大人のASD(自閉スペクトラム症)は治療で改善する?原因や症状、対処法を解説

主な特徴・強み・弱み、向いている仕事・職場、コミュニケーション力を磨くには?
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ASD(自閉スペクトラム症)は発達障害*の1つであり、過去にはアスペルガー症候群とも呼ばれていました。研究が進むにつれ脳機能障害であることが分かり、治療や対処法が少しずつ確立されてきています。では、ASDの根本的な治し方はあるのでしょうか?

この記事では、大人のASDの原因や症状、対処法などを分かりやすく解説します。

ASD(自閉スペクトラム症)とは

ASD(自閉スペクトラム症)とは、主に「社会的コミュニケーションの難しさ」と「独特のこだわり」という2つの特性が見られる発達障害で、これらが仕事や生活などに影響を与えることで生きづらさを感じることがあります。

例えば場の空気を読み、相手の考えを理解することが苦手だったり、順番や配置など特定のものに極端な興味を示したりするなどです。

ASDは先天的な脳機能のかたよりによって引き起こされます。「空気が読めない性格」と捉えられる場合もありますがそれは間違いで、本人は空気を読みたくても読めない葛藤と戦っているかもしれません。

特に後述する診断基準を満たさないグレーゾーンの方は、逆に過剰に気配りする傾向がありますが、正確に相手の意図や空気が読めているわけではないため、生きづらさにつながることがあります。こうした生きづらさの積み重ねが、不安やうつなどの精神疾患の発症リスクを高めるので注意が必要です。

診断名が「アスペルガー症候群」から「自閉スペクトラム症」に

アスペルガー症候群は過去の診断名です。現在の医療現場では、「ASD(自閉スペクトラム症)」が用いられています。

1940年代にオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが知的な遅れのない自閉症について研究を行い、1979年にイギリスの児童精神科医ローナ・ウィングがアスペルガーの研究を取り上げ「知的障害をともなわない自閉症」のことを「アスペルガー症候群」と名付けました。

その後2013年にDSM-5※ というアメリカ精神医学会の診断基準の改訂があり、その際に「自閉症」や「アスペルガー症候群」などの古典的な診断名を「ASD(自閉スペクトラム症)」として統合することになりました。

英語の「スペクトラム」とは「連続体」という意味で、境目がなく虹の色が連続して変わるように特性の出方が人によって強く出たり、弱く出たりしているという症状、状態を表しています。

ASDの特徴・症状

ASDの特徴は、大まかに下記3つに分類することができます。

  • 社会的に適切に振る舞うことが難しい。
  • コミュニケーションを円滑にすることが難しい。
  • 「こだわり」が強く、柔軟に想像・思考することが難しい。

この3つの特徴は、自閉症、発達障害の研究に携わっていたイギリスの児童精神科医ローナ・ウィングが、1979年にアスペルガー症候群を含む自閉症の人が持つ特徴として提唱・定義(「ウィングの3つ組」)しました。

具体的には下記のような症状が見られます。

  • 自己流で物事を進めたがる。
  • グループでの業務・活動が苦手。
  • やり取りがうまくかみ合わない。
  • 伝えたいことを言葉にまとめることが難しい。
  • 人の話に関心を持てない。

ASDの原因とは?遺伝は関係ある?

近年の発達障害に関する調査研究により、ASDの原因は「遺伝」と「環境」であることがわかってきました。

これまで言われてきた親の子育てや躾(しつけ)が原因とする言説はほぼ否定されています。

しかし、まだまだ未解明の部分が多くあり、具体的にどのような遺伝子や環境が原因なのか判明していない状況のため、現在の調査研究結果をそのまま鵜呑みにすることはできません。

現在(2023年6月)わかっていること、わかっていないことを把握し、発達障害の原因とはどのようなものか全体の方向性を理解することが必要です。

原因として現在わかっていること

  • 遺伝子が主な要因。
  • 次いで環境(主に妊娠中)が主な要因。
  • 遺伝要因と環境要因が組み合わさっている。
  • ワクチンや子育てが原因ではない。

原因として現在わかっていないこと

  • どの遺伝子がどのように関連して症状を引き出すのか。
  • 親からの遺伝がどの程度か。
  • 遺伝しないで発症する確率(その人の遺伝子の突然変異)がどのくらいか。
  • 環境要因が何なのかはまだわからないことが圧倒的に多い。

※ 上記は、2023年6月の時点でわかっている事、わかっていない事になります。

発達障害の原因に関する研究結果など下記ページに記載しています。よろしければご覧ください。

発達障害は遺伝ですか?

