アルコール依存症の親がいるなど、偏りのある家庭環境で育った人の中には、大人になってからも生きづらさや不安定さを抱え続ける、「アダルトチルドレン」になる人がいます。仕事や社会生活で大きな悩みに直面して、はじめてアダルトチルドレンだと自覚する人も少なくありません。
今回は、ご自身やご家族がアダルトチルドレンかもしれないと悩んでいる方に向けて、アダルトチルドレンの症状と特徴や6つのタイプ、アダルトチルドレンと共依存や発達障害*などとの関係、回復のために利用できるカウンセリング、自助グループ、医療機関の情報を解説します。
この記事では、断りのない限りは医療や教育で定義をされたわけではない一般的に言われるアダルトチルドレンをこの記事なりに定義して解説しています。
アダルトチルドレンの対処法を知るきっかけとしてお役立てください。
アダルトチルドレン(AC)とは
アダルトチルドレンとは、「機能不全家族」のもとで育って家庭内トラウマ(心的外傷)を受けたことにより、自己認識が歪んでしまったり人間関係がうまくいかなかったりといった精神的な影響を受け続ける大人の総称です。
「機能不全家族」とは、本来家族が果たすべき役割、すなわち保護者側の原因によって子どもが「あるがままの自分を認めてもらえる」と、安心感を持って成長できる環境を提供する機能を果たしていない家族を意味します。
もともとはアルコール依存症の養育者のもとで育ったために、心に深い傷を抱えている大人をアダルトチルドレンと呼んでいました。アダルトチルドレンは、1970年代にアメリカで提唱された「Adult Children of Alcoholics(ACoA):アルコール依存症の親に育てられた子ども」という概念です。ただ、アダルトチルドレンという用語は病名、診断名でないため、厳密な定義はありません。
機能不全家族の元で育った人にもACoAと同じ特徴がみられることから、現在ではギャンブル依存症や過度に厳しい・甘い養育者など、子どもの成長に悪影響のある環境で育った影響が残る大人をまとめてアダルトチルドレンと呼ぶようになっています。
アダルトチルドレンは、生きづらさなどの問題解決に向けたスタート地点となる「自覚用語」です。しかし、日本に用語が入ってきた1990年頃は概念が誤って解釈され、他人からのレッテル貼りに使われたり、「私はアダルトチルドレンだから」といった自己理解のゴール地点のように扱われていました。
一方、日本におけるアダルトチルドレンの第一人者であり、公益社団法人 日本公認心理師協会の会長を勤める信田さよ子さんは、アダルトチルドレンは「自分が悪いからなってしまった」という自己責任から解放され、親による支配や拘束などの影響を受けたために自分はこうなってしまったと認めることが回復の一歩であると提唱しています。
また、機能不全家族とは「ワーカホリックと良妻賢母ホリックの共依存であり、その家族から育てられた勉強依存の子どもたちによって構成されている」と日本ならではの特徴を挙げています。
アダルトチルドレンの特徴
アダルトチルドレンの特徴は、アメリカの著述家ジャネット・ウォイティッツがまとめた13項目が広く知られています。特徴はこれに限るわけではありませんが、2つ以上当てはまる場合はアダルトチルドレンを認識する目安となるでしょう。
- 常に何が正常か推測するため「これでいい」と確信が持てない
- 物事を最初から最後までやり遂げることが困難
- 本当のことを言うほうが楽な場合でも嘘をつく
- 情け容赦なく自分を批判する
- なかなか楽しめない
- 変なところで真面目すぎる
- 他者と親密な関係を持つことが非常に難しい
- 自分でコントロールできない変化に過剰反応する
- 他人からの受容や肯定、承認を常に求める
- 自分は他の人とは違うと常に考える
- 常に責任を取りすぎる、または、とらなさすぎる
- 過剰に忠実で無価値なものとわかっていてもこだわり続けてしまう
- 衝動的で、「他の行動もできる」と考えることなく、1つのことに自分を閉じ込める
アダルトチルドレンの方に見られるタイプ別の症状
アダルトチルドレンには次の6タイプがあると言われています。
- ヒーロー(英雄)
親の期待に応えようと努力する優等生タイプ。失敗体験があると自己否定してしまいがち。 - スケープゴート(いけにえ)
