発達障害と運動音痴との関係とは?発達性協調運動障害(DCD)の特徴を解説

HOME大人の発達障害Q&A診断・特性発達障害と運動音痴との関係とは?発達性協調運動障害(DCD)の特徴を解説

「ただの運動音痴だと思っていたら発達障害*¹だった」といったケースは少なくありません。発達障害の一つに発達性協調運動障害(DCD)と呼ばれるものがあります。発達性協調運動障害では、縄跳びやスキップができないといった運動の苦手さのほか、お箸や鉛筆をうまく使えないといった動作の不器用さが見られます。

この記事では、発達性協調運動障害の特徴や実生活での困りごと、相談先について詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

発達障害と運動音痴の関係

発達障害と運動音痴の関係について解説します。そもそも発達障害とはどういったものか、また発達障害の一つであり、運動の不器用さを特徴とする発達性協調運動障害について、詳しく紹介します。

発達障害とは?

発達障害とは、脳の機能の発達に偏りがあるために、環境や人との関わりに困難を抱えやすく、日常生活や社会生活において支障が出る障害のことです。

発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。

発達障害の代表的なタイプには、例えば次のようなものがあります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):強いこだわりがある、人と関わることが苦手といった特性を持つ
  • 注意欠如多動症(ADHD):絶えず動き回り紛失やミスを繰り返すなど、多動性や不注意といった特性を持つ
  • 学習障害*²(LD):知的な遅れはないが、読み書き・計算が苦手といった特性を持つ

発達障害には、上記のようないくつかのタイプがありますが、それぞれのタイプに明確に分けることは難しいとされています。複数のタイプの症状が重複して現れることもあれば、それぞれのタイプの傾向は見られるものの診断基準には満たないグレーゾーンの場合も少なくありません。

また、年齢や環境によって目立つ症状が異なるケースもあるため、受診した時期によって診断が異なることもあります。

発達性協調運動障害(DCD)とは?

発達性協調運動障害(DCD)とは、発達障害の一つで、病気やケガもないのに、運動や動作のぎこちなさや不器用さが極めて目立つ障害のことです。

発達性協調運動障害の人が苦手とする運動や動作とは、スポーツや体育だけでなく、お箸を使ったり、服を着替えたり、姿勢を保ったりする日常の動作も含んだ協調運動をいいます。

協調運動とは、ある目的のために手足や目といった身体の複数部分をうまく協調させて行う運動のことです。例えば、食事をする際には、目でお箸とお茶碗を確認して、右手でお箸を、左手でお茶碗を持つというように、一つの目的のために身体の各部分の動きを協調させます。こうした運動を協調運動といいます。

発達性強調運動障害とは、脳の機能の問題により、この協調運動がうまくできず、日常生活に支障が出る障害のことを指します。

発達性協調運動障害(DCD)の特徴

発達性協調運動障害の特徴としては、先述の通り、運動が苦手であったり手先が不器用であったりと協調運動がうまくできないことが挙げられます。

ここでいう「運動が苦手」は、一般的なスポーツで必要とされる「持久力」や「瞬発力」がないことをいうのではありません。目的にそってうまく手と手、手と足、手と足と目などを連携して動かすことが困難な状態を指します。

具体的には下記のような特徴が見られます。

  • お箸をうまく使えない
  • 文字をうまく書けない
  • 洋服のボタンを留めるのに時間がかかる
  • 靴紐が結べない
  • スキップや片足ケンケンができない
  • 階段の上り下りがぎこちない
  • 自転車に乗れない
  • 飛んでくるボールをキャッチできない
  • サッカーボールをうまく蹴れない
  • 縄跳びが苦手
  • 転ぶときに手で支えずに顔から転ぶ

発達性協調運動障害(DCD)の人はどれくらいいる?

