発達障害*の一種であるADHD(注意欠如多動症)は、一般的に子どものころからその特徴が現れます。しかし大人になって社会人としての責任やストレスが大きくなってはじめて、ADHDに気付く方も少なくありません。
こうした大人のADHDの方は、どのような医療機関に行けばよいのか悩んでいる人も多いでしょう。本記事では、大人のADHDは何科に行けばいいのか、受診から診断までの流れについて解説します。
医療機関を探す方法や医療機関以外の相談先についても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
「ADHD(注意欠陥多動症)かも?」と思ったら何科を受診する?
ADHDは「脳機能の障害」や「神経発達の遅れ」などと説明されます。また、心の病気のようにもみえる場合もあります。このため、大人のADHDを疑った場合に、どのような医療機関に相談したらよいのか迷っている方もいらっしゃることでしょう。
ここでは大人のADHDの診療が受けられる医療機関や、精神科と心療内科の違いについて解説します。
ADHDの概要について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
大人のADHD(注意欠如多動症)は治療で改善可能?原因や困りごとへの対処法を解説
大人のADHDは精神科や心療内科を受診
大人の方が「もしかしたら自分はADHDかもしれない」と思ったときは、精神科または心療内科のある病院、クリニックで診療を受けられます。
ADHD以外の障害についても精神科または心療内科で診療を受けられるため、どの発達障害にあたるのかわからない場合でも問題ありません。
ただし、発達障害という概念が日本で導入されたのは1980年代ごろからという背景もあり、精神科や心療内科であっても診療できる医師がいない場合や、診療はできても薬物の処方ができないケースがあります。こうした場合は、近年増えている大人の発達障害の専門外来を受診することをおすすめします。
18歳以下の場合は小児科や児童精神科、発達外来
18歳以下でADHDの可能性がある場合、小児科や児童精神科、発達外来などで診療を受けられます。
近所に小児科や児童精神科がない、どの病院を受診すればよいのかわからないといった場合は、地域の保健センターに相談し、ADHDの診断ができる医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。
また、かかりつけ医に相談すると、大学病院や総合病院を紹介してもらえる場合もあります。
精神科と心療内科はどう違う?
精神科と心療内科のどちらかを受診すればよいのか、迷った方もいるのではないでしょうか。精神科と心療内科はおおまかに次のような違いがあります。
精神科 | 心療内科 | |
受診するケース | 心の病が原因で心に症状が現れているとき | 心の病が原因で体に症状が現れているとき |
症状例 | ・抑うつ感・物忘れがひどい・強い不安、など | ・疲労感・頭痛・めまい、など |
このように精神科と心療内科は本来、異なる診療科目です。しかし、街のクリニックなどでは同じ意味に使われている場合も多いため、注意が必要です。
また、心と体の両方に症状が出ている場合や、自分で判断できない場合もあるかもしれません。こうした場合は、精神科と心療内科のどちらもある医療機関を選ぶと安心です。症状を伝えると、どちらが適当か判断してもらい、受診先を決めてもらえます。
精神科や心療内科に似ている印象のある医療機関にメンタルクリニックもありますが、メンタルクリニックとは外来診療のみを行っている精神科や心療内科のことです。メンタルクリニックでも、発達障害を専門に取り扱っていればADHDの診断を受けられます。
大人になってからADHDになることはある?
前提として、発達障害は先天性の脳機能のかたよりによるものです。そのため、大人になってからADHDが後発的に発症することはありません。大人のADHDとは、基本的に成人してからADHDの特性が顕在化することを意味します。
周囲のフォローでカバーされていたなど、子どもの頃は環境によって特性が目立ちにくい場合もあります。大人になって就職などを機に環境が変化したことで、ストレスや生きづらさから初めて自身の特性に気付き、ADHDの診断を受けるケースがあるのです。
子どもの頃に見られるADHDの特徴や傾向
大人のADHDの方が幼少期を振り返った際に、あれは特性の影響だったのかと気づくこともあります。例えば子どものADHDには、落ち着きのなさや突発的な癇癪など、いくつかの特徴が見られます。5歳ごろまでの幼児の場合、気になることがあると今やっている作業を中断して動きまわる、衝動的に友だちに乱暴をするといった形で特性があらわれやすいです。
小学生の場合、物をなくしたり忘れたりすることが多い、授業中に席を立って歩きまわる、片付けが苦手、ルールを守るのが難しいといった特徴が挙げられます。このような行動は、本人が意図的に行っているわけではないため、周囲の大人の適切な配慮が求められます。
大人のADHDの診断方法
ADHDをはじめとした発達障害の診断に、絶対的な数値基準などはありません。ADHDにおける不注意のような特性は、ほかの発達障害もしくは精神疾患でも見られます。ADHDを単独で診断できるような、医学的検査が確立されているわけではない点に注意が必要です。
大人のADHDは、生育歴などを含む問診や各種検査、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)の診断基準などに基づいて総合的に判断されます。ほかの発達障害や精神疾患が原因ではないかといった視点での分析も求められるため、診断を下せるのは専門的な知識を備えた医師のみです。
ADHDの受診から診断までの流れ
ADHDの方が医療機関にかかった際の基本的な流れは以下の3ステップです。
- 問診(症状の聞き取り)
- 検査(障害の有無や程度、特徴の判定)
- 診断(検査結果に基づく医師の判断)
順番に説明します。
問診
問診では、医師が本人から現在の症状や困りごと、これまでの生活などについて聞き取りを行います。発達障害の場合、本人の自覚がない場合もあることから、家族や周囲の人間からも聞き取ることも一般的です。
この問診をスムーズにかつ正確なものとするためには、以下のような情報をまとめておくとよいでしょう。
- 生活歴のメモ(小学校のころから怒りっぽくケンカが多かった、会社に入ってから遅刻が多い、など)
- 困りごと(抑うつ感がある、ささいな騒音や雑音が気になる、など)
- 他の病気(てんかん発作を起こしたことがある、うつ病と診断された、など)
- 生育歴(母子手帳、学校の成績表など)
- ADHDのセルフチェックの結果(インターネット上で利用できる「ASRS-v1.1」の結果など)
現在だけでなく過去を含めて情報を集める理由は、発達障害は生涯続く特性のため、小さいころから特性が見られるはずだからです。
ADHDの検査方法
発達障害の検査方法は複数あります。そのため、どの検査が用いられるかは一概にいえませんが、各医療機関は主に以下のような検査を実施しています。
まず、児童を対象とした検査には「ADHD-RS」や「Conners 3 日本語版」が、成人を対象とした検査には「CAARS」などがあります。
ADHD-RSは、ADHDの診断基準に基づいて18項目を4段階で評価する検査です。「Conners 3」には親用と教師用、そして本人用の3パターンがあり、多角的な視点で正確な評価を目指します。18歳以上が対象の「CAARS」は本人用と家族用があり、66の質問からADHDの症状の度合いを調べる心理検査です。
発達のバランスを客観的に判断するために行われる知能検査・発達検査としては、「ウェクスラー式知能検査(WISC-Ⅳ、Ⅴ)」「ビネー式知能検査(田中ビネーⅤ)」「新版K式発達検査」などがあります。
それぞれ内容は異なりますが、例えばWISC-Ⅳは対象年齢が5歳~16歳11ヶ月で、最大15種類の検査からIQを算出します。大人の知能検査で使われるのは、WISC-Ⅳの成人版である「WAIS-Ⅳ」や「田中ビネーⅤ」です。
【参考】KaienでもWISC-Ⅳ・WAIS-Ⅳが受検出来ます。興味のある方は以下画像をクリック
ADHDの診断基準
診断は、アメリカ精神医学会が作成したDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版/最新版はDSM-5-TR)に基づいて行われます。DSM-5において、診断基準は「不注意傾向」と「多動性/衝動性傾向」が主な軸になっています。それぞれの具体的な項目例は以下のとおりです。
不注意傾向
- 不注意から失敗することがよくある
- 継続的に課題に取り組むのが難しい
- 忘れることや抜け漏れがよくある
多動性/衝動性傾向
- 着席し続けるのが難しく離席してしまう
- 喋りすぎることが多い
- 相手の話を途中で遮って話し始めてしまう
上記の他にもいくつか項目があり、それぞれ5つ以上あてはまる状態が6ヶ月以上続いていることが診断基準となります。また、多動性/衝動性傾向の項目のいくつかは12歳以下で見られていること、社会生活の中でこれらの状態が複数の場面でみられることも診断基準の1つです。
ADHDの診断基準の詳細について知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
大人のADHD(注意欠如多動症)は治療で改善可能?原因や困りごとへの対処法を解説
しかし、発達障害の診断は、明確な線引きをしにくいのが特徴です。このため、発達障害と診断されるほどではないが、その傾向や特徴を持った人を通称「グレーゾーン」と呼び、症状がない人と区別しています。
結局のところ、発達障害の診断は医師の総合的な判断に基づきます。診断結果に納得できない場合は、他の医師から診断を受けるのも選択肢の一つです。
関連記事:発達障害グレーゾーンとは?特徴や困りごと、対策についても解説
ADHDの検査・診断にかかる費用
ADHDの診断では問診だけでなく、各種の検査も行います。どのような検査方法が採用されるかによって、診断にかかる費用も変わってくるでしょう。
また、ADHDの診断は保険が適用されるものと適用されないものがあります。一般的なADHDの検査であれば保険適用となり、検査まで含めて数千円程度が目安ですが、保険適用のない血液検査や医療機関独自の検査などが行われる場合は、数万円かかってしまうこともあるでしょう。
診断書の作成に別途費用がかかることもあるため、出費がいくらくらいになるのか事前に確かめておくことをおすすめします。
ADHDなどの発達障害を診られる医療機関を探す方法
