軽度知的障害とは?診断基準や困りごと、仕事に関する支援・福祉サービスを解説

HOME大人の発達障害Q&A診断・特性軽度知的障害とは?診断基準や困りごと、仕事に関する支援・福祉サービスを解説

軽度知的障害とは、知的能力や適応機能の発達に遅れがある状態を指します。軽度知的障害の方は、その特性が原因で仕事や日常生活で困りごとを抱えるケースが少なくありません。社会人になってからは、どんな仕事が自分に合うかわからず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、軽度知的障害の分類や無理のない働き方、就労に関する困りごとへの対処法などを解説します。軽度知的障害の方が利用できる就労支援サービスも紹介するので、ぜひ参考にしてください。

軽度知的障害とは

軽度知的障害とは、知的能力と適応機能の両面に発達の遅れが見られ、日常生活や社会生活に困難がある状態を指します。近年では障害という言葉に差別的な印象を持つ方が多いことから、アメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では知的発達症と呼ばれるようになってきています。

DSM-5では、精神遅滞は「知的能力障害(知的発達症)」という診断名で表記され、軽度・中度・重度・最重度の四段階に分類されます。発症率は一般人口の1%ほどです。

軽度知的障害は分類でいうと上記の「軽度」にあたり、社会生活に困難があるものの、家事などの身の回りのことはおおむね1人でできるといわれています。

軽度知的障害の診断と分類

知的障害の診断は、「知能指数(IQ)」と「日常生活への適応能力」の2つを総合的に見たうえで、こうした症状が発達期(18歳未満)にあらわれているかで判断します。知能指数を測る主な方法はウェクスラー式知能検査などが用いられ、「幼児用」「児童用」「成年用」などに分類された中から患者の年齢に合わせた方法を選びます。

知的障害は前述のとおり、「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの段階があり、その度合いは「日常生活能力水準」と「知能指数(IQ)」の程度をかけ合わせて判断します。明確に数値で判断できるものではないため、例えば知能指数(IQ)が基準より低くても、適応能力に一定の高さが見られる場合は軽度知的障害と診断されることもあります。

軽度知的障害と発達障害との関係性

発達障害*の方の中には、軽度知的障害などの知的障害が併存しているケースも少なくありません。両者は異なる障害ですが、DSM-5においてはどちらも同じ神経発達症群(神経発達障害群)に分類されています。

神経発達障害群の特性は併存するケースも多く、発達障害など他の特性が目立つ等の理由で見過ごされることも珍しくありません。症状だけ見て単純に障害を判断することは難しいので、自己判断せずに医療機関で適切な診断を受けましょう。

軽度知的障害の方の困りごと

軽度知的障害の方は、日常会話や動作をこなせるため早期発見が難しく、周囲から気付かれにくい傾向にあります。しかし当事者は日常生活で困難に直面することも少なくありません。二次障害を引き起こしたり、就労面でストレスを抱えるケースもままあります。適切な対処をとるためにも、軽度知的障害の方に多くみられる困りごとを見ていきましょう。

二次障害が起こりやすい

軽度知的障害の方は、幼少期から言葉の遅れや学習のつまづきなどが見られるものの、生活に必要なことはおおむね1人でできます。そのため幼少期は見過ごされやすく、適切な支援を受けずに大人になる方も少なくありません。

そのため大人になり社会に出てから、軽度知的障害の特性によって人間関係や就労環境で困難にぶつかり、そのストレスが原因で二次障害を引き起こす場合があります。

二次障害とは先天的にある特性による生きづらさやストレスにより、適応障害やうつ病といった精神疾患を発症することです。二次障害の症状を相談するために医療機関にかかり、軽度知的障害が判明するというケースも珍しくありません。

コミュニケーションが苦手

軽度知的障害の方の中には、集団での会話や抽象的な話の理解が難しいといった特性により、コミュニケーションが困難な場合があります。また、語彙が少ないため思っていることをうまく伝えられない、空気が読めないなどの困りごともよく見られます。

軽度知的障害の方は周囲とのコミュニケーションがうまく取れずに職場で孤立したり、指示を理解できずに仕事で失敗したりと、社会生活で困難に直面することが少なくありません。

こうしたコミュニケーションの困難さは訓練や経験によって補える部分も多いため、適切な支援につながれば十分対策が可能です。

就労面に不安がある

軽度知的障害には、前述したものの他に以下のような特性も見られます。

  • 読み書きが苦手
  • お金の計算や管理ができない
  • 業務内容の理解に時間がかかる
  • 臨機応変な対応ができない
  • 適切なタイミングでの報告・連絡・相談が困難
  • スケジュールやタスク管理が苦手
  • 空気が読めず職場のルールやマナーを理解できない

こうした特性は就労面でマイナスになることが多いため、周囲の理解や配慮がないと働きづらさを感じてしまうでしょう。しかし、無理なく働ける仕事を選んだり、後述する合理的配慮を職場で得たりできれば、ストレスの少ない状態で働くことが可能です。

軽度知的障害があっても働ける?

軽度知的障害は早期発見が難しいこともあり、大人になってから気付くケースが少なくありません。すでに一般雇用で働いている方も多いでしょう。

ストレスの少ない状態で無理なく働くためには、働き方の工夫や対処法を身に付けることが重要です。ここからは、無理なく働くためのコツやポイントをチェックしていきます。

就労形態の幅を広げる

一般雇用以外に障害者雇用や福祉的就労を視野に入れるなど、就労形態の幅を広げる工夫も大切です。

障害者雇用は、障害者手帳(軽度知的障害の方は療育手帳)の取得により可能になる働き方です。従業員が一定数を超える民間企業や自治体には、定められた割合で障害のある方を雇用する義務があります。障害者雇用の場合、採用の段階で自身の障害をオープンにする必要がありますが、その分業務内容や勤務時間、職場環境の配慮を受けやすくなります。

福祉的就労は就労継続支援とも呼ばれ、一般雇用や障害者雇用での就労が難しい場合でも働くことができる支援制度です。働く以外に職業訓練や生活支援、一般就労へのサポートも受けられます。

福祉的就労は、就労の困難度合いに応じて「A型」と「B型」の2種類に分かれています。

合理的配慮を求める

合理的配慮とは、障害のある方が社会生活の場に障害のない方と同等に参加できるよう、それぞれの特性や困りごとに合わせて行われる配慮のことです。2021年に改正された「障害者差別解消法」により、事業者は障害のある方に合理的配慮を求められた場合、2024年4月1日から提供が義務化されました。

軽度知的障害の方への合理的配慮の例は以下のとおりです。

  • 本人の習熟度を確認して業務量を調整する
  • 指示を口頭だけでなく紙に書いて渡す
  • 業務の急な変更を避けるなど

ひとくちに軽度知的障害の特性といっても個人差があるため、合理的配慮を求める場合は職場の上司や産業医などと相談し、自身に合った内容を決めましょう。

就労支援サービスを活用する

軽度知的障害の方が自分に合った仕事を探す際、国や自治体の就労支援サービスを活用する方法も有効です。

例えば地域障害者職業センターでは、障害のある方を対象に専門的な職業リハビリテーションを提供しています。さまざまなサポートや講習を通して基本的な労働習慣を身につけたり、職場でのコミュニケーション方法を学んだりします。

また就労移行支援は、障害のある方を対象に一般就業を目指したサポートを行う福祉サービスです。支援内容は「職業訓練」「就活支援」「定着支援」などが挙げられ、訓練から職場定着まで一貫したサポートが受けられます。

その他にも障害者就業・生活支援センターやハローワークなど、さまざまな支援機関があります。就労支援サービスは通いやすさや相性なども重要なので、まず自分の住んでいる地域でどんなサービスが受けられるのか、調べてみましょう。

軽度知的障害の方の仕事探しは就労移行支援がおすすめ

Kaienが実施する就労移行支援では、利用者の方のペースや特性に合わせ、無理なく前向きにプログラムを進めることを大切にしています。

職業訓練では、事務や伝統工芸、軽作業など、常時100種類以上の仕事が体験可能です。特性の困りごとに対処するためのカリキュラムも豊富で、電話対応やビジネスメールの書き方、業務中のメモ取りなど基本的なビジネススキルも習得できます。

就活サポートでは、Kaienが提携する障害に理解のある200以上の企業の求人をもとに、あなたに合う職場を見つけていきます。他事業所にはない独自求人の紹介も行っており、幅広い選択肢が魅力です。

就職活動はKaienの担当カウンセラーと二人三脚で行うため、サポートを受けながら無理なく進めていけます。就職した後も、生活上の問題や業務の悩みの解決に向け、スタッフが手厚く定着支援を行います。

Kaienでは無料で見学会や体験利用を随時実施しています。気になる方はぜひ、お気軽にご連絡ください。

困りごとには早めの適切なサポートを

軽度知的障害の方は一見問題なく日常の動作や会話をこなせるため早期発見が難しく、大人になってから特性に気付くというケースが少なくありません。一般雇用で働いている場合、軽度知的障害の特性から職場で困難を抱えることも多いでしょう。

一般就労で困りごとがある際は、就労形態を障害者雇用や福祉的就労に切り替える、就労支援サービスを活用するといった対処法が有効です。また、職場に合理的配慮を求めることで負担が軽減する可能性もあります。

無理のない就労を目指して、就労形態の変更や支援機関の利用を前向きに検討してみましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます


監修者コメント

軽度知的障害を持つ方への就労移行支援の発展は目覚ましいものがあり、自宅から職場へ電車通勤するなど社会の一員として生き生きと働いていらっしゃる患者さんを拝見します。

しかし、日本での知的障害者へのまなざしは、つい最近まで厳しい事実がありました。その一つである優生保護法は1996年まで存続し、知的障害を持つ方にも不妊手術が行われたのでした。

その中でクリスチャンの糸賀一雄は滋賀県庁の一公務員から、知的障害者に対する法律もなかった第二次大戦前後の混乱期に、湖南市に「近江学園」を設立し、知的障害児の教育に専念しました。のちに設立した「びわこ学園」は、東京の「島田療育園」に並ぶ東西を代表する重症心身障害児施設となりました。

さらに、糸賀は知的障害児に「この子らを世の光に」することを望みました。これは、新約聖書マタイによる福音書「あなたがたは世の光である」がモチーフです。同時に「発達保障」(児が発達する権利を、保護するのではなく保障する)という概念も唱えました。発達保証は、現代の発達障害者の権利を考える上でも、極めて先駆的な思想だったと思います。

現在の障害者援助は民間が参入し、分かりやすく利用しやすいモデルになったことは素晴らしいことです。しかし、その土台として神学・哲学を徹底的に考えた人たちが、時代に先鞭を付けたことを我々は銘記しておきましょう。


監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。