発達障害の人は不安が強い?不安を感じやすい理由と対処法を紹介

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不安が私を襲ってくると、上司の指示が頭に入らなかったり、つまらないミスを繰り返したりして、仕事が手につきません。電話に出るのも、会議に出るのも不安になります。ときには会社に行くこと自体が出来なくなります。

不登校、職場でのパニック、離職・休職、アルコールや薬物、ギャンブルへの依存、人間関係の破綻や孤立…。発達障害*¹の人が起こしやすい様々な問題行動の原因には不安が関わっています。不安がこうじて、発達障害だけではなく「不安障害」を併発することもあります。

不安への対応は発達障害の人には不可欠とも言えます。でもご安心ください。その対処法は誰でもすぐに実践できるものばかりです。

この記事では、対処法も含め以下のような内容を解説します。

  • なぜ不安が起きるのか
  • 発達障害の人が強い不安を感じやすい理由
  • 不安を把握して対策を立てる方法
  • 不安を鎮めるためのおすすめの対処法

この記事で紹介する中で自分にあったものを探してください。きっと日々の生活がより落ち着いた平穏なものになり、職場で就活で本来の能力が活かしやすくなるでしょう。

【参考リンク】不安障害

不安は人類に備わった危機回避反応

 不安は誰でも感じる基本的な感情です。不安になると不快に感じますが、古代の人類にとっては、動物に襲われるといった状況に立ち向かうため、いわば生存には不可欠な反応でした。現代生活でも例えば下記のような状況では不安つまり「逃げたい」という感情が自然に起こりえます。

  • ジェットコースターに乗る
  • 運転免許の実技試験を受ける
  • 就職の面接に臨む
  • 大人数の前でプレゼンやスピーチをする
  • 異業種交流パーティーに出席する

職場で不安になると仕事に集中できなくなったり、ミスが多くなったり、細部に目が届かなくなったり、その結果仕事がはかどらなかったり、特定の会議や打ち合わせに出られない、といった悪影響が現れるのは、ご紹介するまでもないでしょう。

発達障害の人が強い不安を感じやすい理由

発達障害の方が抱えやすい不安の原因としては、以下が挙げられます。

  • 予想外の変化
  • 強迫的な思い込み
  • 歪んだ思考パターン
  • 失敗や嫌なことについて繰り返し考えてしまう
  • ストレスを溜めやすい
  • 周囲に過剰適応しようとしてしまう

順番に説明します。

なお、上記の原因が複合的に作用して不安を抱いたり、ある原因が別の原因を引き起こしたりすることもあるので、あまり決めつけることなく、柔軟に自己分析することも大切です。

1. 予想外の変化に弱い

先を見通すことが苦手な発達障害者は、単なる変化を予想外の重大な変化として捉えやすく、他の人以上に辛い状況になりえます。例えば、作業手順の前後が入れ替わっただけで混乱し、どうすればよいのかわからなくなるなどです。

そもそも現代生活は変化の連続で、変化に上手く対応できなければ、毎日をパニックの中で過ごすことになってしまいます。変化は避けられないものと知り、対処の仕方を戦略的に学べば、より上手く対応できるようになることを知りましょう。

  •     転職をした時の毎日の生活リズム
  •     通勤時の変化(電車の運休や遅延)
  •     仕事の内容の変更
  •     職場の同僚・上司の変更

2. 強迫的な思い込みがある

不安はしばしば非合理的な信念や思い込み(強迫観念)によっても引き起こされます。特に発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)の方は興味の幅が極端に狭く、特定の行動パターンに強いこだわりがある場合が多いのが特徴です。

以下に強迫的な思い込みの例を挙げます。

  • 私生活や職場で接する、すべての人に好かれるか承認されるかしなければならない。
  • 仕事で決して間違いを犯してはならない。
  • 自分の運命は終わりに近づいており、物事は思い通りに運ばず、むごたらしい。
  • 幸せは自分の力の及ばないところにあり、そのために自分ができることは何もない。

3. 思考パターンに歪みがある

発達障害の方は、認知に偏りが生じる場合が多く、そのため思考パターンに陥りやすい傾向があります。

不安を引き起こしやすい思考パターンの歪みとしては、下記のようなものがあります。

  • フィルタリング:悪い点ばかりに注目・誇張し、良い点を忘れる/見落とす。
  • 壊滅化:最悪の事態、うまくいかない事態を想定し、周囲にもそう信じこませる。
  • 責任転嫁:感じている痛みや不幸を周囲や他人のせいにする。

4. 失敗や嫌なことについて繰り返し考えてしまう

発達障害の方は、失敗や嫌なことについて繰り返し考えてしまう「反すう思考」、いわゆる「ぐるぐる思考」に陥りやすい面があります。

例えば「どうしてミスする前に上司に相談しなかったのだろう」「挨拶したときに○○さんが嫌な顔をしたような気がする」といった失敗や嫌なことを考えることがやめられなくなるなどです。

