日常生活の中で、怒りや悲しみ、不安といったネガティブな感情をコントロールできなくなってしまう場合、人それぞれで原因や背景は異なります。
発達障害のある人は、特性により感情のコントロールができない、もしくは苦手というパターンも見られます。感情を適切にコントロールできないと、日常生活や仕事に支障をきたす可能性があるため、自分の傾向を知った上で対策をすることが大切です。
本記事では、発達障害の人が感情コントロールが難しい理由や対策、感情が揺さぶられる場面での対処法などについて解説します。大人の発達障害についての相談場所も紹介しますので、感情を適切にコントロールし、日常生活や仕事で穏やかに過ごすためにぜひお役立てください。
感情のコントロールができないことと発達障害は関係ある?
感情のコントロールができない理由には、ストレスや疲労、体調不良などさまざまな要因が関わっています。発達障害のある人は、強いこだわりや衝動性により感情のコントロールが難しい場合があります。ここでは、発達障害の特性と感情コントロールの関係について解説します。
ADHDと感情コントロールの関係
ADHD(注意欠如多動症)は、 主に以下3つのタイプに分類されます。
- 不注意優勢型:うっかりミスや忘れ物の頻度が高い、長時間集中できない、片付けが苦手
- 多動・衝動優位型:心と体が落ち着かない、じっとしていることが苦手、衝動的に行動しやすい
- 混合型:不注意と多動・衝動の特徴を併せ持つ
ADHDの特性を持つ場合、怒りを感じたときにカッとなり、衝動的な行動に移りやすい傾向があります。また、悲しみや不安などネガティブな感情が記憶に残りやすいため、些細なきっかけで感情的に反応してしまうことも考えられます。
上記の分類や特性の程度は人それぞれで異なりますが、多動性や衝動性が強い場合は特に感情のコントロールが難しいと言われます。
ASDと感情コントロールの関係
ASD(自閉スペクトラム症)は、主に以下のような特性が見られる発達障害です。
- 社会的コミュニケーションの難しさ:曖昧な表現や冗談、相手の気持ちを図ることが難しい、視線や表情、身振り手振りを用いたやり取りが苦手
- 独特のこだわり:特定の習慣や規則、自分の興味がある物事に強いこだわりを持つ
ASDの場合、こだわりが強いために、自分の行動や言動に対して指摘を受けた際に反発心からイライラしやすい傾向が見られます。
また、その場の空気や相手の気持ちを察することが苦手で、自分の思ったことをストレートに発言した結果相手を怒らせてしまい、口論になるパターンもあります。自分には悪気がないからと相手に強く出てしまい、感情がコントロールできない状況に陥ることもあるでしょう。
大人の発達障害とは?
発達障害は、生まれつきの脳の構造や遺伝的な要素による特性と考えられており、大人になってから発達障害になるわけではありません。子どもの頃は発達障害の特性に気づかず過ごしてきたものの、進学や就職によって人間関係や環境が変わり、それがきっかけで発達障害の特性に気づくケースもあります。
大人の発達障害のある人によく見られる主な特徴は、以下の通りです。
- 相手の立場に立つことが苦手で、悪気はなくても怒らせてしまう
- 相手の表情から気持ちを察することが難しく会話がかみ合わない
- 会議中にじっと座っているのがストレスになる
- 相手の話につい割り込んでしまう
- あいまいな表現や暗黙のルールがわからない
- 特定の物事やルールに強いこだわりを持つ
- 思いついたことをそのまま口に出してしまう
- 視覚過敏・聴覚過敏などでストレスを溜めやすい
発達障害のある人は、生まれつきの特性や周りの環境の影響により、さまざまな困りごとが生じることが多く見られます。仕事内容や環境が合わないと疲労やストレスを溜めやすくなり、感情のコントロールができなくなる可能性があります。
感情をコントロールしやすくするための日常的な対策
感情を適切にコントロールするためには、発達障害の特性について理解した上で必要な対策を取ることが大切です。ここでは、感情コントロールに役立つ、日常的にできる対策を紹介します。できることから取り入れてみましょう。
感情コントロールが難しい場面を理解する
自分の感情が高ぶりやすい場面や原因を把握することで、必要な対策を立てやすくなります。また、感情の起伏に客観的に気づきやすくなり、衝動的な言動の回避につながります。
どういった状況で怒りやすいか、誰のどんな発言に対して感情を揺さぶられるか、といったことを書き出し、自身の傾向を理解しましょう。
また、感情的になった時のルールをあらかじめ決めておくことも効果的です。ネガティブな感情になったら席を立つ、深呼吸するなどを明確化しておくと自分の反応をパターン化でき、余裕を持って感情をコントロールできるようになります。
マインドフルネスを実践する
マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を集中している状態を指します。価値判断をせず、ありのままの状態を観察するのがポイントです。
マインドフルネスな状態になることで、自身の感情を客観的に捉えられるようになり、感情をコントロールしやすくなります。
マインドフルネスな状態を目指す代表的な方法として「マインドフルネス瞑想」があります。
マインドフルネス瞑想のやり方は以下のとおりです。
- 床や椅子などに座り目を閉じ、呼吸に意識を向ける