大人になってからASDと診断されることもある?

大人になってからASDと診断される方は、決して珍しくありません。社会人のほうが子どもや学生などより、ASDによって引き起こされる問題が大きくなりやすいからです。

例えば学生のころは、自分の話が止まらなくなって周りの人を困らせても、個性的な人だと思われるだけかもしれません。親や先生などがフォローしてくれる場合も多いでしょう。

しかし、大人になれば周りから求められる責任が増えます。これによって、ASDの特性が急に目立つようになる場合があります。

重要なポイントは、大人になってASDが「発症する」のではなく、もともとあった特性が「あらわになる」ことです。

例えば、会話がうまく理解できなかったり、こだわりが強すぎたりすることが仕事上で問題にされ、医師の診察を受けてASDだとわかるケースもあります。

ASDのセルフチェックリスト

ここでは、ASDの特徴を種類ごとに分けてチェックリストにしました。あくまで簡易セルフチェック用であり、実際の診断は医療機関でしか受けられません。

疑いが強く生活に困難を感じる場合は、精神科のある病院・クリニックを受診されることをお勧めします。

社会性

  • 丁寧に接しているつもりでも、無礼だとか失礼だとか言われてしまう。
  • 綺麗な身なりのつもりでも、清潔感がないと言われてしまう。
  • 相手がついている嘘や悪意がわからず、騙されてしまう。
  • うわさ話や陰口がどうしても許せないし、自分でも言わない。

コミュニケーション

  • 伝えたいことはわかっているのだが、言葉でまとめるのが苦手だ。
  • 話すことが好きで語彙も豊富だが堅苦しい・辞書みたいな話し方だと言われることがある。
  • 会話をするときに相手の目を見て話すことができない。
  • ジェスチャーが多すぎると言われることがある。あるいはジェスチャーを全く使えない。

想像性・こだわり

  • 興味の範囲が限られ、他の人の話に関心を抱けない。
  • 違うことを試すよりも、同じやり方を何度も繰り返す。
  • 悪気はないのに事実を言ってしまい、相手との関係性が悪くなったりしたことがある。
  • 日々のルーティンが何らかの理由で出来なかったり、予定していたスケジュールがキャンセルされると、動揺して頭が真っ白になる。

感覚過敏・鈍麻

  • 飲食店など大勢の人がざわついている場所では、相手との会話が聞き取りにくい。
  • 偏食がひどく、においの強いものや特定の食感のものが食べられない。
  • 季節や気温にあった衣服の調節などがうまくできないと感じる

注意事項

チェックリストにすべて当てはまらずとも一定数の項目に当てはまれば診断を受けることが多いでしょう。一方でチェックリストに数多く当てはまる時も、ご自身の過剰な意識・過度な不安であることもあります。

純粋なASDなどというケースはほとんどなく、多くの場合はADHDやLDなどの障害、要素が重なっています。あくまで簡易版のチェックリストであることをご承知おきください。

実際の診断は医療機関でしか受けられません。医療機関で診断方法は若干異なりますが通常はWAIS-IVなどの心理検査(IQ検査・知的検査)や成育歴などの問診があります。

疑いが強い場合は精神科のある病院・クリニックを受診することをお勧めします。

大人のASD(自閉スペクトラム症)の診断はどこで受ける?

ASDの扱いは時代と共に変わってきているため、最新の診断基準や診断方法が分かりにくい方もいると思います。

最新のASDの診断方法として、主に医療機関で使用されているのはアメリカ精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル「DSM(最新版はDSM-5-TR)」と世界保健機関(WHO)が作成している国際疾病分類「ICD(最新版はICD-11)」の2種類です。これらに基づいて専門医が特性や症状をチェックし、症例に該当する場合にASDと診断します。

では、具体的にどのような手順を踏めば良いのか、ASDの際に受診すべき診療科と診断基準を見ていきましょう。

ASDの診断基準

ASDをはじめとする大人の発達障害の診断は、精神科や心療内科で行います。ASDの診断基準にはDSMとICDの2種類がありますが、ここでは医療機関で用いられることが多いDSM-5の診断基準を紹介します。

