失語症の種類とは?症状の違いや原因、治療と相談先について解説

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うまく話せない、人の話す内容が分からない、文字が読み書きできない、といったお悩みを抱えている場合は失語症かもしれません。失語症とは脳の損傷によって起こる言語機能の障害です。

この記事では、失語症とはどのような障害なのか、症状の内容やその種類、原因や似た障害との違いについて解説します。治療方法や、相談先についても紹介しますので、失語症かもしれないと気になっている方はぜひ最後まで目を通してみて下さい。

失語症とは?

失語症とは、言語障害の一つで、「聞く」「話す」「読む」「書く」などの言葉を使って自分の意思を伝えたり、相手の話や文章を理解したりするのが困難である状態をいいます。

失語症は、ケガや病気などによる後天的に生じた脳の障害によって起こるとされています。失語症でよく見られる症状の例を挙げると下記の通りです。

【失語症で見られる症状】

  • 伝えたい言葉が出てこない
  • うまく発音ができない
  • 言い間違いが多い
  • 相手の言ったことが復唱できない
  • 相手の言った内容が理解できない
  • 文字が読めない
  • 文字は読めるのに内容が理解できない
  • 文字が思い出せず、書くことができない

失語症になると、会話や文章のやり取りでコミュニケーションを図ることが困難なため、日常生活や社会生活を送るうえで問題を抱えてしまうことが少なくありません。

失語症の種類とは?

失語症にはいくつかの種類があります。具体的には下記の5つが挙げられます。

  • 運動性失語(ブローカ失語)
  • 感覚性失語(ウェルニッケ失語)
  • 伝導失語
  • 健忘失語(失名詞失語)
  • 全失語

それぞれの特徴について詳しく解説します。

運動性失語(ブローカ失語)

運動性失語(ブローカ失語)とは、相手の話す言葉は理解できるものの、自分の伝えたいことを言葉で伝えることが困難な失語症です。

話せたとしても、話し方はたどたどしかったり、言葉の発音が不明瞭だったり、言い間違えたりする傾向が見られます。相手の言ったことを復唱することもできません。

また、書くことについても、文字の形が崩れたり、書き誤ったりすることも多いといえます。読むことについては、ひらがなだけでは理解が難しく、意味のわかりやすい漢字が混じった文章の方が理解できるといった傾向が見られます。

感覚性失語(ウェルニッケ失語)

感覚性失語(ウェルニッケ失語)とは、相手の話を理解したり、文章の内容を理解したりすることが困難な失語症です。すらすらと滑らかに話せるものの、言い間違えや意味不明な言葉を使うことが多く、話す内容が支離滅裂となることも少なくありません。

書くことにおいても、よどみなく書けるものの、誤字や意味の通じない文字の羅列が続き、理解が難しい内容となることが多いといえます。

相手の言うことを理解することも、自分の思いを正確に伝えることも困難なため、日常の意思疎通が非常に困難になる傾向があります。

伝導失語

伝導失語とは、相手の話を理解でき、自分の伝えたいことも話せるものの、自分の言い間違いに気付いて何度も言い直すため、吃音のような話し方になる失語症です。

言葉を話す際に、「メガネ→メマメ」「ボタン→ボラン」など、発話での音の選択を誤まることがよくあります。また、言い間違いを修正しようと復唱することも特徴です。書くことにおいても、「メガネ→ネガメ」といった書き誤りが多く見られます。

健忘失語(失名詞失語)

健忘失語(失名詞失語)とは、相手の話を理解することができ、会話もできるものの、人や物の名前が出てこない失語症です。言いたい単語が出てこないため、回りくどい表現をしてしまいます。例えば、「ミカン」という名称が出てこないため、「オレンジ色で、丸くて皮をむいて食べるもの」といった抽象的な表現を使います。失語症の中では比較的意思疎通が図りやすいことから、軽度の失語症といえるでしょう。

全失語

全失語は、「聞く」「話す」「読む」「書く」の全ての言語機能に障害がある重度の失語症です。相手の話す内容や書かれた文章の内容を理解することが難しく、自分の考えを話したり書いたりすることもほとんどできない状態です。

全く話さないか、無意味な言葉を発することが多いことが特徴です。しかし、何となくこんな話をしているという雰囲気を感じていることはあり、笑顔で話しかけると笑顔で応じるといったこともあります。

失語症との他の言語障害との違い

失語症と似ているようで異なる言語障害もあります。例えば次の2つです。

  • 構音障害
  • 失声症

上記の言語障害と失語症との違いについて、詳しく解説します。

構音障害

構音障害とは、相手の話を聞いて理解することや読み書きには問題がないものの、話すという言語機能のみに問題を抱えている言語障害です。

構音障害の場合、話す際に、口や舌などの必要な器官をうまく動かすことができません。そのため、話し方がぎこちなくなったり、ブツブツと途切れたり、不規則・不明瞭になったりするといった症状が見られます。

