コミュニケーション障害とは?症状と種類、対策方法や発達障害との関連性を解説

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職場でのコミュニケーションや、人間関係に悩んでいる人は多くいます。適切な言葉が出てこないために意思疎通が難しい人や、どうしても人間関係がうまくいかない人は、もしかするとコミュニケーション障害かもしれません。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)とは、医学的に定義づけられたコミュニケーションに困難が認められる特性のこと。この記事では症状や種類、対策方法、発達障害*¹との関連性などを基本から解説します。一般的な意味でコミュニケーションが苦手な人とどう違うのかについても説明しているので、自分に当てはまりそうか考えながら読み進めてみてください。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)とは

コミュニケーション障害という言葉には、医学的な用語として使われるケースと、「コミュニケーションが苦手」という一般的な意味で使われるケースがあります。情報を調べるときや、自分の状態を誰かに話すときは、どちらの意味なのかを区別することが大切です。

そこで、ここでは2種類のコミュニケーション障害の意味や特徴について解説します。

ちなみに、コミュニケーション障害は過去に使われていた診断名です。2022年に発表された、アメリカ精神医学会による最新の診断基準「DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」にて、診断名が「社会的コミュニケーション症」に改められました。ここでは以前の診断名である「コミュニケーション障害」が使われることも多くあることから、コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)と表記しています。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)の症状

はじめに、医学的な症状としてのコミュニケーション障害について解説します。アメリカ精神医学会が作成した「DSM-5」という精神疾患の診断・統計マニュアルによると、コミュニケーション障害は、ASDやADHDと同じ「神経発達症群」の中に位置づけられ、言葉を使う際に障害が発生するとされる複数の診断群です。

具体的には、次のような障害が1つ以上あると、コミュニケーション障害と診断される可能性があります。

  • 子どものころから読み・書きがうまくできない
  • コミュニケーションが苦手であり、仕事・学業・社会生活に影響が出ている
  • 状況によって言葉を使い分けられない(敬語を使うべき場面で話し言葉を使ってしまうなど)
  • 身ぶりや表情、目線など言葉以外の感情表現が読み取りにくい
  • ユーモアや例え話、「結構です」のようなどちらともとれる表現など、あいまいな表現を理解しにくい

コミュニケーション障害は多くの場合、幼少期に発症するとされています。しかし、社会人になってマナーやルールが厳しく求められるようになってから、症状に気付く人もいます。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)と「コミュ障」の違い

「コミュ障」とは、人付き合いが苦手な人や、他人に無関心な人などを指す俗語(スラング)です。主に若い世代や、SNS・ネット掲示板などを利用する人たちの間で使われています。

コミュ障とされる人の特徴を以下に紹介します。

  • 極度の人見知り
  • 言葉をスラスラ話せない、会話が続かない
  • 場の空気を読めない
  • 雑談やたわいのない話ができない
  • 他人の意見を聞かず、一方的に話す

コミュ障は性格、素質を表す言葉ですので、医学的な症状のあるコミュニケーション障害とは異なります。コミュ障は「涙もろい」「怒りっぽい」などと同じレベルで、「コミュニケーションが苦手な人」という意味で使われています。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)の種類と特徴

コミュニケーション障害は、5つの種類に分かれています。複数の種類を発症するケースもあるため、どれか1つの種類にあてはまるとは限りません。ここではセルフチェックの目安となる具体例も紹介しながら、各種類の特徴を解説します。

社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害

社会的(語用論的)コミュニケーション症とは、社会生活に必要なコミュニケーションが困難な症状です。具体例は次のとおりです。

  • 周りの人とのあいさつができない
  • 仕事のうえで必要な報告・連絡・相談をしない、できない
  • 商談や職場の雑談など、状況に応じた適切な話し方ができない
  • ユーモアや例え話など、あいまいな言葉が理解できない、そのままの意味で受け取ってしまう

