発達障害者支援法が制定されてから、2024年で20年となります。これを受けてKaienでは、「ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024」の第一弾として2024年1月1日にオンラインイベントを開催しました。
本記事では、「当事者の生きやすさのために活動した20年」をテーマとし、NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表の広野ゆいさんにお話いただいた内容を紹介します。
広野さんが代表を務めるNPO法人DDACは、ADHD、LD、ASDなどの神経発達症をもつ大人の当事者によって運営されているNPO法人です。前身であるセルフヘルプグループの設立から現在まで、実に20年以上にわたって活動されています。
その取り組みの内容は、当事者はもちろん、ご家族、支援者など周囲の方々にも参考になる内容のため、ぜひご覧ください。
2024年1月1日開催のオンラインセミナー「当事者の生きやすさのために活動した20年(講師:広野ゆい NPO法人DDAC代表) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら
発達障害をもつ大人の会(DDAC)の活動
広野さんが代表を務める、「発達障害をもつ大人の会(DDAC)」とは、大人の発達障害の当事者が主体となって、当事者の生きやすさのために活動を行う団体です。DDACは、「Developmental Disorders Adult Advanced Community」の略で、発達障害*であるけれども先進的なことをやっていこうという意味が込められています。
2002年に広野さんが立ち上げた大人のADHDのセルフヘルプグループ「関西ほっとサロン」が前身です。当時は発達障害は青年期までに収束すると考えられていて、「発達障害児」という言葉はあっても「発達障害者」という大人の存在が認知されていなかったそうです。
そうした状況下で2005年から発達障害者支援法が施行されて大人の発達障害者が知られるようになり、発達障害者からの相談が急増したため、2008年に「発達障害をもつ大人の会(DDAC)」を設立。
2010年にはさらにそれをNPO法人化し、4年連続で大阪府の雇用対策事業を受託するなどして「発達凸凹100人会議」を実施してきました。これは、発達障害のある人がどうしたら就労を続けられるかを探るための会議です。
その後も独立行政法人福祉医療機構の助成金を受け全国8カ所でピアサポーター研修会を展開。こうした活動を通して、DDACは、全国に発達障害者の助け合いや情報交換の場としてのネットワークを構築し、現在に至っています。
そもそも大人の発達障害とは?
DDACは、大人の発達障害をもつ当事者が主体となって運営している団体ですが、そもそも「大人の発達障害」とはどのようなものなのでしょうか。広野さんに解説いただいた内容を紹介します。
大人の発達障害の増加
広野さんは、DDACの設立当初のことを振り返り「2005年の発達障害者支援法の施行をきっかけに、大人の発達障害が注目されるようになった」と指摘されています。
それはデータ上にも現れており、例えば2005年の支援法施行から5年間の発達障害の相談件数を見ると、「乳幼児」「小学生」「中・高生」「19歳以上」からの相談のうち、「19歳以上」の件数が群を抜いて多くなっています。2010年の発達障害の相談件数は、他の層が200件前後であるのに対して、「19歳以上」は877件です(出典:大阪府発達障害者支援センターアクトおおさか)。
これまで発達障害とは認識されていなかった大人たちが、支援法をきっかけに、発達障害と診断されるようになったためといえます。
大人になっても仕事や人間関係がうまくいかないで、いじめにあったり、引きこもりになったりしていた人たちが、支援法をきっかけに、発達障害と明確に診断され、その存在が明らかになってきたといえるでしょう。
発達障害と発達凸凹
発達障害とは別に発達凸凹という言葉があります。発達凸凹とは、障害があるということではなく、「できることとできないことの差が大きい状態」を示す言葉です。
「凸凹があって、さらにプラス要素として仕事が合わない、環境が合わない、人が合わないといった適応障害が起こると、発達障害になる」と広野さんは指摘されています。一方で凸凹が激しい場合であっても、人によってはうまく周囲に適応できている人も少なくない、とのことです。
