場面緘黙(ばめんかんもく)とは、特定の場面でのみ会話ができない症状のことをいいます。例えば、「家では普通に話すのに、職場や学校では全く話せない」といった症状が典型例といえるでしょう。会話が困難になることから、仕事に支障をきたしてしまう方も少なくありません。
この記事では、場面緘黙の症状や原因、仕事上の工夫や対処法などを詳しく解説します。また場面緘黙は国の支援対象となっているため、利用できる福祉支援制度についても紹介します。場面緘黙でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
大人の場面緘黙(ばめんかんもく)とは
緘黙とは、話せる能力があるのにも関わらず、言葉を発せなくなってしまう症状のことです。緘黙には「全緘黙」と「場面緘黙」の2種類があります。
全緘黙は、日常生活をとおしてすべての場面で話ができない症状です。一方、場面緘黙は特定のときだけ話せなくなってしまうことをいいます。「家では普通に会話ができるのに、学校や職場では話せない」といった症状は、選択性緘黙とも呼ばれていました。
しかし「選択性緘黙」という名称は、当人があたかも「話さないことを選んでいる」という誤解を招く可能性があったため、アメリカ精神医学会の最新の診断基準であるDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、「場面緘黙」が正式な診断名となっています。
場面緘黙は人見知りなど性格によるものとは異なる
「家では話せるのに学校や職場では話せない」という場面緘黙の症状は、人見知りなど性格によるものだと勘違いされやすいのですが、そうではありません。緘黙の特徴は、症状が何ヶ月から何年と長期的に続き、緊張や人見知りをしないようなシーンでも話せなくなってしまうことです。
緘黙は5〜6歳前後に発覚することが多いのですが、小学生や中学生になってから症状が表れることもあります。緘黙は社会生活に大きな影響を与えるため、早期に発見して適切な治療と支援を行うことが大切です。
緘黙を性格によるものだと判断してしまうと、適切な治療や支援が行えません。「特定の場所だけ黙り込んでしまう」などの症状が見られる場合は、早めの対応が必要です。
場面緘黙の現状と課題
早めの対応が必要とはいえ、場面緘黙の場合、「治療が必要」と認識されないことが多いといえるでしょう。人見知りなどの性格と場面緘黙とを見きわめることが難しいことや、困っているように見えたり問題を起こしたりすることもないため、見過ごされているケースも少なくないでしょう。
場面緘黙の認知度はまだ低いといえ、日本の場面緘黙の研究や支援制度も、欧米などと比べて遅れているのが現状です。場面緘黙に接する学校教育の現場にも十分な情報が行き渡っているとはいえないでしょう。
大人の場面緘黙の症状
緘黙は子どもだけでなく大人にも表れる症状です。大人の場面緘黙は特に職場で表れやすいといわれており、具体的な症状には以下のようなものがあります。
- のどが圧迫されるような感覚で声が出ない
- 質問したいことがあるのに上司や同僚に話しかけられない
- 話しかけられたときにすぐに答えられない
- あいさつや雑談ができない
- 会議や打ち合わせで発言できない
- プレゼンのように大勢の前で話すのがつらい
- 周囲の視線が気になって集中できない など
このように、大人の場面緘黙は業務上必要なコミュニケーションに支障が出ることから、会社に居づらい状況になってしまうことも少なくありません。
場面緘黙の原因
場面緘黙の原因ははっきりしておらず、特定の要因だけでなくさまざまな要因によるものだといわれています。原因として考えられているのは、本人の気質によるものと環境要因の大きく2種類です。
本人の気質とは、「緊張しやすい」「不安を感じやすい」といったものです。また、言葉の発達の遅れや吃音、知的障害なども影響することがあるといわれています。
環境要因には、入園や入学、引っ越しなどの急激な環境変化などが該当します。また、「あまり会話をしなくても過ごせる」「あまり話さない子だと思われている」のように、話す機会が少ない環境も場面緘黙の原因となります。
場面緘黙の発症率と発症年齢
緘黙の発症率は調査によって数値にばらつきがありますが、おおむね0.03%から1%であると報告されています。これは、数百人に1人の割合で発症する計算になります。この数字を見ると、緘黙は決してめずらしいものではないことがわかるでしょう。