DSM-5におけるASDの診断基準

  1. 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
  2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
  3. 発達早期から1、2の症状が存在している
  4. 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されている
  5. これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されない

上記の条件が満たされた場合、ASDと診断されます。なお最新版であるDMS-5-TRでは、(1)における要件が追加されています。

また、ICD-11による診断基準も、DSM-5-TRと大きな差が出ないように調整されています。ICDは主に行政手続きなどに用いられており、障害者手帳の取得手続きもICDに基づく診断名が必要です。

ASDの診断方法

ASDの診断には対人関係、社会性に加えて、こだわりや感覚過敏が揃うことが必要です。

診断を受ける場合には通院する必要があります。ASDを含めた発達障害を診断することができる医療機関はまだまだ多い状況ではありません。

お住まいの「自治体の障害福祉課」や「発達障害者支援センター」などで、発達障害に詳しい医療機関の情報を集めた上で通院先を選ぶことをお勧めします。

病院・クリニックでは主に医師による問診が行われます。問診の他には「AQ(自閉スペクトラム症指数)テスト」や「知能検査(WAIS-IVなど)」を行い、どの程度の障害なのかや言語性、動作性にどのような凸凹があるのかなどを検査します。より専門的な医療機関ではADOS-2やADI-Rといったテストも受けることになるかもしれません。

通院頻度は月1、2回から週に1回など個人差があります。

診断場所 精神科もしくは心療内科

診断内容 問診、「AQ(自閉スペクトラム症指数)テスト」、「知能検査(WAIS-Ⅲなど)」

通院頻度 月1、2回から週に1回など個人差あり

隠れASD(グレーゾーン)の過剰適応型とは?

いわゆる「隠れASD」または「グレーゾーン」とは、ASDの症状が認められるものの、すべての基準に当てはまらず、診断を下せない状態です。医師の診察では、「ASDの疑いがある、傾向がある」などと言われます。

隠れASDという状態があるのは、ASDの症状が、虹のようなスペクトラム(連続体)を持っているからです。国境線のようにあるポイントを越えたら発症するわけでなく、ASDであるとも、ないとも言えないグレーゾーンがあります。

実際、ASDの重さや軽さを測る、はっきりとした医学的基準はありません。また、同じ人でも置かれている環境や年齢などによって、症状が大きく変わります。このため隠れASDの方は、実は身近にたくさん存在していると言われています。

なお、隠れASDの方の中には「過剰適応型」が存在します。グレーゾーンの方で自閉傾向が薄い場合、周囲に過剰に気配りして自分の行動や考えを合わせすぎてしまう過剰適応が起こりやすいです。これは正確に相手の意図を読むことができないため、相手の意見や機嫌に合わせようと必死になるあまり、必要以上の気配りをしてしまうため起こります。

過剰反応はうつ病などの二次障害を起こす原因となるため、特性に対する適切な対応や治療が必要です。

ASDの二次障害とは?

ASDの二次障害とは、ASDが原因の日常的なストレスによって引き起こされる、心身の不調です。具体的には次のような症状があります。

  • 食欲がわかない
  • 眠りが浅い、寝られない
  • 頭痛、腹痛、吐き気などの不調がある
  • 気持ちが落ち込む
  • これという理由がないのに緊張や不安を感じる

「ASDの特徴・症状が原因で職場などでうまくいかない→職場の人間関係が悪化するなどでストレスを感じる→二次障害」といった順序で起こります。

大人の場合、二次障害をきっかけにASDと診断されるケースも少なくありません。二次障害が出ていてASDが疑われる方は、一度専門家に相談してみることをお勧めします。

大人のASDは治せる?