精神科で使われている米国精神医学会の診断基準DSM-5-TRによると、発達性協調運動障害である割合は子どもの約5%~8%といわれています。子どもが20人いれば1人以上が発達性協調運動障害である計算です。

他の発達障害のタイプと比較すると、注意欠如多動症(ADHD)である割合が約7.2%、自閉スペクトラム症(ASD)が約1%~2%であるため、有病率としては決して低くないといえます。

また、この協調運動障害は50%~70%の割合で青年期以降も継続するとされています。子どもの発達性協調運動障害の発生率が約5%~8%であることを踏まえると、単純計算で約2.5%~5.6%の割合で大人でも発生しているといえるでしょう。

発達性協調運動障害(DCD)は他の発達障害の併存率も高い

発達性協調運動障害は他の発達障害との併存率も高いといわれています。

例えば、先述の診断基準DSM-5-TRによると、自閉スペクトラム症(ASD)の約80%に発達性協調運動障害が見られるとされています。さらには、注意欠如多動症(ADHD)の約30%~50%、SLD(限局性学習障害)の約50%に、発達性協調運動障害の併存が見られるとのことです。

このように発達性協調運動障害は、他の発達障害と併存しているケースが多いといえるでしょう。

発達性協調運動障害(DCD)の困りごと

発達性協調運動障害であることで、生活において困りごとを抱えることも少なくありません。以下では、発育期ごとによく見られる困りごとの具体例について解説します。

乳児期

乳児期には、下記のような困りごとが見られるケースがよくあります。

  • ミルクをむせやすい
  • 食べこぼしが多い
  • うまく飲み込めない
  • 寝返りがうまくできない
  • ハイハイが遅い
  • 体幹が弱い

ミルクを飲んだり離乳食を食べたりといったことも協調運動のため、うまくできないといったケースが見られます。また体幹が弱いため、親に抱っこされたときに親に体重をかけてよりかかるといった傾向も見られます。

幼児期

幼児期には、下記のような困りごとが見られます。

  • 食べこぼしが多い
  • 歩行やお座りがうまくできない
  • 自転車に乗れない
  • すべり台やブランコで遊べない
  • ボタンやファスナーをかけられない
  • 折り紙ができない

幼児期の行動では、バランスが取れないため、背もたれのないところでうまく座れない、自転車にうまく乗れないといったことがあります。また、指先などがうまく動かせずに、ボタンやファスナーをうまくかけられない、折り紙ができないといったケースも少なくありません。

学童期

学童期には、下記のような困りごとが見られます。

  • 文字をうまく書けない
  • お箸がうまく使えない
  • ひもが結べない
  • 文房具や工作道具、実験道具をうまく使えない
  • 身支度に時間がかかる
  • 野球やサッカー、ドッジボールがうまくできない
  • 縄跳びができない
  • 体育全般が苦手

学校に通うようになると、文字を書くのが遅い、マス目に合わせてうまく書けない、字が極端に下手といったケースが見られます。手先の細かい作業として他にもお箸を使ったり、ひもを結んだりすることも苦手なケースが少なくありません。

またスポーツ面では球技において、うまくボールを受け止めたり投げたりできないといったこともよくあります。体育の授業でも、ぎこちない動きや不器用な動きを繰り返すため、運動音痴と捉えられてしまうケースも少なくないでしょう。

大人の発達性協調運動障害(DCD)の困りごととは?

大人の発達性協調運動障害の場合も、運動や動作のぎこちなさや不器用さからくる社会生活や日常生活での困りごとは多いといえます。

具体的には下記のような困りごとが挙げられます。

  • パソコンのタイピングが苦手
  • 板書ができない
  • ひげ剃りや化粧など身だしなみを整える作業が苦手
  • 料理や家事がうまくできない
  • 自動車の運転ができない
  • 工作・制作作業が苦手
  • 細かい手作業がうまくできない

上記以外でも、子どもから大人になるにつれ、二次障害としてうつ病や不安障害、不眠症、強迫性障害などを引き起こすことも少なくありません。

なお、日本では使用されていないものの、海外で妥当性の高い発達性協調運動障害の評価リストとされている「成人用の評価リスト(ADC)」というものがあります。この中には、発達性協調運動障害の人が抱えがちな問題が質問項目として挙げられています。

