仕事をしていると、時には困りごとが起きる場面もあります。それにはさまざまな原因がありますが、例えば情緒不安定もその1つです。イライラしていたかと思うと急に悲しくなったりして、「これって、情緒不安定?」と心配になることもありますよね。
情緒が安定しないと仕事に集中できなかったり、ミスをしやすかったりするなど、仕事に影響が出ることもあるでしょう。
この記事では、情緒不安定とは一体どういう症状のことを指すのかについて、主な3つの症状を具体的に紹介します。また、情緒不安定になる原因や対処法もあわせて解説します。
「自分は情緒不安定かもしれない」と不安に思っている方はぜひ参考にしてみてください。
情緒不安定とは?代表的な3つの症状
情緒不安定とは診断名ではなく、感情の起伏が激しく安定的でない状態をいいます。とはいえ、感情の起伏は誰にでも普通に起きるため、具体的にどういう内容であれば情緒不安定というのか疑問に思うこともあるでしょう。情緒不安定とされる代表的な症状について解説します。
気分の浮き沈みが激しい
情緒不安定の症状としては、気分の浮き沈みが激しいことがまず挙げられます。
うれしかったり悲しかったりという感情の波は誰にでもあるものですが、情緒不安定の場合は、その感情の落差が激しい状態をいいます。
気分が晴れたと思ったら急激に落ち込むなど気分の上下が激しく、心が安定せず、仕事がはかどらないなど生活に支障が出ることもあります。
落ち込んだり悲しくなったりする
特に理由もないのに、落ち込んだり悲しくなったりすることも情緒不安定の症状のひとつです。
急に涙が出て止まらなくなったり、ふいに「もうダメだ」ととても悲観的な思いに襲われたりします。今までは気にしなかったようなささいなことでも憂うつな状態になり、なかなか立ち直れないこともあります。
イライラが止まらない
情緒不安定の症状としては、気分の浮き沈みが激しいことがまず挙げられます。
うれしかったり悲しかったりという感情の波は誰にでもあるものですが、情緒不安定の場合は、その感情の落差が激しい状態をいいます。
気分が晴れたと思ったら急激に落ち込んだりと気分の上下が激しく、心が安定せず、仕事がはかどらないなど生活に支障が出ることもあります。
情緒不安定の理由とは?
情緒不安定になる理由としては、さまざまな要因が考えられます。また理由はひとつでなく、複数の要因が重なって起きるともいわれています。それらの理由について、「本人に関する要因」と「環境に関する要因」とに分けて解説します。
本人に関する要因
精神的な要因の代表例
情緒不安定になる精神的な要因の例としては、以下のものがあります。
- ストレスが溜まっている
- 不安を抱えている
- 精神疾患の症状のひとつとして現れている
要因にはまず、仕事や日常生活、人間関係においてストレスが溜まっていることが考えられます。激務で休みが取れない、職場の人間関係がうまくいっていないといったストレスで情緒不安定になることがあります。
ストレス以外でも、仕事や私生活で何か大きな不安や心配事を抱えている場合も情緒不安定になりやすい傾向です。
また、うつ病や不安障害などの精神疾患を抱えている場合にも、症状のひとつとして情緒不安定になるケースがあります。
身体的な要因の代表例
情緒不安定になる身体的な要因の例としては、以下のものがあります。
- 睡眠不足
- アルコールやカフェインの摂りすぎ
- ホルモンバランスの乱れ
睡眠不足も情緒不安定になる要因のひとつです。睡眠は脳や体の疲労を回復させるのに必要であり、睡眠を十分に取れない状態が続くと心身の不調につながります。
また、アルコールやカフェインは交感神経を興奮させる働きがあるため、摂りすぎると自律神経を乱れさせたり、睡眠の質を下げたりすることがあります。結果として、情緒不安定につながりやすくなります。
さらに、女性の場合、月経に伴うホルモン変動が情緒面に影響している方がおり、月経前不快症候群のような診断のつく方もいます。また、妊娠や出産は、気分を落ち着かせる作用が本来はあるのですが、一方で情緒の変動が大きい方がいます。
仕事など環境に関する要因
仕事や家庭など、毎日過ごす環境が原因でストレスがたまると、情緒不安定になることがあります。特に、まじめで凝り性な人や完璧にやり遂げようとする人は、業務や家事を優先するあまり生活が不規則になり、寝不足や過労になりがちです。