ASDは先天的な脳機能のかたよりによるものであり、ASDの特性は治癒するかどうかという次元では考えません。特性を抱えながら、どのようにすれば今持っている生きづらさを緩和させられるか、を考えていきます。

では具体的にどのような方法があるのでしょうか。次項で具体的なASDの治療方法を見ていきましょう。

大人のASDの治療方法

大人のASDの治療は主に「自己理解」と「トレーニング」の2つです。

ASDの方は自分を客観視することが苦手で、自分がどのように周囲から見られているのか一人ではわからないことが多いです。

家族や周囲の人に加え、医療機関やカウンセリングなどで自分の得意と苦手を明確にしましょう。

自己理解を踏まえた上で、コミュニケーションや段取りの型を覚えるトレーニングを受けましょう。

ASDのための治療薬は現時点(2024年9月)では存在しません。

躁鬱などの二次障害が起きている人には二次障害用の治療薬が処方されます。

治療 「自己理解」、「トレーニング」

治療薬 現時点(2018年11月)ではありません。

躁鬱などの二次障害が起きている人には二次障害用の治療薬が処方されます。

ASDの方が利用できる相談・支援先

ここではASDの方が利用できる相談先を紹介します。心身の不調や仕事を含めた生活全般について悩みがある方に向く相談先と、就職・転職を考えている方に向く相談先の2つに分けて紹介します。

全般的な相談先

  • 発達障害者支援センター
    発達障害者を総合的に支援している機関です。はじめて利用する場合は、住んでいる地域のセンターに連絡してください。
  • 障害者就業・生活支援センター
    雇用促進や就業の安定を、生活支援と一体で行っている機関です。就職や就業定着の支援のほか、日常生活に関する助言も行っています。
  • 精神保健福祉センター
    メンタルヘルスの維持や増進、精神障害の予防、社会復帰のサポートなど幅広く対応しています。ASDの二次障害としてのうつ病やアルコール問題なども相談できます。
  • 地域若者サポートステーション
    15~49歳の人を対象に、専門スタッフによる就業相談・面談を実施しています。また、仕事のためのコミュニケーション講座、パソコン講座なども受けられます。

仕事に関する相談先

  • 地域障害者職業センター
    発達障害者に対する職業リハビリテーションの専門的支援を実施しています。仕事選びや継続就労のためのカリキュラムや、事業場にスタッフを派遣して発達障害者が働きやすい環境を整えるアドバイスなども行っています。
  • ハローワーク
    障害特性に応じた職業相談ができます。ハローワークは先ほど紹介した障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターとも連携しています。

就労移行支援事業所
就労に向けたトレーニングや、知識・スキルの習得をサポートしています。ASDの方の場合、「聴く」「伝える」などの社会生活技能訓練や、「質問する」「報告する」などの職場対人技能訓練などの訓練メニューが役立つかもしれません。

きつい話し方を改善するスムーズなコミュニケーション方法とは

ASDの方は、その特徴として、人とのコミュニケーションに苦手を抱えることが多いです。

「人の気持ちを汲む」といったことが苦手なためストレートな物言いになりがちで、人からは話し方がきついと思われたりします。

また、オブラートに包んで話を聞かされても、なかなかその意図を汲んで理解することができないため意思疎通が円滑に行われず、お互いストレスがたまっていく状況が生まれます。

以下ではASDの方や周囲の方が、なるべく円滑にコミュニケーションできる方法を紹介します。

ASDの方ができること

ご本人のできることとしては、上記「大人のASDの治療方法」で記した内容がほぼそれにあたります。

  • 自己理解
  • トレーニング

ASDの方は、自分を客観視することが難しいため自分の話し方や行動がどのように受け止められているのかなるべく周囲の方から意見を聞くようにしましょう。
文章に書くことが出来るのであれば、いくつかのパターンをノートなどに書いて、定期的に読むことで自らを振り返ることから始めましょう。
そして自分の状態を理解し、コミュニケーションや段取りの型を覚えるトレーニングを受けるようにしましょう。

周囲の方ができること

ASDであるとの診断があり、ご本人もご存知の場合は情報をナビ的に整理して伝えるようにしましょう。

伝え方の一例

  • 必要以上に情報を伝えず最低限にする(単純化)
  • 口頭のやりとりだけではなくメモに残す(視覚化)
  • ダラダラと伝えるよりも箇条書きにする(構造化)
  • 一度でわかるとは思わず何度も伝える(反復化)
  • 出来る限り手順などをスモールステップで伝える(粒度の細分化)

