人の質問に答えられず会話が続かなくなったとき、なぜ人の質問にうまく答えることができないのかと悩んだ経験のある方も多いのではないでしょうか。質問に答えられない理由が発達障害*などの疾患にある場合、自身の特性について理解を深めることが問題解決の糸口となります。
この記事では、質問に答えられない理由や発達障害との関係、発達障害の特性による仕事の困りごとなどを紹介します。発達障害の方が利用できる福祉サービスについても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
質問に答えられないのは発達障害のせい?
「質問に答えられない」とひと口に言っても、その原因や理由は人によってさまざまです。そもそも質問の内容を理解できていない方もいれば、質問と違うことを答えてしまう場合もあるでしょう。また、質問に答えようとしても言葉が出てこないケースもあります。
例えば、言葉を発する際に詰まってしまうなど、言葉が滑らかに出てこない吃音の方は質問に答えるのが難しい場合があります。
他にも相手の質問に答えられない悩みの背景に、発達障害がある場合も珍しくありません。質問に答えられない特性がある発達障害の種類として、主にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥多動症)が挙げられます。
以下では、ASDの方とADHDの方が質問に答えられない理由をそれぞれ解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)の方が質問に答えられない理由
ASDの方は特性により、人とのコミュニケーションをうまくとれないことも少なくありません。相手の発言の意図や背景を読むことが苦手なため、質問に答えるといった即時応答が困難なケースも多いです。
他にもASDの特性として、独特な言葉遣いや言い回し、常識から外れた解釈をするといった傾向が挙げられます。その結果、スムーズに意思疎通を図れず、うまく質問に答えられない場合もあるでしょう。
空気を読むのが苦手で、暗黙の了解がわからないこともASDの特性の1つです。このような特性はしばしば「中枢性統合が弱い」と表現されますが、複数の情報を統合して全体の状況を把握するのが不得手であることから、質問の意味や意図が理解できないことがあります。
他にもASDの特性として、「心の理論の欠如」も挙げられます。心の理論とは表情や仕草から相手の気持ちや考えていることを類推する能力のことです。ASDの方は獲得が困難とされているため、会話がかみ合わなくなることも多くあるでしょう。
なお、自閉スペクトラム症の「スペクトラム」には「境界があいまい」「連続している」といった意味があり、人によって特性の出方が異なることを表しています。そのため、ASDだからと一括りにして質問に答えられない理由を説明することはできません。
ADHD(注意欠如多動症)の方が質問に答えられない理由
ADHD(注意欠陥多動症)は、注意散漫で集中力が長続きしない、衝動的に行動するといった特徴が見られる状態です。
ADHDの方が質問に答えられない理由としては、衝動性により質問を最後まで聞かずに答えてしまうケースがまず挙げられます。相手の話を途中で遮って自分が話し始めてしまい、質問の意図をくみ取れない状態です。
また、質問と関係のないことを一方的に話し続けてしまうケースも挙げられます。相手の質問に答えることよりも自分の話をすることを優先してしまうのは、ADHDの特性である衝動性に原因があると考えられます。
質問に答えられないのは場面緘黙の可能性も
場面緘黙とは、普段は問題なくできる会話が、限られた場面でのみできなくなる状態のことです。場面緘黙の方は、学校や職場などの特定の場所で話せなくなるため、質問にも答えられなくなります。
場面緘黙の原因は明確にはわかっていませんが、本人の気質や環境要因が関係していると考えられています。具体的には、不安を感じやすい気質や吃音、急激な環境変化などです。
また場面緘黙は発達障害、特にASDを併存する場合が多いという研究結果もあります。ただし、緘黙とASDが必ずしも併存するわけではないため、慎重な見極めが必要です。
発達障害の特性による仕事での困りごと
大人の発達障害の場合、特性が原因で仕事に支障をきたすのは、質問に答えられない場合だけではありません。発達障害の方は、毎日の仕事のなかでさまざまな困りごとに直面しています。
ここからは、ASD・ADHDそれぞれについて、発達障害の特性による仕事での困りごとを紹介します。ここで例に挙げる困りごとに心当たりのある方は、発達障害の可能性も視野に入れて対策を検討することをおすすめします。
ASD(自閉スペクトラム症)の方の場合
ASDの方に多い困りごととして、上司の指示を理解できないことが挙げられます。これは前述の「質問に答えられない理由」と同様の原因が考えられ、自分では指示通りに仕事をしたつもりなのに、結果的に指示にそぐわない形になってしまうことも少なくありません。
また、こだわりの強さから自分なりのやり方に固執するあまり、上司の言うことを曲解してしまう場合もあるため、メモをするなどの方法で正確に指示内容を把握することが大切です。
他にも他人の動向を必要以上に気にしてしまい、不正を指摘して煙たがられたり、自分の仕事に集中できなかったりすることもあるでしょう。相手の目を見て話せない、陰口を言われていると思い込むといった困りごともよく挙げられます。
ADHD(注意欠如多動症)の方の場合
