精神障害(精神疾患)と知的障害(知的発達症)は似た印象を受けることがありますが、法律上及び医学上において扱いが異なります。また、精神障害はさまざまな特性の総称であり、単一の特性の名称ではありません。
この記事では、各障害の法律上の定義をベースに、精神障害と知的障害の違いや精神障害に含まれる代表的な特性、両者を対象とした支援制度などを解説します。
障害の種類
精神障害(精神疾患)と知的障害(知的発達症)の違いを説明する前に、まずは障害全体の扱いを知っておきましょう。
法律上では、障害者基本法により障害は「身体障害」「精神障害」「知的障害」の3つに分けられます。この区分は主に法上の区分や手続きを目的としているので、実際の症状や特性から診断される医学上の定義とは異なります。
また、知的障害はDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)において医学上の定義はあるものの、法律上では明確な定義はありません。
ちなみに発達障害*は、これらの障害と取り扱いが異なるので後ほど詳しく解説します。
身体障害とは
法律上における身体障害者は、身体障害者福祉法第4条により定義されており、以下の条件の方が該当します。
- 法律上の身体障害者の定義
視覚障害、聴覚または平衡機能の障害、音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害、肢体不自由、内部障害がある18歳以上の方のうち、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた方
なお、18歳未満の方には児童福祉法が適用されます。同法第4条第2項では、身体に障害のある児童、知的障害のある児童、精神に障害のある児童などを総して障害児と定義しています。
参考:厚生労働省「身体障害者福祉法」
知的障害(知的発達症)とは
知的障害については法律上の定義がなく、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に基づいて精神障害者として扱われます。ただし、知的障害者に具体的な支援を提供するために、知的障害者福祉法という法律が個別に設けられています。
また、DSM-5(医学上)では知的障害は発達障害(神経発達症)で見られる特性の下位項目として定義されています。知的障害は軽度、中等度、重度、最重度に区分され、理解力や言語などに関わる知的機能の発達に遅れが見られるほか、他者とのコミュニケーションや日常生活、社会生活、安全管理、仕事、余暇利用などについての適応能力が不十分といった特徴が見られます。
ちなみに、知的障害という語は主に福祉の分野で使われる用語です。医療用語では精神遅滞と呼ばれています。
精神障害(精神疾患)とは
精神障害については法律上で、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条により、以下のように定義されています。
- 法律上の精神障害者の定義
統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する方
一方で医療の分野では、DSM-5に記載された症状ベースの具体的な診断基準に基づいて判断されます。代表的な特性に統合失調症や気分障害、適応障害、発達障害などが挙げられます。
参考:厚生労働省「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」
精神障害(精神疾患)の代表的な特性
精神障害に含まれる代表的な特性として、以下の4種類を解説します。
- 統合失調症
- 気分障害(うつ病・双極性障害/躁うつ病など)
- 適応障害
- 発達障害
これらの特性は症状が重なる部分があり、併発する場合もあります。また、ここでは概要や代表的な症状を紹介しますが、個人差がありますので判断は医師による診断が必要です。
なお、ここで紹介しきれなかったその他の代表的な特性については、以下で詳しく説明しているので参照ください。
精神疾患とは?精神障害との違いは?種類と特性、利用できる制度・支援を解説
統合失調症
統合失調症とは、幻覚や妄想、不安、神経過敏など、さまざまな症状があらわれる疾患です。統合失調症の経過は前兆期、急性期、回復期、安定・慢性期に分けられ、それぞれ以下のような症状が見られます。
- 前兆期:不眠、不安、神経過敏、身体症状など
- 急性期:幻覚、妄想、興奮、思考障害などの陽性症状と、抑うつ、無気力、倦怠感などの陰性症状
- 回復期:陽性症状が減少し、陰性症状が残りやすい
- 安定・慢性期:治療により安定した生活を送れるようになるが、陰性症状が残る場合がある
気分障害(うつ病・双極性障害/躁うつ病)