これらの問題の大きな原因になっているのが、相手の表情や身ぶり、声音などの非言語の意味がよく理解できないコミュニケーション障害特有の症状です。これによって、社会人が誰に教えられるともなく身に付けられる、常識的なコミュニケーションが難しくなってしまいます。

言語症(言語障害)

言語症とは、話すことや書くことの習得に困難が生じる症状です。具体的には、次のような症状となって現れます。

  • 使う単語、フレーズが非常に少ない
  • 主語と述語が合っていないことが多い
  • 文と文をつないで、ひとまとまりの意味にして伝えられない

言語症は、言語能力が安定する幼児期以降で診断されやすい症状です。そして言語症と診断されると、大人になっても症状が持続するケースが多いとされています。

吃音(児童期発症流暢症)

児童期発症流暢症とは、吃音(きつおん)とも呼ばれ、話し言葉がスムーズに出ない症状です。症名に「児童期発症」と付いているように、ほとんどの人は児童期で発症しているとされています。

例えば、以下のような症状があります。

  • 同じ音を繰り返す(ゴ、ゴ、ゴ、ゴリラ)
  • 音の引き延ばし(ゴーーリラ)
  • 間が空いてしまう(ゴ、・・・・、リラ)

児童期発症流暢症は、特にストレスやプレッシャーを感じる場面でひどくなる傾向があります。例えば、就職の面接や、上司からミスを問い詰められたとき、早く話すようにせかされたとき、などです。

なお、「児童期発症流暢症」という診断名は、「DSM-5-TR」で改められたものです。それ以前は「小児期発症流暢症」という診断名が用いられていました。

語音症(語音障害)

語音症とは、身体や神経に障害がないのに、うまく言葉を発声できない症状です。言葉を発する際は、口の開き方、舌の動き、呼吸などが無意識に連携してコントロールされています。この能力が何らかの原因で発達しなかった場合に起きるのが、語音症です。

語音症と診断される発声障害の目安は、周りの人が何をしゃべっているか理解できず、コミュニケーションに問題が出る程度です。したがって、語音症の人は学業や就職、職業的な能力などに、大きな影響が出てしまうケースが珍しくありません。

特定不能のコミュニケーション症

特定不能のコミュニケーション症とは、先に解説した4つの症状にあてはまる診断基準を満たさないものの、コミュニケーションを困難にする症状がみられる症状です。

特定不能のコミュニケーション症を疑う目安としては、仕事や学業、社会生活に大きな影響が出ている点です。ただ、一般の人が自分で判断するのは難しいため、専門機関に相談することをおすすめします。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)と発達障害の関連性

DSM-5では、コミュニケーション障害は、「発達障害*¹」に分類されます。発達障害とは、脳に機能的な問題があって生じる障害です。

この発達障害には、コミュニケーション障害以外にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、学習障害*²などがあり、いずれもコミュニケーションに困難さを伴いやすい傾向があります。それぞれについて、コミュニケーション障害との関連にも触れながら解説します。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASDは自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群とも呼ばれますが、現在はASD(自閉スペクトラム症)という名称が一般的です。

ASDの主な特徴を以下に示します。

  • 社会的コミュニケーションに持続的な欠陥がある
  • 狭い範囲に強いこだわりがあり、同じ会話や行動を繰り返す傾向がある
  • 他人への興味が少ない

ASDは話し相手の気持ちや意図を理解するのが難しいことがある点で、コミュニケーション障害と似た部分があります。

例えば、相手の立場に配慮した考えができずに、いつの間にか相手を不快な気持ちにさせてしまったり、相手の意図が汲めずに「言葉通り」「文字通り」の意味しか読み取れなかったりといったケースがあります。これは、心の理論の欠如や中枢性統合の弱さなどの特性が影響しています。

ここで誤解してはいけないのが、ASDであっても、人の気持ちが理解できないわけではないという点です。障害がない方に比べて時間はかかるものの、訓練やサポートを受ければコミュニケーションスキルの習得は可能です。