発達障害を診療している医療機関を探す方法としておすすめなのは、市町村保健センターに相談する方法です。
市町村保健センターとは、地域住民の健康を支えるために全国各地に設けられている機関です。市町村保健センターには医師や精神保健福祉相談員などの知識を持ったスタッフが在籍しており、適切な医療機関について助言してもらえます。
また、一部の自治体が公開している発達障害者向けの医療機関リストから、自分で探す方法もあります。例えば東京都では、東京都福祉局のホームページからリストを閲覧可能です。
参考:東京都福祉局「発達障害」
医療機関以外で利用できるADHDの相談先
医療機関以外にも発達障害の相談先は数多くあります。代表的な相談先を以下に示します。なお、自治体や機関による対応範囲の違いもあるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
【日常生活に関する相談先】
発達障害者支援センター | ・発達障害者を総合的に支援する機関・発達障害者の方やそのご家族のさまざまな相談に応じ、保健や医療、福祉、教育、労働などの関係機関を紹介している |
精神保健福祉センター | ・精神保健及び精神障害者福祉に関する総合的技術センター・心の健康づくりや社会復帰などを支援している |
自助グループや家族会 | ・同じ発達障害を持つ方やそのご家族の集まり・認知特性や困りごとの原因を理解したり、悩みを打ち明けたりする場を提供 |
【就労に関する相談先】
就労移行支援事業所 | ・実践的な職業訓練や求人紹介を含む就職活動のサポート、就職後の定着支援などを行う機関 |
地域障害者職業センター | ・障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスや助言などを提供する機関 |
障害者就業・生活支援センター | ・地域に住む障害者が職業生活で自立できるように、就業面と生活面の一体的な支援を行っている機関 |
ハローワーク | ・求職者向けに求人情報の紹介や職業訓練、雇用保険の手続きなどのサービスを提供する機関 |
このように、目的に応じてさまざまな機関を活用できます。例えば、就労移行支援事業所の中には発達障害に特化したサービスを提供しているところもあり、適職を探したり、障害を理解して対策を立てるのに役立つでしょう。
大人のADHDの悩みは支援機関の利用もおすすめ
大人になってから「もしかしたらADHDかもしれない」と医療機関に相談する方は少なくありません。社会人になってから障害の負担を重く感じ始めた方もいらっしゃるでしょう。大人のADHDの悩みは、専門機関に相談することをおすすめします。
Kaienでは、以下のように発達障害に特化したサービスを提供しています。
- 100職種以上の実践的な職業訓練
- 多方面のスキル習得を獲得できる独自のカリキュラム
- 豊富な求人情報を提供する就活サポート
- 就職後の定着支援サービス
大人のADHDでお悩みの方や自分に合った働き方をみつけたいとお思いの方は、ぜひお気軽にKaienにご相談ください。
大人のADHDは早めの受診と相談を
ADHDは生まれつきのものですが、環境が変わって大人になってから発覚するケースも珍しくありません。「自分はADHDかもしれない」と感じている方は、早めに精神科や心療内科を受診するとよいでしょう。
ADHDの特性による困りごとを抱えている場合、発達障害者支援センターなどの支援機関を頼ることをおすすめします。仕事に関する悩みがある場合は、Kaienでも就労移行支援で一般企業への就職をサポートしているので、興味がある方はお気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
コラムにもありますように大人のADHDの診断・治療は精神科・心療内科へ、でおしまいなのですが、それでは身も蓋も無いので、ここではなぜ発達障害が近年問題になってきたかを皆さんと考えたいと思います。
ADHDの歴史は100年以上前に遡ります。イギリスの小児科医ジョージ・フレデリック・スティルが攻撃的で落ち着きがない子どもがいることを1896年に報告し、この注意力の欠如は脳の何らかの損傷に由来すると仮説を立てました。こうして落ちつきのない子どもは病気としてとらえられ、報告者の名前を冠してスティル病と呼ばれるようになりました。それから100年以上かけて現在のADHDという病名になりました。スティルの報告以来、脳のどの部位の問題が落ち着きのない子を生じるのか研究が続きました。
今でもADHDが生じるメカニズムは不明です。多くの研究者は前頭葉や線条体といった部分の機能が不全になることで生じると考えていますが、決定打はまだありません。統合失調症もADHDと同じように脳の一部に原因があると考えられていますが、やはり決定打がありません。
身体医学が飛躍的に進歩する一方、精神医学が同じように行かないのはなぜでしょうか?精神疾患は、その時代のメジャーについていけない人に貼られるレッテルなのでしょうか?それとも時代の問題を映し出す鏡なのでしょうか?ぜひ一度、考えてみてください。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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