ADHDと双極性障害は似ている?共通点と違いについて解説

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ADHDと双極性障害は、一見すると似ている部分もあります。しかし、この2つは全くの別物です。双極性障害は診断が難しく、専門家でもADHDやその他の疾患に誤診するケースが少なくありません。

この記事では、ADHDと双極性障害の共通点や相違点、症状の特徴について詳しく解説します。2つを併発する可能性や働く上でのポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。

ADHDと双極性障害は似ている?それぞれの特徴を解説

ADHDは発達障害*¹のひとつで、不注意や衝動性、多動性といった特性があります。一方、双極性障害は気分の高揚と落ち込みを繰り返す精神疾患です。ADHDと双極性障害の症状には似ている部分があり、専門家でも正しく診断できないこともあります。

まずはADHDと双極性障害について、それぞれの症状と原因を詳しく見ていきましょう。

ADHDとは

ADHDは不注意や衝動性などの特性があり、日常生活に支障をきたしている人も少なくありません。以下で、ADHDの症状と原因について解説します。

ADHDの症状

ADHDの症状は、「不注意型」「多動、衝動型」「混合型」の3つに分けて考えることができます。

不注意型は、集中力を維持するのが苦手で、注意が散漫になってしまう症状です。多動、衝動型とは、じっとするのが苦手で衝動的に行動してしまう症状をいいます。そして、不注意型と多動、衝動型の両方が現れるのが混合型です。

これらの特性によって、ADHDの方は次のような困りごとに悩むケースが多く見られます。

  • ひとつの作業に集中できない
  • 気分が変わりやすい
  • ものを忘れたり失くしたりすることが多い
  • 衝動的にお金を使ってしまう
  • 期限を守れない
  • 簡単なミスが多い
  • 相手のことを考えず話し続けてしまう
  • じっとしていられない
  • 片付けができない など

人によって特性の現れ方はさまざまで、混合型であっても不注意型の傾向が強い人もいれば、多動、衝動型の傾向が強い人もいます。また、年齢が上がるにつれて多動性が弱まるなど、成長に応じて変化するケースもあります。

ADHDの原因

ADHDの明確な原因はわかっていませんが、脳の発達や神経伝達物質に原因があると考えられています。MRIなどを使った脳画像の研究では、ADHDの方の脳は前頭葉など特定の部分に発達の遅れがあることがわかりました。また、意欲や興奮に関わる神経伝達物質・ドーパミンの機能に問題があると、ADHDの原因になる可能性があるといわれています。

このようにADHDは複数の要因が考えられますが、環境や育て方が原因でなることはありません。ADHDは生まれつきのもので、何らかの脳の機能障害によるものです。

双極性障害とは

続いて、双極性障害の症状と原因について詳しく見ていきましょう。

双極性障害の症状

双極性障害は、気分が高揚している状態(躁状態)と気分が落ち込んでいる状態(うつ状態)を繰り返す精神疾患です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。

躁状態のときには、次のような症状が見られます。

  • 自信があって何でもできる気がする
  • 次々にアイデアが浮かんでくる
  • 止まらずに話し続けてしまう
  • 衝動的に大きな買い物をしてしまう
  • じっとしていられない
  • 集中できない
  • イライラしてすぐに怒ってしまう など

一方、うつ状態のときには次のような症状が現れます。

  • 激しい気持ちの落ち込み
  • 食欲がなくなる
  • 何に対しても意欲がわかない
  • ネガティブなことを考えてしまう
  • 疲れやすい など

双極性障害にはⅠ型とⅡ型があります。Ⅰ型は上記のような躁状態の症状が激しく、自分で自分がコントロールできない状態です。「安かったからマンションを買った」「震災復興のために100万円寄付した」など、お金に関する派手なエピソードも聞かれます。

一方、Ⅱ型は「軽躁」という軽度の躁状態とうつ状態を繰り返す症状で、Ⅰ型と比べて周囲や本人が気付きにくいのが特徴です。気付いたときには症状が悪化しているケースも少なくありません。また、「働きすぎてしまう」などⅠ型と比べると躁状態の症状は小さいものの、体力を消耗してうつ状態に入り、それが長く続く人が多くいます。

