不安障害(不安症)の方に向いている仕事とは?働き方と職場選びのポイントを解説

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さまざまな場面で強い心配や不安を感じる不安障害(不安症)は、仕事にも影響をおよぼしやすい精神疾患です。不安障害があり働きにくさを感じている方や、自分に合った職場がなかなか見つからない方は、悩みを克服するためのポイントを知ることが大切です。

この記事では、不安障害の種類や不安障害の方に向いている仕事などについて解説します。不安障害の方が働きやすくなるための工夫や、利用できる支援機関なども紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

不安障害(不安症)とは

不安障害(不安症)とは、日常生活に支障をきたすほど心配や不安な気持ちが高まる状態のことです。

緊張や不安は誰でも感じるものですが、不安障害では人前で話せなくなるなどの症状が見られ、通常の生活を送ることが困難になります。強い不安によって精神状態が悪化するだけでなく、動悸や震えといった身体的症状にも発展するのです。

不安障害は、不安を感じやすいシチュエーションや症状によって、社交不安障害(社交不安症)やパニック障害(パニック症)、強迫性障害(強迫症)などの種類に分けられます。

不安障害(不安症)は仕事に影響する?

不安障害では、不安や恐怖などによってさまざまな症状が引き起こされます。不安障害の種類や程度にもよりますが、仕事に影響する症状として以下のようなものが挙げられます。

  • 電車に乗れなくなる
  • 人前で話せなくなる
  • 何度も確認してしまい、業務の進捗が滞る
  • 気持ちが不安定になって集中できない
  • ストレスがたまりやすい
  • 常に緊張状態で疲れやすい

特定の状況で強い不安を感じる場合、電車に乗れなくなる、通勤できなくなるといった弊害が生じます。他人と交流する場面で強い不安を感じる場合は、人前で話せなくなったり、常に緊張して疲れやすかったりすることもあるでしょう。

些細なことが気になって何度も確認してしまい、業務がスムーズに進まないケースもあります。不安障害では、障害の特性や環境によって仕事上の困りごとも大きく変わってくるのが特徴です。

不安障害(不安症)の種類と主な症状

不安障害(不安症)には主に以下の種類があります。

  • 社交不安障害(社交不安症)
  • パニック障害(パニック症)
  • 強迫性障害(強迫症)
  • 全般性不安障害(全般不安症/GAD)

不安を感じやすく、仕事に支障が生じているなどの悩みを抱えている方は、自分がどの種類に当てはまるのかを確かめてみるとよいでしょう。

ここからは、4つの不安障害の概要と主な症状について解説します。

社交不安障害(社交不安症)

社交不安障害(社交不安症)とは、人前に出たり、人と関わったりする場面で強い不安を感じる精神疾患です。かつては「対人恐怖症」とも呼ばれ、性格の問題として片付けられてしまうことも少なくありませんでした。

社交不安障害の症状としては、人前で話すときに過度に緊張する、人と会うことを極力避けたがるといった例が挙げられます。

恥をかくことを恐れる傾向もあり、話すときに顔が赤くなりやすいことも社交不安障害の特徴の一つです。また、人前に出ることに強いストレスを感じ、引きこもりがちになるケースもあります。

パニック障害(パニック症)

パニック障害(パニック症)は、めまいや動悸、呼吸困難などの発作が突然起こる不安障害の一つです。この発作は「パニック発作」と呼ばれ、発生から10分以内にピークを迎え、20分以内に治まることが多いといわれています。

なんの前触れもなく繰り返し起こるパニック発作によって、パニック障害の方は日常生活や仕事に著しく支障をきたします。また、発作そのものではなく、「発作が起こるかもしれない」という予期不安もパニック発作の特徴的な症状です。

また、以前に発作を起こした場所を恐れるようになる「広場恐怖」という症状もあり、通勤が難しくなるケースも珍しくありません。

強迫性障害(強迫症)