また、これまでコミュニケーションで失敗した経験があるなどして心に傷を負っておられる方もおられますので、心のサポートについても注意を払ってあげてください。

ASDの方は自分を客観視することが難しいため自分が、ASDであることを全く気づいていない場合が多くあります。当然ながら診断も受けていません。

ご本人がASDであることを知らない、もしくは診断を受けたことがない方に対して、障害の可能性を気づかせたい場合は、診断名は言わず、仕事の場であれば「一生懸命しているのはわかるけれども、ミスが多いね。」などと、事実を交えながら特徴のみを挙げていくことにしましょう。

なによりも本人の努力や真面目さを評価しつつ、何か他の要因があるのではないかと伝えることが良いでしょう。

その後、ご本人が自らその苦しさの理由を探し始めたら診断名を一つの可能性として伝えて良いかもしれません。その頃にはご本人がテレビやネット、本・雑誌、新聞などで気づく可能性も高まるでしょう。

ASDの「強み」と「弱み」を理解して仕事に活かそう

ASDの「強み」と「弱み」は表裏一体です。

つまり「空気を読む」ことが苦手な特徴は多くの仕事では「弱み」になりますが、ある特定の仕事では「強み」になります。

また「こだわり」があるというのも、マイナスに働く職場もあれば、プラスに働く場合もあるでしょう。具体的に「強み」、「弱み」がでる状態を考えてみましょう。

強み

  • 周囲の意見などに流されず、数字や出来事から事実のみを抽出する力
  • 大きな意味付けよりもルールに定められた細部を意識して緻密な作業をコツコツする力
  • 数値・文字情報など見える化されている情報を正確に迅速に処理する力

弱み

  • 周囲と協調して働く
  • 全体感を見て働く環境、数字・文章よりも人の感情や場の雰囲気をくみ取る

ASDの人に向いている仕事

ASDの方にとって職種や職場とのマッチングが何よりも重要です。

ASDの方に向いている仕事は以下になります。

  • 経理・財務
  • 法務・情報管理
  • プログラマー・テスター
  • コールセンター
  • テクニカルサポート
  • 電化製品等 販売員
  • CADオペレーター

「経理」や「法務」、また最近重要度が増している「個人情報の管理業務」などは、法律や条例、業界団体等のルールに基づいて動くことが必須です。ASDの特徴を活かしやすい分野と言えるでしょう。

IT業界はASDの特性のある方でも働きやすいと言われる分野です。プログラマーやテスターは特性にフィットする場合が多いでしょう。

ただし同じIT業界でもお客様との抽象的なやり取りのあるシステムエンジニア(SE)は向かないことがあるので注意が必要です。

「コールセンター」や「テクニカルサポート」、「電化製品の販売」など、人との接点が多い部分が向いている仕事に挙げられていることに驚かれる方もいるかもしれません。

たしかにコミュニケーションがある程度求められる仕事ではあります。

しかし、特に言葉が流ちょうなタイプは、マニュアル通りに進めたり、豊富な知識を披露できる仕事はマッチングが良い事例が多くあります。特に本人のこだわりの分野と重なると天職にもなりえるでしょう。

「CADオペレーター」は視覚的な情報処理が得意なタイプにはお勧めです。ASDの方は、言葉で考えるタイプもいますが、画像・映像で考えるタイプも一定程度存在します。

そういったビジュアルシンカーにとっては設計図などを作成するためのCADの仕事や、画像・映像加工の仕事は特徴が十二分に生かせる世界になりえます。

ただし、CADの「オペレーター」としたのは、映像・画像・設計などの世界でも上流工程でお客様との交渉が発生する分野は苦手な人が多いため、自分でコツコツできる、タスクがわかりやすい作業員(オペレーター)として動くことにマッチングを感じる方が多数派だからです。

ASDの方の特性をカバーする仕事術

ASDの3つの特徴(上記「ASDの特徴・症状」参照)の中で、唯一プラスの方面に働かない特性が「コミュニケーションが苦手」と言えるでしょう。

ASDの方が、現代社会で仕事をするうえで最も重要ともいえるコミュニケーション能力を磨く方法を考えます。

仕事で求められるコミュニケーションは「受信」

ASDの当事者の方とお話をしていると、「どのようにすればしゃべりの技術が高まるか」、「語彙が多くなるか」、「吃音(どもり)の傾向を少なくできるか」といった「発信」に気を付けている方が多くおられます。

