解離性同一性障害の人は記憶がある?症状や診断についても解説

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解離性同一性障害の方は、過去の記憶が失われたり、普通は忘れるはずのない個人情報を思い出せなかったりすることがあります。このような症状に不安を持っている解離性同一性障害の方やそのご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では解離性同一性障害の記憶への影響やその他の症状について、医学の知識がない方でもわかるように解説しています。また、症状の回復に関心を持っている方に向けて、解離性同一性障害の原因や診断、治療法についても解説します。

解離性同一性障害の人は記憶がある?

解離性同一性障害(解離性同一症)とは、解離性障害の症状の一つで、一人の人間の中に複数の別人格が存在する神経症です。かつては「多重人格障害」や「二重人格」とも呼ばれていました。

解離性同一性障害を含めた解離性障害の特徴は、普通の人が連続して持つ記憶や知覚、意識などの精神機能が途切れる「解離」症状です。この解離によって、解離性同一性障害の人は記憶が一時的、または長期的に失われる場合があります。

例えば、以下のような症状です。

  • 過去の出来事の記憶がない(幼児期の記憶がない、旅行に行った記憶が抜け落ちているなど)
  • 普通なら忘れるはずのない情報を忘れる(自分の年齢や家族の名前など)
  • 習熟している事柄を忘れる(パソコン操作や仕事の手順など)
  • 自分の行動を覚えていない(自分から手紙が届く、自分が知人に怒鳴ったことを後から知るなど)

これらは別人格になったときの記憶がない場合もあれば、記憶障害や極端な度忘れという形で表れる場合もあります。

解離性同一性障害の症状

解離性同一性障害の症状は、記憶以外にも表れます。ここでは解離性同一性障害の主な症状として、以下の4つを解説します。

  • 複数の人格がある
  • 記憶が一部がない(健忘)
  • 幻聴や幻覚などが見られる
  • 精神障害や身体的な病気に似た症状が見られる

複数の人格がある

解離性同一性障害の方には複数の人格が存在しており、ストレスやトラウマを思い出す状況などをきっかけに切り替わるのが特徴です。この症状は「憑依(ひょうい)型」と「非憑依型」の2種類に分けられます。

憑依型

憑依型とは、主人格に代わって別人格が支配的に表に出てくるタイプです。話し方や態度などが急に別人のように変わります。

憑依型で表れる別人格は、神や悪魔といった架空の存在であったり、主人格と正反対の人格であったりとさまざまです。時には死別した他人の人格に成り代わる場合もあります。

このため別人格への憑依は、周囲の人が気づくケースが多いといえるでしょう。しかし、解離性同一性障害の知識がない人にとっては常識的に信じられないため、「嘘を付いている」「演技ではないか」などと誤解されるケースが少なくありません。

非憑依型

非憑依型とは、解離性同一性障害の方が突然自分の感覚が変わったように感じる症状です。この際、多くの場合において自分の感情や言動を外側から眺めているような感覚になっています。

解離性同一性障害のない人でも、極度の緊張や恐怖を感じる状況で自分の心が分離し、外からもう一人の自分を眺めているような感覚を経験した人は多いのではないでしょうか。イメージ的には、この極端な状態が非憑依型といえるでしょう。

非憑依型は憑依型と違って主人格は完全になくならず、自分で自分を観察しているように感じるのが特徴です。そのため非憑依型の解離性同一性障害は、周囲の人に気づかれない場合が少なくありません。

記憶が一部がない(健忘)

先に解説したように解離性同一性障害は、記憶に何らかの障害が出る可能性が高い病気です。医学用語では「解離性健忘」といいます。

解離性健忘は症状によって、以下のように分類されています。

限局性健忘・限られた期間の記憶がない・耐え難い経験の後に起きやすい
選択制健忘・特定の部分だけの記憶がない
全般性健忘・過去の記憶が全部失われて、自分が誰なのかわからなくなる・急激に発症することが多い

解離性健忘によって思い出せない記憶は、症状の回復とともに取り戻せる場合もあります。しかし記憶が戻ることが必ずしもよいとは限らず、過去の辛い記憶や体験を思い出して苦しむ人も少なくありません。

幻聴や幻覚などが見られる

解離性同一性障害の方の方は、幻聴や幻覚を経験する場合があります。例えば以下のような症状となって表れます。

  • 別人格が話しかける声が聞こえる
  • 耳鳴りに命令される
  • 自己像を外から見ている感覚に陥る

自分の外に現実の音や姿が生じたように感じる統合失調症の幻聴や幻覚とは対照的に、解離性同一性障害では頭の中で、自分の内から生じていると感じられることが多いようです。頭の中で別人格から話しかけられたり、フラッシュバックの一部として幻覚が生じたりします。

この内から生じる感覚は、自分の外に現実の音や姿が生じたように感じる統合失調症の症状と対照的です。

参考:子どもの解離性障害に関する研究展望

精神障害や身体的な病気に似た症状が見られる

解離性同一性障害の人は、他の精神障害と同じような症状を訴える場合があります。具体的には以下のとおりです。

  • うつ状態
  • 強い不安
  • 重度の頭痛

これらは、解離性同一性障害の影響によって他の症状を併発した可能性があります。例えば解離性同一性障害によって家に閉じこもりがちになり、うつ病を発症するようなケースです。

