発達障害*の1つであるADHD(注意欠如多動症)は、大人になってから気づくケースもあります。大人のADHDは、その特性から仕事や日常生活に影響が出やすいため、生きづらさを感じている方も少なくありません。
本記事では、ADHDの特性による仕事への影響や、ストレスを溜めない働き方のコツを解説します。困りごとに対処するためのスキルを習得できる支援先についても紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
ADHD(注意欠如多動症)とは
ADHD(注意欠如多動症)とは、物事への注意や集中力が欠けやすい「不注意」や、じっとしていることが苦手な「多動性」、思いつきで行動してしまう「衝動性」を主とする特性がある方のことをいいます。
脳機能のかたよりが原因といわれるADHDは、発達障害に分類されます。前頭前野が担う機能のうち、集中力や遂行機能などの働きが弱いことが関係していると考えられています。
近年ではワーキングメモリーの働きに関わるドーパミンの機能低下など、脳内の神経伝達物質との関係も明らかになってきました。
ADHDの特徴
ADHDの方は主に、「不注意優勢型」「多動・衝動優位型」「混合型」の3タイプで解説されることが多いです。
不注意優勢型は、注意散漫でうっかりミスをしやすいのが特徴です。「忘れ物や失くし物が多い」「周囲が気になって長時間集中できない」「片づけや整理が苦手」といった特性が見られます。
多動・衝動優位型は、「落ち着きがない」「後先考えず行動・発言する」「1つの物事に取り組み続けるのが苦手」など、自身をコントロールしづらく衝動的に行動してしまうことが多いのが特徴です。
ADHDの方は不注意優勢型、多動・衝動優位型のどちらかに分かれる場合もありますが、両方の特徴が見られる混合型に当てはまる方もいます。
大人になってから発達障害になることはある?
ADHDを含む発達障害は脳機能の障害で先天性のものであるため、大人になってから発症するということはありません。大人になってから発達障害になったと感じる方は、社会に出て仕事や人間関係でつまづいたことがきっかけとなり、発達障害に気付くケースが多いです。
幼少期の忘れ物や、思ったことをそのまま話してしまう、順番を守れないといったADHDの特性のほとんどは、周囲のフォローや「まだ幼いから」などの理由で見過ごされやすいものです。
そのため、本人や周りが気付かなかっただけで実は幼少期からあった発達障害の特性が、大人になってから強く目立つようになったというのが正しいといえます。
ADHDの診断と治療
ADHDの診断は「不注意傾向」と「多動性・衝動性傾向」が主軸です。発達障害の診断に用いられる最新の診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)により、不注意傾向と多動性・衝動性傾向のどちらかに当てはまる項目がないかチェックします。
5つ以上当てはまり、その状態が6ヶ月以上続いているかどうかなどが診断基準です。具体的な項目については以下を参照ください。
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ADHDの治療は、注意散漫や多動・衝動的な行動を軽減させるための「服薬」と、自身の症状や状態を客観的に理解し、行動をコントロールできるようにしていくための自己理解を基にした「行動改善」が中心です。
治療は主に医療機関やカウンセリングで行いますが、自己理解を深めるうえでは、自身をよく知る近しい人達に話を聞くのも有効でしょう。
ADHDの方の困りごとや仕事への影響
ADHDの方は、「不注意」や「多動・衝動性」の特性があることから、仕事面でも困りごとが生じがちです。ADHDの特性により自分が上手く仕事をこなせず困るだけではなく、同僚や上司、客先にも影響を与えてしまうことがあるため、見過ごすわけにはいかないでしょう。
ここからは、ADHDの特性による困りごとと仕事への影響について解説します。
計画管理が苦手
ADHDの方は、仕事の優先順位付けやマルチタスクが苦手なため、計画的に業務を進めるのが困難になりがちです。仕事を納期に向けて計画的に進めたり、複数の業務を同時進行したりといったことが上手くできず、締め切りを守れないなどの問題が生じることがあります。
