体調や気分が優れない日が続き、仕事がつらいと感じている方は、自律神経の乱れによる自律神経失調症を発症しているかもしれません。自律神経失調症は、仕事のストレスや生活習慣の乱れが関係するといわれているため、無理をして仕事を続けると症状の改善に時間がかかる可能性があります。
本記事では、自律神経失調症で仕事に支障が出ている場合の対処法や休職、退職の流れについて解説します。転職や再就職に利用できる支援機関も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
自律神経失調症とは
自律神経失調症とは、「自律神経」が乱れることにより全身の器官のバランスが崩れ、心身に不快な症状があらわれている状態です。自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、この2つの働きが乱れると頭痛や動悸、全身の倦怠感などさまざまな不快症状を引き起こします。不快症状はその人の弱い部分にあらわれやすく、複数の症状が重なって起きたり、時間の経過に応じて症状が変化したりすることもあります。
自律神経の乱れは、主にストレスや生活習慣の乱れが影響するといわれています。自律神経失調症は正式な病名ではなく明確な診断基準もないため、不快症状で診察を受けても特定の疾患が認められない場合も多いようです。
自律神経失調症の種類
自律神経失調症は主に次の4つの種類に分けられます。
- 心身症型:日常的なストレスが原因とされ、自律神経失調症の中で最も多く見られます。不眠、頭痛など心身の両方に症状が出るのが特徴です。
- 神経症型:心因性のストレスが原因とされ、神経過敏の方や体調の変化に敏感な方に多く見られます。
- 抑うつ型:慢性的なストレスが原因とされ、完璧主義の方や几帳面な方に多く見られます。うつ反応を伴う症状があらわれます。
- 本態性型:体質的に自律神経が乱れやすいことが原因とされ、体が弱い方や低血圧の方に多く見られます。
自律神経失調症の主な症状
自律神経失調症には身体的症状と精神的症状があり、人によってどのような症状が見られるかは異なります。主な症状は以下の通りです。
- 身体的症状:頭痛、動悸、めまい、下痢、便秘、耳鳴り、疲れやすい、喉の不快感、吐き気、生理不順、冷え、のぼせ、関節の痛み、全身倦怠感、肩こり、頻尿、残尿感、発汗、不眠
- 精神的症状:やる気の低下、よく落ち込む、不安、焦り、イライラ、集中力の低下、忘れっぽい
症状が落ち着いても、再び症状が出たり症状が変化したりを繰り返す傾向があります。なお、自律神経失調症の症状はストレスや生活習慣の乱れが主な原因とされるため、ストレス解消や休息、規則正しい生活をすることで軽減する場合も多いです。
自律神経失調症による仕事への影響
自律神経失調症の方は、症状により仕事へ影響が出ることも少なくありません。例えば、不眠が続いて仕事中に眠くなったり、疲れが溜まりやすいために集中力が低下し、仕事の生産性が下がったりすることなどが挙げられます。他にも、感情のコントロールが難しく、小さなことでイライラしやすくなっている場合は、職場の人間関係の悪化につながる可能性も考えられるでしょう。
自律神経失調症に何の対処もしないまま仕事を続けていると、心身の不調が続きうつ病などの精神疾患を発症する恐れもあるため注意が必要です。
自律神経失調症の方が仕事を続けるポイント
自律神経失調症は、症状に合った適切な治療や生活習慣を改善し自律神経の乱れを整えることで改善されるケースもあります。まずは自律神経を整えることを意識し、症状の改善を目指しましょう。また、仕事を続けるうえで職場に合理的配慮を申し出て、自律神経失調症でも無理なく働ける環境作りを相談することも大切です。
以下で、自律神経失調症の方が仕事を続けるポイントを3つ詳しく解説します。
適切な治療を受ける
自律神経失調症は、早めに適切な治療を受けることで症状が軽減されるケースが多いといわれています。
まずは身体的症状が身体疾患によるものなのか、自律神経失調症によるものなのかを見極めることが大切です。自律神経失調症だと思っていても、実は身体疾患による不調だった場合は治療方法が異なるため、症状に合った科を受診しましょう。
不調の原因が自律神経失調症と考えられる場合には、心療内科や精神科を受診して症状に合わせた治療を行います。自律神経失調症の治療では、症状を和らげるための薬物療法や心理療法を行うのが一般的です。
また、ストレスの原因が発達障害*による生きづらさによるものである場合、自律神経失調症や精神疾患などを後天的に発症する二次障害が起こる場合があります。大人の発達障害や二次障害については、以下の記事で詳しく紹介しているので併せてご覧ください。
大人の発達障害(神経発達症)とは?種類と症状、診断方法や相談先を解説
生活習慣・リズムを改善する
