自律訓練法とは?やり方や効果、実践する上での注意点を解説

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自律訓練法とは、自己暗示によって心身をリラックスさせることで、気持ちの安定や健康の増進を図る訓練法です。やり方を覚えれば日常的なリラックス方法として活用できますが、副作用の可能性など注意点もあります。

本記事では、自律訓練法のやり方や期待できる効果、副作用などの注意点について解説します。

自律訓練法とは

自律訓練法とは、姿勢と言葉を用いた自己暗示により、緊張やストレスの解消、気持ちの安定を促す訓練法です。1932年にドイツの神経科医J・H・シュルツによって体系化された技法で、実践により疲労回復やストレス解消、体調の安定など、さまざまな効果が実証されています。

もともとは、強迫性障害や過敏性腸症候群といった疾患の治療を目的として考案されました。現在では、医療機関での治療方法以外にも、一般的なセルフケアやスポーツ選手のパフォーマンス向上、企業の生産性向上など幅広い分野で導入されています。

自律訓練法の公式とやり方

自律訓練法の基本的なやり方は、決まった言葉を心の中で唱えながら自己暗示をかけていきます。この言葉は「(言語)公式」と言い、基礎である背景公式と6つの公式の合計7つの公式を順番通りに行うことで、段階的にリラックスが深まるように構成されています。最後に、消去動作で元の状態に戻って終了するという流れです。

ここからは、自律訓練法の各公式の内容とやり方について解説します。なお、第2公式までは自身で行っても問題ありません。ただし、体質や体調によっては副作用が出る可能性があるため、第3公式から第6公式は専門家の指導のもとで行うことが推奨されています。

自律訓練法専門の指導者や指導医は、日本自律訓練学会のサイトで紹介されていますのでご興味のある方はご参考ください。

背景公式

背景公式では、リラックスの前提である「気持ちが落ち着いている」という心の状態を作ります。リラックスした姿勢を取ってから何度か深呼吸を行い、息を吐きながら肩の力を抜いていきます。

体の変化に伴い、自然と気持ちが緩んでいくことを感じられたら、「気持ちが落ち着いている」という言葉を心の中で繰り返します。「今すでに自然と落ち着いている感じを受け入れる」という受容的態度で取り組むことが、自律訓練法を行う上で重要なポイントです。

第1公式

気持ちが落ち着いたら、第1公式に取り組みます。第1公式は、「手足の筋肉が緩んで重たい感覚」を感じ取る練習です。

まず、右手(利き手)に意識を向けて、心の中で「右手が重たい」と繰り返し唱えながら手の重さをただ感じます。続いて、「左手」「右足」「左足」と順番に行います。

肩や腕の余分な緊張が抜けて、体の微妙な感覚を意識できるまでリラックスできると、自然と右手の重さを感じられるようになります。最初のうちは何も感じられないかもしれませんが、焦ることなく、ただ重さを感じられるまで続けてみましょう。

第2公式

第2公式は、両手・両足の温かさを感じる練習です。第1公式と同様に、まずは右手(利き手)に意識を向け、「右手が温かい」と心の中で唱えながら温かさを感じます。続いて、左手、右足、左足と順番に行います。

人間の体は、リラックスすると血行が促進され、血流が増えた箇所の温度は上がります。公式の言葉をゆっくりと心の中で繰り返しながら、両手両足の自然な温かさを感じ取りましょう。

第1公式と第2公式を自分でできるようになったら、第3公式に進みます。

第3公式〜第6公式

第3公式〜第6公式は、前述の2つに比べてやや難しく感じられる場合があります。また、持病や体質、体調などによっては副作用が出る可能性もあるため、医師や専門家などの指導のもとで行うように推奨されています。各公式のおおまかなやり方は、以下の通りです。

  • 第3公式:心臓の鼓動を感じながら、「心臓が静かに打っている」と心の中でゆっくり繰り返す
  • 第4公式:呼吸に意識を向け、「楽に呼吸している」と心の中でゆっくりと繰り返し、腹式呼吸を行う
  • 第5公式:お腹や胃のあたりに意識を向け、「お腹が温かい」と心の中で繰り返しながら、温かさを感じる
  • 第6公式:額に意識を向け、「額が心地よく涼しい」と心の中で繰り返す

消去動作

第6公式まで行ったら、自律訓練法を終える前に必ず消去動作を行いましょう。自律訓練法では、自己暗示により心身をリラックスさせ、眠りに近い状態に導くことが可能です。ただ、消去運動をせずに日常動作に戻ろうとすると、だるさや不快感などが残る場合があります。