場面緘黙の多くは、2〜6歳ごろに発症します。保育園や幼稚園など家庭以外の場所で過ごす機会が増えることで、「家以外の場所で話せない」という症状が発覚するケースが多いです。
場面緘黙と発達障害の関係性
場面緘黙の症状がある方のなかには発達障害*の特性が見られることがあり、緘黙と自閉スペクトラム症(ASD)を併存している方が多いという研究結果もあります。そのため、場面緘黙と発達障害には関係があるといえるでしょう。
ただし、発達障害の方すべてに緘黙の症状が表れるわけではありません。また、緘黙の症状があるからといって発達障害であるとはいえません。
発達障害の特性で話すのが苦手な方もいますが、これは緘黙とは異なります。場面緘黙の診断には専門的な検査が必要で、「家以外の場所で話さない」という症状だけでは判断できません。
場面緘黙の診断基準
場面緘黙の診断には、先述したDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)を用います。DSM-5-TRでは、場面緘黙は不安症群に分類され、以下の5項目を満たす場合に場面緘黙であると診断されます。
- 他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において話すことが一貫してできない。
- その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
- その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月 (学校の最初の1ヶ月だけに限定されない) である。
- 話すことができないことは、その社会的状況で要求される話し言葉の知識や、言語に感じる快適さの不足によるものではない。
- その障害はコミュニケーション症 (例:小児期発症流暢症) ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神症の経過中にのみ起こるものではない。
この基準に基づくと、「人見知りなど性格によるもの」「反抗でわざと話さない」といったケースを除外でき、「特定の場所でだけ話すことができない」という場面緘黙を診断できます。
改訂前のDSM-5から、場面緘黙の診断基準に大きな変更はありません。両者の異なる点としては、DSM-5では場面緘黙の方が知的障害、自閉スペクトラム症であった場合、そちらが優位の診断となりましたが、DSM-5-TRではこの限りではありません。
また、WHO(世界保健機関)のICD-11(国際疾病分類)において、場面緘黙は情緒障害に含まれます。診断基準は、DSM-5-TRと大きな違いはありませんが、吃音などの言語症は併存症の表記が可能となりました。
場面緘黙と混同されやすい疾患
場面緘黙と似た症状が出て、場面緘黙と混同されやすい疾患として以下のようなものがあります。
- 全緘黙:どのような場面でも話すことができない症状
- トラウマ性緘黙:強くショックを受ける出来事によって、急に生じる全緘黙の症状
- 社交不安障害:人前で話すことに対して強い緊張や不安を感じる不安障害の一種
- 吃音:円滑に話すことが難しい発話障害の一種
- 失声症:突然声が出なくなる症状
これらは「話せない」という共通点はあるものの、細かい症状や原因はそれぞれ異なります。
場面緘黙の治療
場面緘黙は社会生活に支障をきたすため、治療も検討しましょう。場面緘黙の治療方法として、次の3つがあります。
- 精神療法
- 言語聴覚士による支援・サポート
- 薬物療法
それぞれの治療法について、以下で解説します。
精神療法
場面緘黙の治療法のひとつが、話すことに対する不安を軽減する精神療法です。例えば、自分の考えていることや行動のクセなどを把握したうえで、どうすれば症状がよくなるのかを整理してストレスや不安を和らげる認知行動療法があります。
話すことに対する緊張や不安によって場面緘黙が起きていることがあるため、それを取り除くための精神療法によって症状が和らぐ可能性があります。
言語聴覚士による支援・サポート
言語聴覚士は言葉によるコミュニケーションや聴覚に関する問題に対して、身体機能の面からアプローチを行う専門家です。