自律神経を整えるためには、生活習慣や生活リズムを改善することも大切です。睡眠不足や運動不足の場合は、十分な睡眠をとったり、散歩やストレッチなど軽い運動を取り入れたりしてみましょう。
ゆっくり入浴してリラックスする、朝はしっかりと朝日を浴びる、食事のバランスを整えるなど、日々の生活が規則正しくなると自律神経のバランスも整い、症状が改善へ向かうことも多々あります。生活習慣が乱れ気味な方は、改善できるところから意識して取り入れてみると良いでしょう。
職場に合理的配慮などを相談する
職場に相談や合理的配慮を求めるなどして、仕事の負担を減らしてもらうのも1つの方法です。
- 勤務時間を調整する
- 在宅勤務を取り入れる
- 体調に応じて休憩を取る
- 仕事量を調整する
- 残業を減らす
上記のような合理的配慮を受け仕事の負担が減れば、ストレスが軽減され症状が改善し、仕事を続けやすくなる可能性もあります。自律神経失調症の症状が辛いまま今まで通りの仕事を続ければ、症状の改善は難しく不安定な状態が続くため、仕事の質やモチベーションに影響する可能性もあるでしょう。症状が悪化すれば、うつ病などの精神疾患を発症し治療に時間がかかったり、仕事を続けることが困難になったりする場合もあります。
周りの理解を得て無理なく仕事を続けるためにも、自身の症状を上司もしくは産業医などに相談してみましょう。
自律神経失調症で仕事が続けられなくなったら
自律神経失調症で仕事が続けられない状態の場合、無理をするのは禁物です。まずはしっかりと休養し、症状を和らげることを優先しましょう。休養には休職制度を利用する他、状況によって退職や転職という選択もあります。
ここでは、仕事が続けられなくなった場合にどうすべきか、3つの選択肢を紹介します。
休職制度を確認する
自律神経失調症で仕事を続けるのが困難な状態でも、症状が落ち着いたら再度同じ職場に戻りたいと考えているなら、会社の休職制度の有無や内容の詳細を確認しましょう。
休職可能期間や条件など、休職制度の規定は会社ごとに異なり、休職制度を利用する際に診断書の提出が必要になる場合もあります。事前に診断書を取得していれば話がしやすいため、休職制度の利用を検討する際は早めに病院を受診しておくと良いでしょう。
休職が可能な場合は、診断書を用意したうえで職場と相談して決定します。
十分な休養をとる
自律神経失調症を改善するには、ストレスになる環境から離れ、ゆっくり心身を休めることが先決です。仕事で強いストレスやプレッシャーを感じていたり、業務量が多かったりすることで自律神経の乱れが生じているのなら、仕事から離れてしっかり休養を取ることを優先しましょう。
休んでも体調が良くならない場合は、退職も視野に入れて検討します。ただし、退職は一人で判断せず、医師や家族、上司などとよく相談し、就業規則に則って進めることが大切です。
転職を検討する
現在の職場環境や人間関係、仕事内容にストレスがあり、働きにくいと感じている場合は転職を検討しましょう。無理をして今の仕事を続けようとすると、症状の再発や悪化を招く恐れもあります。すぐに転職せずとも、一度休養して治療をした後に再就職する方法もあるため、無理のない選択をしましょう。
自律神経失調症の方が転職や再就職をする際は、自分にとって働きやすい環境や制度があるかどうかをよく調べ、慎重に決定することが大切です。自分一人では就職活動が難しい場合は、転職や再就職の支援機関を利用しましょう。支援機関の詳細は後述します。
自律神経失調症の方が職場復帰する際に利用できる支援制度
休職後にいきなり職場へ戻り、通常通りに勤務するのは不安に感じる方も多いでしょう。自律神経失調症の方が休職期間を経て職場復帰をする際には、主にリワークプログラムやリハビリ(試し)出勤など、不安を和らげスムーズに職場復帰するための支援制度が利用できます。
ここでは2つの支援制度の内容をみていきましょう。
リワークプログラム
リワークプログラムでは、うつ病や気分障害などの精神疾患が原因で休職している方を対象に、職場復帰に向けたトレーニングやリハビリテーションを行います。実施しているのは医療機関や就労移行支援事業所、障害者職業センターの他、職場内でリワークを行っている企業もあります。
リワークプログラムの主な内容は、認知行動療法やソーシャルスキルトレーニング、グループワーク、キャリアデザイン、オフィスワークなどです。主治医から職場復帰の許可を得た後に利用するのが一般的なため、医師と相談しながら自分に合うリワークプログラムを検討しましょう。
リハビリ(試し)出勤
リハビリ(試し)出勤制度は、休職者がスムーズに職場復帰できるよう企業が設けた支援制度です。主に、模擬出勤、通勤訓練、試し出勤の3つがあり、正式に復帰が可能かどうかを確認したり、少しずつ職場に戻ることに慣れていったりすることができます。
なお、リハビリ出勤を休職中に行う場合は、業務を行わない限り企業に賃金の支払い義務は生じません。実施する場合は、会社と本人だけで進めるのではなく、主治医や産業医と連携して休職者の体調を把握し、負担なく進めていく必要があります。