ちなみに、発達障害には特性が認められても診断基準すべてに当てはまらず、診断を下せない状態(いわゆるグレーゾーン)の方がいます。ASDで薄い自閉の方の場合、周囲に対する過剰な気配りから行動や考えを合わせすぎてしまう「過剰適応」が起こりやすい点にも注意が必要です。

ADHD(注意欠如多動症)

ADHDは「不注意」や「衝動的」な言動を特徴とする発達障害です。主な特徴を以下に示します。

  • じっとしていられない
  • 活動に集中できない、気が散りやすい、物事に順序立てて取り組めない
  • 物をなくしやすい

ADHDの診断基準には、直接的にはコミュニケーションの障害はありません。しかし、人の話をじっくり聞けなかったり、よく考えずに話したりするなどして、コミュニケーションに問題が出る場合があります。

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)とは、読み書き、計算に関して特異的な苦手さを持つ発達障害です。SLD/LDには「文字を読む際に障害が出るタイプ」「字を書けない・正しい文法で書けないタイプ」「算数の計算に障害が出るタイプ」の3つがあります。

SLD/LDは話すことや書くことに問題が生じるコミュニケーション障害の言語症に似た部分があります。しかし、SLD/LDはあくまで学習面での能力の障害であるのが、コミュニケーション障害との違いです。多くの人は、学業の段階でSLD/LDに気付くでしょう。

なお、LD(Learning DisordersまたはLearning Disabilities/学習障害) という診断名は「DSM-5-TR」に改訂されたことによりSLD(Specific Learning Disorders/限局性学習症)に改められました。

コミュニケーションの悩みの原因となるその他の疾患

発達障害のほかにも、コミュニケーションの悩みの原因になる疾患があります。各疾患の特徴を、コミュニケーションにかかわる部分に絞って、簡単に紹介します。

  • 知的障害:複雑な会話や文章が苦手
  • 不安障害:大勢の前で話すときに、過度の不安や心配を感じる
  • 社交不安症:人前で何かの行動をするのを過度に恐れる
  • パーソナリティ症:融通がきかないため、人間関係を築くのが難しい
  • 場面緘黙(かんもく):特定の場所や状況で会話ができなくなってしまう

ほかにも聴覚障害のように、身体的な障害でコミュニケーションに支障が出るものもあります。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)の原因と治療方法とは?

コミュニケーション障害のはっきりとした原因はわかっておらず、すべての種類に共通した治療法は今のところありません。しかし、以下のコミュニケーション障害の種類では、治療法が比較的はっきりしており、症状の改善がみられることが確かめられています。

  • 社会的(語用論的)コミュニケーション症:SST(ソーシャルスキルトレーニング)と言われる、対人関係や集団行動のスキルを学ぶトレーニング
  • 言語症:言語聴覚士による言語療法(発声・発音のトレーニング)
  • 小児期発症流暢症:言語聴覚士による言語療法や、専門家によるカウンセリングや認知行動療法

いずれにしても、治療を望む際は、専門家に相談することをおすすめします。

コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)の対策

コミュニケーション障害の人は、普段どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。また、誰に悩みを相談すればよいのでしょうか。コミュニケーション障害の対策について解説します。

話すときの声のトーンや振る舞いを意識する

コミュニケーション障害の人は、会話を順序立てて組み立てたり、スラスラと話したりするのが苦手な傾向があります。こうした面を補ってくれるのが、好印象を与えるような声のトーンや振る舞いです。

例えば、以下のような内容に気を付けるとよいでしょう。

  • あいさつや電話対応などでは、明るい声のトーンを意識する
  • 商談や会議などでは、落ち着いた低めの声のトーンを意識する
  • 相手の目を見て話す
  • 背筋を伸ばす
  • 腕組みや足組みなど、尊大に見えやすい態度をとらない

声のトーンや振る舞いに注意すれば、たとえ話し方がうまくなくても、誠意や礼儀の正しさが伝わります。それによって、相手が話し方に注目せず話の内容に耳を傾けたり、積極的に意味をくみ取ったりするなど、コミュニケーションに協力してくれるようになります。

礼儀やマナーはパターンで覚える

良好な対人関係のために礼儀やマナーは重要ですが、コミュニケーション障害の人は、その都度判断するのが難しい場合があります。負担を減らすには、パターンで覚えてしまうのが得策です。

具体例をいくつか挙げます。

  • 出社した際、すれちがった人にはあいさつする
  • 提案を断るときは「申し訳ございませんが……」、反対意見を言うときは「おっしゃることはわかりますが……」などクッション言葉をはさむ
  • 社内ではすべての人を「○○さん」または役職で呼ぶ、社外の人に対しては「当社の山田」「山田」のように呼び捨てにする

上記は一例ですので、使えるパターンを増やしていくとよいでしょう。機械的に対応すれば、礼儀やマナーを意識しすぎて緊張したり、言葉が出なくなってしまったりすることを避けられます。

完璧なコミュニケーションを目指さない

良いコミュニケーションを意識するあまり、気をつかいすぎたり、疲れてしまったりすることもあります。ストレスがたまれば、ますますコミュニケーションに否定的な感情や態度が生まれてしまうでしょう。また、体調不良やメンタルヘルス不調が引き起こされるケースもあります。

自分を守るには、完璧なコミュニケーションを目指さず、無理しないことも重要です。例えば、「人と話すのがつらい」と思ったときは、なるべく聞き役に回ったり、無理して電話応対業務をしないようにしたりするのもよいでしょう。長い間、ストレスや疲労感が続くようなら、コミュニケーションの負担が少ない仕事を探す方法もあります。

医療機関や公的機関に相談する

自分だけで解決が難しい場合は、医療機関や公的機関に相談することもできます。コミュニケーション障害の場合は、心療内科や精神科の診察を受けるのが一般的です。小児期発症流暢症による吃音(きつおん)がある場合は、耳鼻咽喉科で診察してもらえます。

また、公的機関としては、精神保健福祉センターや地域若者サポートステーションが利用できます。これらの機関では、例えば、障害や難病を持った人が一般企業に就職できるようにサポートする「就労移行支援」を利用できます。民間企業のなかにも就労移行支援サービスを提供しているところがありますので、こちらを利用するのもよいでしょう。

就労移行支援では、対人業務が少ない仕事や、コミュニケーション障害の人に理解のある職場などを紹介してくれます。また、自分に合った職場探しや、面接対策などの転職活動をサポートしてくれます。

発達障害の方のコミュニケーションに関する悩みの対処法

発達障害がある方は、それぞれの特性により、仕事や人間関係などに支障をきたす場合があります。例えばコミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)がある場合は、円滑な意思疎通や人間関係の構築などが難しいケースが考えられます。

問題を解決しようと対策を講じることは大事ですが、一人では難しい場面もあるかもしれません。そんなときは身近な人や支援機関を頼ることも必要です。

代表的な支援機関には、障害がある方の一般就労や職場定着を目指す「就労移行支援」や、障害がある方が自立した生活を目指すための「自立訓練(生活訓練)」などがあります。どちらもコミュニケーションなどのソーシャルスキルの習得が叶い、特性の理解や自分に合った職場探しなども可能です。

Kaienの就労移行支援

Kaienの就労移行支援では、自分に向いた適職が分かる「職業訓練」、障害を理解し対策が立てられる「社会スキル・自己理解講座」、あなたに合った職場が見つかる「独自求人」などから、あなたの可能性を引き出し一般就労を目指した支援を行っていきます。

Kaienの方針は「あなたの目線で」「たのしく前向きに」「あなたのペースで」「あなたの強みを」「いつまでも仲間として」の5つです。自分を社会の「型」にはめ込むのではなく、自分らしく輝く方法を一緒に考えていきましょう。

