マルチタスクができないのは発達障害だから?苦手な理由や解決策を解説

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マルチタスクとは、複数の作業を並行して同時に行うことを言います。例えば、電話に対応しながら相手の話す内容をパソコンに入力したり、鍋を火にかけながら洗い物をしたりといった作業がマルチタスクです。マルチタスクが得意な方もいますが、中には「1つのことに気を取られると他のことへの注意がおろそかになってしまう」という方もいます。

この記事ではマルチタスクができないとお悩みの方向けに、苦手な理由や発達障害*¹との関係、解決策について解説します。

マルチタスクができない理由は発達障害だから?

子どもの頃や学生時代には特に不便を感じていなくても、社会人になってから「自分はマルチタスクが苦手なんだ」と感じるようになる方もいます。例えば、仕事でミスを繰り返したり、「他の人はできていることを自分はなぜできないんだろう」と挫折感を味わったりした経験を通して、発達障害に気付くケースもあるのです。

実際、発達障害の特性の1つに「マルチタスクが苦手」という特性が含まれています。では、発達障害について次で詳しく見ていきましょう。

発達障害とは

発達障害とは、生まれつき脳機能の発達にかたよりがあるために日常生活に支障が出る障害です。発達障害は主に次の3種類に分類されます。

自閉スペクトラム症(ASD)

こだわりの強さやコミュニケーションが苦手といった特性が自閉スペクトラム症には見られます。自分の決めた手順ややり方を乱されると混乱したり、融通がきかなかったりするなど、特定の強いこだわりを持つことも特徴の1つです。

注意欠如多動症(ADHD)

集中力や注意力が不足していたり、じっとしていられず衝動的に行動してしまったりすることが注意欠如多動症の特徴です。やるべきことが複数あると優先順位がわからなくなるケースも見受けられ、マルチタスクが苦手な方も多くいます。

学習障害*²(LD)

短期記憶能力や順番を認識する能力などのバランスが取れていないことにより、読み書きや計算など特定の分野の学習に困難が生じるのが学習障害の特徴です。学習障害の方は、手早くメモを取ったり、会議や資料の要点を把握してまとめたりするのが難しい場合があります。

発達障害の方がマルチタスクが苦手な理由

発達障害の方に多く見られる中枢性統合や実行機能の弱さ、処理速度の低さも、マルチタスクが苦手な理由です。

中枢性統合:物事を全体的に見て把握する能力

発達障害の方は中枢性統合の能力が低いケースも見られ、全体をとらえられず細部に関心が向きやすい傾向があります。

実行機能:計画や優先順位をつけて行動する能力

実行機能が弱いと注意散漫になりがちで、順序立てた行動が困難な方も多くいます。

処理速度:タスクを処理する速度

処理速度が遅いと作業や仕事に人より多くの時間を要します。

このような特性から、発達障害の方は仕事をする上で、次のような困りごとを抱えてしまいがちです。

  • 時間軸で考えることが苦手で時間管理ができない
  • 優先順位が判断できず、何から手をつけたらいいかわからない
  • 興味や関心が移りやすく忘れっぽい
  • 段取りを決めるのが苦手
  • 面倒なことや苦手な仕事を後回しにするため期限に間に合わない
  • 急な予定変更やハプニングに弱く臨機応変な対応ができない
  • 思いつきで衝動的に行動してしまいがち

それでは、発達障害の方がマルチタスクをこなすためにどうすれば良いか、具体的な解決策を見ていきましょう。

マルチタスクをこなすための解決策

仕事をする上で、マルチタスクは必須と言えるでしょう。マルチタスクが苦手な方でも、ちょっとした工夫を加えることで解決につながる場合があります。ここでは、具体的な6つの解決策や気をつけたいポイントについて解説します。

シングルタスクに落とし込む

複数の仕事を並行してこなさなければならない場合は、整理しないまま手当たり次第にやろうとすると混乱してミスにつながります。まずは、それぞれの仕事で処理すべき内容を一つひとつのタスクに分解し、細分化しましょう。その後、それぞれのタスクの締切日を決めてExcelなどにまとめ、進み具合をこまめにチェックしながら管理します。

このやり方であれば一度に行うタスクは1つだけなので、マルチタスクが苦手な方でも作業しやすくなるでしょう。

タスクを可視化する

やるべき作業がいくつもある場合、頭の中だけで段取りを考えて抜け漏れがないように処理するのは、多くの方にとって容易ではありません。短期記憶が弱い傾向にある方の場合、うっかりミスなどが増えてしまうこともあるでしょう。

マルチタスクを抜け漏れなくこなす対策として、やることをメモやふせんなどに書いてデスクなど目に付きやすい場所に張り、終わったらはがす方法がおすすめです。発達障害の特性として、耳で聞くより目で見て覚える視覚認知が優位な方が多いので、絵や図などを使って記録しておくのも良いでしょう。上司や先輩から指示をもらう場合も同様です。