強迫性障害(強迫症)とは、強い不安などによって強迫症状が引き起こされる精神疾患です。強迫性障害の強迫症状には、「強迫観念」と「強迫行為」の2種類があります。

強迫観念は、「ガスの元栓を締めただろうか」「手が汚れているのではないか」など、特定の対象物に執着して生じる不安のことです。ただし、誰かに危害を加えたかもしれないと強い不安を感じる加害恐怖のように、対象物が存在しないケースもあります。

一方、強迫行為は、この強迫観念を打ち消すために執拗に繰り返される行動のことです。手が汚れているような気がして何度も入念に洗うといった行動が強迫行為に該当します。

全般性不安障害(全般不安症/GAD)

全般性不安障害(全般不安症/GAD)とは、あらゆる出来事に関して強い不安や心配を抱く病気です。

全般性不安障害の方は、ある心配な事柄について一人で想像を膨らませ、危機感を募らせ、大きな不安を抱える傾向にあります。その結果として、十分な睡眠がとれない、ほかの精神疾患に発展するといった弊害が起こるケースも少なくありません。

全般性不安障害は慢性的に不安を感じている状態であり、ほかの不安障害のような明確な特徴がありません。そのため、全般性不安障害と単独で診断するのは難しく、その他の精神疾患と併せて診断されるケースが多いです。

不安障害(不安症)の方に向いている仕事

不安障害は人それぞれ症状が違うため、「この仕事が向いている」と一概に紹介することはできません。自分の不安や症状と向き合い、負担を少しでも軽くできる仕事を選ぶことが大切です。

ここからは、不安障害の方が取り組みやすい仕事の例を紹介します。この情報を参考にして、大きな不安を感じずに働ける職場探しを始めてみるとよいでしょう。

業務内容や業務量が一定の仕事

不安障害の方は、業務内容や業務量が一定に保たれている仕事がおすすめです。

業務内容が日によって異なると、「今日は苦手な仕事を任されるのではないか」などと余計に不安な気持ちを抱きやすくなります。また、残業が多い、業務が減って暇になるなど、業務量がイレギュラーな仕事も不安定な精神状態の原因となります。

業務内容や業務量に大きな変化がなければ職場での予定を立てやすく、安定して仕事に取り組めます。事務作業やライン作業など、定型業務で残業も少ない仕事を検討してみるとよいでしょう。

自分のペースで進められる仕事

自分のペースで進められる仕事も、不安障害の方におすすめできる選択肢の一つです。

仕事中に上司の指示などを受ける場合、柔軟な働き方が求められることに不安やプレッシャーを感じやすくなるかもしれません。また、同僚とコミュニケーションを取りながら行う仕事では、対人関係の悩みが不安につながる可能性もあります。

人との関わりを苦手とする方は、自分一人で黙々と進められる仕事を選ぶとよいでしょう。具体的な仕事の例としては、工場の軽作業やエンジニア、清掃員などが挙げられます。

在宅勤務やリモートワークができる仕事

周囲に人がいると気分が落ち着かない、静かな環境で働きたいという方は、在宅勤務やリモートワークができる仕事がおすすめです。

パニック障害などで外に出るのが難しい場合、在宅勤務なら通勤せずに働くことができます。人に話しかけられたり、見られたりすることに不安を感じる方も、自分の用意した環境で落ち着いて働ける仕事がよいでしょう。完全在宅勤務ではなくても、週に何度か出社しなくてもよい日があれば、精神的な負担は軽くなります。

在宅勤務やリモートワークができる仕事の例としては、内職やエンジニア、リモートでの事務作業、Webライターなどが挙げられます。翻訳や動画編集、イラストレーターなど、自分の特技を活かせるクリエイティブな仕事も向いています。

人前で話すことがない仕事

社交不安障害の方は、プレゼンなどの人前で話さなければならない場面で、強い不安や緊張を感じる傾向にあります。また、パニック障害でも人前で話すことに対する強いプレッシャーなどで発作を起こしてしまうケースが少なくありません。

