大人の発達障害*¹という言葉が広く知られるようになり、その特徴や生活上の困りごとの対処法なども注目されるようになりました。そこで、この記事では、大人の発達障害の分類や特徴について紹介していきます。
また、男性と女性でどのような特性の違いがあるか、またそれぞれの困り感の違いや特性が見過ごされやすいタイプについて、当社でのよくある事例を元にお話しします。
大人の発達障害の方への配慮のポイントも解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
大人の発達障害とは?
発達障害とは、生まれつき脳の機能発達にかたよりがあり、コミュニケーションが苦手だったり、不注意で落ち着きがなかったりと、日常生活に支障をきたす状態のことです。発達障害は先天的な脳の特性のため、親の育て方や心の問題から生じるものではありません。
中でも「大人の発達障害」とは、大学生以上の年齢の方の発達障害のことを指します。子供のうちは症状が軽くて障害とわからなかった場合でも、大人になって複雑な人間関係や業務に対処する立場になって初めて症状が明らかになることがあります。
特に大人の場合は、発達障害が原因で職場の人間関係でもめたり、ミスを繰り返したりと、仕事を続けていく上での大きな障害となることが少なくありません。時には失職をしたり、うつ病を発症してしまうといった二次的な問題を引き起こすこともあります。
大人の発達障害は、環境にうまく適応できずに、自己評価が下がり、うつ病や不安障害といった精神疾患を発症するリスクも高いため、早めの対処が必要な状況といえるでしょう。
大人の発達障害の分類と特徴
大人の発達障害の分類と特徴を紹介します。大人の発達障害と一口にいっても、分類があり、それぞれに特徴も異なります。
ここでは、「ADHD(注意欠如多動症)」「ASD(自閉スペクトラム症)」「LD(学習障害*²)」の3つの分類と特徴について紹介します。
なお、この分類は発達障害を明確に3つに分けるものではなく、それぞれの傾向を併せ持つ人も多くいます。以下で分類の定義と特性を詳しく見ていきましょう。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)とは、不注意、多動/衝動性といった特徴を持つ症状のことです。不注意とは、集中力が続かない、注意力の欠如といった特性で、多動/衝動性は、じっと座っていられない、衝動的に行動してしまうといった特性を指します。
一般的に、子供のADHDでは多動性が目立つ傾向ですが、大人になると多動性が目立たなくなり、その分、不注意が目立つようになります。
ADHDの特徴からくる困りごととしては、以下が挙げられます。
- 集中力が続かなくてミスが多い
- 興味のあることには集中しすぎてしまう
- 物事の優先順位がわからない
- 時間や約束が守れない
- 衝動的な発言や行動が見られる
大人の場合、社会的な責任を伴うため、ADHDの特徴が強く出すぎると社会性に欠けると判断されたり、仕事を継続させることが難しくなったりすることがあります。また、環境に適応できずにさらにうつ症状や不安症状といった二次的症状を発症することもあります。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は、人との関わりやコミュニケーションが苦手、特定の行動を繰り返すなどのこだわりが強いといった特徴を持ちます。
これらの特徴から、ASDでは下記のような困りごとを抱える傾向があります。
- 場の空気が読めない
- 表情から相手の感情を察することができない
- 自分のやり方・手順にこだわるあまり融通が利かない
- 1つのことにこだわると他が目に入らない
- 計画通りに進まない業務や先の予定が見えない業務に不安を覚える
- チームワークが苦手
- 音や照明に過剰に敏感あるいは鈍感
大人のASDでは、職場でのコミュニケーションをうまく取れない、仕事を臨機応変にこなせない、などといった問題を抱えて悩むことが多い傾向にあります。その反面、自分のこだわり・特性にあった職務に就くことができると、才能を活かしつつ活躍することも可能です。
LD(学習障害)
LD(学習障害)とは、知的発達の遅れなどはないものの、「読む」「書く」「計算する」などのいずれかの課題の学習が極端に苦手といった特徴を持つものです。
LDは、子供の頃から発症するもので、加齢による計算能力の低下とは関係ありません。子供の頃から症状があったにもかかわらず、単に「国語が苦手」「算数が苦手」と判断していたため、大人になって初めて自分がLDであることに気付く人も少なくありません。