このようにネガティブな面ばかり考えていると、不安が生じる場合があります。また、不安ではなく抑うつ的な気分が続いてしまう場合もあるでしょう。ネガティブな考え方は誰でも持っていますが、発達障害の方は、先述した強迫的な思い込みや思考パターンの歪みによって、反すう思考に陥りやすい面があります。

5. ストレスを溜めやすい

発達障害の方は、脳の特性によってストレスが溜まりやすい傾向があります。例えば、発達障害の方の中には、蛍光灯の光が非常にまぶしく感じたり、ささいな音がうるさく感じられたりする「感覚過敏」の症状のある方もいらっしゃるでしょう。

また、靴の紐をきちんと結ばないと落ち着かない、電車が時間ぴったりに来ないと我慢できないといった強いこだわりを持つ方もいます。読み・書きが苦手なLD(学習障害*²)の方であれば、仕事の資料を読んだり、報告書を書いたりするだけで疲れてしまうかもしれません。

つまり、発達障害の方は、一般的な人と同じ生活を送っていても、ストレスを溜め込みやすい傾向があるのです。その結果、自分の心を守るために、先に述べた危機回避反応としての不安が生じます。

6.周囲に過剰適応しようとしてしまう

ASD傾向のある方はグレーゾーンの方も含め、周囲に適用しようとして、過剰に気配りする傾向にあります。しかし、気配りはしていても正確に相手の意図が読めていないケースも少なくありません。

意図がうまく読み取れない場合でも、機嫌や顔色を伺って意図が読めているようにあわせたりするといった対応法になりがちです。正確に意図が読めていない分、不安が強くなり過剰な気配りにつながってしまう場合があります。

不安の原因を把握することで対策を立てやすい

不安の原因を把握できれば、対策も立てやすくなります。そこで、原因の把握から対策を立てるまでの方法について解説します。どれも特別なスキルやツールは必要なく、自分一人で手軽にできる方法ですので、試してみてください。

自分の不安を書き出す

まずはどんな場面で不安を感じるか、何が不安を引き起こすのかじっくり考えてみましょう。可能であればペンと紙、あるいはメモをとるためのPCやスマホなどを用意してください。

  • 上司、部下、同僚、取引先が新しい人になる
  • 同僚から昼食/飲み会に誘われる
  • 社食で誰かと相席になる
  • 電車が遅れて遅刻しそうになる
  • 取引先へ訪問途中に道に迷う
  • 会社の電話や空調など環境音
  • 給湯室での同僚の噂話
  • 上司からの不明確な指示
  • 外部からの電話に出る
  • 出勤初日にトイレの場所を探す
  • 同期が出世する
  • 採用面接を受ける

あなたに強く当てはまる項目はありましたか?これらはほんの一例です。引き起こされた不安が仕事のパフォーマンスに影響を与えていないかどうかについても考えてみましょう。

変化への対処方法を書き出す

  • 職場で不安を起こす要因となり得る変化について書き出してみましょう。 
  • その要因に対し、どのような対処策があるか考え、書き出してみましょう。

不安への備えを書き出す

  • あなたの抱える不安について身近ですぐに相談できそうな人を4人挙げてみましょう。
  • 今最も不安を感じる事柄を頭に描き、それに対する戦略を、上に挙げたテクニックにあなたのオリジナルも加え、3つ以上挙げて下さい。
  • あなたが幸せを感じたりリラックスできる状況を3つ以上挙げて下さい。
  • 職場でのリラックス手段を3つ以上挙げて下さい。

不安を鎮めるためのおすすめの対処法

不安の種類も様々ですが、対処方法も多様です。不安の緩和に有効な対処テクニックを挙げてみます。一つ一つ試してみてください。きっとあなたの不安にフィットした対策が見つかるでしょう。

認知行動療法的なアプローチ

認知行動療法とは、物事の捉え方(認知)と行動に働きかけて、現実的でバランスの良い気持ちになるための精神療法(心理療法)の一種です。例えば以下のようなアプローチがあります。

  •  否定的考え方を断ち切る 無理にでもいいのでポジティブな側面を挙げてみましょう。 
  • 全体像を見る 細部や気になる部分にばかり固執せず、大きな視点、異なる視点から物事を眺めてみましょう。

しかし、医師やカウンセラーなどに相談せずに、自分で認知行動療法をするのが難しい方もいるのではないでしょうか。そのような方に向くのが「コラム法(認知再構成法)」という手法です。

コラム法では、コラム表というシートを使って、不安を感じた出来事やそのときの感情などを分析し、行動の改善につなげていきます。以下は5コラム法におけるコラム表とその記入例です(ほかに3コラム法、7コラム法などがあります)。

コラム記入例
落ち込みや不安を感じた出来事職場で同僚のひそひそ声が聞こえたとき
出来事が起こったときに湧き上がった感情自分の悪口を言っているのではないかと不安になった
感情の点数(どのくらい強く感情を感じたか)0~100%70%
別の捉え方や考え仕事の話をしているだけかもしれない
別の考えを見つけたことによる感情の変化思い込みで不安になるのはバカらしいと思った