「他の障害と違い、発達障害では凸凹の大きさと障害の大きさというのはイコールではありません。発達障害はそのような不思議な障害といえるでしょう」と広野さんは語られています。
産業構造の変化やグロバリゼーションによる大人の発達障害者への影響
また、広野さんは、「大人の発達障害者は、いきなり現れたわけではなく、産業構造の変化やグロバリゼーションの影響によって、徐々にその存在が浮き彫りになった」と指摘されています。
例えば、産業構造では、1991~1993年のバブル崩壊後、第一次産業、第二次産業よりも第三次産業で働くことが増えてきました。第一次、第二次では、コミュニケーションが苦手でも、正社員として淡々と作業をして働ける場がありました。
しかし、第三次産業のサービス業ではコミュニケーションが重視されます。働く場でもコミュニケーション力や交渉力といったものが特に問われるようになったといえます。また、グローバリゼーションで、工場の単純作業などが人件費の安い海外に移されることが増えました。
そのため国内で正社員になるには、単純作業でなく高度な仕事しかありません。そこで、正社員の仕事に適応できない人が出てきて、非正規雇用で働くようになりました。さらにITバブルが生じ、ITの発達により、扱わなければならない情報量が飛躍的に増え、情報処理が苦手な人はますます取り残されるようになったといえます。
そうした変化についていけない人たちが、社会からはみ出て、発達障害と判断されるようになったともいえます。発達障害は急に現れたわけではなく、社会の急激な変化の中で、もともとそうした環境が苦手な人たちが不適応を起こし、目立つようになったと広野さんは語られています。
大人の発達障害の現状と仕事
ここからは、大人の発達障害の現状と仕事について広野さんに解説いただいた内容を紹介します。
大人の発達障害という診断を受けても、障害者手帳を取得している人は6割程度です。(出典:発達障害をもつ大人の会「大人の発達障害の生活実態調査アンケート」(2012年))
診断を受けたからといって、手帳を取って支援を受けるといった人ばかりではありません。そのため、障害者手帳を持っている点だけに着目して支援をしようとするのは難しいといえるでしょう。
一方、「職場に貢献したいという気持ちがあるか」というアンケート調査について、「はい」とする回答が約9割です。皆、世の中の役に立てることをして自分らしく生きていきたいと考えています。広野さんは、それを実現できる社会をどうやって作っていけばいいかを考えることが大切だと示されています。
回復から受容、そして自立へつながる「セルフ・ヘルプ・グループ(SHG)」とは
セルフ・ヘルプ・グループ(SHG)とは、共通の生活課題をかかえる当事者本人たちによる自己回復・自己受容の場のことだと広野さんは解説されています。当事者本人が自主的に集まって、主体的に活動するというところがポイントだと指摘されています。
2002年に広野さんが活動を始めた頃は、発達障害の支援で大人の支援というのはほぼ存在しなかったといいます。その反面、発達障害者の親の会というのは昔から多くあったそうです。
親の会が障害をもつ子どものために社会環境、学習環境などを整えようと活動するのに対し、当事者の会は、自分たちが何とか元気に自分らしく生きることを目的にした会です。
当事者の会では、親の会のように各所に要望を出して働きかけるということは、特にしていないそうです。それよりも、基本的に自分たちが自分らしく生きるために支え合うことを重視して活動しているとのことです。
セルフヘルプグループは回復と自立を支える場
セルフヘルプグループと親の会とでさらに大きく違う点は、集団や組織より自分を大事にする場所という点です。
「セルフヘルプグループは、行きたくなければ行かなくても良いし、何かを要求されたり目標を達成しなければならなかったりする場所ではありません。いわゆるサードプレイスです」と広野さんは語ります。第一は家庭、第二が職場や学校、そして第三の居心地のよい場所がセルフヘルプグループとのことです。
発達障害の人は、そうした第三の場所づくりが難しいため、このセルフヘルプグループは、当事者にとって非常に大事な場所となっていると広野さんは指摘されています。安全な場所にするための最低限のルールは必要ではあるものの、基本的にセルフヘルプグループでは、その人らしくいられる場所とすることが重視されます。
「何を言ってもいいし、何をしてもいい。本当のあなた自身であるならば」という場にすると、そこに来た人はどんどん元気になっていくと広野さんは語られています。