場面緘黙や失語症、言葉の発達の遅れなどの症状を抱える方への支援やサポートが主な仕事で、一人ひとりが抱える問題について検査や評価を実施し、必要に応じて訓練や指導、助言をしてくれます。
言語聴覚士はプロなので、「記号やジェスチャーなど、言葉以外のコミュニケーションの仕組みを作る」「不安を感じさせないように話すことを強要しない」など、場面緘黙の方への負担を抑えながら、一人ひとりに合わせた対応をしてもらえるでしょう。
薬物療法
極度の不安・緊張の緩和や、うつ症状・不安症状の軽減のために、薬物療法が行われるケースもあります。話すことに対して強いストレスや不安を感じる方は、薬物療法によって症状が和らぐかもしれません。
しかし、薬物療法はあくまでもうつ状態や不安症状に対する治療で、場面緘黙そのものに対する治療効果はありません。
場面緘黙の方の仕事での困りごと
場面緘黙の方の仕事での困りごととして、以下が挙げられます。
- 上司や同僚からの質問に声を出して答えられない
- わからないことがあっても質問できない
- 会議での発言が困難
- 休憩中の雑談に参加できない
- 注目された状況下で書類提出などの動作ができない
場面緘黙の症状は話せなくなるだけではありません。話せなくなることと併せて身体が思うように動かせなくなる「緘動」を伴う場合があります。そのため、取引先との会議中といった注目される場面では簡単な動作でも難しくなるなど、声を出す以外の困りごとも抱えがちです。こうした困難によって、仕事を続けることが難しくなるケースも少なくありません。
仕事や日常生活でできる工夫と対策
場面緘黙の方が仕事や日常生活でできる工夫や対策として、自分の特性の理解や適切な支援の活用、仕事場での合理的配慮の要請などが挙げられます。場面緘黙の特性について周囲に伝えることで、理解を得られる場合もあるでしょう。困りごとを軽減するには、自分1人で解決しようとせずに、周りのサポートを受けることも大切です。
ここからは、場面緘黙の方が仕事や日常生活でできる工夫や対策を詳しく解説します。
自分の特性を理解する
まずは自分の特性を理解することが大切です。場面緘黙といっても、どのような状況や場面において、どの程度の緘黙の症状が出るのかは人によってさまざまです。
まずは自分の特性を知ることから始めます。特性を深掘りするには、例えば、仕事で話せないのは具体的にどのような状況の時なのか、どういった人と関わる時なのかなど、メモなどに書き留めるとよいでしょう。
反対に、「仕事で話せない」といっても、こういう状況やこういう人であれば話せるといったことがあればそれもピックアップします。
自分の特性を掘り下げて知ることで、克服できることできないことなどがクリアになっていくでしょう。
特性について周囲に伝える
自分の特性を把握したら、必要に応じて周囲に伝えるようにしましょう。普段、場面緘黙のため、うまくコミュニケーションが取れずに困っているような場面や状況があれば、その場面に関わる人に理解してもらえるように伝えます。
伝え方は直接その場で伝えなくとも、職場の上司や話しやすい同僚を経由して伝えるとよいでしょう。伝えるのは言葉でなくとも、メールやチャット、あるいは、配慮してほしい情報を主治医に診断書にまとめてもらって提出するといった方法もあります。
円滑にコミュニケーションが取れる環境を作っていくためにも、そうした方法で周囲の人に伝えていくようにしましょう。
合理的配慮を求める
合理的配慮とは、障害のある方が平等に社会生活を送れるよう、教育や就業の場でそれぞれの特性や困りごとに合わせて行われる配慮のことです。2024年4月1日から、事業者は障害のある方への合理的配慮の提供が義務化されました。
場面緘黙に対する合理的配慮の例として、以下が挙げられます。
- メールやメモなど筆談でやりとりしてもらう
- 会話補助装置などの導入
- 発話が前提となる業務から外してもらう
- 1人で落ち着いて作業ができるスペースの確保
場面緘黙の方が負担少なく働けるよう、産業医や主治医、福祉機関などが連携してサポート体制を確立することも大切です。
適切な支援を活用する
場面緘黙により仕事に支障が出ている場合、国や自治体の支援制度を活用する方法もあります。場面緘黙は医学的には「不安症群」に分類されていますが、法律では「発達障害者支援法」の支援対象に含まれています。そのため、関連した国のさまざまな支援制度の利用が可能です。
