大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)

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「発達障害*」の1つである「ASD(自閉スペクトラム症)」は先天的な脳機能障害であり、いわゆる「自閉症」や「AS(アスペルガー症候群)」もこのカテゴリの中に含まれます。

本記事では、大人の「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)」の特徴や診断基準、得意な仕事や仕事での困りごととその対処法についてまとめています。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)とは

まずは、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)にみられる特徴について、詳しく説明していきます。

「社会でのコミュニケーションの難しさ」+「独特のこだわり(or 独特の感覚)」

「ASD」は ”Autism Spectrum Disorder ” の略で、日本語では「自閉スペクトラム症」「自閉症スペクトラム」「自閉症スペクトラム障害」などと訳され、文脈によって使い分けられることもあります。

ASDの人は、学校や職場など社会の様々な場面で人とのコミュニケーションや関わりに難しさが生じることが多くあります。また興味や関心が狭い範囲に限られやすく、独特のこだわり行動や振る舞いが見られることもあります。

他にも五感などの感覚が人よりとても敏感に感じたり、逆にほとんど感じない分野がある人もいます。

このような特性は人によってどの特徴が強く出るか、またどの程度の強さなのかもまちまちです。全く同じタイプの人は二人といないと言ってもよいでしょう。

基本的に生涯これらの特性を持ち続けますが、大人になり求められる行動基準が高くなってから初めて困難さが明らかになることもあります。

「3つ組の障害」

1979年にイギリスの児童精神科医ローナ・ウィングは、「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)」を含む自閉症の人が持つ特徴として「ウィングの3つ組」を提唱しました。

ASDを理解する上でこの「3つ組の障害」という視点から考えるのが分かりやすいのでご紹介しておきます。

社会性の質の違い周囲の人とかかわる時に適切にふるまうことができず、相手と関係を築いたり、築いた関係を維持していくことが難しい。
コミュニケーションの質の違い相手が言っていることや感じていることを理解したり、気づくのが難しい。また自分が言いたいことや感じていることを相手にわかりやすく伝えたり、表現するのが難しい。
想像力の質の違い自分が見たり予想していた以外の出来事や成り行きを想像したり納得することが難しい。自分の興味のあることや心地よいパターンの行動に強いこだわりがあり、想定外の行動を取ることに抵抗を示す。
自閉症の人が持つ特徴「ウィングの3つ組」

ASDの特徴

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)の特徴について説明します。

グループでの業務・活動が苦手

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)のお子さんには幼稚園・保育園や学校などの集団生活になじめない人が少なくありません。
授業や行事で一斉に同じ活動をしたり、クラスの中で他のお子さんと適切な距離感を取りながら付き合うのが苦手な人が多いです。

大人になっても職場や町内会・親戚付き合いなど様々な場面で集団活動に参加する必要があります。
しかも子どもの頃よりも与えられた役割を果たすことを求められるようになり、「パス」したくてもできない事が多くなります。

仕事の場面で言えば、ASDの人は一人で黙々と作業をするのは得意な傾向にありますが、チームで業務を行うのが苦手な人が多くいます。

よく「空気が読めない」と表現される状態です。チーム内で孤立してしまったり、周囲と足並みを揃えずに自分が良いと思ったことを独断で行い、他のメンバーを混乱させてしまうことがあります。

言葉や図で説明されない限り、本人にはチームがどんな目標のためにどうやって動いているかを理解したり、それを踏まえて自分はどう動けばよいかを理解するのが難しいのです。
結果として周囲からは非協力的な態度だと受け取られてしまいやすくなります。

やり取りがうまくかみ合わない

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)の人の中には、子どもの頃に言葉の発達に遅れがあると指摘を受けていた人も多くいます。
その後成長して日常生活の読み書きや会話は十分できるようになった人でも、独特の言葉の使い方をすることがあります。

少し表現が不自然な程度であればやり取りしていても大きな問題にはなりません。しかし、言われたことを独自に解釈して理解のズレが生じたり、わかりにくい表現をして相手にうまく伝わらないことも少なくありません。

仕事の上では業務の指示を誤って理解したり、報告や相談をするときに話が分かりづらく支障が出ることがあります。また職場では状況が色々と変化する中でその場で言われたことを理解し適切に返答するといった動的なコミュニケーションが求められるようになります。