気分障害とは、うつ状態と躁状態という気分の波があらわれるのが特徴です。うつ状態だけがあらわれる場合はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態の両方が繰り返される場合は双極性障害(躁うつ病)と呼びます。
うつ状態では、気持ちが落ち込む、疲れやすくなる、自己肯定感の低下、死にたくなるなどの症状が見られます。
一方で躁状態では気持ちが通常以上に高揚し、過度な浪費をしたり睡眠をとらずに活動し続けたり、他者の話を聞かなくなったりといった症状が見られるのが特徴です。
適応障害
適応障害とは適応反応症とも呼ばれ、ストレスを受けたときの反応が強く出てしまい、社会活動に支障をきたす疾患のことです。このストレスの原因や反応の強さは人により異なります。
適応障害は、ストレス因子からストレスを受けた場合に症状が出るのが早く、ストレス因子が消失した場合に症状が6ヶ月以上継続しないという点が大きな特徴です。症状が長期化した場合は適応障害が二次障害である可能性があるため、発達障害など根本的な原因が背景にないかどうか見極めが重要になります。
発達障害
発達障害とは、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの先天的な脳機能障害の総称です。発達障害にはさまざまな特性が含まれ、症状に重なった部分や個人差もあるので明確に判断することは難しいとされています。
発達障害がある方は特性に応じた支援があれば、十分に社会で活躍できる可能性があります。しかし、近年まで社会的な理解が不十分で環境整備が遅れていました。2004年に発達障害者支援法が公布されたことにより、発達障害の定義や適切な支援などが普及され社会の理解が広がっています。次項で背景を詳しく見ていきましょう。
発達障害者支援法とは
発達障害者支援法とは、発達障害の定義や法的な位置づけを確立し、発達障害がある方に対する支援の充実や、専門家と関係機関との協力体制を確保することなどを目的とした法律です。
かつて発達障害は法律上の取り決めがなく、障害者とみなされていませんでした。しかし、2004年に発達障害者支援法が公布されたことで法律上の定義が明確になり、精神障害の1つに区分されるようになったのです。
また、2016年の法改正では発達障害がある方に対する理解や生活支援の促進、関係機関との協力強化などが盛り込まれ、支援や環境整備の一層の充実が進められています。
発達障害と知的障害の関係性
知的障害はDSM-5において「神経発達症群/神経発達障害群」の中に位置づけられており、発達障害の枠組みに含まれます。また、発達障害に含まれる特性は複数が併存することも少なくありません。
複数の特性が併発している場合は、それぞれの特性への対応が必要です。異なる特性でも似ている部分もあるので、知的障害の有無を診断してもらう場合は、他の特性についても併存がないか一緒に診断してもらいましょう。
発達障害と精神障害の関係性
発達障害は他の精神障害を引き起こす原因になる場合があります。
発達障害の特性により生きづらさを感じたり、失敗体験から自分の価値を低く感じたりすると強いストレスが生じ、精神障害を引き起こす可能性があります。このように発達障害が原因となって他の精神障害が後天的に引き起こされることを二次障害といいます。
ちなみに発達障害は先天性、精神障害は後天性という点が根本的な違いです。生まれつきある発達障害の特性は個人の性格と勘違いされやすいので、精神障害を何度もくり返す場合などは発達障害の可能性を視野に入れ、早めの受診で適切な治療を受けましょう。
精神障害や知的障害のある方が取得できる障害者手帳
障害者手帳には身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の3種類があり、精神障害や知的障害がある方は、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳を取得できる可能性があります。なお、各障害者手帳で対応する障害区分は以下のとおりです。
- 身体障害者手帳の障害区分:視覚障害・聴覚・平衡機能障害・心臓機能障害など
- 精神障害者保健福祉手帳の障害区分:統合失調症・てんかん・うつ病などの気分障害・発達障害など
- 療育手帳の障害区分:知的障害
障害者手帳を持っていると、障害者雇用での就職が可能になるほか、障害がある方を対象とした就労支援サービスも受けられます。障害があることを前提に求人を探せるので、より自分に合った仕事を見つけられる可能性も高まるでしょう。
また、障害者手帳は金銭面でもメリットがあり、障害者控除が受けられるほか、医療費の助成申請がしやすくなったり、公共交通機関や公共料金などの料金の割引を受けられたりします。