【ADCの質問項目の例:子ども時代を振り返っての質問】

  • 生活準備:靴紐、ボタン、ジッパーに時間がかかる。
  • 食べこぼしがある。
  • 自転車の乗り方を覚えにくかった。
  • 球技のチームプレーが苦手だった。
  • きれいに字を書くのが苦手だった。
  • 同級生と同じ速さで字を書けない。
  • 物にぶつかったりつまずいたりしやすい。
  • 演奏が難しい。
  • 部屋の整理ができない。
  • ほかの人に不器用さを指摘されたことがある。

上記のような困りごとも、発達性協調障害の人は経験している傾向にあるといえるでしょう。

発達性協調運動障害(DCD)の診断と相談先

発達性協調運動障害かもしれないと思った場合に、診断や相談を依頼する先としては、医師や地域の保健センター、スクールカウンセラーなどさまざまあります。

注意したいのは、発達性協調運動障害は日本ではまだ認知度が低いため、たとえ医師やカウンセラーでも、発達性協調運動障害についての知見や診断・相談経験がない人が多いことです。なかなか障害に理解のある相談先に出会えない場合は、一ヶ所にこだわらず、複数あたってみるのがよいでしょう。

診断・相談先には次のようなものがあります。

保健センター

市区町村にある保健センターは、地域住民に健康相談や健康診断などの保健サービスを提供する公的な機関です。子育てについての健康相談ができます。

子育て支援センター

子育て支援センターも市区町村にある公的な施設で、乳幼児の子どもとその親が交流を深める場所であるほか、子育ての悩みも相談できます。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害児や発達障害者への支援を医療、福祉、教育、労働など総合的に行う公的な専門機関です。発達障害についての相談が可能です。

発達外来

発達外来とは、発達の遅れが見られる子どもを対象に診断や治療などを専門に行う外来です。運動発達や言葉の遅れなど、さまざまな発達に関する相談が可能です。

専門医のいる大学病院や総合病院

発達性協調運動障害は、小児科だけでは適切な診断ができないこともあります。大学病院などの総合病院では、小児科と神経科など複数領域から診断を行ってもらえます。

発達性協調運動障害(DCD)でお困りの人は合理的配慮を受けることができる

発達性協調運動障害(DCD)でお困りの人は、合理的配慮を受けることも可能です。

合理的配慮とは、障害のある人にとって、社会生活を送るうえで障壁となっていることがあればそれを取り除くように調整し、障害のない人と同様に人権が保証されるようにすることです。

合理的配慮は、法令によって役所やあらゆる事業所に提供が義務付けられています。そのため、医療機関を受診し障害があるとの診断が出れば、学校や事業所などに合理的配慮を求めることができます。

例えば下記のような合理的配慮を求めることが可能です。

【合理的配慮の具体例】

  • 黒板に書かれた内容を書き写すことが困難なため、板書の内容を印刷物で配布してもらう、あるいは、スマートフォンやタブレット端末で撮影することを認めてもらう。
  • 音楽の授業でのリコーダーの演奏に困難があるため、演奏課題について個別の配慮をしてもらう。

なお、発達性協調運動障害の場合、周囲と同じようにできることを目指す必要はないといえます。周囲と比べることで、自信を失ってしまったり、過小評価を受けていじめられたりして、二次障害を引き起こしかねません。できないことについては、配慮や支援をうまく活用しながら社会で自由を享受していくことが大切といえます。

発達性協調運動障害(DCD)について理解を深めよう

発達性協調運動障害は、脳の機能の発達の問題で、運動や動作に不器用さやぎこちなさが生じる障害です。単なる運動音痴と見すごすことなく、適切に障害と診断されることで、合理的配慮や支援を受けることも可能です。

発達性協調運動障害についての日本における認知度は、まだ低いといえますが、理解を深めていくことが重要といえるでしょう。正しく理解をして、必要な配慮や支援を受けることが、不自由のない生活を送るためにも大切です。

発達性協調運動障害について下記動画でも詳しく紹介しておりますので、ぜひご参考下さい。

極端な【ぎこちなさ】【不器用】【運動オンチ】は発達障害かもしれません 医師に聞く『発達性協調運動障害(DCD)』

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます。