こだわりの強さによって仕事に支障をきたしている場合、ASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害*が原因となっているケースがあります。近年では、社会人になってから仕事や人間関係に困難を感じて診断を受ける「大人のASD」も少なくありません。
この記事では、こだわりが強い特性を持つ傾向にある、ASDについて解説します。こだわり以外によく現れる特性や診断を受けられる場所、相談先・支援先などを紹介しているので、こだわりの強さによって働きづらさを感じている人は、ぜひチェックしてみてくださいね。
こだわりが強い特性がある障害とは?
こだわりが強い特性がある障害として、ASDがあります。ASDはコミュニケーションや対人関係に難しさを感じ、強いこだわりや特定の分野に強い興味を持つという特性がある発達障害です。
ASDの方が持つこだわりの強さは、次のような困りごとを引き起こすことがあります。
- 自分なりのルールやこだわりがあり、それが破られるとイライラする
- 興味のある分野が限定的で、好きなことには時間を忘れて没頭してしまう
- こだわりが強い分野以外については作業が疎かになってしまう など
こだわりの強さが、仕事や人間関係に影響を及ぼすことも珍しくありません。例えば「仕事を忘れてゲームに打ち込んでしまった」「細かい部分にこだわり過ぎて仕事が遅れてしまった」といったケースです。
また、ASDはADHD(注意欠如多動症)と特性が似ている部分があり、ASDとADHDを併せ持つ人も多くいます。
こだわり以外のASDの方の特性
ADSには、こだわり以外に「対人関係が苦手」「感覚過敏がある」という特性もあります。ここでは、こだわり以外にASDの方が持っている特性について見ていきましょう。
対人関係が苦手
ASDの方は、対人関係が苦手な傾向にあります。具体的には、次のようなケースです。
- 相手の立場に立って考えるのが苦手
- 人に言われたことを言葉どおりに受け取ってしまう
- 「多めに」「早めに」などのニュアンスが理解できない
- 自分の考えを表現するのが苦手 など
このような特性があるため、ASDの方は職場で「空気が読めない」「話が通じない」と思われてしまうことも少なくありません。人間関係で摩擦を生みやすく、職場での居心地の悪さを感じている人も多いでしょう。
感覚過敏がある
感覚過敏があるASDの方も多くいます。感覚過敏とは、外部からの刺激に対して感覚が強く反応してしまう特性です。主に視覚・聴覚・嗅覚・味覚・聴覚の五感や平衡感覚が過敏に反応します。
具体的には、次のようなケースです。
- パソコンの画面や室内の照明がとてもまぶしく感じる
- ちょっとした物音もうるさいと感じる
- 衣服のタグが気になる
- 特定のにおいが苦手で気持ち悪くなってしまう など
他の人は何とも思わないような刺激に反応してしまうため、職場環境によっては働くのが苦痛になってしまう人もいます。
感覚過敏については、以下の記事で詳しく解説しています。上記のような感覚過敏の特性に心当たりがある人は、ぜひこちらの記事もチェックしてみてください。
大人のASDは二次障害にも注意が必要
こだわりの強さや対人関係の問題で、ASDの方は職場から孤立してしまう傾向にあります。
ASDの特性に合ったサポートが受けられない職場や、自分の特性に合わない環境で働き続けるのはストレスが大きく、その結果うつ病やパニック障害、引きこもりなどにつながるケースも少なくありません。
このように、発達障害の特性によって生じる負担やストレスが精神疾患などを引き起こすことを、二次障害と呼んでいます。働きづらさを感じているASDの方は、この二次障害にも注意しなければなりません。
ASDの方が抱えているよくある困りごとや対処法については、以下の記事でも詳しく紹介しています。こちらの記事も、ぜひ参考にしてみてください。
大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)
ASDの診断はどこでできる?治療法はある?
ASDは、精神科や心療内科など専門医のいる医療機関で診断が受けられます。各種診断基準や心理検査などを併用し、専門医による問診を踏まえて診断が行われます。
ASDと診断されたとしても、専用の治療薬はありません。ASDと診断された場合、医師や臨床心理士といった専門家のアドバイスのもと、対処法を学びます。
具体的には、自分の特性を理解して困りごとへの対処や回避の方法を身につけることです。対処法を知ることで、状況が改善していくケースも少なくありません。もし、こだわりの強さによって困りごとに直面していて、先ほど紹介したようなASDの特性に当てはまるものがあるなら、一度医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。
大人のASDの相談先・支援機関
大人のASDに関する相談先や支援機関は複数あるので、仕事や就職に関して困りごとを抱えている人は次のような機関に相談してみましょう。
- ハローワーク
- 障害者職業センター
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所
これらの相談先・支援機関について、以下で解説します。
ハローワーク
ハローワークでは、障害を持つ人の就職活動を支援する窓口を用意しています。障害について専門的な知識を持つ職員が在籍しているので、ASDの特性を理解した上で適切な就職支援が受けられます。一般雇用と障害者雇用の両方を扱っているため、自分に合った働き方ができる職場を見つけやすいでしょう。
ハローワークの障害を持つ方向けの窓口では求人の紹介だけでなく、その人に合った求人の提出を企業に依頼したり、採用面接に同行したりもしています。仕事に関するさまざまな相談を受け付けていて、必要に応じて別の支援機関とも連携しながら対応してもらえます。
障害者職業センター
障害者職業センターは、障害者雇用促進法に基づいて専門的な職業リハビリテーションを実施する機関です。具体的には、それぞれの希望をヒアリングして職業リハビリテーションの計画を立てたり、作業体験や訓練によって働くために必要なスキルを身につけたりできます。
ハローワークと連携していて、職業リハビリテーションが順調に進めばハローワークによる職業紹介への移行も可能です。また、障害を持つ人が働きやすい環境を整えるため、職場にジョブコーチを派遣する取り組みも行っています。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、子どもから大人まで発達障害を持つ人へ総合的な支援を行うための専門機関です。発達障害を持つ人やその家族からのさまざまな相談に応じ、医療や教育、労働などの関連機関と連携しながら必要な指導や助言を行っています。
就労を希望する人に対しては、ハローワークや地域障害者職業センターなどと連携して情報提供を実施しています。必要に応じてセンターのスタッフが職場を訪問し、特性や働き方に関する助言を行ったり、作業内容や職場環境の調整をしたりすることもあります。
就労移行支援
就労移行支援は障害を持つ人が一般企業への就職を目指す際に利用できるサービスで、事業所内作業などの職業訓練や、求人の紹介などの就活支援が受けられます。就職後には、その職場で長く働けるようスタッフが職場に訪問して相談や調整を行う定着支援も実施しています。
就労移行支援の利用者のなかには、「仕事でうまくいかないことが多く離職した後、発達障害であることがわかった」という人も少なくありません。職業訓練では「周囲への声のかけ方」「自分の特性に合った職種は何か」などを学びながら、次の就職を目指せます。
自立訓練(生活訓練)
就職活動を始める際、「生活の基盤づくりから始めたい」という人もいるでしょう。その場合は、自立訓練(生活訓練)の利用を検討してみてください。自立訓練(生活訓練)は、障害を持つ人が自立した生活を送れるよう支援するサービスです。
状況や目的に応じて適した障害福祉サービスが変わるため、利用する制度に迷う人は地域の障害福祉窓口に相談するのもおすすめです。
自身の特性を理解し、対処法を身につけよう
こだわりの強さによって働きづらさを感じている人は、ASDの可能性があります。もちろんこだわりが強い全ての人がASDというわけではありませんが、強いストレスや負担を感じる人は医療機関の受診を検討してみましょう。診断を受けて対処法を学ぶことで、状況が大きく改善するケースもあります。
大人のASDについては、ハローワークや就労移行支援事業所など各専門機関で相談を受け付けています。自分の特性に合った職場を探したい人は、ぜひ活用してください。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)の利用を検討している人は、ぜひKaienにご相談ください。Kaienでは発達障害の強みを活かした就労移行支援や自立訓練(生活訓練)を実施しています。見学・個別相談会も行っているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
発達障害、特にASDの方に見られるこだわりでは、特定の物や現象に強く執着して同じ行動パターンを繰り返す様子が見られます。ある青年は、幼少期に見たアニメーションを大変気に入って、成人になった後も定時に会社から帰宅してそのアニメが放送されるのを楽しみにしています。ある女性は、ファッション誌で見た英語のスラング(four-letter wordsと言って、公共の場では憚れる単語です)のついたTシャツに感激し、意味も良く調べずほとんど毎日スラングの書かれたTシャツを着ています。
このようにASDに見られるこだわりは、社会通念ではコンセンサスを得られにくい事柄について繰り返し同じパターンを取る常同行為と言えるでしょう。それでは、社会通念でコンセンサスを得られる事柄とは何か?という問題が浮上します。会社帰りに決まって行きつけの居酒屋に行って、一杯引っかけてから帰るサラリーマンもこだわりがあると言えますし、ほぼ毎日同じ居酒屋で飲むのであれば常同行為とも言えそうです。
しかし、私たち精神科医はこだわりをもう少し広い視野で観察します。すなわち、こだわりよりも個人間のコミュニケーションを優先しているようであればASDらしい、個人間のコミュニケーションをこだわりよりも優先しているようであればASDらしくないという重みづけをします。先ほどのサラリーマンであれば、家では家族関係を大切にするでしょうし、いくら同じ居酒屋に行くのが日課だからと言って、重要な商談があればそちらを優先するでしょう。これに対してASDの青年は仕事よりアニメを観るのを優先して帰宅する、女性は友人関係より危険なスラングが書かれたTシャツを着続けるのを優先するなど、やはり人より物・事象に執着するところが大きな違いと言えます。
「こだわり」という言葉だけにとらわれると、誰でもASDのように見えますが、次元を一つ上げてその患者さんが人との関係を大切にしているか、それとも物を大切にしているか、を観察することが我々臨床家に必須な能力なのです。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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