- 雑念が浮かんできたら、雑念が浮かんできたこと自体を受け入れ、呼吸に意識を戻す
最初は1日2〜3分でも構いません。短い時間でも継続していくことが重要です。
慣れてきたら1日10分〜15分程度を目安にするとよいでしょう。
アンガーマネジメントを学ぶ
アンガーマネジメントのプログラムでは、自分の怒りのタイプを分析して、怒る以外の解決策を身につけていくなどの進め方が取られます。以下は、すぐにできるアンガーマネジメントの方法として有効です。
- 怒りを感じたら6秒待つ
- 怒りの原因を特定する
- ポジティブな考え方に目を向ける
- 特定の考え方に偏り過ぎない
怒りを感じた時に分泌されるアドレナリンの影響は6秒間続くと言われており、その時間をやり過ごすことで衝動的な言動を避けやすくなります。また、日頃からネガティブな考え方をしがちな場合は、ポジティブな考えに目を向けることで怒りの感情が薄れていく可能性もあります。
十分な睡眠を確保する
睡眠不足は感情の乱れや仕事のミスにつながりやすいため、十分な睡眠時間の確保を心がけましょう。また、睡眠は量とともに質も重要となります。質の良い睡眠を取るためのポイントは、以下の通りです。
- 毎日同じ時間に起きる
- 朝起きたら日の光を浴びる
- 1日3食を心がける
- 夕食後にカフェインや飲酒を控える
- お風呂の温度を高くしすぎない
- ストレッチや軽い運動を取り入れる
上記すべてをすぐに実行することは難しくても、できることから始めれば徐々に睡眠の質が高まっていきます。十分に睡眠を取れるようになれば、ストレスや疲労が軽減され、感情をコントロールしやすくなるでしょう。
運動習慣を身につける
日常的に適度な運動をすることで満足感や開放感を得られ、ストレス解消につながります。また、体を動かすことで気分も良くなり、結果的に感情をコントロールしやすくなる効果が期待できます。ジョギングやウォーキングなど手軽に取り組める運動から始めると良いでしょう。
イヤーマフを利用する
感覚過敏があり、周りの音がストレスになりやすい場合は、イヤーマフを利用しましょう。イヤーマフや耳せんで刺激を減らすことでストレスが軽減されるため、心に余裕が生まれ、冷静な対応が可能になります。結果的に、感情の適切なコントロールを促します。
ただし、仕事中にイヤーマフや耳栓を利用できるかどうかは職場により異なります。事前に上司や人事に確認を取った上で使うことが大切です。
感情のコントロールが難しい場面に遭遇した場合の対策
発達障害の特性により、感情のコントロールが難しい場面に直面する可能性はあります。ここでは、感情のコントロールが難しい場面に遭遇した際に取るべき対策を紹介します。いざとなったら対策を取れるように覚えておきましょう。
深呼吸をする
感情をコントロールできないような場面では、呼吸が浅くなっていることが多いため、深呼吸をしてみましょう。ゆっくりと深呼吸を続けることで、気持ちが落ち着いてきて、怒りにまかせて行動してしまう事態を避けられます。
深呼吸には複数のやり方がありますが、椅子に座ったままできる腹式呼吸がおすすめです。座った状態で背筋を伸ばし、目を閉じてお腹に手を当てます。頭の中で「1、2、3」とカウントしながら口から息をゆっくりと吐き出します。次に、同じく3カウントで鼻からゆっくりと息を吸い、これを繰り返します。
場所を移動する
感情的になりそうだと感じたら、場所を移すことも効果的です。一時的にでも場所を移動することで、その場で衝動的な言動を取らずに済みます。また、気持ちの切り替えがしやすくなり、状況を俯瞰して見る余裕が生まれるため、冷静に考えて適切な判断が可能になります。
具体的には、仕事で怒りや不安を強く感じたら自席を立ってトイレに行く、休憩室に飲み物を取りに行くなどの方法が有効です。
気持ちを書き出す
気持ちを紙などに書き出すことで、客観的に見返せるようになり、心が落ち着いていきます。また、気持ちを吐き出すことで発散ができ、余裕を持った状態を取り戻せるため、感情のコントロールが可能になります。
やり方は簡単で、紙とペンを用意して、今思っていることや感じていることを書いていくだけです。どんな言葉でもいいので、素直に書き出すことが重要です。テキストだけでなくイラストや落書きでも同じような効果が期待できます。
自分の好きなことをする
自分の好きなことや興味のあることに取り組むことで、気持ちをスムーズに切り替えられるため、衝動的に行動することを避けられます。
具体的には、好きなお菓子や飲み物を取る、気分に合った音楽を聴くといったものです。感情のコントロールが難しくなる時に備えて、自分が好きなものをあらかじめ準備しておくと良いでしょう。ただ、オフィスでは、お菓子を食べたり音楽を聴いたりできる場所や状況が限られる場合もあるため、事前に確認しておくことも大切です。
大人の発達障害の相談先
大人になって発達障害に気づいた場合など、日常生活や仕事における困りごとを相談できる場所があります。ここでは、大人の発達障害についての相談ができる機関や施設を紹介します。
医療機関
発達障害の診断や検査は、精神科や心療内科、メンタルクリニックなど医療機関で受けられます。また、発達障害かもしれないと感じている人も、医療機関で相談可能です。中には、カウンセリングや各種プログラムを提供しているところや、さまざまな支援機関と連携しているところもあるので、問い合わせてみましょう。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害の早期発見や早期支援を目的とした施設です。各都道府県に1つ以上設置されており、発達障害のある人やその家族などからの相談対応や日常生活のサポートを実施しています。
また、医療や教育、就労など関係機関とも連携しており、状況に応じて紹介も受けられます。年齢を問わず、発達障害の診断を受けるか迷っている場合や職場での感情コントロールについて聞きたい、といった場合にも利用可能です。
事業内容は各センターで異なるため、実際の事業内容については、住んでいる地域の発達障害者支援センターに問い合わせましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就労・生活支援センターとは、障害がある人の仕事と生活を総合的に支援するための公的機関です。身体障害や精神障害、知的障害などのある人が、自立して働き続けながら、安定した生活を送るために必要なサポートを提供しています。
就労面では、就活サポートや就労定着支援、職場への同行、支援機関の紹介など就労に関するさまざまな支援を受けられます。また、生活面では、健康管理や金銭管理のアドバイス、障害者手帳の取得や障害者年金の申請など、支援内容は多岐にわたります。
窓口での相談はもちろん、職場訪問や家庭訪問なども実施しており、柔軟に利用できる相談場所です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、身体障害や知的障害、精神障害などの障害がある人に対し、専門的な職業リハビリテーションを提供している機関です。各都道府県に最低1箇所ずつ設置されており、運営法人の独立行政法人高齢・障害者・求職者支援機構が運営を行っています。
ハローワークや企業、医療や福祉などと連携しており、障害者1人ひとりのニーズに合わせたサポートが受けられます。具体的には、職業相談や職業準備支援、リワーク支援などです。
また、事業主への雇用管理上の課題分析や専門的なアドバイス、地域の関連機関への人材育成なども実施します。障害者本人だけでなく、障害者雇用や障害者支援に携わる人も利用できます。
ハローワーク
ハローワークは、全国500箇所以上に設置されている公安職業安定所です。障害や生活保護受給者など、民間の職業紹介事業では就職することが難しいケースや、人手不足の中小零細企業を中心とし、国による雇用セーフティネットの重要な役割を担っています。
就職や転職を目指す人に対して、職業紹介や雇用保健の手続き、求職相談などのサポートを提供しています。また、障害のある人の就職活動を支援するための専用窓口があり、専門的な知識を持つ職員や相談員に就労相談が可能です。福祉施設や就労支援者と連携し、就職から職場定着まで一貫した支援も受けられます。
就労移行支援
就労移行支援とは、障害のある人が一般企業への就職を目指すために必要な支援を行う障害福祉サービスです。一般企業での就労に必要な職業訓練や就職活動の支援、就労定着に向けたサポートなどを行っています。
事業所ごとに支援内容は変わりますが、職場での人間関係や業務スキル、就職活動など就労する際に気になる不安について相談ができます。また、就職に役立つ知識やスキルの習得、自己管理の方法も学ぶことが可能です。
就労移行支援では、さまざまなプログラムを提供しており、利用者は自分に合った取り組みに参加できます。発達障害のある人はもちろん、うつ病などの精神疾患がある人も対象になります。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるようトレーニングや助言といった支援を提供する場です。障害者総合支援法に基づく福祉サービスの1つで、自立した生活を実現するためのライフスキルや人との付き合い方、就職など社会参加に必要な知識の習得や向上を目指します。
具体的には、食事やお金、体調などの管理に関する学習や相談などです。疾患や回復段階、家族状況など個人が置かれている環境に応じて、必要な訓練やサポートを受けられるため、年単位で自己理解を深めていきたい人や、生活基礎力を高めたい人にも向いています。
発達障害の特性を理解したうえで対策をとろう
感情のコントロールができなくなる理由には、性格や疲労、ストレスなどさまざまな要因が関係しています。発達障害がある場合、こだわりの強さや衝動性などの理由から感情のコントロールが難しくなることが考えられます。
自分の特性や傾向を理解するとともに、十分な睡眠や運動習慣を身につけることで、感情コントロールがしやすくなります。また、感情的になりそうな時に深呼吸や場所を移すだけでも、気持ちが切り替わり、心を落ち着けることができるでしょう。
大人になって発達障害に気づいた場合は、さまざまな機関で困りごとや悩みについて相談できます。今回紹介した相談場所を参考に、必要な支援の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
Kaienでは、一般企業への就労を希望する人や自立した生活を目指す人に対して、就労移行支援や自立訓練などの障害福祉サービスを提供しています。見学やオンラインの個別相談も随時開催していますので、まずはお気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます