要なスキルやマナーを学ぶ場を提供するとともに、履歴書の作成や面接練習、企業とのマッチングなど、就職活動全般についてサポートが受けられます。
利用期間は原則2年間で、この期間に支援スタッフが利用者の特性や希望に合わせた個別支援計画を作成し、就職に向けた準備を進めます。すぐに就職活動を始めたい方から、自分の障害や特性を理解するところから始めたい方まで、それぞれのペースでサポートを受けられるのが特徴です。
就労移行支援事業所には、障害の種別を問わない総合事業所と、特定の障害に特化した支援を行う特化型事業所があります。総合事業所は数が多く、通いやすい場所を見つけやすいのがメリットです。一方、特化型事業所は障害種別に応じて専門的な支援を受けられる点が強みです。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が地域社会で自立した生活を送るために必要なスキルを身につけるための支援サービスです。「就職活動の前に生活基盤を整えたい」という方や、「就労や自立した生活に向けて、年単位でゆっくり取り組みたい」という方が多く利用しています。
具体的には、食生活や生活リズムを整えたり、自分の障害について理解したり、自立した生活を送るために必要な幅広いスキルの習得を目指します。また、健康管理や金銭管理、障害福祉制度を活用する方法なども指導され、実際の生活場面を想定した実践的な訓練が受けられるのが特徴です。
利用者一人ひとりの状況や目標に応じた個別支援計画が作成されるため、自分のペースで必要なスキルを習得できます。
障害者の自立を支えるサービスや制度は多い
障害者の自立とは、適切な支援を受けながら自分で意思決定を行い、主体的な生活を送ることです。そのためには、どのような支援制度があるのか、そして自分に適した制度は何かを知っておくことが大切です。
日本では障害者手帳や自立支援医療、障害年金などの経済的支援制度をはじめ、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)など、多岐にわたる制度や施設、サービスが整備されています。これらを活用しながら、自分らしい生活を目指しましょう。
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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。