在職者向けのキスド会(土曜夕方に秋葉原と新宿で開催している、発達障害*のある在職者向けのしゃべり場)での会話を皆さんの承諾をもとに記事にしています。今回のテーマは人事や職場の上司から発達障害の診断書を求められたときの対応法です。
Aさん: 嫌いなことも積極的にやれよと上司から言われました。周りをよく見て回りの負担が大きそうなことがあったら率先して仕事を引き受けるようにしろと。立場的にも今の職場で10年間は働いているのでそのぐらい出来ないといけないと言われたんです。それがどうも、今話をしていても胸が苦しくなるぐらい嫌だったんです。
Bさん: やれないということは残酷な言い方かもしれないけれども、自分に根本的な能力がないからだと思うんですよね。
出来ないのが障害のせいなら、診断書を出せと言われた
Aさん: 僕もそう思います。なのでまっすぐ言ったことがあるんです。障害特性があるから出来ませんって。そのときに上司から言われたのが、それを障害のせいにするのであれば診断書を持ってきてくれないと困るということです。「それはつまり雇用を障害者枠にするということ?」と感じました。実際はそこまで突っ込んでは聞かなかったんですけれどもそういうニュアンスとして僕は受け止めました。なので障害や診断のことはそれ以来は言わないようにはしています。
Cさん: 私はそれを最後の一般枠でやられました。バカ正直に、人の心も読めずに、「あっ、持っていけばいいんだ」と思って、診断書を持っていきました。そうしたらしばらくは雇ってくれたんですけれども、しばらくしたら「障害があるのがわかって雇ったわけではないから、雇用契約が成立しないのでやめてくれないか」と言われたんです。労働契約に詳しいところに相談しに行ったら「辞める必要はない」と言われたんですけれども、結局いわゆる追い込み対象になって、やめたという経緯があります。なんかずるいなと思います。そういう言葉の裏には、何かやってあげるから持ってきなさいというよりも、ちょっと攻撃的な意味が入っているんじゃないかと思います。
Bさん: 健常者は卑怯ですよね。いつも思います。
Cさん: 表はきれいに装う。きれいなデコレーションケーキかと思って開けたらドリアンだったみたいな感じで。
一同: (笑)
Cさん: 中がドリアンなのが私たちはよくわからないから、デコレーションケーキくれるのと思って行ったら違ったということは有りますね。
Dさん: 自分のことは一般枠にいるときに正直に話さないようが良いということでしょうか。
Aさん: そうか、バカ正直に診断のことを言わないほうが良いのか。
Bさん: でもいっちゃうよね、診断があるとね。ずるいことしている人許せないでしょう。
Aさん: 許せないね。
Dさん: 自分が不利になっても許せないものですよね。そうすると知らないうちに自爆していますよね。
Cさん: 自分が不利かどうかは計算のうちには入らないんですよ。だから定型発達の人は「不利だから黙っておこう」と思って実行できると思うのですが…。私たちはそれが出来るんだったらこうなってはいないという感じがします。
【参考】発達障害と障害者手帳
診断書もお金がかかる 企業に負担してとお願いしている
Eさん: ADHDの当事者です。今はコールセンターで働いています。私は生まれつき、発達障害あるなし以前にあちこち体が悪くて、ずっと病院通いしています。就職するときには事前に、「こういう特性があるので、配慮してください」といつもお願いしていました。会社によっては「それだったら診断書を出してくれ」と言われることがあるんです。私は病院に8つぐらいかかっているので、その分の診断書の発行費用をくださいと言います。診断書代ってばかにならないですよね。一通3000円とか4000円とか。それ全部出したら今月食費がなくなるほどです。なので「もし診断書が本当に必要だったら、その分は雇用する側が出してください」と言うようになったんです。そこまで言うと多くの企業は黙ります。自分でそういう交渉術に行き着きました。
Dさん: そういうのって法律で保護されているんですか?
Eさん: そうじゃないと思います。ただ自分で強く出ないと守ってもらえる立場じゃないですか。私は派遣社員なので、強く出ないといけないと思っています。事前の面談でも、「こういう特性があって、こういうミスが起こりやすいですとか、具体的に指示を下さい」とか、前もって言っておく。資料がなく指示されてわからない時は、「これについては根拠が無いので私は何も出来ないので資料をください」というようにしています。
スタッフ: 非常にアメリカ的な、きちんと権利を取りに行っている感じがしますね。
Eさん: なので典型的な日本人の職場だと嫌がられるんですよ。私が働いているところは外資系が多いので、なので上手く言っていることもあるかもしれません。
合理的配慮を希望するときも診断書などの提出が必要 法的には一般枠でも可能
スタッフ: それにしてもお話いただいたことは、まさしく今議論になっている合理的配慮ですよね。自分はこういう苦手がある。それを証明するものはこういうものだ、というやり取りが必要になるのが合理的配慮です。配慮を得るためには苦手さを証明するための医学的な証明があったほうが良いと言われています。ただし、診断書の必要性は絶対ではない。きちんと証明できるものが他にあれば、きちんと障害特性を伝えられれば大丈夫だと思います。
Dさん: 合理的配慮ってなんですか?
スタッフ: どんな人でも不得手はありますが、障害となるとその不得手の度合いが著しいですよね。合理的配慮というのは、「著しい苦手な部分を職場で求められてもうまくいかない。だからそこは配慮してくれ。」と企業側に労働者側が求めた場合、雇用主は出来る限り配慮しないといけないというルールです。ただし、他の人と違って本当に著しい苦手さがあるのかが本人の主張だけではわからないので、その証拠を見せる必要があるわけです。それは医療の診断書だったり、診断書ではなくてもこれまでこういう配慮を受けてきましたという”支援のまとめ”でも良いですし、こういう苦手さがあるというのが医療機関ではないけれども専門的に分かる人に書いてもらったというものも認められることが多いでしょう。そういう根拠があると、企業に合理的配慮を求められるという仕組みになっています。実は合理的配慮は障害者枠ではなくても一般枠でも求められるんです。
【参考】合理的配慮とは 大学編
Aさん: そうなんですか?合理的配慮を受けられるのは一般枠の中で、私が障害者ですということでも、受けられるんですか?
スタッフ: はい。法律では。ただ現実社会で実行されているかはかなり疑問ですが。もちろん合理的配慮は求めれば全て受けられるものではなくて、あくまで対話の中でどこまで配慮してもらえるかを決めるのですが、合理的配慮はアメリカの発想です。アメリカには日本のような障害者枠はありません。ですから著しく苦手な人がある人が、より社会・企業に貢献するために、ここが苦手だからこういうふうに活かしてね、と言うのは障害者枠・一般枠とは関係ない概念なのです。
Aさん: ルールとしてはあるけれども、現実的に一般枠でもそれが採用されているかどうかは別の話ですね。
Cさん: 一般枠でも合理的配慮が受けられるならじゃあどうして障害者枠があるんですか?
スタッフ: 後付けだからですね。合理的配慮のほうが後ですので。合理的配慮って今年度(2016年度)からですが、障害者枠はもっともっと前から日本にある制度ですから。
【もっと詳しく】「発達障害と仕事」について読む
【もっと詳しく】「発達障害と就職活動」について読む
監修者コメント
診断書を発行するにあたり、どういう使用目的なのか、患者さんに毎回確認し、その際のメリット・デメリットについて話し合うようにしています。
雇用は上司との間で成立しているものではなく、あくまで経営者との間で成立しているものです。なので、上司から診断書を出して欲しいと言われた際「それは上司個人の判断なのか、人事部および経営側の判断なのか」はっきりさせておく必要があります。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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