職場や学校で「人の気持ちが分からない」「自己中」などと指摘され、対人関係に悩んでいる方の中には、原因が分からず困っている方も多いのではないでしょうか。自己中心的な言動は育ちや性格が原因ではなく、障害が影響している可能性も考えられます。
この記事では自己中心的な人の特徴や、発達障害*との関連性を解説します。自己中心的になってしまう原因を把握し、対人関係を円滑にするための対処法やスキルを身につけましょう。
自己中心的な人の特徴
「自己中心的」といわれる人は、自分の考えを通したいという気持ちが言動に強くあらわれがちです。また、相手の気持ちを考えずに思ったことをそのまま口に出してしまい、無意識に人を傷つけてしまうこともあります。
自分のやりたいことや望むことを優先して行動するため、ワガママや我が強いなどといわれることも多いでしょう。このような特徴から、自己中心的な人は人間関係でトラブルが起こりやすくなります。
自己中は性格じゃなく病気が原因?
自己中心的な行動は単なる性格の問題ではなく、心の病気や特性が影響している可能性もあります。自己中心的と聞くと性格が悪いイメージを持つかもしれませんが、実は背景に病気が隠されているケースも少なくありません。自己中な態度を直したいと思っても、なかなか改善されない場合は病気の可能性も視野に入れて原因を考えてみましょう。
自己愛性パーソナリティ障害との関連性
自己中心的な人の中には、自分の能力を過大評価し相手を貶める傾向が見られます。そのため、職場で必要以上に部下を叱責したり、特別扱いを求めたりすることも少なくありません。これらは、自分自身をありのままに受け入れて愛することができない未成熟な状態からなる、自己愛性パーソナリティ障害の特徴と似ています。
自己愛性パーソナリティ障害の方は、誇大な言動や他者に対する共感性の薄さなどの特徴から自己中心的な印象になりがちです。時にはモラハラやパワハラに発展するケースも少なくなく、周囲の人々に大きなストレスを与えることがあります。
ただし最近では、こうした特徴は別の診断名で症状の説明がされることも増えており、自己愛性パーソナリティ障害として診断される事例は減少していることに留意しましょう。
発達障害との関連性
自己中といわれる言動は、発達障害とも深い関連があるといわれています。発達障害は先天的な脳機能の障害の総称で、こだわりの強さや感覚過敏、コミュニケーションの困難さなど生まれながらに一定の特性があります。
このような特性がある方は、コミュニケーションや対人関係にトラブルが生じやすく自己中と思われがちです。こうした特性は大人になって就職などを機に、人間関係のトラブルなどから生きづらさやストレスを抱え、発達障害であることが発覚するケースも見受けられます。発達障害の特性による生きづらさから精神疾患が引き起こされることも多く、これらは後天的な障害であることから二次障害とも呼ばれています。
発達障害にはいくつか種類がありますが、自己中心的な印象を与えがちな特性のあるものは以下の2つです。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
それぞれの特性が自己中とどのような関係があるのか、詳しく見ていきましょう。
人の気持ちがわからないのはASD(自閉スペクトラム症)の特性?
他者の気持ちを察することや状況判断が苦手といった特徴は、ASD(自閉スペクトラム症)の特性の1つです。ASDの方は、心の理論の欠如により人の気持ちを汲み取ることが難しく、相手の立場に立って考えることが苦手なため他者への配慮に欠け、無意識に相手を不快な気持ちにさせてしまうことがあります。
また、中枢性統合の弱さから空気を読むのが苦手なためコミュニケーションが上手くいかず、対人関係を築けないことも多いです。ASDは外見では分かりにくく、特性であるにもかかわらず「ワガママな性格」や「自己中」として捉えられることがあります。
ASDの方はその特性により人の気持ちを理解することが苦手ですが、人の気持ちがわからないわけではありません。相手の気持ちを理解するために時間はかかりますが、サポートや訓練次第でコミュニケーションスキルの獲得は可能です。
自己中心的に見えるのはADHD(注意欠如多動症)のせい?
ADHD(注意欠如多動症)の特性として、集中力の欠如や衝動性が挙げられます。特性により相手の話を長く聞けず、会話中に相手の話を遮ったり、自分の話に切り替えたりします。また、思いついたことをすぐに行動に移すなど、相手の予定や気持ちを考慮せずに行動しがちです。
また、ワーキングメモリの低さから忘れっぽいという特性もあり、大事な約束を忘れたり大切な物をなくしたりするなどして、周囲に迷惑をかけることもあります。これらの特性は総じて自己中心的な印象を与えかねません。
ASD(自閉スペクトラム症)の方の困りごと
ASDの方は前項で挙げた対人関係の困りごと以外にも、以下のような困りごとがあります。
- こだわりが強く自分のルールを曲げられない
- 言語理解の低さから表現力が乏しい
- 臨機応変な対応が苦手
こうした特性による困りごとは社会生活や仕事にも影響を及ぼし、働きづらさを感じる方も多いでしょう。仕事や対人関係でストレスが溜まると二次障害で精神疾患を併発してしまう恐れもあるため、適切な対処法や対策を知りストレスを溜めないことが大切です。
人の気持ちがわからないときの対処法
発達障害の特性により対人関係に問題があると感じている方は、自分だけで問題を解決しようとせず、支援サービスを活用するのも1つの手段です。特に社会生活を送るうえでソーシャルスキルの習得は役立ちます。ソーシャルスキルトレーニングは、主に以下の支援機関で実施しています。
- 地域若者サポートステーション
- 障害者就労・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
どのようなソーシャルスキルを実践するかは、個人の状態や希望している職種などによって異なります。各支援機関によりプログラムの内容や得意分野なども変わってくるため、自分に必要な対人スキルやビジネススキルを習得できる場所を選びましょう。
ソーシャルスキルの習得には就労移行支援がおすすめ
ソーシャルスキルの習得には「就労移行支援サービス」の利用がおすすめです。就労移行支援事業所では、障害の特性を考慮しながらスキルの習得や適職を見つけるためのさまざまな支援を行っています。
Kaienでは、発達障害に特化した就労移行支援を行っており、以下のような圧倒的な量と質を誇るカリキュラムで、あなたに必要なスキルの習得をサポートします。以下はKaienが実施しているカリキュラムの一例です。
- ビジネススキル(優先順位付け・電話対応・メモ取りなど)
- ソーシャルスキル(コミュニケーション・感情のコントロールなど)
- 就活講座(面接相談・書類作成など)
- キャリア・プランニング
Kaienのカリキュラムは、自身の障害の特性や得意・不得意分野を知ることから始め、就労に必要なあらゆるスキルの獲得を目指します。
また、職業訓練ではオフィス事務やIT業界など、常時100職種以上の職種体験ができ、特性を活かした働き方や適職を見つけていきます。就活支援は担当カウンセラーが二人三脚でアシストし、独自求人を含む豊富な求人の中からあなたにぴったりの職場を紹介します。
Kaienでは随時見学会や体験利用を無料で開催しておりますので、興味のある方はぜひお気軽にご連絡ください。
自己理解を深めるために自立訓練の利用も
人との付き合い方や自己理解を深めることも、自己中心的な特性の対処法として有効です。
Kaienでは自立訓練(生活訓練)サービスも実施しており、障害への理解を深めコミュニケーションスキルを習得するためのトレーニングや相談、助言などの支援を提供しています。
就労移行支援は「就職」が目的ですが、自立訓練(生活訓練)はその名の通り「自立」を目指します。まずは自身の障害を知り、自己理解を深めたいという方は、自立訓練(生活訓練)の利用がおすすめです。
特性を理解し対人スキルを養おう
自己中と指摘されコミュニケーションがうまく取れない原因は、単に性格が影響しているわけではなく、障害が関わっている可能性があります。特に発達障害との関連性は大きく、特性からくる言動が自己中心的な印象を与えている場合も考えられます。
このような状態で社会生活を円滑に行うには、障害の特性を理解し対人スキルを養うことが重要です。自分だけで対処するのが難しい場合は支援機関などを活用し、自分に必要なスキルを身につけましょう。
Kaienでは豊富なカリキュラムにより、ソーシャルスキルをはじめ就労に関するあらゆるスキルの習得が可能です。ストレスを溜めずに無理なく働くためにも、ソーシャルスキルの習得を目指しましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
自己中心性(egocentrism)とわがまま(selfishness)は似ているようで、少し定義が異なります。自己中心性は客観的な現実から自身の主観的な概念を帰納的に推測することができないことを意味します。それに対して、わがままは他者への配慮を欠いたり、自分の利益しか考えられないことを意味します(ウィキペディア「自己中心性」)。
言い換えると自己中心性では自分の世界と他者の世界が独立して相互作用がないのに対し、わがままは他者の世界を理解することは出来るがあえて無視していると言えます。近年、日常的に使われるジコチューという言葉はむしろ、わがまま(selfishness)を指していることに注意しましょう。
自己中心性は心理学的概念ですから、発達障害に限らず、うつ病で現実を吟味する能力が低下した場合でも見られることがあります(Erle, 2019)。他者の心理を理解できない、あるいは低下した状態だと仕事で多くの支障が生じることは想像に難くないでしょう。就労移行を通してこのような方々をどう支援するかは、重要な課題です。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。