例えば、仕事や家事でミスをして叱られたり、上司や同僚、家族とのコミュニケーションがうまくいっていないなどの人間関係のトラブルを抱えていたりすると、ストレスが蓄積して情緒不安定になりやすくなります。
また、昇進や降格、家族構成の変化や引っ越しなど、急な環境の変化もストレス要因の1つです。
情緒不安定と関連性が強い症状や疾患
情緒不安定は誰にでも起きうることです。それでも、長く情緒不安定な状態が続くと疾患に発展する場合や、反対に疾患があって情緒不安定を引き起こしている場合もあります。以下では、情緒不安定と関連性が強い疾患やその症状について解説します。
発達障害
発達障害*¹とは、生まれつきの脳機能発達に関する障害です。発達障害は主に次の3種類が挙げられます。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如多動症(ADHD)
- 学習障害*²(LD)
発達障害の方は不安感や感覚過敏、こだわりの強さなどの特性があり、それによって周囲とのコミュニケーションがうまくいかないこともあります。
そういったトラブルにさらされていることから、発達障害の方は人間関係や仕事でストレスを感じやすく、それらが情緒不安定を引き起こすこともあるでしょう。
また、発達障害の特性による生きづらさがネガティブ思考につながり、後天的な精神障害を引き起こす場合もあります。これを二次障害と呼びますが、二次障害の症状として情緒不安定が生じるケースも少なくありません。
適応障害
適応障害とは、遺伝的な要素と環境の変化などの組み合わせによるストレスから、心身の不調が生じる状態です。
例えば、長時間労働で疲れが溜まったり、人間関係のトラブルやハラスメントなどがある環境に身を置いていたりすると、適応障害になる可能性があります。
適応障害の主な症状は動悸やめまい、不眠、抑うつ、自尊心の低下などですが、過度なストレスから情緒不安定を引き起こす場合もあります。
不安症(不安障害)
不安障害とは、過度な不安を感じて日常生活に支障が出てしまう疾患のことです。
不安障害は、その症状の現れ方から下記のようなさまざまな種類に分けられます。
- パニック症:理由もなく激しい不安に襲われ、心臓がドキドキする、呼吸が苦しくなるといったパニック発作を繰り返す
- 社交不安症:人に注目されることや人と話すことが怖い、人が多くいる場所で強い苦痛を感じる
- 強迫症:不合理とわかっていてもしないではいられない「強迫行為」を繰り返す
不安障害では、上記のように発作的に過度な不安に襲われる、不安で同じ行動を繰り返すといった情緒不安定な症状が見られます。
うつ病
うつ病は、憂鬱な気分や様々なことへの意欲の低下が続く疾患で、言ってみれば脳のエネルギーが欠乏している状態でもあります。
気分障害のひとつで、一日中気分が落ち込んだり、何をしても楽しくないと感じたりするほか、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体的症状が現れることもあります。
うつ病と診断されていなくとも、こうした情緒不安定な症状が継続する場合は、うつ病の可能性があります。
また、うつ病の場合、気分の落ち込みという精神的な状態に気付く前に、下記のような身体的な不調が現れることもあります。
- 性欲がない
- 眠れない、あるいは過度に寝てしまう
- 頭痛や肩こりがある
- 動悸やめまいがある
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害も気分障害のひとつで、極度に気分が高まって活動的になる躁(そう)状態と、無気力なうつ状態との両極端な状態を繰り返す疾患のことです。
躁状態であるときは調子がよいため双極性障害と気づかず、うつ状態のときに病院に行き、うつ病と判断されることも珍しくありません。
躁状態でギャンブルや買い物で浪費をしてしまったり、尊大になって人間関係を壊してしまったりするなど日常生活や対人関係に支障をきたすことがあります。
双極性障害とうつ病は別の病気であり、治療法も異なります。誤った診断を受けると、治療をしてもなかなか症状が改善されないという状態になることがあります。
自律神経失調症
自律神経失調症とは、病名ではなく、心や体のストレスによって自律神経が正常に機能せずに起こるさまざまな症状のことです。