そのようなスピード感があり、きちんと具体的に説明しないやり取りだと理解が追いつかなかったり言いたいことをぱっとまとめて伝えられないという人も少なくありません。

学校では急な変化が少なく自分のペースで落ち着いてやり取りできる静的なコミュニケーションが多いため、学校生活では問題が目立たない人もいます。毎日やることが決まっているからです。

しかしそのような人でも就職してから急に困りごとが深刻になることがあります。

言葉の使い方以外にも、会話をする中で相手がどんな気持ちでいるか表情などの様子から読み取ったり、読み取った相手の気持ちを踏まえて伝え方を修正することが苦手です。

そのため例えば怒っている相手に火に油を注ぐようなことを気にせず伝えてしまうといったことが起こりがちです。

他にも会話を円滑に進めるために笑顔で応えたり共感の気持ちを態度で示すことがうまくできず、会話をしていても何となくぎくしゃくした雰囲気になってしまうこともよくあります。

自己流で物事を進めたがる

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)のあるお子さんは特定の物事を手順通りに行うことに強くこだわることがあります。例えばいつもの道順でなく別の道から行こうとすると拒否したりします。

自分の知らない別の方法ではどんな結果になるか想像ができず、恐れや抵抗を強く感じてしまうためです。子どもであればパニックになるほど混乱することもありますが、成長するにつれてそのような場面は減っていきます。

しかし大人になってもあらかじめ説明してもらえないと、自分が納得した方法で物事を進められない時には困惑してしまうことがあります。

仕事であれば、マニュアルや指示の通りに作業をするよう言われていても、自分が気になってしまうと作業を先に進めることができなかったりします。

中には指示されていないことも気になってしまい、違う方向に作業してしまう場合もあります。

このため作業の効率が落ちたり作業が完了できなくなることもあり、職場での評価が下がってしまうことも残念ながら少なくありません。

診断名の変化 「自閉症・アスペルガー症候群」から「自閉スペクトラム症」へ

もともと発達障害の歴史は1940年代のアメリカの精神科医レオ・カナーによる知的障害をともなう「自閉症(カナータイプ)」の研究から始まりました。そのため1970年代までは「自閉症」というと知的障害があるという認識が一般的でした。

その後1979年に、上記「3つ組の障害」で取り上げたローナ・ウィングが、1940年代にオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが行っていた知的な遅れのない自閉症の研究について改めて取り上げました。

ウィングがアスペルガーの研究にちなんで「知的障害をともなわない自閉症」のことを「アスペルガー症候群」と名づけたことで、その存在が世界中に知られるようになりました。

その後2013年にDSM-5というアメリカ精神医学会の診断基準の改訂がありました。その際に古典的な「自閉症」や「高機能自閉症」、「アスペルガー症候群」、また「特定不能の広汎性発達障害(全ての特徴はそろっていないが「自閉症・アスペルガー症候群」のいくつかの特徴を持っている)」などを「自閉スペクトラム症」に統合することになりました。

虹の色が連続して変わるように、特性の出方が人によって強く出たり、弱く出たりしているという、「自閉症」の新たな捉え方を打ち出しました。

※DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

ASDの診断

1. 医療機関につながる

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)を診断できるのは医師だけです。診断を受けたいと思ったら、精神科や心療内科に通院する必要があります。

発達障害を診ることができる医療機関はまだまだ多いとは言えませんので、お住まいの自治体の障害福祉課や発達障害者支援センターなどで、発達障害に詳しい医療機関の情報を集めた上で通院先を選ぶことをお勧めします。

2. 医師の問診を受ける

医療機関では医師の問診を主に行います。初診では成育歴の聞き取りなどで1~2時間程度時間を取ることもあります。通常の診察は1回15分程度が一般的です。

他にも「AQテスト」というケンブリッジ大学の研究チームが作成した簡易検査を行ったり、臨床心理士とWAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査改訂第3版)という知能検査を行ったりします。

知能検査では全検査IQ(一般的に”IQ”と言う時はこちらを使います)の他に、言語性IQや動作性IQ、さらに細かい能力を計測する群指数などが算出され、どのような能力の凸凹があるか確認することができます。