就労に関する支援先
障害がある方が仕事先を探すときは、自分だけですべてやり切ろうとせず就労をサポートする公的サービスを活用してみましょう。代表的な支援機関として以下のようなものがあります。
就労移行支援
18~64歳の就労を希望する障害のある方を支援する障害福祉サービスです。職業訓練や就活支援、定着支援などが受けられます。
障害者職業センター
各都道府県に設置され、職業リハビリや障害者雇用支援などが受けられます。
障害者就業・生活支援センター
障害者職業センターよりも地域性のある施設です。就業と生活を一体的に支援します。
ハローワーク
就職を希望するすべての人が対象ですが、障害のある方を対象とした求人も取り扱っています。専門知識を持つ職員への相談や就活支援、個別求人の提供なども可能です。
以下では支援機関や支援内容について、より詳しい解説をしています。就職活動を一歩踏み出したいと思っている方は、ぜひ参照ください。
就職したい!転職したい!と思ったら 利用できる支援と支援機関のまとめ
Kaienの就労移行支援サービス
Kaienでは精神障害や発達障害がある方向けに就労移行支援サービスを実施しています。
具体的な支援内容は、実践的な職業訓練や自分の特性を理解するセッション、スキルアップ講座、就活講座などが主で、専門的なサポートを受けながら一人ひとりに合った仕事を探します。
応募できる求人は、メーカーや流通、不動産、サービスなど、障害に理解のある多様な企業から選べます。就職実績は過去10年間で約2,000人おり、就職率は86%、給与額は3人に1人が20万円以上と高水準です。
また、就職後も最大3年半の定着支援があり、就職から1年後の離職率は9%と安定した定着率を誇ります。
事業所は全国各地にあり、通所はもちろんオンラインでも利用可能です。料金は世帯収入に応じて無料~月額最大37,200円で算出されますが、約9割の方が自己負担額0円で訓練を受けています。随時見学・個別相談会も開催していますので、お気軽にご相談ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)サービス
精神障害がある方の中には、具体的な就労イメージが持てず、就活にはまだ気持ちが乗らないという方もいるかもしれません。そんなときはKaienの自立訓練(生活訓練)を利用するのも1つの手です。
自立訓練(生活訓練)は障害者総合支援法に基づく福祉サービスに含まれ、就職などの社会参加やライフスキルなどのトレーニングやサポートが受けられます。
まずは心身の自立を目指し、就労へのモチベーションや生活基盤を整えるためにも、ぜひ利用を検討してみてください。
利用できる支援や制度を知り有効活用しよう
精神障害や知的障害がある方は生きづらさやストレスを感じやすく、仕事を続けることに自信を失ってしまうこともあるでしょう。しかし精神障害や知的障害があっても、適切な支援を受ければ十分に活躍することも可能です。
まずは支援制度の種類や内容を知り、自分に合った方法を探すところから始めましょう。あまり身構えず、ぜひ気軽にサービスを利用してみてください。Kaienでもあなたに寄り添ったサポートで、就労までのプロセスをお手伝いいたします。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
現在のメンタルヘルスではヨーロッパ系のWHO(世界保健機構)の流れを汲むICDと、アメリカ系のAPA(アメリカ精神医学会)の流れを汲むDSMが、重要な診断基準となっています。
アメリカではDSMの第一版が発行される100年以上前に行われた1840年の国勢調査で、住民をidiocy (低知能) / insanity (狂気)の2分類で調査したのが、精神障害と知的障害の初めての統計調査と言われています。お分かりの通り、この調査は医学的裏付けがなく、人種差別にもつながったのでアメリカ統計学会に批判されました*。
その後の研究やDSM、ICDの更新によって精神障害は主に後天的、知的障害は先天的、というように独立した疾患と考えられてきましたが、発達障害の概念ができてから両者を二分するだけでは理解が難しくなってきました。自閉スペクトラム(連続体)や知的障害を日常生活への適応度で評価する試みなどは、両者の橋渡しを狙ったものと考えられます。
*ASDの森https://asd-autism.net/operational-diagnostic-criterion/history-until-the-first-issue-of-dsm/
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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