LDは、目や耳で物事を短期的に記憶する能力や、順番を認識する能力などがアンバランスになっている結果として、「読み」「書き」「計算」ができないといった症状として現れます。
また、「読む」「書く」「計算」の中では、「読み」「書き」の能力の障害がセットになって現れることも特徴といえるでしょう。
LDの特性から来る困りごととしては次のようなものがあります。
- 誤字脱字が多い
- 会議の内容をまとめられない
- 素早くメモが取れない
- 資料・マニュアルを作れない
男女で違いはある?ADHDの場合
大人の発達障害について、男女で違いがあるかどうかについて紹介します。ここではADHDの場合を例に解説します。
なお、ADHDと診断される男性と女性の割合は 2.5:1 から 1.5:1 程度と言われています。男女での特徴の現れ方や困りごとの違いについて詳しく見てみましょう。
男性は多動/衝動性、女性は不注意が強い傾向あり
ADHDの人の特徴として不注意と多動/衝動性の2つが挙げられますが、ADHDの女性には不注意の特徴が強く出る人が、ADHDの男性には多動や衝動性の特徴が強く出る人が多い傾向があるようです。
「学校で席にじっと座っていることが難しかった」となど多動や衝動性から起こる行動は周囲から見て分かりやすく気づかれやすい一方で、「授業中に他の考え事をしていて指示されたことができていない」といった不注意から起こる行動は周囲からは分かりづらく気づかれにくい傾向があります。
これが女性がADHDがあることを家庭や学校で見過ごされやすい理由の1つです。
またもう1つの理由として、男性では多動や衝動性の特徴は先ほど例で挙げたように身体の動きに現れることが多いですが、女性では「自分の話したいことを周りを気にせず話し続けてしまう」といった会話などの言葉に現れることが多く、ADHDの典型的な「じっとしていられない」イメージに引きずられてしまうと、他の場面で出ているADHDの徴候に気づかないこともあるでしょう。
女性のADHDの人には「女性らしい行動」を求められるつらさがある
ADHDのある女性には不注意の傾向が強いことが多く、例えば「不思議ちゃん」と周りから言われるような人もいます。このようなタイプの場合、単にぼうっとしていたりさぼっているだけだと間違って理解されてしまうことも少なくありません。
周囲から気づかれず適切な支援を受けずに子供時代を過ごしてしまうと、自己肯定感が低くなってしまったり、不安障害や心身症といった二次障害が発症してしまう可能性が大きくなってしまいます。
またADHDの女性は、子供の頃には「少し抜けているところがある」程度で周囲から受け止められていたのが、大人になると女性らしい細やかな気遣いを求められるようになり、「気が利かない」などと周囲からネガティブに受け取られてしまいやすくなる面があります。
その他にもADHDの人は片づけや家事が苦手な人が多いですが、「女性だから家事はできて当然」というプレッシャーを家族から受けたり、家事ができない自分を自分で責め過ぎてしまうこともよくあります。
男性のADHDの人は集団生活でのトラブルが表面化しやすい
次にADHDのある男性に多いタイプを見ていきましょう。
多動や衝動性が強いことが多いため、例えばつい他の人が話していることや行っていることに必要もないのに首を突っ込んでしまったり、言わなくてもいいのに相手の気に障ることを言ってしまい、学校や友人関係・職場でトラブルを起こしやすい傾向があります。
集団生活になじめないと進学や就職に支障が出てしまい、引きこもりになってしまうことも残念ながらあります。
このように特徴が周囲から分かりやすい男性のADHDの人も多い一方で、男性でも特性が見過ごされることは少なくはありません。例えば多動でじっとしていられない子供でも、「男の子だから元気なんだね」と多めに見られることが続いてしまうと、行動を修正する機会を逃してしまうことになります。
また男性にも不注意の特徴の方が強く出ている人もいて、こちらも問題行動が目立つ人に比べると周囲から気づかれづらい傾向にあります。
どちらの場合も成長するにつれて求められる振る舞いが高度になり、例えば職場で集中して作業に取り組むように言われてもなかなかうまくいかないことで初めて問題が表面化することがあります。
大人の発達障害の方への配慮のポイント
大人の発達障害を持つ方と一緒の職場で働く場合、どのように配慮すればよいのか悩む方も少なくないでしょう。大人の発達障害の方への配慮のポイントとしては、まず次の3つが大切です。
- 本人の特性をよく知る家族・専門家に特性やサポートのコツを聞く
- 発達障害の特性や特徴を正しく理解する
- 特性に合わせて環境を調整する
これらを踏まえて、ADHD、ASD、LDの個別の特性ごとに配慮のポイントを挙げると次のようになります。
【ADHDの方への配慮ポイント】
- 伝えるときは、短くはっきりと伝える
- 気の散りにくい座席位置にする
- わかりやすいルールにして提示する
- 傷つき体験に寄り添うなどのこまめなストレスケアを怠らない
【ASDの方への配慮ポイント】
- 「〇〇をしましょう」とシンプル・肯定的に伝える
- 内容や図を使って具体的・視覚的に伝える
- 「手順を示す」「見本を見せる」「体験練習をする」などスモールステップで進める
- 感覚過敏がある場合は、音や照明、室温など感覚面の調整を行う
【LDの方への配慮ポイント】
- 苦手な課題について課題の量や質を調整する
- 苦手な課題については柔軟な評価をする
- 得意な分野の能力を活かして業務ができるようにする
大人になって発達障害の困り感に気づいた人も支援機関に相談しよう
当社での事例を見ていくと、男女によって発達障害の特性の出方に差が見られることもありますが、共通して言えるのは大人になって職場や家庭で求められるハードルが高くなるにつれて、それまで特性を見過ごされてきた人も困り感が強くなるということです。仕事や生活で難しさを感じている場合は、少し勇気が必要かもしれませんがお近くの発達障害に詳しい支援機関や医療機関に相談することをお勧めします。働きやすくなるため、また暮らしやすくなるためのヒントを得るために、是非支援機関を活用してみてください。
参考文献 『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 女性の発達障害 女性の悩みと問題行動をサポートする本』 (親子で理解する特性シリーズ/監修・宮尾益知/河出書房新社)
※Kaienでは、職業訓練や求人紹介を通じて適職を一緒に探す「就労移行支援」や、自立に向けた基礎力を養う「自立訓練(生活訓練)」、学生向けの「ガクプロ」などを通じて、発達障害やグレーゾーンの方の就労支援を行っています。今回のテーマである性による支援の違いも踏まえて、それぞれのサービスで専門スタッフが対応しています。
ADHDの方の就職事例・経験談
当社の就労移行支援をご利用いただいている方の事例をご紹介します。
30代男性
小学校のころから足に落ち落ち着きがなく、家の中でもボールを転がしていたりしました。お総菜屋さんでアルバイトをしていた際は、注文を覚えられず何度も聞き返してしまったり、注文を間違えることもありました。Kaienに通ってからは、指示を受ける際にメモを取ることを意識し、また、分からないことは確認をしてミスを軽減するようにしています。Kaienに通い、自分自身を見直し、向き合う機会を持つことができました。
20代女性
演劇をやっていたのですが、不注意が強く、本番で使う小道具を忘れてしまったり、セリフを覚えられないことがあり周りの信用を失ってしまいました。また、予定を覚えられずすっぽかしてしまうこともありました。診断される前までは、自分が不真面目でだめだと自己肯定感がかなり低く、生きづらさを感じていました。今は診断を受け、服薬することで不注意がかなり改善されています。また、Kaienに通い、今までがむしゃらに頑張っていたところを、特性を理解した上で効率よく対処する方法を学び、以前よりも生きやすさを感じています。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
本文で幼少期に女性のADHDが発見しづらいことに言及がありますが、私も発達障害外来を始めてから実感しています。特に30-40代で初診の女性の方で、ADHD特性が見過ごされてきた方が非常に多い印象です。アメリカでも、教師が「ADHDは男の子の特性」とみなして、レーダーに引っ掛かっていないのだと表現されています。また、抑うつや不安といった二次障害症状から精神科に罹ることの多い背景には、大人の女性には「きちんとしていること」へ男性より大きなプレッシャーがかかっているのだろうと。日本と同様ですね。そんなわけで、教科書的な男女比は実際には当てはまらない可能性がありそうです。
ASD特性も困り感が大人になって出てくることは珍しくありません。そしてLD特性は残念ながら特に見過ごされていることが多く、早めにわかることはその方の将来に大きく影響します。
自分の困り感の背景に何らかの発達特性がありそうだと感じているのであれば、是非一度は医療機関にも頼ってみてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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