「発達障害」のある人は能力のばらつきが大きいため、各項目のIQ値の差(ディスクレパンシー)が通常より大きく出ることが多くあります。

いわゆるアスペルガー症候群の人は言語理解などの言語性が高く、処理速度などの動作性が低く出ることが多いでしょう。

逆に動作性が高く言語性が低いという人も自閉スペクトラム症の人の中にはいるため、全体の能力の凸凹の様子を見た上で診断の参考にしているようです。

3. 診断を受ける

通院頻度は月1、2回から週に1回など個人差があります。半年以上通院を続け、ASDの症状が継続して現れていることが確認できると、診断を受けることができます。

周囲から見て症状があまりわからないタイプの人は「自閉スペクトラム症の傾向がある」という言い方で医師から伝えられることもあります。

そのような人もとても困りごとが多かったり深刻だったりすれば支援を受ける必要がありますので、障害者枠での就労など必要な支援を受けるのに確定診断が必要な場合は、主治医に相談されることをお勧めします。

ASDの診断基準

最新の診断基準であるDSM-5※ では、以下の4つの基準を満たした時に診断が下せるとしています。

  1. 社会でのコミュニケーションや対人交流の持続的な障害
    1. 社会での情緒的な相互交流の障害
      興味や感情、愛情など相手と共有できる割合が少ないために、一般的でない人へのかかわり方をしたり言葉のキャッチボールに失敗してしまうような例から、人とのかかわりを自分から持てなかったり相手からの働きかけに反応できない例まで幅広くある。
    2. 社会的交流における非言語コミュニケーション行動の障害
      様々な社会的文脈に合わせて行動を変化させることに難しさがある例から、一緒にごっこ遊びをしたり友達を作るのが難しい例、また仲間を作ることに全く興味がない例まで幅広くある。
    3. 人間関係を築いて保ち理解することの障害
      様々な社会的文脈に合わせて行動を変化させることに難しさがある例から、一緒にごっこ遊びをしたり友達を作るのが難しい例、また仲間を作ることに全く興味がない例まで幅広くある。
  2. 限られた反復されるパターンの行動や興味、活動(以下の項目のうち少なくとも2つに当てはまる)
    1. 型にはまった体の動き、物の使用や発話
      単純な常同運動やおもちゃを一列に並べる、物をひっくり返す、エコラリア(オウム返し)、奇妙な言い回しなど
    2. 同一性へのこだわり、決まった手順への融通の利かない固執、儀式化された言語もしくは非言語行動パターン
      小さな変化に対して過剰に嘆き苦しむ、変化への対応の難しさ、融通のきかない考え方のパターン、儀礼のような決まった型での挨拶、決まり事を必ず行ったり同じものを毎日食べる必要性など
    3. 集中の深さや狭さが一般的でないほど非常に限られている大変強い興味・関心
      一般的でない物への強い愛着や没頭、過度に限られたもしくは固執した興味など
    4. 感覚入力に対しての反応性の過度の上昇もしくは低下、もしくは周囲の環境の感覚的側面に対しての並外れた興味
      痛みや温度に対して明らかに反応しない、特定の音や触感に対する強い拒否反応、過度に物のにおいを嗅いだり触ったりする、光や物の動きを夢中で追っているなど
  3. 症状は早期の発達段階までに発現していなければならない(が、社会的な要求が限られた能力を超えるまで全てが現れないかもしれない。もしくは後天的に学んだ対処法で見えなくなっているかもしれない。)
  4. 症状によって社会や職業またはその他の重要な分野で臨床的に重大な機能障害が起こっている

※DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

ASDに治療薬はある?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)のための治療薬は現時点(2019年7月現在)では存在しません。

社会生活を送る中で人間関係などでの困りごとが深刻で、強迫、躁鬱、睡眠障害などの二次障害が起きている人には二次障害用の治療薬が処方されます。

栄養バランスが乱れていることも多く、その際はサプリメント(ビタミン、ミネラル、乳酸菌など)が有効なこともあります。

ASDの治療薬の開発は国内外で行われています。
例えば人間の体内でホルモンや脳内神経伝達物質として働くオキシトシンを投与することで、自閉症のある人の社会性を改善するという臨床試験は国内の研究機関でも行われています。

しかし効果があるかどうかはまだ未知数であり、メカニズムも含め詳細はよくわかっていません。

ASDとADHD の併存

DSM-5※ により、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)とADHD(注意欠如多動症)が併存しているという診断ができるようになりました。

ADHDの特徴は①不注意②多動・衝動性の2つで、ASDの特徴である①社会的コミュニケーションの障害②こだわり(感覚含む)と大きく違うように思われるかもしれません。

しかし、実際には「社会性の難しさから空気を読んでいない(ASD的)」のか、「衝動的に行動している(ADHD的)」のか、また「こだわりから作業を続けている(ASD的)」のか、「過度に集中している(ADHD的)」のか、専門家でも判別しづらいことがあります。
そのため当社では診断名にこだわらずに、個別にアセスメントした上で具体的な支援方法を検討するようにしています。

※DSM-5 = 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」アメリカ精神医学会作成

ASDとADHD の違いについて下記ページで解説しています。よろしければご覧ください。

ASDの人が得意な仕事・職業

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)の特徴があると日常や仕事で不都合なことも起きやすいですが、その特徴のおかげで逆に業務の上で長所として発揮できることも少なくありません。

「社会性の弱さ」のために周囲の視線や暗黙の了解にとらわれることなく、いい意味で周りを気にせずに自分の仕事に打ち込める人もいるでしょう。

「こだわり」が業務で求められている方針と一致すれば、きっちりとルールを守り継続して同じ作業を続けられることを評価してもらえる職場も多いはずです。

また ASDのある人は多くの人が見逃しがちな細かい部分に気づいたり、ほかの人が面倒に思いがちな工程も抜け漏れなく行う特徴を持っている人が多く、正確さを求められる業務では重宝されるでしょう。
他にも「自閉スペクトラム症」の人には嘘がつけず裏表のない実直な方が多く、まじめに仕事に取り組む姿勢はどんな業務でもプラスに評価されるでしょう。

ASDの人がはまり役になる可能性の高い職種は以下のようなものとなります。

ルールやマニュアルがしっかりしている経理・財務、法務・情報管理、コールセンターなど
専門分野の知識を活かせるプログラマー・テスター、テクニカルサポート、電化製品等販売員など
視覚情報の強さが活かせるCADオペレーターなど
ASDの方に向いている職業・職種

ASDの方に向く仕事や働き方について下記ページで解説しています。よろしければご覧ください。
発達障害に向く仕事・働き方 ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)編

職場での「困りごと」と「対処方法」

困りごと1: 抽象的な指示を理解できない

「いい感じにやっておいて」などの抽象的な指示を受けた場合、ASDの方はどのように動けばよいのかが判断できず困ることがあります。

また、「多めに発注しておいて」などの指示も「多めとは、何個のことだろう?」となり把握が難しいでしょう。

対処方法

抽象的で分かりにくい部分について上司や同僚に相談できるスキルが必要です。新規の業務ではない場合、これまでの実施された同様の業務の例を参考にしてみるとよいでしょう。

また、可能であれば、具体的な数字を入れて指示してもらうように依頼しましょう。例えば、「〇月×日の△時までに〇〇個」などです。

困りごと2: 臨機応変な対応が苦手

仕事上では、その場その場で臨機応変な対応が求められることがありますが、「ASD」の方はそのようなことはあまり得意ではありません。

対処方法

「〇〇が起こったら××」というように場面ごとにどのような対応するのかあらかじめ書き出して対応マニュアルを作成しましょう。
ただし、マニュアル化をしていくことにも限界がありますので、優先順位のつけ方や対応方法などを上司や同僚に確認する、というスキルがある程度必要です。

困りごと3: 音・匂い・色・肌ざわりが気になる

ASDの方の中には、パソコンのキーボードをたたく音や空調の音などいわゆる生活音を非常に敏感に感じる方がいます。生活音の他にも蛍光灯の光や化粧品のにおい、衣服の肌さわりなどに敏感でそのままでは仕事や生活が困難な方がいます。

対処方法

光の刺激に弱い場合はサングラス、音に過敏な場合はノイズキャンセリング機能付きのイヤホンなどを利用しましょう。

制服を着用しなければならない場合、肌触りが気になるようであれば制服の下にTシャツなど別の衣類を挟みましょう。

可能であれば職場に相談しながらなるべく音の刺激が少ない(窓際など)場所にデスクを置くなどの配慮してもらうようにしましょう。

困りごと4: 職場での人間関係に苦労する

ASDの方は人間関係を築くことが苦手な方が多く、職種、職場によってはシビアなコミュニケーションが必要とされる場合もあり働き続けることが困難なケースが見られます。

対処方法

まずは仕事でしっかり成果を出すことを心がけましょう。職場は成果を求められる場所です。しっかり働いて仕事に貢献できていれば基本OKです。

仕事ができていれば上司や同僚から信頼を得られ、普段の振る舞いが少々規格外であっても好意的に見てくれます。

また、仕事ではチームで仕事をする場合があります。チームメンバーとして仕事をする場合は、リーダーや先輩から聞いたことを確実に実行するというスタンスでいれば間違いありません。