このような悩みがある方は、人前で話す機会がないと初めからわかっている仕事を選べば、安心して仕事に取り組めるでしょう。人前で話すことがない仕事の例としては、工場のライン作業や警備員、清掃員、貨物輸送などが挙げられます。

電話対応が不要な仕事

不安障害の方は、電話対応を苦手だと感じるケースも珍しくありません。

特に社交不安障害では、電話応対を過度に恐れたり、緊張したりする傾向があります。また、電話相手に不愉快な思いをさせているのでは、嫌われているのではなどと考え、不安になってしまう場合も多いです。

電話応対が不要な仕事の例としては、IT関連の技術職や調理師、清掃員などが挙げられます。Webデザイナーやライターなど、在宅で働ける仕事も電話応対の機会は少ないでしょう。

反対に、コールセンターのような電話でのクレーム対応も必要となる職場は、不安障害の方にはあまり向いていません。

不安障害(不安症)の方が働きやすくなるための工夫

不安障害の方が負担を軽減しながら働くためには、まず不安を感じにくい仕事を選ぶことが大切です。そのうえで、自己理解を深める、生活習慣を改善するといった工夫を取り入れ、働き続けるための取り組みを実践するとよいでしょう。

ここからは、働きやすさを向上させるために、不安障害の方ができる工夫やポイントを5つ紹介します。

適切な治療を継続する

不安障害では、適切な治療が改善のカギとなります。そのため、まずは医療機関を受診し、医師やカウンセラーのサポートを受けましょう。

職場での悩みなどを専門医に相談することで、不安の症状も軽減しやすくなります。治療を始めたら自己判断で途中でやめずに、主治医の判断のもと継続して治療を行いましょう。

また、不安障害のような症状が幼少期からある場合は、発達障害*の可能性があります。発達障害にはコミュニケーションの苦手さや落ち着きのなさといった特性があり、特性によって生きづらさを感じる場合も多いです。この生きづらさがストレスとなり、不安障害などの二次障害を引き起こす例も珍しくありません。

加えて発達障害の薄い自閉の方に見られる過剰適応も、疲れがマスキングされている状態になるため不安障害を発症しやすくなります。不安障害の背景に発達障害がある場合は、専門機関で相談をし、適切な治療や対処を行うことが重要です。

自己理解を深める

不安障害にはいくつかの種類があり、仕事の負担を軽くするための対処法はそれぞれ異なります。そのため、自分の状態を客観的に見つめ、何に不安を感じるのかについて理解を深めることが大切です。

自分が強い不安や緊張を感じる場面を振り返り、当てはまる不安障害の種類を考えてみましょう。厚生労働省が提供する自己分析ツールを使う方法もおすすめです。また、医療機関を受診し、自分の症状について専門家からアドバイスをもらうのも賢明な方法です。

生活習慣を改善する

心身のバランスを整えるうえで、生活習慣の改善は効果的な方法です。

暴飲暴食や不規則な睡眠など、乱れた生活習慣は体調の悪化を招く恐れがあります。疲労やストレスがたまると不安も感じやすくなるため、健康的な生活習慣を心がけるようにしましょう。

具体的な改善策としては、散歩で適度に体を動かす、栄養バランスのよい食事を心がける、十分な睡眠時間を確保するといった方法が考えられます。

職場に相談する

不安障害の症状で悩んでいるときは、上司や同僚に相談するのも一つの方法です。周囲の理解を得ることで、症状が突然出て苦しいときも無理をせず助けを求めやすくなります。うまく打ち明けられない場合は、主治医やカウンセラーに伝え方を相談してみるとよいでしょう。

症状を伝えておけば、職場で合理的配慮を求めやすくなります。合理的配慮とは、障害のある方が不平等な思いをしないよう、特性や困りごとに応じて行われる配慮のことです。

例えば、電話でのやりとりに強い不安を感じる従業員を電話応対の担当から外してもらうなどが合理的配慮の一例です。障害者差別解消法によって合理的配慮の提供は義務化されているため、働きにくいと感じている場合は適宜会社に配慮を求めましょう。