しかし、職場で求められるのは、まずは「受信」です。つまり上司や同僚、そしてお客様から伝えられる内容を理解するということです。

受信力を高めないことには仕事の内容を理解することも、作業を迅速に進めることも、その後のお客様への相談や質問も的外れなことになってしまいます。

仕事で活かせる受信力を高める方法

受信力を高める方法は大きく分けて3つあります。

1.メモを取る事、そしてまとめる

ASDの方は、口頭で指示されたことを記憶しておくことが苦手です。やり過ぎではないか?と周囲から言われるぐらい、メモを取っておくことが重要です。

手書きでもPC/タブレットでも環境的に許される方法であればどれでも構いません。ただし、メモの取りっぱなしはいけません。決めた所に情報をためていきましょう。

そして手が空いた時間があったら内容をまとめておくことが重要です。

2.復唱・確認する

指示を受けた時に復唱・確認することは受信時のズレを防ぐ最も効果的な方法です。分かった気にならず、上司やお客様が言った内容を繰り返す、あるいは自分で理解したことを確認することはミス・抜け漏れを事前に防げます。

チェーン店のレストランなどに行くと、注文時に復唱を必ずされるでしょうが、あの行為は受信ズレを防ぐための王道ともいえます。

3.メール等の文字情報を使う

理解することがズレやすい口頭での指示を減らし、メールなどの文字情報に統一してもらうということも重要でしょう。ASDの方は文字情報や数字の情報を字義通りにとらえることはしっかりと出来ますので、自分の得意分野でのやりとりを増やすということが対策となりえます。

ASDの方が定着しやすい職場

良い意味で変化の乏しい職場へ

好調な業界・企業ほど人の出入りが激しく、求められるスキルも年々変わり、スリリングな社会人生活になるものの、残念ながらASDの方には向かないことが多いでしょう。

むしろ他の人からは退屈な、のんびりしていると思われるような企業・職場を目指されるのが良いでしょう。

周囲の人の変化もなく、職場で必要とされるスキルもそれほど変わらない状態は、ASDの「知識を蓄え、パターン化して行動する」という特長が活かされやすいと言えます。

チェックポイントとしては以下のような職場を目指すとよいでしょう。

定着しやすい職場のチェックポイント

  • 創業が最近ではない。十年以上は経過している。
  • 企業規模が小さすぎない。理想的には数百人規模である。
  • (大きすぎると部署や環境の大きな変化が起こりえます。)
  • 時代の最先端を行く業種ではない。
  • (最近ではフィンテックやAIの業界などは避けたほうが良いでしょう。)
  • 職場の年齢層が若すぎない。
  • いわゆる「アフターファイブ」を義務化しない。

定着しやすい職場として「変化の乏しい職場」を挙げましたが、そのような職場は一方でサッパリした人間関係ではなくASDの方が苦手な「根回しなどの本音と建前が必要な職場」である可能性もありますので注意が必要です。

嘘や陰口は、職場では当たり前なことは理解しておく

ASDの方はまじめで、不正や嘘が嫌いですし、それらを見抜くことができません。本音で社会や組織・人と接している方が多いという美点があります。

ただし、あまりにもまじめすぎると、濁流のような企業文化では苦しくなってしまいます。

人が親切で裏切りや嘘がなく、予定調和である程度動く、理想郷のような空間でないと気おされてしまう感じです。

出来る限り嘘のない、正直者が多くいる職場を選びたいところですが、残念ながら世の主流派(非ASD、定型発達者)は嘘や陰口は日常です。

また求人票などから正直者が多い職場を探すのは現実的に不可能です。人間性の高い職場に出会えた方はラッキーです。

定着しやすい職場の第一条件に当てはまるところを探せたからです。

しかし、すべてのASDの方がそのような幸運に巡り合えるとは限りません。

嘘や陰口があっても、ご自身が良い意味で理想の職場を諦めることと、愚痴を社外で言える環境を持つことが必要になってきます。 
すべてがフィットする職場はまず難しいですので、ASDの特性上陥りがちな「理想を求め過ぎる」ことに注意し、上手に妥協することを覚えていくとよいでしょう。