また仕事に必要な内容であればリーダーや先輩から受けたアドバイスを素直に受け取り、行動を変えることにも是非チャレンジしてみてください。

困りごと5:「適当に」仕事ができない

ASDの方の中には、いい意味で言うとお仕事に対して完璧主義、常に全力投球という方がいます。

一方で、手の抜き方がわからずに疲れすぎてしまう、少しのミスが許せず自分を責める、あるいはミスをした他者を責めてしまうことがあります。

また、中には物事に集中しすぎてしまう(過集中)方がおり、一度集中のスイッチが入ると時間の経過を忘れ、気づくと今度はスイッチが切れたように疲れ切ってしまうというタイプの方がいます。

対処方法

仕事にかける目安の時間を上司と打ち合わせしておき、事前に打ち合わせた時間までに完成したものをチェックしてもらうようにしましょう。

その時点で上司のOKが出ればそのお仕事は完了、NGがある場合は、どこをどう直すかアドバイスをもらい「頑張りすぎ」を防ぐようにしましょう。

「過集中」になってしまう方は、「休憩すること」をスケジュールに組み込んだり、アラームなどを使って休憩時間と業務時間を意識的に区切るようにしましょう。

ASDの方に向く仕事や働き方について下記ページで解説しています。よろしければご覧ください。

発達障害に向く仕事・働き方 ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)編

※Kaienでは、自分の特徴・強みを生かして就職を目指す就労移行支援や、自立に向けた基礎力を上げる自立訓練(生活訓練)、また学生向けのガクプロというセッションを運営しています。それらの中で特性を生かした自立や働き方についてもアドバイスしていますので、支援者の伴走を活用することもぜひご検討ください。

大人のASDの相談先

自分はASDかもしれないと不安になったときの相談先について紹介します。各都道府県にASDをサポートする相談機関や支援先があります。お住まいの地域の通いやすい相談先を利用しましょう。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターとは、発達障害のある方とその家族が、安心した暮らしを営むことができるよう、総合的な支援を行う機関です。各都道府県や政令指定都市の自治体、自治体が委託した事業所に窓口が設置されています。

自治体によってサービスの内容は異なりますが、相談は無料です。就労相談ができるほか、医療機関の紹介、家庭・職場における支援方法についてのアドバイスを受けることができます。

利用に際しては、お住まいの自治体のホームページなどで所在地や支援内容の詳細を確認しましょう。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の労働生活における自立を目指したサポート機関です。各都道府県にあり、ハローワークや自治体のいろいろな関係機関と連携して、障害のある方の労働面と生活面の双方について相談・支援を行っています。

そのため、利用者は、仕事探しや仕事上の悩みだけではなく、住まい・健康管理などの日常生活の相談、年金などの生活設計についての相談など、さまざまな相談ができます。

お近くのセンターについては、厚生労働省の障害者就業・生活支援センターの案内ページやお住まいの自治体のホームページなどで確認しましょう。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは、心の病を持つ方の自立・社会復帰に向けた指導と援助を行うための支援機関です。各都道府県に設置されています。

心の問題や病気で困っている方やその家族、関係者が、無料で相談ができます。相談には、医師や精神保健福祉士といった専門家が対応し、必要な支援や情報提供を行います。

相談できる内容に特に決まりはないため、生活上の悩みや社会復帰についての不安、依存症の症状についてのお困りごとなど広範囲の相談が可能です。

近くの精神保健福祉センターは、厚生労働省の「全国の精神保健福祉センター」のページやお住まいの自治体のホームページなどで確認できます。

地域若者サポートステーション

地域若者サポートステーション(通称、サポステ)は厚生労働省委託の支援機関で、15歳〜49歳までの方を対象に、就労に向けた支援を行っています

サポステでは、本人や家族だけでは解決が難しい「働き出す力」を引き出し、職場定着するまで全面的にバックアップをしてくれます。仕事をしていない方、仕事を続けられない方も気軽に相談することができます。

