大人の起立性調節障害でも仕事は続けられる?治療法や支援についても紹介

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大人になって起立性調節障害の症状に悩まされていると、「起立性調節障害でも仕事を続けていけるのだろうか?」と不安に思うことも多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では大人の起立性調節障害の症状や種類、仕事を続けていけるかどうかについて解説します。起立性調節障害の治療法や仕事を続けられない場合に利用できる支援制度について紹介しますので、仕事を続けることに不安や困難さを感じている人は、ぜひ参考にして下さい。

大人の起立性調節障害とは?

起立性調節障害とは、自律神経の機能がうまく働かないことにより、起立したときに、めまいや動機、失神、頭痛などの症状を引き起こす病気です。

自律神経系には、活発的に活動するための交感神経とリラックスするための副交感神経とがあり、それらのバランスが崩れることによって起きると考えられています。

一般的には、思春期に起こりやすい症状とされていますが、大人になっても症状が続く場合や、大人になってから症状に悩まされる場合も少なくありません。

大人の場合、もともと自律神経の乱れやすい人のほか、仕事や人間関係による大きなストレスを抱えている人などは、自律神経がうまく機能せずに起立性調節障害を起こすことがあるといえます。

起立性調節障害の症状

起立性調節障害の症状は、思春期でも大人でも大きな差はないとされています。

例えば次のような症状が挙げられます。

  • 起立時に、めまいや立ちくらみを起こす、気分が悪くなる、失神する
  • 早朝や午前中は特に体調が悪い
  • 立ち続けたり、少し歩き回ったりするだけで動悸や息切れがする
  • 常に体がだるい、疲れやすい、食欲がない
  • 乗り物に酔いやすい

大人の場合は、これらの症状により、早朝勤務や立ち仕事、外回りの営業などの業務が困難になるといった仕事上の困りごとを抱えやすいといえるでしょう。

起立性調節障害の種類

起立性調節障害と一口にいっても、実はいくつかのタイプに分類されます。具体的には例えば下記のようなサブタイプがあります。

  • 起立直後性低血圧
  • 体位性頻脈症候群
  • 血管迷走性失神
  • 遷延性起立性低血圧

詳しくは次の通りです。

起立直後性低血圧

起立直後性低血圧とは、起立した直後や、朝起きた直後などに、めまいや立ちくらみ、ふらつきなどのさまざまな症状が出るものです。起立性調節障害の中でも一番多いタイプとされています。起立直後に血圧が著しく低下するために起こるとされていて、脳の血流の低下により、めまいなどの様々な症状が出現します。

体位性頻脈症候群

体位性頻脈症候群とは、血圧低下が見られないものの、心拍数が著しく上昇し、ふらつきや倦怠感、頭痛といった症状が出るものです。起立直後性低血圧の次に多いタイプとされており、症状の起こる頻度は最も高いとされています。

血管迷走性失神

血管迷走性失神とは、立っているときに突然血圧が低下することにより脳の血流不足が生じ、意識が薄れたり、意識を失ったりする症状が現れるものです。朝礼中に急に倒れたりするケースがこれに該当するといえるでしょう。

遷延性起立性低血圧

遷延性起立性低血圧は、起立した直後は問題ないものの、継続して立ち続けるうちに血圧が低下し、めまいや立ちくらみ、ふらつきといった症状が出始めるものです。起立直後性低血圧との違いは、血圧低下が起こるタイミングの違いといえます。遷延性起立性低血圧は、起立後しばらくたってから血圧が低下し、症状が現れます。

起立性調節障害でも仕事は続けられる?

起立性調節障害でも、症状が軽い場合は仕事を継続することも可能ですが、下記のような仕事は向いていない傾向があります。

  • 早朝勤務の仕事
  • 夜間や深夜の仕事
  • 立ち仕事
  • 外回りの業務

起立性調節障害は、先でも解説した通り、自律神経系の交感神経と副交感神経のバランスが崩れることが原因で起こるとされています。

そのため、寝起きなどの早朝は、副交感神経から交感神経へのスイッチがうまくいかず、症状が出る傾向が強いといえます。また、夜間や深夜の仕事も、夜更かしをして睡眠のリズムが崩れ、自律神経の乱れにつながりやすいため、向いていないといえます。

立ち仕事や、外回り営業などの立って動き回る仕事も、突然の血圧の低下を招いて体調不良になりやすいため、向いていないといえるでしょう。

起立性調節障害でも仕事を続けるためには、できるだけ自律神経のバランスを保つことが必要です。自律神経のバランスを保つためにも、規則正しい生活をすることや、ストレスを避けるといった自己管理が重要といえます。

起立性調節障害の治療法

起立性調節障害で医療機関を受診しようとする場合、どの診療科を選べばよいか迷うこともあるでしょう。

起立性調節障害の場合、この診療科といった決まりはありません。出ている症状に見合った内科を受診することがおすすめです。例えば、めまいや動悸が激しい場合は循環器内科、精神的ストレスが強いと思われる場合は心療内科といった選択となります。

受診した医療機関で起立性調節障害と診断されたら、個々人の症状に合わせて、非薬物療法、あるいは薬物療法といった治療が行われます。

非薬物療法

非薬物療法とは薬物を使わずに、日常生活の過ごし方や食事のとり方などで改善していく治療法です。

医師が、本人や家族に、起立性調節障害の発症理由を説明し、心理的負担や不安を取り除き、治療のための生活上の注意点などの指導を行います。例えば、水分を多くとる、軽い運動をする、急に起き上がらないようにする、血圧低下防止のバンドやソックスの着用などといった指導があります。

本人が強いストレスを感じている場合などには、心理療法を行うために、臨床心理士などによるカウンセリングを実施することもあります。

薬物療法

薬物療法は、薬物を使った治療法ですが、特にこれを服用すれば起立性調節障害が治るというような薬はないとされています。ただし、長期的な服用で症状の緩和や改善が期待できるとされる薬には下記のようなものがあります。

  • ミドドリン塩酸塩:血管を収縮させることにより血圧を上げる
  • メチル硫酸アメジニウム:交感神経の機能を促進させることにより血圧を上げる
  • プロプラノロール塩酸塩:心拍数を抑えることにより血圧を下げる

このほかにも症状によっては、漢方薬を用いる場合もあります。

なお、薬は本人の症状のタイプや程度に合わせて処方されて初めて効果があるといえます。また、起立性調節障害において、薬物療法は非薬物療法と同時に進められるもので、薬を飲めば治るというものではない点に注意が必要です。

医療機関の指導に従って治療を行うことが大切です。

起立性調節障害で仕事が続けられない場合に利用できる制度

起立性調節障害の症状が重くて仕事が続けられないといったことも少なくありません。そうした場合に利用できる支援制度について解説します。

  • 傷病手当金
  • 失業保険
  • 就労移行支援
  • 自立訓練(生活訓練)
  • 就業・生活支援センターや障害者就労支援センター・障害者職業センターなど

具体的には次の通りです。

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やケガで会社を休み、会社から十分な給与が支払われない場合に、給与の一部に相当する額が支給される手当金です。

健康保険に加入していれば、会社員のほか派遣社員やアルバイトでも受給可能です。病気やケガで会社を休んだ日が連続して3日間あることが受給条件で、4日目以降に今まで休んだ期間全体を対象として支給されます。

ただし、休みの間も会社から傷病手当金より多い額の給与を受けている場合には、傷病手当金は支給されません。

失業保険

失業保険は、失業をしている人で一定の条件を満たす人に支給される手当金です。

一定の条件とは次のようなものです。

  • 雇用保険に加入し保険料を支払っていた
  • 離職の日以前の2年間に12カ月以上の雇用保険の被保険者期間がある(病気退職で特定受給資格者とみなされる場合は離職の日以前1年間に6カ月以上が基準となる)
  • 就労の意志と能力があり、求職活動を行っている

給付額は、離職前に受け取っていた給与額や年齢によって変わります。給付を受けられる期間は、最短90日間、最長360日間ですが、離職時の年齢や雇用保険への加入年数で異なります。

就労移行支援

就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、就職に向けた支援を行う障害福祉サービスです。会社を離職してしまったものの、体調を整えて再度一般企業に就職したいといった場合に役立ちます。

就労移行支援では下記のような支援を受けることができます。

  • 企業実習や職場体験などの職業訓練の提供
  • 就労に必要な知識・能力の向上のための勉強会、訓練の提供
  • 適性に応じた職場探し
  • 就職後の職場定着に向けてのサポート

就労移行支援は、何らかの障害の診断があり、就労意欲があって現在失業中の18歳から65歳の人が利用できます。失業中でなく休職中でも特定の条件を満たす場合などには利用できることもあります。また、失業保険や傷病手当を受給していても利用できます。

ただし、対象者の条件や例外は自治体によって違うため、利用に際してはお住まいの自治体の障害福祉課などに確認するようにしましょう。

就労移行支援サービスの利用については、下記のページで詳しく紹介してるので、ぜひご参照ください。

就労移行支援とは?受けられる支援や利用方法をわかりやすく解説

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるように、生活で必要となるさまざまなスキルの維持や向上のための訓練を行う障害福祉サービスです。

再度就労する前に、ゆっくりと生活の基礎力を高めていきたい、基礎力を取り戻したいといった場合に役立ちます。

自立訓練(生活訓練)では下記のような支援やサポートを受けることができます。

  • 食事、洗濯、掃除、金銭管理、身だしなみどの生活能力を向上させるプログラムの実施
  • グループミーティングなどコミュニケーション力向上のためのプログラムの実施
  • スポーツ、ストレス対処法などの体調管理のためのプログラムの実施

利用対象者は、地域生活を営む上で、身体機能や生活能力の維持・向上のため、一定期間の訓練が必要とされる65歳以下の障害者です。障害者手帳がなくても利用可能ですが、利用には医師の診断が必要になります。

自立訓練(生活訓練)の利用については、下記のページで詳しく紹介してるので、ぜひご参照ください。

自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説

障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センターなど

上記のほかにも、下記のような相談先があります。

  • 障害者就業・生活支援センター
  • 地域障害者職業センター

両方とも、障害手帳がなくとも、医師の診断書があると利用対象となるケースが多いといえます。実際の利用の際には、念のため問い合わせてみることが必要です。

障害者就業・生活支援センターとは、障害のある方の就業と生活とを一体的に支援するための専門機関です。障害者就業・生活支援センターは就業中の場合でも、これから就業したいといった場合でも利用できます。

就業やそれに伴う日常生活においてのお困りごとの相談ができ、助言をしてもらえます。相談は窓口でできるほか、場合によっては。職場訪問や家庭訪問などでの相談も可能です。

障害者就業・生活支援センターは全国にあり、お近くのセンターは厚生労働省ホームページの障害者就業・生活支援センター一覧などで確認できます。

障害者就業・生活支援センターについて

地域障害者職業センターとは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する専門施設です。

障害のある方の就職や復職にあたって、障害者一人ひとりのニーズに応じた、職業リハビリテーションを受けることができます。リハビリテーションの内容は、職業評価(就職の希望や能力を確認し必要な支援計画を決定する)や職業指導、職業準備訓練といったものです。

地域障害者職業センターも全国にあり、お近くのセンターは下記の一覧などで確認できます。

地域障害者職業センター

自分のペースで治療をすすめていこう

起立性調節障害とは、自律神経の機能がうまく働かないことにより、起立したときに、めまいや動機、失神、頭痛などの症状を引き起こす病気です。

大人で発症した場合は業務に支障が出ることも少なくないため、仕事が続けられるかどうかの不安を伴います。

起立性調節障害で仕事を続ける場合は、早朝の仕事や立ち仕事など向いていない仕事は極力避けることや、治療にじっくり取り組むことがおすすめです。

仕事が続けられないと思った場合には、傷病手当金や失業保険、就労移行支援、自立訓練(生活訓練)など利用できる支援サービスの活用を検討しましょう。

監修者コメント

起立性調節障害は自律神経のバランスが崩れて、特に朝起きるのが困難になる疾患です。もともと思春期に見られるものと考えられていましたが、最近では成人、特に発達障害を持つ方にも認められることがあり、診療の課題になっています。

なぜ発達障害があると自律神経が乱れるのでしょうか?明確な理由は分かっていませんが、注目されているのがポリヴェーガル理論です*。ヴェーガル(vagal)とは第10脳神経である迷走神経(vagus nerve)を指していて、機能としては副交感神経に属します。副交感神経はクルマのブレーキのような役割で、心身を抑制したりリラックスさせる方向に働きます。

ポリヴェーガル理論の提唱者、イリノイ大学のポージェス博士は解剖学的に2つに分かれる迷走神経(背中側の背側、おなか側の腹側)がそれぞれ別の精神機能を有していると考えました。つまり、背側迷走神経の活動は動かなくなるという強い抑制を引き起こすのに対し、腹側迷走神経の活動はリラックスして他者と関わる緩やかな抑制を引き起こすというのです。

例として、背側の迷走神経が強く働くのは「オポッサムの死んだふり」で、敵が近づくとオポッサムは硬直して死んだように見えます。敵が去るとオポッサムはささっと逃げ出すのですが、生きるか死ぬかを賭けた場面で背側の迷走神経が働くと考えられるのです。一方、腹側の迷走神経が強く働く例は他者との交渉、適応、自己鎮静(メディテーションなど)などがあると考えられています。つまり、背側は急ブレーキ、腹側は緩やかなブレーキと言えるでしょう。

翻って発達障害の方の対人交流が不得手で緊張しやすく、朝が苦手ということをポリヴェーガル理論で考えると、背側の迷走神経が強く働いて、腹側があまり働いていないと言うことになりそうです。ポリヴェーガル理論は精神医学分野でまだ正式に認められていませんが、大脳中心に考えられている精神機能が、自律神経によっても支配されると考えるのは思考の枠が広がるようで興味深いです。

*ポリヴェーガル理論については、http://saga-psychiatry.kir.jp/2020/11/06/3072/の記載を元に以前、監修者が勉強した内容をまとめました。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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