失語症が脳の損傷が原因で起きるのに対し、構音障害は原因不明のものもあるものの、発声器官の欠損や形の異常、また、神経の病気が原因で起きるといわれています。

失声症

失声症とは、声が出なくなる言語障害です。相手の話を理解したり、読み書きをしたりすることには問題がないものの、声が出なくなるため話すことができません。仮に声が出る場合でも、しゃがれていたり、かすれていたりして、話すことに困難を抱えることが多いといえます。

失語症と失声症とでは障害の原因が異なるといえるでしょう。失語症が脳の損傷で起こるのに対し、失声症は多くの場合、喉や器官、声帯の病気で起こるとされています。また、喉や器官、声帯に異常がない場合でも、心理的なストレスが原因で起こるケースもあります。

失語症と認知症の違い

失語症と認知症は、混同されることもあるものの、異なるものです。失語症は言語機能の障害であるのに対し、認知症は認知機能の障害です。

失語症は、言葉を使ってコミュニケーションを図る機能に問題を抱えているものの、物事を理解したり、記憶したり、論理的に考えたりする認知機能には問題はありません。一方の認知症は、新しいことが覚えられない、過去のことを忘れる、状況を把握できないなど、認知機能に障害があります。

失語症は、例えば朝ごはんに何を食べたかを覚えているものの、伝えられないといったことが起きますが、認知症の場合は、朝ごはんに何を食べたか、そのこと自体を覚えていないため伝えられないといったことが起きます。

失語症の原因

失語症は、大脳にある言語中枢が損傷されることによって起こるとされています。大脳の言語中枢が損傷する原因としては、次のような例があります。

【失語症の原因となりうる病気やケガの例】

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)
  • 事故や転倒などによる頭部外傷
  • 脳の感染症(脳炎)
  • 脳腫瘍

失語症の診断

失語症の言語機能に関する検査では、例えば下記のような検査が行われます。

  • 標準失語症検査(SLTA)
  • WAB失語症検査

標準失語症検査は、失語症の有無、重症度、失語タイプの鑑別を行う検査です。聴く、話す、読む、書く、計算の能力について、26の検査項目で評価します。障害の重さが把握でき、リハビリ計画に利用されます。

WAB失語症検査は、言語症状の有無や失語症のタイプなどについて評価する検査です。

自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの能力について38の検査項目で評価されます。失語の分類ができるほか、失語症の重症度を表す失語指数が算定できるため、失語症タイプの鑑別や失語症の回復の評価に利用されています。

失語症の治療

失語症の治療では、失語症の原因となった病気や障害を治療するほか、言語聴覚療法などのリハビリテーションを行い、コミュニケーションが取れる状態を目指す方法がとられます。

リハビリを指導するのは言語聴覚士です。患者の検査結果や希望に応じて個々人に合ったリハビリが実施されます。言語能力の回復が難しい場合には、コミュニケーションツールなどを使って、コミュニケーションが取れるようなトレーニングを行うケースもあります。

【フェーズ別】失語症のリハビリ

失語症については、多くの場合、改善まで長期間かかり、一般的には発症から期間が経つほど改善に限度が出てくるといわれています。そのため、なるべく早くリハビリを始めることが大切だといえるでしょう。

実際のリハビリは、個々人の症状や健康状態などに合わせて、段階的に進められます。以下では、発症以降のフェーズ別のリハビリ内容について詳しく解説します。

急性期

急性期のリハビリでは、言葉のやり取りの正確性を求めるのではなく、まずはコミュニケーションを取ること自体を重視して進められます。

なぜなら、急性期は本人が言語障害を発症したばかりで、戸惑って不安を抱えていることも少なくないからです。そのため、まずは心理的サポートを行いながら、現在のコミュニケーション能力を確認し、今後どのように意思伝達方法を確立していくか探りながら進められます。

回復期

回復期は、急性期をすぎて全身状態がある程度安定し、リハビリによる機能改善が期待される時期です。

この回復期のリハビリとしては、言語機能訓練や実用的なコミュニケーション訓練、コミュニケーションの環境調整などを行っていきます。下記はリハビリ訓練の一例です。

  • 短い話やニュースなどを聞き、内容についての質問に答える
  • 絵を見て名前を言う
  • 言葉を復唱する
  • まんがの内容を説明する
  • 簡単な文章を読み、内容についての質問に答える
  • 予定をメモする
  • 日記を書く