計画管理が苦手なままでは取引先にも迷惑がかかり、職場内でも周囲からの信頼度が落ちるなど、ストレスを溜める状況に拍車がかかります。
常に仕事の段取りや優先順位の見直し、確認をする、計画に無理がないか早めに上司に相談するなどの対策が必要です。
うっかりミスが多い
誰しも「うっかりミス」はあるものですが、ADHDの方はその特性により「うっかり」の頻度が多いため人よりもミスが多くなりがちです。「取引先への訪問時間を間違えた」「プレゼンに必要な書類を家に忘れた」などのうっかりミスは、笑って済まされるものではありません。
例えその場は大きな問題にはならなかったとしても、度々ミスが続けば「改善する気がない」「責任感に欠ける」など、ネガティブな印象を持たれる可能性も考えられます。ミスを減らす工夫はもちろんのこと、ミスをした場合の対応方法もしっかりと考えておくことが大切です。
1つのことに集中できない
1つの仕事に集中することが困難なのもADHDの方の特徴です。同じ場所でじっと同じ仕事をしていると、途中でふっと集中力が途切れてしまうことがあります。そのためADHDの方は特に、デスクワークが苦手な方が多い傾向です。
また、集中力が切れることでミスも起こりやすくなります。集中が切れると席を立って動きたくなったり、座っていても手足を動かしたりとそわそわするため、周囲からは「落ち着きがない」と思われてしまうこともあるでしょう。
同僚と比べてしまう
仕事でのミスが多くなると、周りの同僚と自分を比べてストレスが溜まったり、落ち込んでしまったりすることも少なくありません。
「ミスをしないように気を付けていたのに、またやってしまった」「同僚は複数の仕事をスムーズにこなしているのに、自分は何から手を付ければ良いのか分からない」など、自信を失くす状況に陥ってしまった結果、自己肯定感の低下につながります。
ストレスを溜めずに働くコツ
不注意や多動・衝動性のあるADHDの方が働く際は、障害に理解のある職場でないと誤解を生みやすいため注意が必要です。
ADHDの特性を踏まえた対策をしないままでは、ミスや仕事の困りごとが多い現状が改善されず、ストレスが溜まる一方でしょう。ここからは、ADHDの方がストレスを溜めずに働くためのコツを解説します。
睡眠をしっかりとる
睡眠障害の研究では、ADHDの方の7割以上は睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌がそうでない方と比較すると約1.5時間も遅く、睡眠不足になりやすいことが報告されています。つまり、同じ睡眠時間を確保しても、ADHDの方は約1.5時間も睡眠時間が短くなってしまうのです。
さらに睡眠時間が足りないことで、不注意や多動・衝動性がより強く表れやすくなると発表しています。ADHDの方は意識して長めに寝る時間を確保しない限り、睡眠時間が足りていない方が多すぎるのが現状なのです。1日8~9時間を標準とし、最低でも毎日7時間は睡眠をとるようにしましょう。
視覚的効果を活用する
ADHDの方は、先述の通り仕事のタスクや予定、優先順位などを頭の中で整理することを苦手とします。一方、情報を視覚的に捉えることに優れている方が多いため、仕事の予定や進捗などは可視化できるようにしておくと有効です。
例えば仕事の指示や確認が必要な場面では、口頭で済ませるのではなくメモやメールで行うようにすると、やるべきことや期限などが視覚的に理解でき、情報を整理しやすくなります。
適度な休憩を入れる
集中力が途中で途切れがちなADHDの方が長時間働くためには、短時間集中を繰り返すことも有効な手段です。長時間パソコンに向かいデスクワークを続ければ疲労が溜まり、集中力が切れやすくなるのはADHDの方でなくてもあることでしょう。
誰にも適度な休憩は必要ですが、ADHDの方はよりこまめに短い休憩を取り入れるようにして、集中力を切らさないように工夫すると効果的です。「1時間経ったら一度席を立ち、外を眺めて5分休憩する」といったように、休憩時間を決めて仕事に取り組んでみましょう。
専門家へ相談する
仕事や日常生活で特性への対策をしながら過ごしていても、困りごとが生じる可能性は0ではありません。そのようなときは、主治医や専門機関へ相談することで、より専門的なアドバイスや対策方法を聞ける場合もあります。
例えば、日常生活を含むさまざまな困りごとを相談できる専門機関として「発達障害者支援センター」や「精神保健福祉センター」などが挙げられます。
就労支援機関を頼る
仕事に関する困りごとがある場合は、就労支援機関にも相談できます。
就労支援機関には、発達障害などの障害がある方を対象とした就職サポートや定着支援を行う「就労移行支援事業所」や、障害のある方を対象とした職業リハビリテーション、就労継続支援等を行う「地域障害者職業センター」などがあります。
ADHDの方は特性に適した職業に就くことでその特性が強みにもなり得るため、今の仕事でストレスが溜まり自信を失くしているような場合は、就労支援機関を頼ることも検討してみましょう。
ADHDの方の仕事探しは就労移行支援がおすすめ
不注意のミスや多動・衝動的な行動が多いなど、ADHDの特性は周囲の理解を得にくく、日常生活や仕事で生きづらさを感じる方も少なくありません。ADHDの方は自身の得意分野や個性、興味を存分に活かせる仕事に就くことで、特性を強みに変えて活躍の場や可能性を広げることができます。
ADHDの特性を活かし、苦手分野に対してフォローや配慮を受けられるような理解ある職場を探すには、就労移行支援の利用がおすすめです。障害のある方の就労をトータルサポートする就労移行支援では、特性に合わせた就活支援を行うだけでなく、同じ職場で長く働き続けられるようにするための長期的な支援が受けられます。
Kaienの就労移行支援
Kaienは発達障害に特化した就労移行支援事業所であり、就職から定着まで一貫したサポートを行っています。一人ひとりに専属の担当カウンセラーが付き、個々の発達障害の特性に合わせた手厚い支援が受けられます。
Kaienのサービス内容と特徴は以下の通りです。
100職種以上の職業訓練が体験できる
Kaienでは、経理・人事・データ分析など100種類以上の豊富な職業訓練を実施しています。さらに自分の強みや弱みを整理し、苦手なことへの対処法を学ぶスキルアップ講座も常時開設しているため、適職を見つけADHDの特性への対策方法の習得が可能です。
独自求人を含む豊富な求人による就活サポート
発達障害に理解のある企業200社以上と連携しているKaienでは、他事業所にはない独自の求人も紹介できます。豊富な求人の中からカウンセラーと一緒に探せるため、適職を見つけられます。
就職後も続く定着支援
希望する仕事に就職した後も、職場訪問や定着支援SNSなどを通じて安定就労をサポートします。就職後3年半にわたってサポートが続くのもKaienの強みです。困りごとを相談できる環境を用意しているため、安定就労につながります。
周りと比べず自分のペースで働くことが大切
不注意や多動・衝動性のある大人のADHDの方は、仕事でうっかりミスなどの困りごとが生じやすく、ストレスを溜めたり落ち込んだりと、生きずらさを感じる場面が多くなりがちです。
ADHDの特性は周囲からネガティブに受け取られやすいですが、特性が強みとなる職業や職場で働くことで才能や個性が開花されるでしょう。周囲と比べず自分のペースで働くためにも、適職を見つけることが大切です。ADHDの方で今の仕事や適職選びに悩んでいる方は、ぜひお気軽にKaienにご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
注意欠如多動症(以下ADHDとします)は、1900年代初頭にイギリスの小児科医Stillが、攻撃的で反抗的になりやすい子どもの報告をしたことから医学界で存在が知られるようになりました(加藤、neuroinf.jp)。
もっとも、最初は感染症や怪我などで後天的に発症すると考えられていましたが、それらが否定されて小児期に始まる脳機能の疾患であることが分かりました。ADHDの名称が成立したのは、2013年にDSM-5が出版されたときで、比較的新しい概念なのです。
なぜ、ADHDは21世紀になって注目されたのでしょうか?ひとつの仮説として、特に先進国の勤務形態がPCやインターネットを用いたサービス産業に大きくシフトしたことが考えられます。長時間同じ姿勢で集中を強いられる業務でミスを繰り返す、注意欠如・多動傾向のある人を疾患として炙りだしたのです。
ただし、PCやスマホのインターフェイスがより直観的・グラフィカルになるにつれて、感性の豊かな人の多いADHDには優位になるかもしれません。自分らしい仕事を見つけられると良いですね。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。