当事者が集まるその場所では、大体、皆同じような失敗をしているので、何を話しても「わかる、わかる」と共感してもらえます。失敗する権利と自由が与えられる場所となり自己選択・自己肯定ができる場となります。セルフヘルプグループはそうした回復と自立を支える場といえるでしょう。
セルフヘルプグループで得られるもの
セルフヘルプグループで得られるものは「病気・障害の受容」や「情報・経験の共有」、「居場所と仲間」だと広野さんは語られています。その内容は次のようなものです。
病気・障害の受容
セルフヘルプグル―プで得られることの1つ目は、病気・障害の受容といった点です。当事者がいることで、自分だけではないと安心でき、孤独感や不安感から脱出できるとされています。
また、支援者や保護者などと異なり、当事者同士のセルフヘルプグループでは、対等な立場からの支えが得られます。支援者や保護者といった視点からだと、どうしても失敗を避けてあげようというアドバイスや働きかけになる傾向です。その点、当事者といった対等な立場だと、とりあえず失敗は考えないで、自由に自己選択や自己決定ができます。その結果として失敗したら受け止めなければならない厳しさはあるものの、自分で行動がしやすくなります。
また、当事者が集まることによって、自分たちが障害ではなくて、周りが障害なのだという視点が持てるところも利点です。なぜ周りはこうなんだろう、こうなってくれたらいいなという考え方ができるようになります。
このように自分の病気や障害を受容していくことができると広野さんは語られています。
情報・経験の共有
セルフヘルプグループでは、情報・経験の共有ができるという効果もあると広野さんは示されています。相談の種類に応じてどこの相談窓口がいいかや、専門家とどのように関わるのがいいかといった点について、当事者ならではのアドバイスのやり取りが可能になるとのことです。
専門家が持つ専門的知識に対して、体験的知識というものがあります。当事者が体験して得た知識のことですが、専門的知識に匹敵する知識といわれています。
セルフヘルプグループでは、当事者が集まることで、失敗体験と成功体験、生活スキルの情報が集まり、そうした体験的知識をストックすることも可能になるといえるでしょう。
居場所と仲間
セルフヘルプグループでは、居場所と仲間も得られるとのことです。
ヘルパーセラピー 原則というものがあり、これは「助ける者がより助けられる」という援助者治療原則のことです。セルフヘルプグループでは、比較的簡単に、当事者同士、お互いを助けることができるといいます。
「話を聞いてあげて『わかる』と共感できるポイントがあるだけでも、話をした相手に喜んでもらうことが可能です。また、マイナスの体験でも、それを伝えるだけで、『そんなことがあるんだ、教えてくれてありがとう』と感謝してもらえることもあります。こうして人の役に立つことで元気が得られます」と広野さんは語られています。
このようにセルフヘルプグループでは、ありのままでよいと思わせてくれる居場所と仲間を確保できるといえるでしょう。
セルフヘルプグループの大人の発達障害への効果
また、広野さんは、セルフヘルプグループの大人の発達障害への効果として、同じ特性をもつ仲間との関わりで得られる効果を挙げられています。
例えば、気持ちがわかりあえて、孤独感から解放されるといった効果が一つあります。さらに、成功体験や失敗体験や相談経験を共有するなどして、日常に役立つ情報や生活スキルが得られるという効果もあります。
さらに、他の当事者というモデルを目にすることで「気づき」を得られる効果もあるとのことです。メタ認知力が向上し、社会の中の自分を客観的に見るという視点を育てられるといいます。
広野さんの診断から受容まで
広野さん自身の診断から受容までの経験についても、語っていただきました。以下で紹介します。
診断から受容のきっかけ
広野さんは診断治療を受けていた当初、普通になろうと一生懸命に努力をされていました。その頃はネット依存になったり、食事をしなくて疲労骨折を起こしてしまったり、二次障害がひどい時期でもあったそうです。
そうした中で考えがかわるきっかけとなったのは、NHK Eテレ「バリバラ」でコメンテーターをしている玉木幸則さんが「自分は障害をもっていてよかった」と話されていたことです。障害自体がよかったということではなく、障害があることによって得られた体験や素晴らしい出会い、そういったことを指して、障害があってよかったと話されていたそうです。
「そういう考え方もあると知り、自分も発達障害でいいと思えるようになりたいと思ったのが受容の出発点です」と広野さんは語ります。「受容は決して簡単なものではない」としつつも、障害をもつ諸先輩がいたおかげで気づきを得られたと当時を振り返られています。
自尊心の回復と自立への4段階
広野さんいわく、発達障害を治したいと思う当初の状態というのは、まず自己否定と存在不安という感情だったそうです。
そうした状態から自尊心の回復と自立に向かうには4つの段階があるとのことです。
最初は、「否定されない安全な場所ですごす」というものです。引きこもりなど安心・安全な場をとにかく確保する状態を指します。
次に、発達障害の当事者同士で話せるような環境にシフトします。そこで、自分を受け入れてもらう、かつ、相手を受け入れる体験もして、自尊心の回復につなげていきます。
それから、仲間や先輩といったモデルを得ることで、自分を客観視したり、自分のできることを探したりするフェーズに移ります。そこで、適切な自己像を確立していきます。
そして最終的に自立へと結び付けていくそうです。
目指すのは適応ではなく自分らしく生きること
発達障害は、社会不適応で障害状態とされるものの、「目指すのは適応ではなく自分らしく生きること」と広野さんは考えています。
社会不適応の反対の適応を目指すと、過剰適応となってしまう恐れがあるとし、自分らしい幸せを目指すことが大切だとされています。
「自分らしく生きるウェルビーイングであるためには、周りの人も皆ウェルビーイングでないと達成できません。人類皆が凸凹であると見なして、皆がよくなることを追求していきたい」と広野さんは言及されています。
当事者から見た20年で変わった点と変わらない点
広野さんが2002年にDDACの前身であるセルフヘルプグループを立ち上げてから現在までの20年について、当事者から見て変わった点と変わらない点について挙げていただきました。
変わった点は、20年前は大人の発達障害に対する支援自体がそもそもなかったのが、支援を受けられるようになったところです。今はヘルパーさんに助けてもらえるうえ、障害者雇用で仕事もできるようになりました。
変わらない点は、地域差が非常に大きく、支援してもらえる人と支援してもらえない人がいる点といえます。また、企業の対応もあまり変わっていないという印象です。企業からは「社員に発達障害の人がいるけれどもどう対応してよいかわからない」といった相談も寄せられているそうです。
当事者から見た今後期待する支援
発達障害の就労や自立を支援する団体が増えてきて、発達障害の人が自分に合う支援先や仕事を見つけられることはとてもよいことだと、広野さんはとらえています。
実際にITに特化した仕事向けや在宅の仕事向けのプログラムを設けて支援をしてもらえるケースが少なくありません。ただ、少し気になるのはその先、しっかりと就職し、自立し、やっていけるかという出口の部分だそうです。
「実際のところ、出口があまりないといったケースも少なくありません。年数はかかるかもしれないものの、出口までしっかりフォローされるのを期待しています」と広野さん。
すべての人の凸凹が活かされる社会へ
広野さんは、大人の発達障害が認知されていなかった時代から当事者の会を立ち上げ、20年間活動されてきました。
今後の課題としては、発達障害の当事者はもちろん、周りの人も自分の凸凹を把握し、互いに相手の凸凹を認め合って生きていけるような社会にすることだと広野さんは語っています。
「ニューロダイバーシティの流れもあり、すべての人の凸凹が生かされる社会に変わっていけばいいと考えています。そのためにも、元気な発達障害の人を増やし、それぞれの人が自分らしく活躍できるようにする。そうすることで、皆一緒でなくていいという社会に変わっていくと思うので、引き続き当事者活動を広げていきたいですね」と講演の最後に今後の抱負を語られました。
今回の記事では紹介しきれなかった、貴重なお話や具体的な質問にも答えていただいているのでぜひ動画も併せてご確認ください。
2024年1月1日開催のオンラインセミナー「当事者の生きやすさのために活動した20年(講師:広野ゆい NPO法人DDAC代表) ~ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2024 元日企画~」の本編動画はこちら
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
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