上記は一例で、実際には、個々人の症状や回復度に合わせてさまざまな訓練メニューが提供されます。

維持期

維持期のリハビリは、実際の生活に沿ったコミュニケーションや社会参加を目標として実施されます。そのため、本人だけでなく、本人が実生活で関わる家族や周囲の人にも指導が行われます。

また、言語機能の向上を図るサポートだけでなく、趣味に打ち込むことなどのサポートが実施されることも少なくありません。そうすることで、コミュニティ内での役割を高め、社会参加がしやすくなるといえます。

失語症の方の就職に関する支援

失語症の方が就職をする際に相談できる支援先もあります。それぞれの支援先について詳しく解説します。

ハローワーク

ハローワークは、厚生労働省が全国に設置している公的な職業紹介所で、公共職業安定所ともいいます。就職に関する相談や、求人の紹介、面接の指導など、就職・転職に関するさまざまな支援が受けられます。

失語症の場合は、障害者専門窓口の利用が可能です。障害者専門窓口では、障害に理解のある専門のスタッフによるサポートが受けられます。

就職したいものの不安がある、どういった仕事ができるかわからないといった相談も可能です。また、実際に働く前に、ハローワークが連携する支援機関で実習を受けることもできます。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスや、事業主の障害者雇用に関する相談・援助などを行っている公的機関です。

全国47都道府県に設置されていて、ハローワークと連携し、障害を持つ人の就職や復職に関する専門的な支援をしています。

本人の職業能力を踏まえて職業リハビリテーション計画を立て、それを基に職業指導、職業準備訓練、職場適応援助などのサポートをしてもらうことができます。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害者が自立して働けるように、就労と生活の両面から支援を行う施設です。全国に337箇所設置されており、ハローワークや保健所、医療機関などの関係機関と連携して障害のある人の雇用促進と安定した就労を目的とした支援をしています。

就労支援としては、就労前には、障害の特性や能力に合った職務の選定や、就職活動の支援が受けられます。また、職業実習のあっせんや職業準備訓練といった就職に向けた準備支援を受けることも可能です。

生活支援としては、福祉事務所と連携して福祉サービスの利用を調整したり、医療機関に医療面の相談をしたりとさまざまな支援を実施しています。

障害者職業能力開発校

障害者職業能力開発校とは、障害のある人が就労できるように、職業能力を習得するための職業訓練の機械などを提供する職業能力開発施設です。

障害を持つ人の障害の状態や、もともと持っている能力に応じて、職業能力の回復、増進などを図るための職業訓練を提供しています。

2024年11月現在、国が設置し、都道府県が運営する障害者職業能力開発校は全国に11校(北海道、宮城、東京、神奈川、石川、愛知、大阪、兵庫、広島、福岡、 鹿児島)あります。府県が設置・運営する開発校は6校(青森、千葉、岐阜、静岡、京都、兵庫)です。

利用には障害者手帳を保有している(例外あり)、ハローワークに登録しているなど一定の条件があります。利用を検討する際は、お近くのハローワークで確認するようにして下さい。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるように、生活で必要となるさまざまな能力の維持・向上のための訓練を行う障害福祉サービスです。

仕事に就く前に、生活の基礎力を高めたい、基礎力を取り戻したい場合に利用できます。自立訓練(生活訓練)の支援サポートに例には次のようなものがあります。

  • 食事、金銭管理、身だしなみどの生活能力を向上させるトレーニング
  • グループミーティングなどコミュニケーション力向上のためのトレーニング
  • スポーツ、ストレス対処法などの体調管理のためのトレーニング

利用対象者は、地域生活を営む上で、身体機能や生活能力の維持・向上のため、一定期間の訓練が必要とされる65歳以下の障害者です。障害手帳がなくとも医師の診断があれば利用可能です。

自立訓練(生活訓練)の利用について詳しくは、下記のページも参照してください。

関連記事:自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説

失語症の悩みはひとりで抱え込まず専門機関に相談してみよう

失語症とは、脳の損傷によって「聞く」「話す」「読む」「書く」ことに困難が生じて、意思疎通がうまく図れない障害のことです。

失語症の治療は早いほど早い効果が見込まれるため、失語症でお悩みの際には、ひとりで抱え込まず、まずは専門機関に相談してみることが大切です。

また、失語症で日常生活にお困りの場合には、自立訓練(生活訓練)のご活用もおすすめです。

Kaienでは、発達障害*の強みを活かした自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、人材紹介サービスなどを行っています。自立訓練(生活訓練)について豊富な経験と実績に基づいたサポートが可能です。

自立訓練(生活訓練)をご検討の際には、Kaienまでお気軽にご相談ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。