場面緘黙の方が利用できる支援制度には、自立訓練(生活訓練)や就労移行支援、自立支援医療などが挙げられます。こうした支援の活用は、場面緘黙の方の負担軽減に有効です。
場面緘黙の方の仕事選びのポイント
場面緘黙の方の個性もスキルもさまざまですが、仕事選びでは「特定の場面で話せなくなる」ことがネックとならない仕事を選ぶことがポイントといえるでしょう。
具体的には人と会話を交わすことが少なく、自分のペースで進められる下記のような仕事が比較的取り組みやすいといえるでしょう。
- エンジニア
- プログラマー
- Webサイト制作
- 警備員
- 工場・倉庫作業員
- 清掃員
- イラストレーター、漫画家、アニメーター
- 作家
- 新聞配達 など
人と話す機会が比較的少ないため、ストレスや不安を避けやすいといえます
場面緘黙の方が受けられる支援
場面緘黙は、「発達障害者支援法」の支援対象となっています。そのため、以下のような国の支援制度を活用できます。
- 自立訓練(生活訓練)
- 就労移行支援
- 精神障害者保健福祉手帳
- 自立支援医療
それぞれの支援制度について以下で紹介するので、必要に応じて活用を検討してみましょう。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるように、訓練・支援を行う場です。自立訓練(生活訓練)では、食事や生活リズムなど自立した生活を送るために必要なスキルを学ぶことができます。
自立訓練(生活訓練)は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つであり、65歳未満の方が対象となります。サービスの利用には医師の診断が必要となりますが、障害者手帳を持っていなくても利用可能です。
就労や自立に具体的なイメージがなく、ゆっくりと自己理解を深めたいと考えている方や、生活基礎力を高めたい方などは、自立訓練(生活訓練)の利用も検討してみると良いでしょう。
就労移行支援
就労移行支援は就労を希望する障害のある方を支援する制度で、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」の大きく3つのステップが用意されています。
職業訓練は、就労移行支援事業所に定期的に通い、働くために必要なスキルやマナーを身につけるためのプログラムです。障害の特性やこれまでの経験が一人ひとり異なるため、個別支援計画書を作成してそれぞれに合った取り組みを進めます。
就活支援では、求人の選び方や自己PRの仕方などの指導によって、企業に就職するまでのサポートをしてくれます。就労が開始したあとも、仕事や職場に関する相談や職場との橋渡しなど、その職場で長く働けるよう定着支援も受けられるので安心です。
場面緘黙によって企業への就職に困っている方は、この就労移行支援の活用も検討してみましょう。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)
障害者手帳の1つである、精神障害者保健福祉手帳は、統合失調症やうつ、発達障害などによって長期にわたって日常生活や社会生活に制約がある方を対象とした手帳です。制約の度合いに応じて、1級・2級・3級の3つの等級があります。
手帳を受けるためには、精神障害による初診日から6ヶ月以上経過している必要があるため、該当の障害について医療機関による診断を受けておかなければなりません。
障害者手帳を持っていると、公共料金の割引や各種税金の控除、生活福祉資金の貸付など、経済的な支援やサービスが受けられます。
手帳の交付を希望する方は、申請書や医療機関の診断書など必要書類を用意して、お住まいの地域の担当窓口に申請しましょう。どの等級になるかは、審査によって決まります。
自立支援医療
自立支援医療は、場面緘黙などの精神疾患を治療するためにかかる医療費の自己負担が、3割から1割に軽減される制度です。自立支援医療の対象は、以下の3つです。
- 精神通院医療:精神疾患の治療
- 更生医療:身体障害の治療
- 育成治療:身体障害がある子どもの治療
場面緘黙だけでなくすべての精神疾患が対象で、継続して通院・治療している方はこの制度を利用することで治療にかかる経済的負担を軽くできます。経済的な負担が減れば、安心して治療に専念できるでしょう。