また、相談・面談を経て、コミュニケーション講座やジョブトレ(就業体験)などのさまざまなプログラムを受けることが可能です。

利用に際しては、サポステのホームページからお近くのサポステを探すことができます。

大人のASDの働くためのサポート

ASDの方で働きたいと思ったときの相談先について紹介します。ここで紹介するのは、先に紹介した相談先と異なり、働くための専門サポートを行っている機関です。以下で詳しく見ていきましょう。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害のある方に職業リハビリテーションや就職支援、就労継続支援などを行っている機関です。全都道府県に設置されています。

利用できるのは、障害のある方や障害者雇用に関わる方です。専門性の高い支援を受けられることが特徴です。センターでは、厚生労働省の研修・試験を修了した障害者職業カウンセラーや、相談支援専門員、ジョブコーチなどの専門家からのサポートを受けられます。

お近くの地域障害者職業センターは、高齢・障害・求職者雇用支援機構の地域障害者職業センターの案内ページで確認できます。

ハローワーク

各自治体に設置されているハローワークでも、就業の相談をすることができます。

ハローワークは正式名称を公共職業安定所といい、無料で職業相談をしたり、職業紹介を受けたりすることができます。

障害のある方専用の相談窓口も設けられており、専門知識のあるスタッフがサポートをしてくれます。職業相談・求人紹介以外にも、就職に向けて履歴書の書き方をサポートしたり、模擬面接などの面接対策など障害の特性に合わせたきめ細かな支援を行っています。

利用に際しては、厚生労働省の「全国ハローワークの所在案内」のページで最寄りのハローワークを確認しましょう。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、18~64歳の障害や疾患のある方の一般企業への就職をサポートする通所型の福祉サービスです。

就職前の「職業訓練」から就職後の「定着支援」まで、一気通貫の支援を受けられるのが特徴といえるでしょう。

「職業訓練」では、就労移行支援事業所に定期的に通い、就労に必要なスキルやマナーを身に付けるためのプログラムに参加することができます。

「職業訓練」を経て、働くイメージができると、実際に求人に応募していきます。応募に際しては、事業所のスタッフと相談しながら進めることができます。事業所によっては、事業所スタッフが面接に同行してフォローすることもあります。

「定着支援」では、入社後1か月、3か月、6か月を目安に、事業所スタッフが職場を訪問し、働く上での困りごとがないかフォローを行います。

近くの就労移行支援事業所は、厚生労働省の「都道府県別障害者施設一覧」のホームページかお住まいの自治体のホームページで確認しましょう。

特性の理解と支援の活用で大人のASDも働きやすくなる

大人のASDでは、社会でのコミュニケーションの難しさを感じたり、独特のこだわり(or独特の感覚)を見せたりする特性があります。

ASDの特徴があると日常や仕事で不都合なことが起きやすいものの、その特徴を長所として、仕事の上で活かせることもあります。例えば、ルールやマニュアルがしっかりしている仕事や、専門分野の知識を活かせる仕事、視覚情報の強さが活かせる仕事などには向いているといえるでしょう。

ASDには現時点では治療薬はありませんが、頼れる支援機関があります。ASDで働きたいけど自信がない、生活に不安があるといった場合には、発達障害者支援センターや地域障害者職業センターなどの支援機関のサポートの利用がおすすめです。

適切なサポートを受けることで、働きやすい環境を得ることができるでしょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

今はASD(自閉スペクトラム)でまとめられているこの診断名は、歴史的にはその呼び名が様々な変遷を経ています。ここに挙げられているように、一口にASDと言ってもその特性は本当に人それぞれです。例えばAさんとBさんで、同じASDという診断名があったとしても持っている特性に違いはありますし、まして性格は別物ですからASDという診断名は一個人の人となりを示すほんの一端に過ぎないということは肝に銘じておきたいところです。
いずれにしても、ご自分の、もしくはご家族のASD特性が、何かしらの「生きづらさ」に繋がっている場合、是非ここに挙げられているような様々な支援先が社会資源としてあることは知っておいてください。「診断名」はそういった支援を受けるために必要な「道具」でもあるのです。


監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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