親の関心を引きたいあまり非行などの問題行動を起こしがちで、問題児扱いされやすい。 - ロストワン(いない子)
親を刺激しないように自己主張を控える姿が見られる。大人になってからも自己主張が苦手。 - ケアテイカー(世話役)
自分を犠牲にしてまで家族や周囲の人の役に立とうと献身的に尽くす。 - ピエロ(道化師)
恐怖感や家族・周囲の悪い雰囲気を察知し、わざとふざけて緩和しようとする。本当の自分とのギャップに苦しむケースも多い。 - イネイブラー(世話焼き人)
自分や他人と向き合うことから逃げるために、アルコール依存症などトラブルを抱えている家族や周囲の人に対し必要以上に世話を焼いてしまう
ただしこれらは代表例であり、すべての方を上記の6タイプに分類できるとは限りません。
アダルトチルドレンと共依存
アダルトチルドレンとその養育者は、「共依存」の関係にあるケースが多いのが特徴です。共依存とは、一人一人が自立しておらず、互いに依存し合う関係です。
例えば、アルコール依存症の親の場合、一人では家事や育児などがままならないため、子どもに頼るケースが少なくありません。一方、子どもは「自分がいなければ生きられない無力な親」を世話することに、充実感を持つケースがあります。
つまり、外見的には支配する側とされる側ですが、実は互いに相手に依存し合う関係にあるわけです。この結果、「憎いのに離れられない」「嫌いだけど、いないと寂しい」といった状態になってしまいます。
この共依存の人間関係を、アダルトチルドレンの人は無意識に作ってしまうケースが少なくありません。例えば、アルコール依存症のパートナーを、イネイブラー(支え手)になって助け続ける人生を選ぶ人がいます。また、親が亡くなった後に目的を失い、自分自身がアルコール依存症になってしまうケースもあります。
アダルトチルドレンと発達障害
アダルトチルドレンと症状の出方が似ているものとして、発達障害、愛着障害があります。具体的には、次のような症状が似ています。
- 他人目線がとりづらい、感情を共有しにくい
- 衝動的で自分を抑えられないときがある
- 不安感が強い、など
このため、アダルトチルドレンだと思い込んでいた人が、実は発達障害や愛着障害であるといったケースもあります。
しかし、アダルトチルドレンの原因が後天的な成育環境であるのに対して、発達障害の原因は先天的な脳の特性です。また、愛着障害の原因は主に乳幼児期の虐待やネグレクト(育児放棄)であり、物心が付いてから影響を受けるケースも多いアダルトチルドレンと違う面があります。
したがって、表面的な問題だけみて自己診断してしまうと、本当の問題に気付かない可能性があります。自分についてよりよく知りたい場合は、医療機関に相談し、医師に診断してもらうのが近道です。
アダルトチルドレンと精神疾患
アダルトチルドレン自体は診断名ではなく、精神疾患でもありません。しかし、アダルトチルドレンの特徴である不安感や傷つきやすさなどが、さまざまな精神疾患、障害につながるケースがあります。一例を以下に示します。
- うつ病:悲しい、つらい、無気力な状態が一日中、何週間も続く
- 全般性不安障害:仕事や生活など、いろいろなことが極度に不安になる、イライラする状態が半年以上続く
- パニック障害:急に心臓がドキドキする、呼吸が苦しくなる、めまいがするなどの症状が出る
- 境界パーソナリティ障害:自分が見捨てられたり無視されたりしたときに、強い恐れや怒りを感じる
- 摂食障害:極端に食欲不振になるケースと、むちゃ食いと体重増加を防ぐために吐く行動を繰り返すケースがある
- 身体化障害:体に異常がないのに、頭痛や関節痛、下痢、嘔吐などの症状が出る
- 統合失調症:幻覚や妄想、まとまりのない言動などを示す
ただし、上記の症状が出ても、アダルトチルドレンと関連しているとは限りません。疑いがある際は、医療機関で診断してもらうとよいでしょう。
アダルトチルドレンの回復のためにできること
アダルトチルドレンの人は、仕事や社会生活などの中で、日々生きづらさを感じています。どうすればストレスを減らしたり、自分らしさを取り戻したりできるのでしょうか。ここでは、カウンセリング、自助グループ、医療機関の3つの方法を紹介します。
認知行動療法などカウンセリングを受ける
カウンセリングとは、医師や資格を持ったカウンセラーなどから、相談や助言をもらうことです。医療行為と違って、病を治してもらうというより、自分の話を聞いてもらい、よい方向に進む方法を探せるのが特徴です。例えば、カウンセラーに自分の行動パターンを分析してもらったり、今抱えている問題を整理して考える手伝いをしてもらったりできます。
また、認知行動療法を受けられるカウンセリングもあります。認知行動療法とは、現在抱えている問題に対して、認知(頭に浮かぶ考え)、感情、体の反応、行動の変えやすい部分から少しずつ改めていき、問題解決を目指す心理療法です。
自助グループや当事者会に参加する
アダルトチルドレンの人たちと、その家族・知人が集まる自助グループや当事者会に参加する方法もあります。自助グループや当事者会の目的は、同じ悩みを抱える人同士で問題を分かち合い、支え合うことです。感情を吐き出したり、孤独感を減らしたりする効果を期待できるでしょう。
具体的には、ミーティングに参加して、自分の体験をメンバーに話したり、逆に他人の体験談を聞いたりします。集まりによって内容は違いますが、「匿名で参加できる」「メンバーが対等な関係」「言いっぱなし、聞きっぱなしが基本で、意見や批評をはさまない」スタイルで行われるのが一般的です。
心身に症状がある場合は医療機関で治療を行う
心身に症状が出ている際は、医療機関にかかる方法があります。アダルトチルドレンの場合、一般的には心療内科、精神科、メンタルクリニックなどにかかります。医療機関の主な治療方法としては、薬物療法と、先ほど紹介したカウンセリング、認知行動療法があります。
生きづらさを感じている方は医療機関等に相談してみよう
アダルトチルドレンは、成育に悪影響を与える家庭環境(機能不全家族)で育ったために、大人になった後も心に深い傷を残しています。現在、仕事や社会生活などで生きづらさを感じている根本的な原因は、子ども時代にあるのかもしれません。
アダルトチルドレンの方は、周囲の人の顔色をうかがいすぎたり自信が持てなかったりして、生きづらさを感じることがよくあります。苦しみを抱えて生きることが、うつ病や全般性不安障害、パニック障害などの精神疾患につながることもあるため、自分の生い立ちや性格の傾向、どんな困りごとがあるのかなどを見つめ直してみることも大切です。
まずは、この記事で解説してきたようなアダルトチルドレンの特徴や、他の病気との関係などを理解したうえで、セルフチェックしてみてはいかがでしょうか。
しかし、医学的な知識なしにアダルトチルドレンかどうかを判断するのは困難です。ましてストレスを緩和したり、治療したりするとなると、専門家の助けが必要になります。心身に症状が出ている場合は、医療機関に相談することをおすすめします。また、カウンセリングや自助グループを利用するのもよいでしょう。
アダルトチルドレンは、状態を自覚し対処方法を知れば、よい方向に進める可能性があります。ありのままの自分を取り戻すために、遠慮なく助けを求めるとよいでしょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
アダルトチルドレンは、記事にある通り元々はアルコール依存の親に養育された生活史がある方を指していましたが、現在では用語的に拡大適用されていますね。「診断」ではないので、医師が診断としてあなたはアダルトチルドレンです、と言うことは無いはずです。ただ、アダルトチルドレン的な要素があるとご自身が認識されて診察室で話題にすることはよくあります。医学診断では無い以上、多くの場合、そのような自己認識に至った背景を考え、医学的には別な判断がくだされることが大半かと思います。1つ確実なことは、自らがアダルトチルドレンと考えたときに、親を恨み、親を憎んでもそれが役立つことは無いということです。確かに養育が問題なときもあります。ですが、大事なのはアダルトチルドレン的な行動様式が自身にあると感じるならば、現在の状況をどのように捉え、何を変化させるともっと楽に生きられたり、成長していけるか考えていくということだと私は考えます。何がそのために必要となるかを考えたとき、それは必ずしも医療でないこともありますね。これから、を良くしていくために何が必要か検討してみてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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