ちなみに、Kaienの過去10年の就職実績は約2,000人で、就職率は86%、就職から1年後離職率は9%、月給は3人に1人が20万円以上と高い水準にあります。

利用料は世帯収入に応じて無料~月額最大3万7,200円で算出されますが、多くの場合、自己負担額0円で利用可能です。通所だけでなくオンラインでも利用可能なので、まずはお気軽にお問い合わせください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

Kaienの自立訓練(生活訓練)は、自分を再定義して未来を再設計する場です。就労移行支援とは異なり、就職を前提にしたものではなく、生活リズムの改善や自分の特性の見直し、コミュニケーションスキルの習得など、自分の生活を少しでも良い方向へ変えて自立していくことを目的としています。

大きなキーワードは「障害を理解しよう」「自立生活をしよう」「進路を選択しよう」「みんなと暮らそう」の4つです。障害の理解や感情のコントロール、スマホやゲームの依存対策や家事全般など、障害の本質から生活に関係する細かな点まで、網羅的にプログラムを実施します。

利用者からは、「生活リズムが改善された」「将来のビジョンが描けた」「感情のコントロール方法が学べた」などの喜びの声も多数いただいています。自立訓練で自信がついたら、そのあとに就労移行支援へ移行することも可能です。

ちなみに、こちらも就労移行支援と同じく多くの場合自己負担額0円で利用できますので、お気軽にお問い合わせください。

コミュニケーションの悩みはひとりで悩まず早めに相談を

コミュニケーションが苦手な原因に発達障害が関係している場合、医療機関への相談や適切な対策などで状況が改善するかもしれません。もし今まで一人で悩んできたのであれば、その気持ちを聞いてもらいながら、自分の状況を整理してみてはいかがでしょうか。

支援機関などを活用しながら自分の得意な分野を生かしたり、特性に合った環境を見つけたりできれば、今より生き生きと働けるはずです。自分の特性と向き合うのは困難な場面もあるかと思いますが、少しずつ自己理解を進めてみましょう。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます

監修者コメント

コミュニケーションの問題はいつも難しい…と感じます。何が異常なのか、何が正常なのか、がそもそも定義しづらいですよね。ずれていたらそれは即座にコミュニケーションの問題なのかというと、ずれ、が面白い個性になっている人もいるわけです。また、今回DSM-5で「コミュニケーション症」が神経発達症群の中で独立したのも興味深いところです。「コミュニケーション症」に、言語症、語音症、吃音などと、社会的(語用論的)コミュニケーション症が一緒に分類されていることに違和感を感じる人もいるかもしれません。前3者は、言語の形式的側面(音韻、文法、流暢性など)に関する問題であり、後者は言語の使用と解釈に関する問題であると感じます。支援のアプローチの仕方も違うはずで、音韻、文法、流暢性などに対しては、言語療法や発話訓練などの直接的なアプローチが効果的な一方で、社会的コミュニケーション症は、より包括的な社会スキル訓練や文脈理解のサポートが必要となるでしょう。診断的には、社会的コミュニケーション症には従来の診断基準ではASDとされていた人がそれなりな率で入る気もします。ASDとの違いは、社会的コミュニケーション症の診断には、ASDでは重要な「限局的な興味と反復的行動」が診断基準に入っていないことです。そのあたり、DSM-5の制定時にかなり議論になったようです。臨床的には正直分けることが難しいという気がしますし、私もDSM-5の診断基準で一番戸惑っている部分と言えます。ただ、私自身考えていたのですが、ASD概念が広まるに連れて一部にあるような、、コミュニケーションに問題がある=ASDだという安易な決めつけには一定の警鐘になっている気もします。新しい診断カテゴリーは、今まで十分に見えてこなかったことを可視化する側面があります。支援的側面で何が変わっていくのか、注視したいと考えています。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。



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