しかし、解離性同一性障害に特有の症状もあります。例えば、別人格に交代したときに強い悲しみや不安に陥るケースです。また、フラッシュバックによって重度の頭痛といった身体的な苦しみが生じることもあります。

解離性同一性障害の原因

解離性同一性障害を引き起こす要因として、幼児期のストレスや心的外傷(トラウマ)と、もともと持っている素因(病気にかかりやすい素質)が指摘されます。

解離性同一性障害を発症する方の多くは、幼児期に以下のような辛い体験をしています。

  • 幼児期に親から肉体的、精神的、性的な暴力を受けた
  • ネグレクト(養育者が子どもの食事や着替えなどの必要な世話を怠り、放置すること)を受けた
  • 火事や犯罪に巻き込まれるなど異常な体験をした
  • 両親や祖父母などの近しい人が亡くなった

上記のような適応範囲をはるかに超えたストレスや体験から自分の心を守るために、記憶や知覚、感情を切り離した別人格が生まれるのだ、というのが仮説の1つです。

また、以下のような解離の素因も関係しています。

  • 強いストレスを感じた際に、外側から自分を眺めているような感覚になる人
  • 自分や世界に対する現実感が薄い人
  • 誰かが乗り移ったように感じやすい人(巫女やシャーマンのような催眠感受性が高い人)

素因の強い人がストレスにさらされると、解離性同一性障害を発症する可能性があるとされています。

解離性同一症の診断

解離性同一症は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)にしたがって、次のような特徴を持っているか診断されます。

  • 複数の人格がみられる。自分自身であり、自分の意志で行動できるという感覚が崩壊している。
  • 記憶に空白がある(日常生活の出来事、重要な個人情報、トラウマについての記憶など)
  • 症状によって日常生活や社会生活に著しい苦痛、影響が生じている

診断には、以下の方法が用いられます。

  • 解離状態や別人格についての質問、長時間の面接
  • 催眠法、催眠・鎮静作用のある薬を用いた面接
  • 受診と受診の間で患者に日誌をつけてもらう

こうした診断によって、解離性同一症に特有の症状があるか判断します。また、他の精神障害や詐病(嘘や演技)との区別が可能です。

解離性同一症の治療法

解離性同一症の治療は、これが決定的、という治療法がなく、どの治療法、治療方針をとっても議論の余地があるものです。基本的には症例を多く診ている医師やカウンセラーによる精神療法が中心となることが多いでしょう。精神療法とは、医師やカウンセラーのような専門家が、会話や指示、訓練といった人間的な交流を通じて治療を図る方法です。時には誘導イメージ法(特定の感覚、知覚を疑似的に呼び起こす方法)や催眠が用いられます。

多くの治療で重視されるのは、まずは本人の安全を確保すること、強い感情を安定化させたり、トラウマ体験への対処法を学ぶことです。時には社会生活から離れたほうが良いと考えて、入院が選択されることもあるでしょう。

ほかの治療法としては薬物治療がありますが、解離症状に直接効果のある薬はありません。抑うつ感に対しては抗うつ薬、強い不安に対しては抗不安薬、幻覚・幻聴に対しては精神安定薬などが用いられますが、いずれも状態を落ち着かせるために用いるのが一般的です。

解離性同一性障害について理解を深めよう

解離性同一性障害の方は、日常生活の出来事や重要な個人情報、トラウマについての記憶を失う場合があります。そのことで解離性同一性障害の方やそのご家族、周囲の人が不安に感じることが少なくありません。

しかし、解離性同一性障害への理解を深めれば、無用な不安や恐れ、解離性同一性障害の方への不適切な接し方をある程度減らせます。

医師やカウンセラーなどの専門家に相談しながら、治療方法や見守り方を探していくとよいでしょう。


監修者コメント

解離性同一性障害、はまさに人の精神の不思議さを感じさせる診断です。私自身は正直治療に直接携わったこともなく、治療者として適切な訓練を得ているとも考えていませんので、ある程度までコンセンサスを得ている内容として監修させていただきました。

ただ、「解離状態」を他人事として考えている方も多いかもしれませんが、実は結構多くの人が体験しています。何らかの原因で非常に疲労/消耗して前後不覚になったときや、アルコールや催眠作用のある薬によって酩酊状態になったときなどに、後から自分の行動を指摘されたけど覚えていない、ということがありませんか?一時的な解離状態であれば経験しうるものなのです。私も、研修医時代にある風邪薬を飲んで運転をし始め(それ以来絶対しません)、気づいたら高速道路で運転しており、降りるべき出口を過ぎていたという経験があります。解離状態の不思議さは、後から振り返って記憶のない中で、行動そのものはきちんとした状態で出来ていることです。もちろん、解離性同一性障害の場合は、それが人格的に別物であるほどに整合性を取った状態が繰り返し現れることが特徴なので、簡単には比較できませんが。

いずれにしても対応や治療が必要な状態があるときには、まずは大きな病院の精神科ないし神経内科受診をお勧めします。一度何か脳にそのような状態を起こす器質的病変が無いかを検索して、それから対処を相談していきましょう。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。