自律神経失調症の方が転職や再就職に利用できる支援機関
自律神経失調症の方が十分な治療や休養を経て再び働ける状態になった場合に、転職や再就職に利用できる支援機関には、以下のようなものがあります。
- 就労移行支援事業所
- 自立訓練(生活訓練)
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 地域障害者職業センター
各支援機関の特徴や支援の内容をみていきましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障害のある方を対象に、一般企業への就労に向け総合的な支援を行う支援機関です。職業訓練やスキルアップカリキュラムなどを受けながら、自身に適した職業や必要なスキルを習得し、就労に向け準備を進めます。
利用には障害福祉サービス受給者証が必要なため、医師の診断書を地域の行政に提出して取得しておきましょう。利用料は前年の収入によって変動しますが、多くの場合が自己負担額0円で利用できます。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害者総合支援法に基づき行われる福祉サービスです。障害のある方が日常生活や社会参加において自立した生活ができるよう支援を行います。身の回りの生活をはじめ、金銭の管理や周囲とのコミュニケーション、行政の利用方法など、自立して生活していくために必要な訓練をプログラムを通して習得していきます。
自立訓練(生活訓練)は、就労に向けてまずは生活に必要な知識や方法を学び、将来の働き方を考えながら準備していきたい方におすすめです。
ハローワーク
ハローワークは全国に設置されており、職業紹介や相談、職業訓練など、雇用に関するさまざまなサービスを提供しています。厚生労働省が運営しており、誰もが無料で利用可能です。障害者専用窓口も設置されており、障害のある方なら障害者手帳がなくても利用できます。
ハローワークだけでなく、地域の障害者就業・生活センターや地域障害者職業センターなどの支援機関とも連携しているため、求人の紹介から就職、職場定着まで一貫した支援が受けられるのが特徴です。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の社会生活や日常生活が安定して送れるよう、就業・生活の両面から一体的な支援を行う機関です。厚生労働省管轄の基、ハローワーク、保健所、医療機関、福祉事務所、職場、地域障害者職業センターなど、さまざまな機関と連携して支援を行います。職業に関する相談や障害の特性を踏まえた事業所への助言、日常・地域生活に関するアドバイスなどを行っており、窓口での相談や職場・家庭への訪問も実施しています。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターはハローワークと連携し、障害者に対し専門的な職業リハビリテーションを行う施設です。障害があると認められる18歳以上の方が対象となります。障害者手帳がなくても利用できますが、医師の診断書が必要です。
職業評価やリワーク支援などを通してサポートし、個々に合った職業リハビリテーションや職場復帰に向けた支援を行います。
Kaienの支援サービス
Kaienでは、障害のある方の一般就労や就労に向けた準備、自立した生活をサポートするため、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などの支援サービスを実施しています。
就労移行支援では、100職種以上の職業訓練や、スキルアップ講座など50講座以上が実施され、障害に理解のある200社以上の企業と連携し独自求人の紹介も可能です。自立訓練(生活訓練)では日常生活の自立をはじめ、障害理解や将来の再設計などに必要な能力・知識を実践プログラムを通じて習得します。
転職や再就職に向けた支援を受けながら自身に適した職場を探したい、まずは障害の特性を理解し生活基盤を整えたいなどとお考えの方は、ぜひKaienへお気軽にご相談ください。
自分に合う職場で無理なく仕事との両立を
職場環境のストレスなどにより自律神経失調症を発症している方は、一度仕事から離れて休養をとり、適切な治療を受けて症状を改善しましょう。生活習慣を整え、ストレスが軽減されても症状が良くならない場合は、退職や転職も視野に入れた検討が必要です。
自律神経失調症の方が転職や再就職を考える際は、就労移行支援事業所などの支援機関の利用がおすすめです。まずは自分の生活リズムを整え、ゆっくり就労を考えていきたい方には自立訓練(生活訓練)という選択肢もあります。一人で無理をせず支援機関を活用し、自分に合う働き方や職場を見つけて仕事との両立を目指しましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。