リラックスできる方法を身につける

自分なりにリラックスできる方法を身につけることも有効です。心身が緊張し、ストレスがたまっている状態だと、不安障害の症状も悪化しやすくなります。緊張が和らぎ、心にゆとりが生まれるようなリラックス方法を探してみましょう。

例えば、家でゆっくりとお風呂に入れば、仕事の疲れやストレスを癒せます。職場で不安が高まっているときは、深呼吸や軽いストレッチをするだけでもある程度気分が落ち着くでしょう。こうしたリラックス法をいくつか取り入れてみることをおすすめします。

不安障害(不安症)の方の職場選びのポイント

職場環境や業務内容などが自分に合わず、今の職場で働き続けるのが難しい場合、転職を視野に入れて将来を再設計してみるのも選択肢の一つです。自分に合った働きやすい職場に転職することで、無理なく今よりも活躍の幅を広げられる可能性があります。

ここからは、不安障害の方の職場選びのポイントを3つ紹介します。

職場環境を重視する

不安障害の方が職場を選ぶときのポイントは、待遇よりも職場環境を優先することです。

仕事を選ぶ際は、給料や福利厚生などの待遇面に注目してしまいがちです。しかし、待遇のよい仕事も長続きしなければ意味がありません。不安障害で仕事が続かないと感じている場合は、緊張や不安を感じる場面が少なく、職場環境が自分に合っているところを選ぶとよいでしょう。

業務量や業務内容、勤務形態、障害への理解度など、職場環境を細かく検討したうえで、安心して働ける職場を探してみてください。

障害者雇用を検討する

働きやすい職場環境や合理的配慮を重視する場合、障害者雇用を検討するのも一つの方法です。

多くの従業員を抱える企業などは、定められた割合で障害のある方を雇用することが義務付けられています。不安障害で障害者手帳を取得すれば、障害者雇用に応募できるようになります。

障害者雇用は、周囲の理解を得やすいことや、配慮を受けやすいことなどがメリットです。障害者雇用に応募したい場合は、自分一人で探すのではなく、支援機関などにも相談してみるとよいでしょう。

支援機関を頼る

不安障害などの障害のある方が転職や再就職する際に利用できる支援機関には、以下のような種類があります。

  • 就労移行支援事業所
  • ハローワーク
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 地域障害者職業センター

就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業に就職できるようサポートする福祉サービスを提供しています。ハローワークには障害のある方のための専用窓口が設置されており、求人紹介や面接練習などのサポートが受けられます。

障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センターでは、幅広い形で障害のある方を支援しています。不安障害でも働きやすい職場を探す際は、これらの支援機関を活用するのがおすすめです。

Kaienの支援サービス

Kaienの就労移行支援は、過去10年で約2,000人の就職者を輩出しています。100種類以上の職業訓練を通して自分の適職が見極められ、ソーシャルスキルの向上に役立つ講座では自己理解も深められます。担当カウンセラーの支援を受けながら、自分に合った働きやすい職場を見つけられるでしょう。

Kaienの自立訓練(生活訓練)では、就労する前に自分を見つめなおす機会を提供しています。障害理解や生活習慣の改善、進路選択といったカリキュラムを用意しており、障害のある方が自立できるようサポートしています。

Kaienでは、見学・個別相談会や体験利用を随時開催しています。興味がある方は、お気軽にご相談ください。

不安障害(不安症)の方は自分に合った仕事選びを

不安障害は日常的な場面で強い不安や緊張を感じる場合があり、仕事に支障をきたすケースも少なくありません。不安障害の方は、自分がどのような場面で不安を感じやすいのか理解したうえで、無理せず働ける職場を見つけることが大切です。

Kaienでは、障害のある方に向けて就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などの福祉サービスを行っています。不安障害で仕事などの悩みを抱えている方は、ぜひKaienの利用を検討してみてください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます