他人の行動が気になるのは病気のせい?社交不安障害の人の特徴や原因、治療法を解説

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誰でも人からの評価や他人の目を気にすることはありますが、それが生活に影響を及ぼすほどであれば病気や特性が影響している可能性があります。社交不安障害など該当する病気の特徴を知り、当てはまる場合は病院で診断を受け、適切な治療をしなければなりません。

本記事では、社交不安障害の原因や治療法、他人の行動が気になる人に関連する病気などを紹介します。特性と付き合いながら仕事を続ける方法についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

社交不安障害(SAD)とは

社交不安障害(SAD)とは、人前で注目されたり恥をかいたりすることを極端に恐れる病気です。現在は「社交不安症」といわれることもあり、かつては他人を恐れる傾向があることから対人恐怖症とも呼ばれていました。何種類かある不安障害の中でも、特に他人と関わる場面で強い不安を感じるのが特徴です。

社交不安障害の方は、注目を浴びたり大勢の前で話したりする場面で強い苦痛を感じ、動悸や手足の震えといった症状が出ます。発症要因として、他者からネガティブな評価を受けるなどのきっかけで、人前で不安や緊張を感じるようになることが挙げられます。

一度こうした症状が起こると恐怖を感じることはおかしいと思いつつも、今度は人前で過度に緊張すること自体に不安を覚えるようになり、人との関わりを避けようとする傾向が見られます。

社交不安障害の原因

完全に解明されたわけではありませんが、不安を感じる脳の回路の過剰反応が社交不安障害を引き起こすといわれています。恐怖や不安といった原始的な感情を司る偏桃体が何らかの理由で過活動状態になり、対人場面で強い不安を覚えるようになるのです。

社交不安障害の発症には、他にも不安を感じやすい体質の遺伝、過保護や厳しいしつけといった生育環境なども関係するとされています。対人恐怖症と呼ばれていた頃は性格の問題で片付けられることも多くありましたが、現在は薬物による治療も可能な病気であることが認められています。

社交不安障害の症状

社交不安障害では、人の視線を感じる場面で動悸や赤面、発汗、手の震え、呼吸困難といった症状があらわれます。具体的には、以下のような症状が挙げられます。

  • 人前で発言するときに強い緊張を感じる
  • うまく話せなくなったり、顔が赤くなったりする
  • 「恥ずかしい思いをするのではないか」という不安が常につきまとう
  • 初対面の人と会うことを極力避ける
  • 誰かに会うことを考えると動悸がする
  • 人前に出ることを拒みひきこもりがちになる

社交不安障害の診断では、これらの症状の持続性がポイントとなります。上記のような症状が6ヶ月以上続いている場合、社交不安障害と診断される可能性が高いでしょう。

HSPとの関連性

HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で、外部の刺激に影響を受けやすい繊細な人を指す「感覚処理感受性」という心理概念がベースです。本来学術界では生きづらさとは無関係の概念とされていますが、近年では人間関係や外部刺激などの影響からくる生きづらさをあらわす概念として使われており、人よりも繊細だと感じている方の自己認識の手段として認知度が高まっています。

HSPの背景には、うつ病や社交不安障害、発達障害*といった精神疾患が隠れているケースも少なくありません。他人の行動が気になる、生きづらさを感じるという方は、HSPというあいまいな概念に頼るよりも、生きづらさを伴う精神疾患の可能性を考慮してみてください。

他人の行動が気になる人の特性や関連する病気

他人の行動を気にする症状があらわれるのは、社交不安障害だけではありません。関連する病気として、自閉スペクトラム症やパニック障害、うつ病などが挙げられます。自分に当てはまる病気や特性を見極めることで、適切な対処法を検討するとよいでしょう。

ここからは、他人の行動が気になる人の特性や関連する病気の例を挙げて解説します。

自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は、人との関わりが困難、独特のこだわりがあるといった特性が見られる発達障害の1つです。「スペクトラム」の言葉で表されるように、特性の出方は人によって大きく異なります。

自閉スペクトラム症の方には、以下のような特徴があります。

  • グループワークが苦手
  • 人とのやり取りがかみ合わない
  • 自分のやり方で物事を進めたがる

発達障害の方は生きづらさを抱えやすいことから、二次障害として精神疾患が引き起こされる例も珍しくありません。特性からくるストレスなどが不安障害やうつ病といった二次障害や、対人関係のトラブルを引き起こす場合があります。

パニック障害(パニック症)

パニック障害(パニック症)とは、動悸や呼吸困難などのパニック発作が突然あらわれる不安障害の1つです。会議に参加したときや電車に乗ったときなどに前触れなく発作が起こるため、日常生活や社会生活に支障をきたすケースも少なくありません。パニック発作は10分以内にピークに達し、20分以内に落ち着く傾向があります。

パニック障害の方は発作が起きていないときも、また発作が起こるかもしれないという「予期不安」を感じやすくなります。発作が起きるのではないかと不安になり、外出や仕事ができなくなることもしばしばです。このように不安が拡大した結果、他人の行動や視線までもが気になるようになるケースもあります。

うつ病

うつ病とは、気力低下や食欲不振、不眠といった症状があらわれる気分障害の1つです。年齢や性別を問わず、誰でも発症する可能性があり、過度な労働などによる心理的な負荷や疲労の蓄積が主な引き金となります。

うつ病になると、どうしてもネガティブ思考に陥りがちです。他人が自分の悪口を言っている気がするなどの被害妄想によって、さらに症状を悪化させてしまう場合もあるでしょう。

うつ病かもしれないと感じたときは、無理して働き続けるのではなく、専門医に相談することが大切です。重症化する前に、医療機関にかかって適切な治療を受けましょう。

適応障害(適応反応症)