優先順位や進捗を共有する

発達障害の方は、やるべきことが複数ある場合の優先順位づけが難しいことがあります。また、細かいところにこだわってしまって一点に集中しすぎるために、仕事の全体が見えなくなって処理漏れや進捗の遅れが生じることも少なくありません。

それらへの対策として、上司や先輩、同僚に優先順位の確認やスケジュールを共有しておき、定期的に作業内容や進捗をチェックしてもらうことが有効です。

急な仕事も対応できるようバッファーを持っておく

バッファーとは余裕やゆとりのことです。予定外の仕事を急に任された場合でもパニックにならずに対応するためには、常に時間や気持ち、ワーキングメモリーにゆとりを持っておくよう心がけましょう。

また、「突発的な仕事を依頼されると、つい焦ってしまう」という方も多いかもしれませんが、そんな時は一度、心を落ち着けてみてください。そして、仕事に取り掛かる前に、タスクの優先順位や段取りを確認することが大切です。

苦手な作業を理解し人に任せる

どんな仕事や業務内容においても、無理は禁物です。特性により困りごとや苦手なことがある場合は、どんな作業が困難なのか、まずは自己理解を深めましょう。その上で、無理にすべてのタスクを自分でこなそうとせずに、同僚や上司を頼って任せることも仕事を円滑に進めるための1つの方法です。

マルチタスクへの対処法を学ぶ

先述した対策を講じても、なかなかマルチタスクがこなせない場合は、苦手分野のスキルを習得するのも手です。障害がある方が一般企業への就職を目指す場合、就労移行支援という福祉サービスが利用できます。就労移行支援では、優先順位の判断や電話対応、メモ取りなど、多くの仕事で必要となるマルチタスクへの対処法を含むビジネススキルを学ぶことができます。

就労移行支援の対象となるのは、次の3点をすべて満たす方です。

  • 18歳以上65歳未満の方
  • 身体障害・知的障害・精神障害・難病などがある方
  • 職業訓練や就活支援などによって一般就労が可能になる見込みのある方

上記に当てはまらない方でも、就労継続支援など別の支援サービスの利用は可能です。就労移行支援や就労継続支援を受けるためには、それぞれ実施している事業所を探す必要があります。なお、利用には「障害福祉サービス受給者証」が必要になりますが、障害者手帳の有無は問われません。

Kaienの就労移行支援

Kaienでは発達障害の方に特化した就労移行支援を実施しています。支援内容は次の通りです。

実践的な職業訓練

経理や人事、データ分析などのオフィスワークや伝統工芸などものづくり、軽作業など手や体を使う仕事など、100職種を超える実践的な職業訓練を受けられます。プログラミングなどの専門コースも充実しているので、自分の特性を活かせる適職が見つかるでしょう。

自己理解や苦手への対処法が身につくカリキュラム

ライフスキル、スキルアップ、ビジネスマナーなど、50講座を超える社会スキル・自己理解カリキュラムなどを通じ、自分の苦手なことを整理して対処法を身につけられます。

強みを活かせる就活サポート

利用者の方一人ひとりに担当カウンセラーが付き、特性の強みを活かせる求人選びや就活サポートを行います。発達障害に理解のある企業200社以上との連携により、独自求人の紹介も可能です。

就職後も手厚い定着支援

就労定着支援を就職後3年半実施しています。また、定着支援SNSなどでも手厚くサポートしているので安心です。

適切な支援を受けてマルチタスクを克服しよう

発達障害の方の中には、マルチタスクが苦手な特性のある方がいます。しかし、ちょっとした工夫や訓練をすれば、マルチタスクの克服は可能です。

自分1人では対策が難しいこともあるため、就労移行支援などの適切な支援を受けることもおすすめです。Kaienには過去10年間の就職者数が約2,000人を超える実績があります。マルチタスクが苦手で仕事ができずに悩んでいる方は、無料で見学会や体験利用も実施していますので、ぜひお気軽にご相談ください。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます


監修者コメント

マルチタスク (multi tasking) はもともとコンピュータ・サイエンスの用語で、複数の作業を同時並行する能力を意味します。本コラムにあるように、発達障害の方ではこの能力が低下していると考えられますが、果たして我々は同時に複数の作業をこなすことができるのでしょうか?

ハーバード大学の報告によると、我々がマルチタスクを実行すると、それぞれの作業に均等に集中できるわけでなく、集中の仕方もバラバラになりかえってミスが増えるというものでした。この理由として、仕事に必要とされる高次脳機能は、もともとマルチタスク用に特化されていないからだと述べています (Solan, The art of monotasking, 2022: https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/the-art-of-monotasking)。

この説が正しいとすると、発達障害の方のマルチタスク障害と言われるものは、同時並行で処理する能力が低いわけではなく、作業の段取りが苦手、あるいは段取りをした時点で満足して他のことに気が散ってしまうことが考えられます。

先述のハーバードの報告では、一日にこなす課題を最大2つに絞ること、集中する時間を決めてその間に休憩を挟むこと(25分集中→5分休憩を繰り返す、ポモドーロ・テクニックと言うものがあるそうです)、仕事中に起こりうるストレスを最小限にすること、などを薦めています。


監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。