自律神経失調症は、症状から考えられうる他の病名に当てはまらない場合に、診断されます。
症状としては、動悸、息切れ、息苦しさ、頭痛、めまい、耳鳴り、寝汗、不眠などさまざまです。循環器系、消化器系、呼吸器系、泌尿生殖器系、耳鼻科系といった多岐にわたる症状があります。情緒不安定などの精神的な不調症状も含まれます。
情緒不安定への対策
情緒不安定は診断名ではないため、治療方法というものはないものの、改善のための対策がいくつかあります。以下ではそれらの情緒不安定への対策について紹介します。
なお、情緒不安定の症状から上記で紹介したような疾患が考えられる場合には、悪化を防ぐためにも、心療内科や精神科を受診し適切な治療を受けるようにしましょう。
考え方・物事のとらえ方に関する対策
情緒不安定の原因となるストレスを軽減するためにも、考え方や物事のとらえ方を変える対策を取ることがおすすめです。
具体的には、認知行動療法という方法があります。認知行動療法とは、ストレスに反応するプロセスを、下記の4つに分け、意識的に変えられる「認知」と「行動」の部分を柔軟に変える方法です。
- 認知:起こった出来事をどのように認識するか
- 感情:認知したことから起こる気持ち
- 身体:認知したことから起きる体の反応
- 行動:最終的な振る舞い
例えば、テストで70点を取った場合、「認知」プロセスで「100点でなければダメだ」と認知してしまうとストレスが強くなり、「感情」面で落ち込んだり、「身体」面でおなかや頭が痛くなったりします。その結果、「行動」面で、テストを受けるのが怖くなって学校を休むかもしれません。
認知行動療法では、この「認知」の部分で、意識的に「平均点が50点なのに70点も取れた」などと柔軟に考えるようにします。そうすることによって「感情」や「身体」面でポジティブな反応が期待できます。さらに「行動」においても、前向きな選択をするように働きかけ、よい結果につながるようにします。
ただし、自分自身の力だけで「認知」の捉え方を変えることは難しいので、指導者などの第三者に協力してもらって行うのがよいでしょう。
生活習慣に関する対策
生活習慣の改善は情緒不安定を抑えることにつながります。具体的な対策方法は次の3つです。
睡眠時間を十分に確保する
睡眠不足は心身の不調を招きやすいため、不規則な生活や夜更かしをしないように心がけ、睡眠時間を十分に確保しましょう。必要な睡眠時間には個人差がありますが、厚生労働省によると6~8時間が適正睡眠時間と言われています。
関連記事:「夜更かしをやめるには? 無理なく続けるコツ」
カフェインやアルコールは控えめに
カフェインやアルコールを控えることも情緒の安定につながります。これらを摂取しすぎると、自律神経の乱れや良質な睡眠の妨げになる恐れがあり、情緒不安定になりやすくなるため注意が必要です。
ストレスを溜めないようにする
限界までストレスを溜めてしまうと、気持ちが落ち込んだり、イライラしやすくなったりと心身に不調をきたしやすくなります。ストレスを感じたら我慢するのではなく、こまめにストレスを発散するよう心がけましょう。
自立訓練(生活訓練)の利用
自立訓練(生活訓練)は、食習慣や生活リズムなどの自立した生活を送るためのスキルが習得できる福祉サービスです。自分で生活習慣の改善をするのが難しい場合は、支援機関の自立訓練(生活訓練)の利用を検討してみましょう。
情緒不安定になった際の対策
情緒不安定になってしまった際の対策をいくつか見ていきましょう。
マインドフルネス
瞑想して不安や悩みから心身を解放する方法です。瞑想をして、今のことだけに集中することで、つい頭に浮かぶ日々の心配ごとや将来に対する不安などを排除できます。
結果として、不安やストレスから解放され、心身のコンディションを整えられます。
腹式呼吸
腹式呼吸で深呼吸することで、情緒不安定な気持ちを和らげられることもあります。鼻からゆっくり息を吸い、おへその下に空気を溜めるイメージでおなかをふくらませます。
次に、おなかを凹ませながら、口からゆっくりすべての息を吐き出しましょう。深呼吸することで気軽にリラックスできるので、スキマ時間などで試してみましょう。
筋弛緩法
ストレスが溜まっていると体が緊張して硬くなりがちなので、ゆるめてあげましょう。首や肩、手など緊張している部位に10秒間力を入れた後、一気に脱力して20秒間リラックスさせます。