適応障害(適応反応症)とは、周囲の環境に適応できずに強いストレスを感じ、心身に不調をきたしている状態のことです。適応障害にはさまざまな原因があり、責任感の強い人や繊細な人、人からの評価や態度を気にしやすい人などがなりやすいといわれています。

適応障害の主な症状は、抑うつや自尊心の低下、不安、不眠などです。適応障害は原因から離れることでほとんどが回復しますが、環境を変えても適応障害を繰り返す場合は二次障害の可能性があり、背景に発達障害などが隠れている可能性があります。

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とは、人との関わりで傷つくことを過度に恐れ、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまうパーソナリティ障害の1つです。他人からの評価を気にしすぎる傾向があり、自尊心が低いことも特徴として挙げられます。

回避性パーソナリティ障害の方は異常なほど引っ込み思案である、初対面の人と関わろうとしないといった症状が見られ、その症状が成人期早期までに見られるかどうかが診断基準です。

ただし、現在はパーソナリティ障害と診断される例が大きく減っており、その他の病名で診断や症状の説明がされるケースが増えてきています。

社交不安障害の治療法

社交不安障害の治療法は、主に薬物療法と心理療法の2通りがあります。

薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬などを投与することで症状を抑えます。心理療法には、認知行動療法や自律訓練法などの種類があります。薬の投与で一時的に不安症状を抑えるのではなく、考え方や行動を見直すことで根本的な改善を目指す方法です。これらを併用して症状の克服を目指す場合が多いでしょう。

社交不安障害の方が苦手なこと

社交不安障害の方が苦手だと感じやすい行動例は、以下のとおりです。

  • 人前での発表(スピーチ恐怖)
  • グループ活動への参加(対人緊張、視線恐怖)
  • 電話の応対(電話恐怖)
  • 人前での食事(会食恐怖)

社交不安障害の方は、人前に出て行動をすることが全般的に苦手です。人によっては、人前で字を書いたり、来客対応をしたりするときに強い不安を感じる場合もあります。

こうした症状は仕事でも支障をきたしやすく、働くことに苦痛を感じている方も少なくありません。

社交不安障害の方が仕事を続けるには

社交不安障害の方が無理なく仕事を続けるためには、以下のような点に配慮することが重要です。

  • 専門医の治療や相談を継続する
  • 無理せずに休養をとる
  • 自己理解を深める
  • 職場に病気を伝えて理解や配慮を求める
  • 働き方を変える

第一に、自己判断で治療をやめないことが重要です。適切な治療を通じて症状が軽減すれば、仕事も続けやすくなるでしょう。

また、仕事を続けたいからといって無理は禁物です。不安が強すぎる、心の負担が大きすぎると感じたら一旦仕事を休み、落ち着ける環境で自分自身と向き合ってみてください。もしくは、職場に自分の病気について打ち明けることで、状況が好転するかもしれません。

今の職場環境が自分に合っていないと感じるなら、在宅ワークへの切り替えや転職など働き方を変えるのも1つの方法です。

自分に合う仕事探しは就労移行支援がおすすめ

就労移行支援とは、障害のある方が一般企業に就職するのをサポートする福祉サービスです。社交不安障害の方も、就労移行支援を利用することで働きやすい職場を見つけられるかもしれません。

Kaienの就労移行支援では、豊富な職業訓練やスキルアップ講座を実施しています。100種類以上の職業体験を通じて自分の特性に合った仕事が見つけられ、プログラミングなどの専門的なスキルも習得可能です。

就活サポートの面では、障害に理解のある企業200社以上と連携することで、他事業所にはない魅力的な独自求人も紹介しています。担当カウンセラーの丁寧なサポートを通じて、86%以上の就職率を実現しているのがKaienの強みです。

就職後の定着支援もKaienは力を入れています。スタッフが職場を訪問し、業務上の相談に乗りながら働きやすい環境を整えていきます。自分に合う職場で働きたいと考えている方は、ぜひKaienの就労移行支援を検討してみてください。

他人の行動が気になる人は専門機関に相談を

社交不安障害は人前で強い不安を感じる病気で、仕事を続けるうえで支障をきたすケースも珍しくありません。他人の行動が気になる、人前に出ると緊張するという方は、医療機関で一度診てもらうことをおすすめします。

社交不安障害と診断された場合、就労移行支援などの福祉サービスが利用できます。苦手を補うためのスキルを習得し、自分に合う仕事を見つけるために役立つサービスなので、Kaienの就労移行支援を利用して就職の希望を叶えましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

本コラムでは社交不安障害(SAD)の他にHSP (Highly Sensitive Person) についても触れられています。HSPは疾患ではなく気質であるため、現代の精神医学はあまり取り上げませんが、昔のドイツ精神病理学では病前性格と言って重視していました。例えば、テレンバッハの唱えたうつ病のメランコリー親和型性格(几帳面、良心的、自責的)は有名です。

社交不安障害に類する疾患に対人恐怖症があります。他者に対して過剰に意識的になり、他者に不快な思いをさせている、あるいは他者から責められるのではないかと不安になるものです。精神科医の森田正馬は、対人恐怖症患者の「不安はあってはならないものだ」という思い込みがかえって症状を悪化させると考えて、むしろ不安を自然なものと捉え、あるがままの状態にすることを治療の本質としました。

森田は仏教や禅にも造詣が深く、不安や苦しみをも是(良し)とする考えを治療に取り組んだと言えます。このように考えると、不快なもの、辛いものを全て取り除き、無苦・無痛を理想とする現代医学は果たして幸せに向かっていると言えるのか、という疑問も出るのではないでしょうか。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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