ASDの方の就職事例・経験談

当社の就労移行支援や求人サイトをご利用いただいた方の事例をご紹介します。

31歳男性

大学院卒業後、区役所に就職するも、濃密なコミュニケーションを求める上司など職場の気風に合わず退職することになりました。その後、Kaienの就労移行を利用し、Kaien求人(発達障害の特性に配慮した求人)で今の職場に就職しました。今の職場は不安なく働ける環境です。前職のトラウマで、取れていなかった電話も配慮いただきながら1年半かけて取れるようになりました。最近仕事の量や種類が増えて範囲が広がっていて、派遣社員の契約関係の仕事を本格的に任されています。

Kaienの就労支援をご利用いただいた方々へのインタビューシリーズ「私とKaien」第15話より

30代男性

学校を卒業後、新卒でIT関連の会社に入社し、プログラマーとして10年勤務していました。上司から指示されたことの理解がずれてしまったり、会議の議事録を取らなければならないのに聞き取れないなど、コミュニケーションで仕事に支障が出ることが多かったため調べてみたところ、アスペルガー(現ASD)の診断が出ました。現在は求人サイト「マイナーリーグ」を介して入社したIT企業で、安心感を持ちながら働いています。

企業インタビューより

参考文献  『コミックでわかる「職場」のアスペルガー症候群』 (親子で理解する特性シリーズ/監修・宮尾益知/河出書房新社)

Kaienの就労移行支援

Kaienでは、ASDを始めとした発達障害に悩んでいる方に特化した就労移行支援を行っています。就労移行支援とは障害がある方を対象にした障害福祉サービスで、職業訓練や就活サポート、定着支援などを通じて一般就労を目指すことを目的としてます。

主なサービスは、就労に必要な知識とスキル、困りごとへの対処法を習得するためのカリキュラムの提供や、自分に適した職場を探すサポートなどです。ビジネススキル講座やキャリア・プランニング、職業訓練など仕事に役立つプログラムも用意しているので、同時にスキルアップにも取り組めます。

Kaienの就労移行支援の実績は、過去10年間の就職者数が約2,000人、就職率86%、給与額は3人に1人が20万円以上と高い水準にあります。なお、障害福祉サービスなので約9割の方が自己負担0円で利用可能です。Kaienが積み上げてきたノウハウで、あなたが活躍できる職場を一緒に探しましょう。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

Kaienでは日常生活における生きづらさを改善するための自立訓練(生活訓練)も行っています。コミュニケーションを上手く取りたい方や生活リズム・生活習慣を改善したい方、自分の将来を見つめ直したい方などの力になれるプログラムを数多く取り揃えています。

主なプログラムは、障害の理解、自立生活への取り組み、進路の選択、カウンセリングなどです。利用料は就労移行支援と同じように、9割以上の方が無料で利用できます。また、利用者の方からは「生活リズムを整える方法が分かった」「感情のコントロールの仕方が学べた」など、今後につながる声をいただいております。

外から見れば些細な悩みでも、本人にとっては辛く苦しい悩みもあるかと思います。あなたが少しでも快適な生活を送れるように、Kaienは総合的なアプローチであなたの悩みに寄り添います。

特性に合わせた早めの治療と対策で困りごとを減らそう

ASDは社会的な理解不足や性格と勘違いされがちな状況があり、多くの方が人知れず苦しんでいます。もしあなたが同じように苦しんでいるのなら、ASDについて正しく理解することで、その生きづらさが改善されるかもしれません。

ASDと向き合う第一歩は、まず特性を知ることです。自己理解を深め、その先に見える課題と向き合いましょう。KaienではASDの方の障害理解やソーシャルスキルの習得、就労に関するサポートなどの支援を行っています。自身の特性に悩んでいる方、仕事や生活に困りごとがある方は、一人で悩まずお気軽にKaienにご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

今はASD(自閉スペクトラム)でまとめられているこの診断名は、歴史的にはその呼び名が様々な変遷を経ています。ここに挙げられているように、一口にASDと言ってもその特性は本当に人それぞれです。例えばAさんとBさんで、同じASDという診断名があったとしても持っている特性に違いはありますし、まして性格は別物ですからASDという診断名は一個人の人となりを示すほんの一端に過ぎないということは肝に銘じておきたいところです。 いずれにしても、ASD特性が、何かしらの「生きづらさ」に繋がっている場合には、自己理解の上で、何が変わるとより良い生活に繋がるかを考えていきましょう。その「何か」は環境かもしれないし、ご自分の中にある特性や行動の仕方かもしれません。主治医や支援者と相談しながら見つけていきましょう。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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