肌の刺激や感触が気になる触覚過敏の症状で、生活や仕事に支障をきたすことは少なくありません。触覚過敏によって自由に服が着られない、化粧やマスクができないといった悩みがある方は、適切な対処法を知ることで生きづらさや働きづらさを軽減できます。
この記事では、触覚過敏の原因や主な症状、ストレスを緩和する対処法などについて解説します。触覚過敏により仕事に支障が出た際の支援機関も紹介しているので、触覚過敏の症状に悩んでいる方は参考にしてみてください。
触覚過敏とは?
触覚過敏は感覚過敏の1つで、肌の刺激や触れたときの感触に過剰な反応をするのが特徴です。触覚過敏には、ゴワゴワする服が苦手、化粧ができないなどの症状があります。同じ触覚過敏でも、人によって苦手とする感触や素材は異なり、特に敏感な身体の部位も人それぞれです。
触覚過敏かどうかは、症状が生活に支障をきたしている度合いで判断されます。例えば、特定の服が苦手で着られないために、生活で困りごとが生じているなら触覚過敏といえるかもしれません。
触覚過敏以外の感覚過敏の種類
感覚過敏には、触覚過敏以外に主に以下が挙げられます。
- 聴覚過敏
- 視覚過敏
- 嗅覚過敏
- 味覚過敏
- その他の感覚過敏
感覚過敏はそれぞれ特定の感覚が鋭敏になっており、日常的に疲れやストレスを強く感じることが多いです。例えば、聴覚過敏では雨の音が気になったり、赤ちゃんの泣き声が耐えられないほど不快に感じたりします。
その他の感覚過敏には、バランス感覚が過敏に反応する「前庭覚の過敏」や、心拍数などの体の中の感覚が鋭くなる「内受容感覚過敏」といった種類があります。
触覚過敏の原因
触覚過敏の原因は明確に解明されていませんが、脳の機能や皮膚の疾患などが原因になり得ると考えられています。身体の器官が発する信号に対して脳が過剰に反応し、感覚過敏が起こっている可能性があります。また、過剰なストレスで感覚が過敏になってしまうケースも考えられるでしょう。
さらに、発達障害*の特性で触覚過敏が起こっている可能性もあります。感覚過敏は発達障害の診断基準に用いられるDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)にも特性の一つとして含まれており、発達障害と感覚過敏の関連性が指摘されています。ちなみに、発達障害の方で最も顕著だと言われる感覚過敏は「聴覚過敏」です。
発達障害の特性による感覚過敏について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
主な触覚過敏の症状とセルフチェック法
自分が触覚過敏かどうか気になる方もいるかもしれません。以下は触覚過敏の方によく見られる症状の一例です。自分に当てはまるものがあるかチェックしてみてください。
- タグや生地の肌触りなどが不快に感じ、着られない服がある
- 特定の素材が苦手
- マスクの着用に不快感がある
- 化粧ができない
- 人に触れる、または触られるのが苦手
- 雨や風に当たると不快に感じる
- 薬を塗ったり、湿布を貼ったりする感覚が気になって使えない
これらの症状が日常生活や社会生活に支障をきたすほど強い場合、触覚過敏の可能性があります。ただし、このチェックリストはあくまで目安であり、診断を確定するものではありません。
正式な診断を受けたい場合は、皮膚疾患が疑われる場合は皮膚科を、発達障害の可能性がある場合は精神科や心療内科を受診する必要があります。
触覚過敏の対処方法
触覚過敏は特定の素材や触り心地などに不快感を示します。自分がどのような触覚を苦手とするのか把握していれば、対策を講じることで苦痛を軽減できるかもしれません。ごわつく素材が苦手、化粧ができないなどの困りごとに応じた対策方法を知っておくと役立つでしょう。
ここからは、触覚過敏の方に有効な対処方法を4つ紹介します。
肌触りの良い衣服を着用する
触覚過敏で着られる衣服が限定される方は、なるべく肌触りの良い素材のものを選ぶことが大切です。肌触りが良い服の例として、綿やシルクなどの天然素材が挙げられます。自分が不快に思わない素材の衣服で統一することで、日常的なストレスは緩和できるはずです。
また衣服のタグや縫い目が苦手な場合は、こうしたディテールのないアイテムを選ぶ方法もあります。近年では、タグのない服や縫い目がないシームレスの服も多く販売されています。タグや縫い目がある服も、裏返しに着ることで気にならなくなる場合があるため、試してみてください。
安心できるものを持っておく
感覚過敏では、不安を強く感じているときほど不快感も顕著になる傾向があります。そのため、不安を和らげる工夫、例えば安心できるものを用意しておくなどの対策も効果的です。肌触りの良いタオルなど、持っていると安心するものを身に着けておくとよいでしょう。
その他、子どもの頃から使っている毛布やぬいぐるみなども安心感を与えてくれるアイテムとして挙げられます。触覚過敏の症状を軽減したい場合は、日頃から安心できるものを持っておくのがおすすめです。
化粧やマスクの必要ない仕事を選ぶ
触覚過敏で化粧やマスクが苦手な場合は、それを必要としない仕事を選ぶことも一つの方法です。例えば、在宅勤務なら身だしなみに気を遣う必要がなく、化粧やマスクをせずに働くことができます。Webライターや在宅コールセンターなど、完全在宅でできる仕事を検討してみるとよいでしょう。
詳しくは後述しますが、職場で合理的配慮を求め、化粧やマスクをしない許可をもらう方法もあります。仕事の選び方でも、触覚過敏の方の働きやすさは変わってきます。就職や転職の際は、自分の特性を考慮しながら求人を探してみましょう。
人と極力触れないようにする
触覚過敏の症状の一つに、人に触れたり、触れられたりするのが苦手というものがあります。こうした傾向のある方は、人と極力触れないように生活することが大切です。
人と触れないように生活するためには、周囲の理解や協力が必要になります。周囲の人に自分の症状を相談し、理解を得たうえで人との触れ合いを減らしていければ、トラブルも避けられるはずです。
触覚過敏で仕事に支障が出たら
触覚過敏がある場合、仕事上でもさまざまな支障が生じる場面があるかもしれません。しかし、そのままの状態で我慢して働き続けるのは注意が必要です。ストレスが高じて症状が悪化し、より働きにくくなる悪循環を招く恐れがあります。触覚過敏で仕事の困りごとがあるときは無理をせず、以下の方法を試してみるとよいでしょう。
働き方を検討する
触覚過敏が原因で、今の職場では働きにくいと感じている場合、働き方を根本的に見直してみるのもおすすめです。例えば、在宅勤務にすれば苦手な感触などを避けて働けるようになります。その結果、嫌な触覚への刺激が減るため日常的な不安やストレスも緩和できるでしょう。
また発達障害の診断を受けている場合は、障害者手帳を取得すれば障害者雇用の選択も可能です。障害者雇用とは、障害のある方を対象とした、一般雇用とは別に設けられた雇用枠のことです。
一定以上の規模の企業は、障害のある方を決められた割合で雇うことが義務付けられています。障害者雇用の場合、職場で障害や特性への理解を得やすく、一般雇用よりも働きやすい環境が期待できます。
合理的配慮を求める
合理的配慮とは、障害のある方が障害のない方と同じように働けるよう、特性に応じて提供される配慮のことです。触覚過敏で働きにくいと感じている方は、働きやすさを向上できるよう職場に合理的配慮を求めるとよいでしょう。
触覚過敏への配慮の一例として、服装の自由化が挙げられます。スーツや制服の着心地が苦手な場合、触覚過敏の方はどうしても仕事に集中できなくなります。合理的配慮によって自由な服装で働けるようになれば、業務効率も向上するでしょう。
その他、マスクや化粧を免除してもらう、人との接触機会を減らすといった形でも配慮を求められます。
支援機関に相談する
触覚過敏で働きづらさを感じている方は、支援機関を頼るのも一つの方法です。触覚過敏の方や障害のある方が仕事の悩みごとを相談できる支援機関は以下のとおりです。
- ハローワーク
- 地域若者サポートステーション
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
- 自立訓練(生活訓練)
ハローワークや地域若者サポートステーションでは就労に関する総合的な支援を行っており、障害の有無にかかわらず利用できる施設です。地域障害者職業センターでは、障害のある方に職業訓練を提供しています。障害者就業・生活支援センターは、仕事と生活の両方の相談が可能です。
その他、就職をサポートしてほしい方には就労移行支援事業所、仕事に対する自信が持てず、まずは自分の将来を見つめ直したい方には自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、障害のある方の一般就労を目指して幅広い形でサポートを行っています。具体的な支援内容は、実践的な職業訓練や就職に有利な資格の取得を目指すプログラム、自分に合った仕事がわかる適職アセスメントなどです。
面接練習や書類の作成サポートなどの就活支援も充実しており、Kaien独自の障害者雇用求人も取り扱っています。就職後の定着支援にも定評があり、利用者が就職してから半年後の定着率は95%です。
触覚過敏で働きづらさを感じている方は、就職実績も豊富なKaienの就労移行支援サービスをぜひご検討ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
仕事の前にまずは自分を見つめ直したい、視野を広げたいと感じている方には、Kaienの自立訓練(生活訓練)がおすすめです。Kaienの自立訓練(生活訓練)では100種類以上のプログラムを提供しており、就職や生活に役立つ知識・スキルを身につけられます。
例えば、心のケアをルーティン化する「感情コントロール」プログラム、生活習慣を整える「睡眠コントロール」プログラムなどがあります。自分に合った仕事を見つけるために、職場を見学したり、実際の作業を体験したりすることも可能です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)に参加すれば、障害への理解を深め、自分らしい未来がきっと見つかるはずです。
触覚過敏は適切な対処法で過ごしやすい環境に
特定の素材や触り心地を苦手とする触覚過敏の症状は、適切な方法で対処することで不快感を軽減できます。肌触りの良い服を選ぶなど、過ごしやすさを向上させる工夫を試してみるとよいでしょう。
触覚過敏が原因で職場や業務に関する困りごとを抱えている場合、働き方を根本から見直すことも大切です。合理的配慮を求める、支援機関に相談するなど、自分らしく働ける方法を模索してみましょう。
Kaienでは発達障害の方に特化した福祉サービスを提供しているので、興味がある方はお気軽に見学・個別相談会にご参加ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。