コラムを埋めていけば、自分を客観的に理解できるようになります。

ヨガや呼吸法でのアプローチ

ヨガや呼吸法は、体をリラックスさせて心の不安を取り除くアプローチです。心をコントロールするのが難しいときには、まず体をリラックスさせて、不安を鎮めるのが効果的です。

具体的には、以下のような方法があります。

  • 呼吸法を学ぶ 正しい呼吸はリラックスにつながります。呼気のときにゆっくり秒数を数えましょう。また鼻から息を吸い、口から出し、横隔膜をしっかり上げ下げする腹式呼吸を心がけます。何はともあれ不安になったら深く深呼吸して下さい。
  • 筋肉のゆるめ方を学ぶ 全身の筋肉の緊張をほぐすこともリラックスにつながります。会社の中で誰にも見られず邪魔されない静かな場所を見つけておき、できるだけ定期的に行うのが秘訣です。「筋弛緩法」では、「一度力を入れて筋肉を緊張させる」→「筋肉をゆるめる」というステップで、体をほぐします。例えば椅子に座っているときは、「おへそを前に出して反り返り、腰から背中の筋肉を緊張させる」→「力を抜いて休む」とすると、腰をリラックスさせられます。

日々の生活でのアプローチ

日常生活を改善することでも不安を和らげられます。効果的な方法を4つ紹介します。

  • リラクゼーション 音楽を聴く、外出をする、お茶を飲む…手軽なリラックス方法を見つけておきましょう。
  • 休憩時間を取る 発達障害者は一般的に疲れやすいため、職場では定期的に休憩を取るよう心掛けましょう。また、強い不安を感じたら一旦今携わっている仕事を止めて、他のルーティンワークをしてみるのもお勧めです。
  • 体を動かす 適度な運動は不安やストレスの解消に効果的です。30分程度のウォーキングや寝る前のストレッチなど、無理のない範囲で取り組むとよいでしょう。運動をするとストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌が抑えられることが知られています。また、幸せホルモンと呼ばれる「エンドルフィン」が分泌され、不安が和らぐことも期待できます。
  • カフェインやアルコールを取りすぎない カフェインやアルコールは心拍数の増加、興奮、不眠症など不安を引き起こす要因になり得る物質です。カフェインの1日の摂取量は健康な成人で400mg(コーヒーをマグカップで約3杯)までに抑えたほうが良いとされています。また不安解消のためにアルコールを飲むと、過度な飲酒になりやすいため注意が必要です。飲酒量や飲酒頻度が増加すると、かえって不安が大きくなってしまう可能性があるので、適量を心掛けましょう。

周囲に協力を得るアプローチ

  • サポートを得る:自力で緩和が難しい場合は、カウンセラーや産業医、かかりつけの医師や就労定着支援のスタッフなど、外部の専門家に相談してみましょう。

~最良の戦略は、まず身近な人に不安を告げること~

 あらゆる種類の不安に対してなによりもまず最初に行うべき対策は、身近で適当な人――家族や恋人、友人かも知れませんし、上司や同僚、あるいは産業医やかかりつけ医、就労定着支援のスタッフかも知れません――を探して、できるだけ早く抱いている不安について話をすることです。

 不安を語ることで半分の不安が解消するという人もいます。不安について話をすれば、その原因を取り除いてくれる場合もありますし、対処や緩和の仕方についての的確なアドバイスを貰えることもあるでしょう。少なくとも話を聞いてもらうだけで不安を客観視することができ、心の荷が下りて不安が和らぎます。

不安の原因を把握し対処法を用意しておこう

発達障害の方は、変化に対応するのが苦手であったり、強いこだわりがあったりするなどが原因で、不安を生じやすい特性を持っています。不安と上手に付き合っていくには、その原因を把握し、対処法を用意しておくのが効果的です。今回紹介したようなセルフチェックや対応策もあるので、自分に合った方法を見つけていくと良いでしょう。

ただし、不安が強いときは発達障害を診療できる医師に相談することをおすすめします。また、専門的な自立訓練(生活訓練)やリハビリテーションを受けたいときは、知見を持ったスタッフが在籍する支援機関を利用できます。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます

監修者コメント

「不安」は厄介な症状であると同時に、大切な機能も持っています。もし不安を抱くことが無ければ実は私達の生活は成り立ちません。例えば災害対策や病気の予防は、予測しがたい未来への対応として非常に大事ですよね。個人でいえば、成長のためにはある種の不安があるからこそ未来に向けての自分への投資がされるわけです。しかし、大事な「不安」も過剰になってしまうと病気の症状として考えないといけなくなります。厄介なことに、自分の抱く不安が過剰なのか適切なのかは自分では区別がつかないことも多いですね。ただ苦しいのは確かですので、苦しさを伴う不安にしょっちゅう襲われたり、他の人が不安に思っていないようなことに不安を抱くことに気づくようであれば、是非早めに専門家に一度相談してみてください。医療的には認知行動療法がとてもよく効果を発揮しますし、時には薬物療法も必要です。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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