ただし、「都道府県が定める指定医療機関でしか利用できない」「1年ごとに更新が必要」といった点に注意が必要です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienでは、自立訓練(生活訓練)を実施しています。Kaienの自立支援(生活訓練)では、これまで行った数千人の支援をもとに、自立に必要なスキルを厳選してプログラムに落とし込んでいるのが特徴です。
プログラムには生活やコミュニケーションなどのソーシャルスキルの習得を目指した講座や、講座で学んだ内容を2~8週間かけて実践するプロジェクトなどがあります。また、将来に向けて利用者の方の強みを探す1対1のカウンセリングも実施しています。自分の特性を理解し、無理なく自立生活を送れるよう、生活リズムの改善から進路の選び方まで、Kaienのスタッフが親身にサポートするので安心です。
無料の見学会や体験利用も随時開催しているので、ぜひお気軽にご連絡ください。
Kaienの就労移行支援
Kaienでは就労移行支援も行っています。就労移行支援では、職業訓練や就活サポート、就職後の定着支援などを通して、一般就労を目指します。
カリキュラムでは、電話対応やメモの取り方などの基本的なビジネススキルを習得できるほか、特性に対する困りごとへの対処法を学ぶプログラムも充実しています。また、常時100種類以上の実践的な職業訓練も実施しているので、就職した後のイメージもわきやすいでしょう。
またKaienは、障害に理解のある200社以上の企業と提携しています。就活サポートでは提携企業の求人や他事業所にはない独自求人を中心に、あなたに合った職場を探していきます。就職した後も、業務や生活の悩みの解決に向けて、Kaienのスタッフが親身に定着支援を行っていることも強みです。
就労移行支援も自立訓練(生活訓練)同様、無料の見学会や体験利用、個別相談を随時受け付けています。興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
大人の場面緘黙は支援制度の利用も検討してみよう
緘黙とは話ができる能力があるにもかかわらず、話せなくなってしまう症状のことです。緘黙は子どもだけでなく大人にもあらわれる症状で、大人の場合は仕事に支障が出てしまうケースが少なくありません。
緘黙は人見知りなど性格によるものと判断されてしまうケースがありますが、そうではありません。緘黙は早期に症状に気づき、適切な治療やサポートを受けることが大切です。就労移行支援などの支援機関では、場面緘黙の特性を理解した企業への就職活動のサポートを行っています。
緘黙は発達障害者支援法の支援対象で、利用できる国の支援も多くあります。緘黙でお困りの方は、医療機関や支援機関に相談してみましょう。今後の治療や福祉制度の利用について、必要な情報を提供してもらえるでしょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
緘黙は、多くの人が考える以上に頻度が高いです。特に話す能力はちゃんとあるのに場面、状況によって話すことができない、場面緘黙はアメリカでは140人に1人と言われています。ただ、正直治療は難しい。緘黙の専門家というのはなかなか居ず、小児科や精神科医が診ることがほとんどです。記事にある通り、幼少期に発症することが多く、長く付き合う必要はあります。私の患者さんでは2歳から、という方を経験しています。それでも特定状況が不安になるからこそ緘黙の状態になるという理解があり、そういう意味では本人が安心できる環境構築が大事になります。You Tubeに投稿されていたある体験者(アメリカ人)の動画によると、「物理的(肉体的)に声が出ないような感覚」があったそうです。明らかに何らかの神経学的な現象が脳内には起きており、決して「気持ち的に頑張る」だけではどこでも話せるようにならないのは明らかです。日本では余り薬物療法が試みられませんが、不安がベースにある場合など、SSRIのような抗うつ薬に期待することもできます。付き合いは長いのですが、そういった服薬による治療も役立つことがあるかもしれません。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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