常に“目の前のこと”に必死だったKさん。就活を前向きに乗り越えられた理由とは?

▪年齢:20代半ば
▪診断名:ASD、ADHD
▪特性・苦手:対人関係、スケジュールを立てる、こだわりが強い
▪就職:専門職(デザイン職/障害者枠)


SNSの発信を見て、発達障害*に気付く

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

基本的には1人で遊ぶのが好きで、絵を描いたり、アニメを見たりするのを楽しんでいました。他の子と遊ぶこともありましたが、大人数には苦手意識があったので、主に少人数で遊んでいたのを覚えています。

―――発達障害に気付いたきっかけを教えてください。

「発達障害かも」と思うようになったのは、就活を始めてからです。

私はデザイン系の専門学校に通っていたのですが、そのときは就活が思うように進められませんでした。「履歴書をきちんと書いてからじゃないと添削に出せない」と思い込んでおり、そもそもどのように書いたらいいのかを誰にも相談できなかったのです。

また、気になる求人に応募するときも、期日までに計画的に用意できなかったり、書類の提出期日を忘れてしまったりと、つまづくポイントがたくさんありました。

ちょうどその頃、SNSで発達障害の特性を紹介している投稿を目にしました。それを見て、スケジュールを立てるのが不得手、締め切りを忘れる、集中力にムラがあるなど、私に当てはまる項目がたくさんあることに気付いたのです。

―――診断名と、苦手なことを教えてください。

診断名はASD、ADHDです。診断を受けたのは20代前半で、専門学校を卒業後、日雇いのアルバイトで生計を立てながら就活をしているときでした。

特に苦手なことは、対人関係やスケジュールを立てることです。また、何かを作るときなどにこだわりが強く出ることもあります。

Kaienとの出会いが、生活を立て直すきっかけに

(Kさんがデザイン系の専門学生のときに作成したパッケージデザイン)

―――Kaienを知った経緯を教えてください。

Kaienを知ったのは、病院で紹介されたのがきっかけです。当時、比較的近くにあったKaienの事業所では生活訓練しか行われていなかったのですが、3ヶ月後から就労移行支援も展開される予定になっていました。

医師から「3ヶ月待って、就労移行支援から通ってもいいけど、書類を準備している間に生活訓練に通い、その後に就労移行支援を受けるのも選択肢の一つ」と提案され、「それもいいかも」と思いました。

―――入所の決め手を教えてください。

Kaienへの入所の決め手は、「生活のペースを立て直す余裕ができそうだな」と思えたことです。

Kaienに出会う前は、何とか単位を取って進級する、どうにか今月の生活費を稼ぐなど、目の前のことに追われながら過ごす日々でした。頭の中を整理する暇もありませんでしたし、体力的にも厳しいことが多々あったので、どこかで立ち止まって生活を見つめ直す時間がほしいなとずっと思っていたのです。

入所前に2〜3回体験したときに、「自分なりのペースで課題に取り組むことができそうな環境だな」と感じられたことで、今、このタイミングで立ち止まって考えるのもいいなと入所を決めました。

―――生活訓練ではどんなことをしていましたか?

生活訓練は、自己管理に関する訓練が中心でした。例えば、午前中の講座ではお金の管理方法や感情のコントロールの仕方、物事の優先順位の付け方などについて学びます。

午後は個人的な課題に取り組む時間で、私は“自分の取扱説明書を作る”ことに取り組みました。得意なことや不得手なことはもちろん、どのように指示をしてくれると助かるのかなども細かく書き出しました。

自分に向き合ったことで特性への理解が深まり、履歴書に書くべきことの判断がしやすくなったように思います。

―――就労移行支援に移行した後、取り組んだことを教えてください。

就労移行支援では、デザイン職の実務で使うツールについて学ぶ「デザイン登竜門」や、Webページのデザインなどを学ぶ「IT登竜門」などに取り組みました。

デザイン登竜門は専門学校で習っていた内容と被ることもあったのですが、1〜2年のブランクがあったので、いい振り返りの機会になりました。また、新しく動画編集について学べたのも良かったです。

―――訓練で印象に残っていることはありますか?

特に印象に残っているのは、グループワークでランチマップ(ランチを提供しているお店のマップ)を作成したことです。

私は、講師からリーダーに指名されました。リーダーを任されるのは初めてでしたし、一人で作業をする時間が減るとストレスを感じてしまうので、こうした役割は苦手だと思っていました。

しかし、いざリーダーをやってみると、「こんなふうに作りたい」という強いこだわりを表現したり、「こうしたらもっと良くなる」というアイデアを出したりしやすかったので、意外と楽しかったです。

一緒に動いているメンバーに対して、「こういう目的でこの仕事をお願いしたい」と伝えるのは難しかったのですが、学びになることが多かったです。

一人で抱え込まないでいい環境が、Kaienにあった

(配られたカードに書かれている言葉でプロポーズのセリフを作るボードゲームを友達として、盛り上がったときの様子です」とKさん)

―――就活では、どういった業種・業界を目指しましたか?

デザインの仕事ができる会社への就職を目指しました。就活を始めたのは就労移行支援に移行した2ヶ月後で、「応募したい」と思う求人を見つけたのがきっかけでした。

―――履歴書の作成などが苦手とのお話でしたが、何か対策はできましたか?

滞りなく準備を進められたのは、Kaienに「漠然とした状態で、曖昧な質問をしてもいい」と思える環境があったからだと思っています。

今までは就活に関する質問をしたり、履歴書の添削を受けたりすること自体にハードルの高さを感じていたのですが、Kaienのスタッフさんは「添削に出しなよ」とよく声をかけてくれました。そのおかげで、「中途半端な状態でもいいから一度相談してみよう」と思えるようになったのです。

また、以前使っていた志望動機や自己アピールの一般的なテンプレートは、なかなか自分に合うものがありませんでした。しかし、Kaienには自分に適したテンプレートがあったので、履歴書の作成に取り掛かるハードルも低くなっていました。

―――就活は順調に進みましたか?

全部で7社に応募し、就活を終えるまでには半年ほどかかりました。実は、就活を始めたばかりの頃は、なかなか決まらない時期がありました。

ただ、一人で就活をしていたときよりも前向きに取り組めるようになりました。以前は、応募する時点で“入社したらやりたいこと”などの具体的なイメージを膨らませていたので、1社落ちるたびにとても落ち込んだのです。その結果、次に応募するまでの期間も長くなってしまっていました。

一方で、Kaienでの就活は同時期に数社の選考を進める状態を保てていたので、「ダメでも別の会社で頑張ろう」と気持ちを切り替えることができました。最終的には、フレックスタイム制・リモート勤務ができ、キャリアアップの可能性もある理想の職場から内定をもらうことができました。

自分なりのペースで、少しずつ前進していきたい

―――現在の職場での仕事内容を教えてください。

デザインを担当するチームに配属されており、社内の人から依頼を受けてデザインする仕事をしています。一人で対応することもあれば、数人で協力して対応することもあります。

リモートワークが可能な点は、やはり良かったなと思っています。というのも、人から見られる状況が続くととても緊張してしまい、それだけで疲れてしまうからです。入社して半年以上経ちますが、一人で黙々と作業できる環境だからこそ無理なく続けられています。

―――今後の目標や挑戦したいことはありますか?

「今できることから少しだけレベルアップすること」を目標にしています。例えば、今所属しているチームでは動画編集の機会はほとんどありませんが、余裕があるときには勉強を進めておきたいです。

また、3次元の立体空間で描かれる「3DCG」にも興味があり、その勉強もしてみたいです。ただ、集中力に波があったり、仕事で疲れ切ってしまったりすることも多いので、自分なりのペースで挑戦できればいいなと思っています。

付録  ~Kさんのこと~

(Kさんのお気に入りのメイク道具)

最近楽しかったことは、友達としたボードゲームです。“配られたカードに書かれている言葉を使ってプロポーズのセリフを作る”というゲームをして、とても盛り上がりました。

また、メイクにもハマっています。好きな色のアイテムを塗ったり、コンシーラーで気になる部分を隠したりしていると、自分の顔に絵を描いているような気分になれて楽しいのです。

就職して収入が明確に把握できるようになったので、メイク道具を買い揃えやすくなりました。今はたくさんアイテムを持っているのであまり積極的に購入していませんが、化粧品を見に行くことが楽しみの一つになっています。



※インタビュー内容については、表現を一部改変しています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。

この記事を読んだあなたにおすすめの
Kaienのサービス