そのため、心身を適度に目覚めさせ、日常生活に適した緊張状態を取り戻すために消去運動が重要です。具体的には、以下のような動作をそれぞれ何度か繰り返し行います。

  • 手足を強く握ったり、開いたりする
  • 両手をグーにしたまま両腕を上に上げたり、曲げたりする
  • 両手を組んで伸びをする
  • 首や肩を回す
  • 手足をぶらぶらさせる

なお、寝る前に自律訓練法を行う場合は、消去動作は不要とされています。

自律訓練法の目的や期待できる効果

自律訓練法では、自己暗示によって適度に心身が緩んだリラックス状態を作り出し、本来の健康的な状態を自力で整えることを目的としています。自律訓練法による効果は個人差がありますが、主に以下のようなものが期待できます。

  • 緊張や不安の解消
  • イライラの軽減と気持ちの落ち着き
  • 疲労の回復
  • 自己統制力の増加と衝動性の減少
  • 集中力の向上
  • 身体的な痛みや精神的苦痛の緩和
  • 内省力や自己向上性の増加

自律訓練はどれくらいの頻度で行うべき?

自律訓練法は、基本的には1日10分程度の継続が理想的だと言われています。1回でまとめて10分行うよりも、朝昼夜など2〜3回に分け、1回3〜4分ずつ取り組むとより効果的です。

自律訓練法は1回数分で終えられる上、道具も不要なため、やり方をマスターすればちょっとした空き時間にも実践できます。仕事の昼休憩、夜寝る前など短い空き時間に練習を組み込むと続けやすいでしょう。

自律訓練法を実践する上での注意点

ここでは、自律訓練法を行う上での注意点について解説します。自己判断で自律訓練法を行うリスクについて把握しておきましょう。

副作用が生じる場合がある

自律訓練法を実践して、心身の余分な緊張が取れてきた後、さまざまな変化が起こることが考えられます。血行の促進や筋肉の緩み、内臓の活発化などにより、人によっては不快感や体調不良を引き起こす可能性があります。

起こりうる副作用としては、不眠や食欲不振、便秘または下痢などです。副作用の症状や程度には個人差があり、全員に起こるとは限りませんが、可能性があることを念頭において取り組むことが大切です。

通院している場合は医師に事前に相談する

持病がある人は、自律訓練法の実践により副作用が出るだけでなく、状態が悪化してしまう可能性もあるため、事前に医師に相談することをおすすめします。例としては、以下のようなケースです。

  • 心筋梗塞など心臓に異常のある人
  • 頭痛の持病がある人
  • 糖尿病のある人
  • 低血糖状態にある人
  • 退行期精神病反応や妄想を示す精神疾患のある人

医療機関にかかっていなくても、念のために上記に該当する持病がないことを確認してから自律訓練法に取り組む方が安全でしょう。

自律訓練法を実践してみたい場合は専門家に相談してみよう

自律訓練法は、自己暗示を利用して心身の余分な緊張を解き、リラックスや体調・気持ちの安定を促すための訓練法です。公式と呼ばれる一連の流れに沿って、決まった言葉を心の中で唱えながら、体と心を段階的に緩めていきます。

ストレスや不安の解消だけでなく、疲労回復や衝動性の軽減、傷みの緩和といったさまざまな効果が期待できます。やり方を覚えてしまえば、いつでもどこでも取り組める手軽さがメリットですが、血流が良くなることで副作用が発生する可能性もあるため注意が必要です。

また、持病があり、医療機関にかかっている人は、実践前にかかりつけの医師に相談しておくと安心です。第3公式以降は自分だけで行うことが難しい場合もあるため、より安全かつ効果的に取り組むためにも専門の指導者や指導医に相談しながら取り組みましょう。

監修者コメント

心身の調和を図り、安心した気持ちになるための技法として自律訓練法は従来より紹介されることの多い技法です。私自身は専門家とは言えないのですが、本稿にある通り、第2公式までは自力でもやってみて良いとされていますから、緊張感の高い生活をしている方は試してみてはいかがでしょうか。私も外来で、薬によらない不安軽減、リラクセーションを求める方には積極的に紹介しています。自律訓練法により身体には以下のような変化が生じます。副交感神経が優位となり、末梢血管が拡張、血流が増加し、呼吸数や心拍数が低下するのです。それによりリラクセーションが得られ、心身の緊張した状態を脱します。緊張がほぐれ、身体がリラックスした状態というのは、必ずしも精神疾患だけでなく、身体の疾患にも良い状態をもたらします。とはいえ、急にはできませんので、やってみようという方は、調子の良い時に体験してみることをお勧めします。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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