こうした対策以外にも、仕事が原因で情緒不安定になった場合には、休職や転職という選択肢もあります。ストレスとなる環境から離れることで症状が改善するケースも少なくないため、無理をせず職場に相談してみるのも1つの手段です。
情緒不安定で就労に不安を感じたら
先述した対策を実践して情緒不安定を和らげることはできても、いざ就労するとなると強い不安を感じる人もいるかもしれません。就労に不安がある場合は自分だけで抱え込まず、支援機関の就労移行支援を利用するという方法もあります。就労移行支援については、以下で詳しく解説します。
就労移行支援とは
就労移行支援とは、一般企業への就職を希望する障害のある方が対象の通所型福祉サービスの1つです。
就労移行支援では障害の状態や就労経験などを踏まえて作成する「個別支援計画」に基づき、職業訓練から就職活動の支援、就職後の定着支援までを一貫して行います。なお、就労移行支援を利用できるのは原則として2年間です。
就労移行支援を実施している事業所は、次の方法で探すことができます。
- 市町村役場の福祉課や福祉事務所などの窓口で相談する
- ハローワークや障害者相談支援センター、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどで相談する
- 「就労移行支援事業所 〇〇市」などのキーワードでインターネット検索
Kaienの就労移行支援サービス
Kaienの就労移行支援では、主に次のようなサービスが受けられます。
職業訓練
人事やデータ分析、軽作業など、常時100種類以上の職業体験ができます。また、専門職として働きたいならクリエイティブコースでプログラミングやデザインなどのスキルも習得可能です。
就活サポート
Kaienは、発達障害や情緒不安定な症状に理解のある企業200社以上との連携により、他事業所では紹介していない独自求人も豊富にあります。利用者の方一人ひとりに担当カウンセラーも付き、就職活動に関する相談への対応やサポートを丁寧に行っているのが特徴です。
定着支援
就職後も、仕事上で困ったことや生活上のトラブルなどに対するサポートが手厚いこともKaienの強みです。
情緒不安定なときは就労移行支援に頼ってみよう
情緒不安定になっている場合は、まずはその理由を自分なりに把握して、理由に応じた対処方法を取ることが大切です。
情緒不安定であること自体は疾患ではないものの、情緒不安定の要因に精神疾患が影響していたり、情緒不安定な状態が続くと精神疾患に発展したりすることもあります。疾患の可能性が考えられる場合は、自分一人で対処することは難しいため、医療機関を受診して相談するようにしましょう。
また、情緒不安定になりながらの就労や就活には不安や困難が伴います。そんなときは就労移行支援の利用がおすすめです。
Kaienでは豊富な職業訓練や就活サポート、定着支援を実施しています。無料で見学会や個別相談会も実施していますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
「情緒不安定」とは感情が不安定な状態が一定程度続いている状態を一般的には指していると思います。専門家的には「情動不安定」と言うことが普通ですね。
いずれにしても、本文にあるように、診断名ではなく、症状の表現の1つであり、精神科的には背景に様々な診断が疑えることが多いです。日常生活の維持に不安を覚えるほどの情緒不安定を自覚したり、また周囲の方から指摘される場合には精神科受診を考えて欲しいですね。尚、私達は普通、情緒不安定でない時には、そうならない工夫を無意識的にもやっているものです。認知行動療法は、調子が良ければ自然にできていることを敢えて意識して実行するという部分があります。精神科受診を考えるほどでなくても、ちょっと苦しいなと言う時には、是非関連本を参考にしてもらうと良いと思いますね。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
あなたのタイプは?Kaienの支援プログラム
お電話の方はこちらから
予約専用ダイヤル 平日10~17時
東京: 03-5823-4960 神奈川: 045-594-7079 埼玉: 050-2018-2725 千葉: 050-2018-7832 大阪: 06-6147-6189