ADHDの方は、ミスや抜け漏れが多いことで仕事に支障をきたすケースが少なくありません。ADHDの特性の1つである、ワーキングメモリー(作業記憶)の低さなどが仕事上のうっかりミスや抜け漏れを引き起こしている可能性があります。
対策として、タスクの内容をメモにまとめて可視化する、メール送信の前に文章をよく確認するといった方法が効果的です。
また、優先順位が付けられず、マルチタスクをこなせないのもよくある困りごとの1つです。仕事を始める前にタスクリストを作り、重要な作業や課題をあらためて確認するなどの対策が役立ちます。
質問に答えられないときの対処法
相手の質問に答えられない背景には、発達障害などの精神疾患がある可能性もあります。そのため、自身の障害や特性を理解し、ソーシャルスキルの習得を図る方法が有効です。
自身の障害に関する悩みに直面した際は、自分だけで解決しようとせず、支援サービスの活用を検討してみましょう。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)といった福祉サービスを利用すると、専門家の助けを借りながら、日常生活や社会生活に必要な知識やスキル、対処法を身につけられます。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、発達障害に特化した職業訓練やスキルアップ講座などの充実した支援プログラムを実施しています。
職業訓練では100種類以上の職種が体験でき、自身の特性を活かせる適職が探せます。手に職をつけるためプログラミングなどのスキルを習得したい方は、専門コース(クリエイティブコース)を選ぶことも可能です。
また、Kaienでは他事業所にない独自求人も豊富に用意しています。障害に理解のある企業200社以上と提携しており、就職活動は担当カウンセラーがマンツーマンでしっかりサポートしてくれます。
就職後の定着支援として、スタッフが職場環境の改善やカウンセリングなどを行ってくれることも魅力の1つです。発達障害の特性を活かしながら一般企業での就業を目指したい方は、Kaienの就労移行支援をぜひご利用ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienの自立訓練(生活訓練)では、実践的な講座やカウンセリングを通して自分を見つめ直し、自立した将来の再設計を目指します。カリキュラムでは自身の特性を理解したうえで生活やコミュニケーションに必要なソーシャルスキルを身につけ、質問の答え方や進路選択の考え方などを学びます。
講座受講後は2~8週間、実践的な課題を通して講座で学んだ知識やスキルの理解を深めていくマイ・プロジェクトを行うのが特徴です。カウンセリングでは、担当スタッフと話し合いながら将来に活かせる自分の強みを探していきます。
自身の障害や特性に対する理解を深めたい、将来の計画を立てたいなど、さまざまな希望を持った方がKaienの自立訓練(生活訓練)を利用しています。事業所は全国に22拠点あり、通所のほかオンラインでも利用可能です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)に参加して、将来の可能性を広げてみてはいかがでしょうか。
質問に答えられない原因は特性によりさまざま
質問に答えられない悩みの背景には、発達障害や場面緘黙など障害や疾患が関わるケースもあります。ただし、発達障害には幅広い特性があり、質問に答えられない原因を明確に突き止めるのは困難です。質問に答えられない状態を改善したい場合は、まず自身の障害特性について理解を深める必要があるでしょう。
障害特性を理解するうえで役に立つのが、就労移行支援などの福祉サービスです。専門家の支援を受けながらソーシャルスキルを向上させることが、日常生活や仕事の悩みごとを減らす一助となるでしょう。
Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)では随時、無料で見学会や体験利用を実施していますので、気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
監修者コメント
「質問に答えられない」ことは必ずしも発達障害を意味しませんが、発達障害特性のある方々にはしばしば見られる傾向です。例えば、ASD特性のある方は質問者の意図を読み取るのが難しく、ADHD特性のある方は質問内容の一部を聞き落とすことがあったり、という具合に。自覚するには困難もありますが、周囲からの指摘や反応を通じて気づくことが重要です。時には、ソーシャルスキルとして謙虚に学ぶ姿勢も必要ですね。私は最近、文章の要約練習をお勧めしています。学校の課題としておなじみかもしれません。要約は、特定の文章を短くまとめることですが、それにより、文章の意図を掴んだり、長い内容を短くまとめて、簡潔に人に内容を伝える訓練にもなります。そういった本も売っていますし、自分が読んだ本や、見た映画やドラマの評価をファンサイトに書き込んでみるのも良いかもしれません。質問に答えることを含めて、人に何かを伝える力、というのは生まれ持った能力というより、技術だと考えてください。練習することで向上させられるはずです。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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