双極性障害の原因

双極性障害の明確な原因はわかっていないのが現状です。遺伝的な要因や脳内の神経伝達物質に関係があるともいわれていますが、いずれも明確な原因としては特定されていません。

双極性障害を発症するきっかけのひとつには、ストレスが挙げられます。実際に、強いストレスを受けたあとに双極性障害を発症したり、落ち着いていた症状が再発したりすることはあります。ただし、これも直接の原因ではありません。

また、甲状腺機能亢進症など特定の病気によって、双極性障害の躁状態が現れるケースもあります。

ADHDと双極性障害の共通点と違い

ADHDと双極性障害の症状には共通点があるものの、別物です。共通点があることを理解した上で、どのような相違点があるのかを知っておかなければ、判断を誤ってしまうかもしれません。

ここでは、ADHDと双極性障害の共通点と相違点について詳しく見ていきましょう。

共通点

ADHDの特性と双極性障害の躁状態のときに現れる症状には、いずれも次のようなものが含まれます。

  • 衝動的に行動してしまう
  • じっとしていられない
  • 集中力が続かない など

そのため、本当は双極性障害であるのにADHDと診断されるケースや、反対にADHDであるのに双極性障害と診断されることもあります。

そもそも、双極性障害は診断が難しい疾患です。ベテラン医師であっても、誤診してしまうケースが少なくありません。その理由のひとつは、躁状態とうつ状態を繰り返すという特徴から、医療機関を受診したその日の状態だけで判断するのが難しいからです。

例えば、躁状態のときに受診するとADHDとの共通点があるため、ADHDと誤診されることがあります。反対にうつ状態のときに受診すると、うつ病と診断される可能性があるでしょう。

双極性障害については、時系列で症状や出来事を聞いたり、家族歴を確認したりしながら診断するのが一般的です。その診断の難しさから、双極性障害と正しく診断されるまで最初の発症から7〜8年かかるとも報告されています。このように、双極性障害は初診で正しい診断がもらえるとは限りません。

相違点

ADHDと双極性障害には、それぞれどちらかにしか見られない症状があります。具体的には、次のようなものです。

ADHDに見られる症状

  • 片付けられない
  • 忘れっぽい
  • 期限を守れない など

双極性障害の躁状態に見られる症状

  • 寝なくても活動できる
  • 自信に満ち溢れる
  • 次々とアイデアが浮かんでくる など

このような症状が見られる場合、ADHDと双極性障害のどちらに該当するのか判断しやすくなります。

ADHDと双極性障害が併発することはある?

ADHDと双極性障害は、併発するケースも少なくありません。成人のADHDの方の21.2%が双極性障害を併発するという報告があり、児童についても2〜35%が併発するといわれています。

また、双極性障害はADHD以外にも次のような疾患や発達障害と併発する可能性があります。

  • うつ病
  • ASD(自閉スペクトラム症)
  • LD(学習障害*²)
  • 強迫性障害
  • パニック障害
  • アルコール依存症 など

このようにさまざまな症状を併発するケースが多いのも、双極性障害の診断が難しい理由のひとつです。

ADHDの方・双極性障害の方が働く上でのポイント

ADHDの方や双極性障害の方、そしてこの2つを併発している方は、働きづらさに悩むことが多くあります。ここでは、少しでも働きやすくなるように工夫できるポイントを紹介します。ぜひチェックしてみてくださいね。

ADHDの方の場合

ADHDの方が働く上で意識しておきたいのが、発達障害の方ができる仕事の工夫や困りごとへの対処法を学ぶことです。自分と同じ特性を持つ人がどんな工夫をしているのかを知ることで、働きづらさを和らげるためのポイントが見えてくるでしょう。

具体的な対処法としては、次のようなものが挙げられます。

  • 忘れ物をしないように、必要なものは全てかばんに入れて持ち歩く
  • 手帳やノートに自分がわかりやすいスタイルでメモを取る
  • 正しい手順を習慣化して身につける
  • ミスを減らすためのチェックリストを作る
  • 予定を忘れないようにスマートフォンのアラームやリマインド機能を活用する など

ADHDの方が抱える困りごとへの対処法については、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。

大人のADHD(注意欠如多動症)とは?向いている仕事や困りごとへの対処法

双極性障害の方の場合

双極性障害の方が働く上で大切なのは、きちんと通院して治療を継続することです。「予定通りに通院できていない」「処方された薬を飲んでいない」といった場合、大きな問題やトラブルが生じるケースも少なくありません。

特に躁状態のときは何でもできる気持ちになり、うつ状態のときのことを忘れてしまう人もいるので、通院しなくなる人も多くいます。仕事が忙しかったとしても、通院の予定はしっかりスケジュールに組み込んでおくようにしてください。

困ったときにサポートしてもらえるように、双極性障害について家族に理解してもらうことも大切です。また、躁状態のときは職場に迷惑をかける可能性があるため、状況によっては双極性障害について会社に伝えることも検討してみましょう。

ADHD・双極性障害を併発の方の場合

ADHDと双極性障害を併発している方は、先ほど紹介したそれぞれの対策をどちらも実施していくことが大切です。

ADHDと双極性障害を併発しているからといって、どちらにもない新たな症状が出てくることはありません。自分にはどのような特性や症状が強く出るのかを理解し、通院を続けながら適切な対処法を身につけましょう。

ADHDと双極性障害の診断が不安な場合は主治医に相談してみよう

ADHDと双極性障害は似ている部分があり、専門家でも診断が難しいケースもあります。また、2つを併発している人も多く、両方の症状に悩んでいる人も多いでしょう。ADHDと双極性障害の共通点と相違点を理解し、医療機関で正しい診断を受けることが大切です。

双極性障害は診断が難しく、発症から正しい診断までに長い期間を要する人もいます。治療を続けても症状が改善しない場合は別の疾患の可能性もあるため、主治医に相談してみましょう。

以下の記事では、発達障害や発達障害グレーゾーンと双極性障害について解説しています。ぜひこちらも併せてチェックしてみてください。

【セミナー解説】医師に聞く【発達障害グレーゾーンと双極性障害(双極症)】

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます。

監修者コメント

ADHDと双極性障害の鑑別は、しばしば精神科医の話題に上がります。理屈としてADHDは注意力の問題、双極性障害は情動の問題なので精神機能は全く違うのですが、日常生活では様々な精神機能が混ざり合うため、これらの区別は容易ではありません。

仮に17歳男子高校生で、不機嫌で学校の担任を怒鳴ったり、家でも親の言うことを全く聞かなかったりするA君が来院したとしましょう。この情報だけでは、A君がADHDか、双極性障害かは区別できません。そこで、私たちは「オンセット・時間・空間」をキーワードに問診します。オンセットはA君の反抗的な態度がいつから見られたか、時間はこの症状がどのくらい続いているか、空間はこの症状がどこでも見られるのか、です。

これらの質問をもとに、A君は幼少期から親や教師に反抗することが多く、怒りは長く続かず怒った後はケロッとしていること、また学校、習い事の教室、そして家庭でも反抗的であることが分かりました。どうやらA君はADHDの可能性が高く、双極性障害の可能性は低そうです。そこで私たちはさらに診断を確かにするため、幼少期の発達の遅れや小学校での授業態度や衝動性・不注意について訊いたり、逆に今までうつ状態になったり、陽気になって何日も寝ない状態になったりしなかったかを訊くのです。

私たち精神科医はDSM-5の診断基準を頭に入れていますが、実際の診療で診断項目を一つ一つ訊くことはありません。患者さんの主訴をもとにいくつか考えられる診断名を並べ、「オンセット・時間・空間」というプローブ(探針)を使って診断名を絞り、さらに診断の可能性を増す(あるいは減らす)質問を重ねて確定診断に至るのです。このやり方は科学的なようでいて、シャーロック・ホームズが用いるような直観(ヒューリスティック)に基づくアーティスティックなプロセスでもあるのです。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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