こだわりが強いのは発達障害が原因?大人のASDの特性と対処法を解説

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こだわりの強さが仕事や日常生活に影響を与えている場合、何とかしたいと感じている方も多いでしょう。過度なこだわりの強さの背景には、発達障害*が隠れているかもしれません。独特のこだわりがある特性について理解を深め、困りごとへの対策を講じてみてはいかがでしょうか。

この記事では、こだわりの強さと発達障害の関係やASD(自閉スペクトラム症)の特徴などを紹介します。特性への対処法についても解説しているので、こだわりの強さで悩んでいる方は参考にしてみてください。

こだわりが強いのは発達障害の特性と関係ある?

「朝はパンを食べる」「同じ枕でないと寝られない」など、どんな人にも少なからずこだわりがあります。そのため、こだわりがあることがすなわち発達障害であるとはいえません。

発達障害の特性が影響している可能性があるのは、社会への適応が難しいほど強いこだわりがある場合です。こだわりが社会生活に支障をきたすようなら、通常であれば諦めてほかの方法を選ぶでしょう。

しかし、発達障害の方はこだわりを諦めることに強い抵抗を覚え、なかなか習慣を変えられない側面があります。このように、社会と共存できないほど強いこだわりがある場合に、発達障害の特性が影響している可能性が示唆されます。

大人のASD(自閉スペクトラム症)とは

こだわりの強さと深いかかわりのある発達障害がASD(自閉スペクトラム症)です。ASDは独特のこだわりやコミュニケーションの難しさを特徴としており、興味・関心の範囲が限定されやすいことでも知られています。

ASDの方は特性により、特定のものに極端な興味を示したり、場の空気を読めなかったりすることで、生きづらさを感じる傾向にあります。

基本的に発達障害は生まれつきの脳機能のかたよりが原因であるため、大人になってから発症することはありません。会社に勤めるなど、成長して状況が変わったことでこれまで目立たなかった特性が顕在化した場合に「大人の発達障害」という表現が使われます。

ASDの方に見られる主な特性

ASDの特性を理解するうえで、知っておくと役に立つのが「ウィングの3つ組」という概念です。

これはイギリスの児童精神科医ローナ・ウィングがASDの特性をまとめたもので、「こだわりの強さ」「社会性」「コミュニケーション」という3つの観点から分析されています。また、場合によって上記の3つに加わるのが「感覚過敏・鈍麻」です。

ここでは、ウィングの3つ組に基づいてASDの方に見られる主な特性を紹介します。

こだわりの強さに関する特性

ASDの方に多い特性の1つが、物事をこなす手順やルールなどに執着するこだわりの強さです。この特性は、規則正しい生活や単純作業の継続といった長所となる反面、スケジュール変更を極端に嫌がるなどの短所につながる場合もあります。

ASDならではのこだわりの強さの背景には、想像力を働かせることの難しさがあります。次に何がどのように起こり得るかということを想像しにくいために、あらかじめ決められた手順ややり方などに固執し、柔軟に対応できない傾向があるのです。

特にASDの積極奇異型に当てはまる方は、こだわりが強いと言われています。積極奇異型は他者に積極的に関わることを好む傾向がある反面、独自のルールやこだわりを相手に押しつけがちです。

また、こだわりが強いというASDの特性が、人のミスを許さない、例外を認めないなどの頑固さと結びつく場合も多く見られます。

社会性の特性

ASDの方は、社会性の特性によって良質な対人関係を築くのが難しい場合があります。これは社会における常識や暗黙の了解を顧慮しない傾向にあるためです。

この特性は、周囲の人間に適切な配慮ができない、空気を読めないといった形でもあらわれます。また、自分なりの価値基準を重視する傾向にあり、あいさつをしない、間違えても謝らないなどの行動で周囲から反感を買ってしまうケースも多いです。

その一方で、環境に左右されず自分が決めたことをやり遂げられる、自由な発想で行動できるといった長所となることもあります。

コミュニケーションの特性

ASDの方は、中枢性統合の弱さや心の理論の欠如などにより、相手の言っていることや感じていることをなかなか理解できないことがあります。想像力を働かせるのが苦手であることと関連して、冗談やたとえ話などがうまく理解できない場合も少なくありません。

独特な言葉遣いがある、自分の興味があることばかり話してしまうといった理由で、意思の伝達がうまくいかないケースも多いです。自分の話を延々とする一方で、相手が自分に興味のない話を始めると耳を貸さないなど、自己中心的な印象を与えてしまうこともあるでしょう。

感覚過敏もしくは鈍麻

上記の3つ組に加えて、ASDの方は感覚過敏や感覚鈍麻といった特性が見られることもあります。

感覚過敏とは、視覚や聴覚といった五感の刺激を必要以上に強く感じ、それが苦痛になる状態のことです。具体的には、通常は気にならないような洋服の裏地の肌触りを非常に不快に感じる、大きい音が極端に苦手といったケースが挙げられます。

反対に、通常より感覚が鈍いことが問題となる感覚鈍麻の場合もあります。これは、気温が高いことに気づかず、熱中症になってしまうようなタイプなどが一例です。

ASDのタイプ

ASDは以前まで、「積極奇異型」「受動型」「孤立型」の3つのタイプに分けて考えられることがありました。ただ実際はこうしたタイプにすべて分けられるわけではなく、最近ではあまり使われることはありません。

しかし、物事タイプ分けするとわかりやすいので、今回はこだわりに関係するASDをタイプ別に紹介します。

こだわりを押しつけがちな積極奇異型

先述の通り、ASDの中でも積極奇異型の場合は人との関わりを積極的に好みます。反面、自分のこだわりを押しつけたり、必要以上に話しかけたりするなど、相手との距離感を適切に保てないのが特徴です。

積極奇異型は一見社交的なように見えますが、相手の状況には無関心な傾向にあります。同じことを何度も話したり、一方的に話しかけたりするため、周囲の人に疎まれてしまう場合もあるでしょう。

子どもの頃に積極奇異型だったのが、成長してからほかのタイプに転じる場合も多いです。

過剰適応型

過剰適応型は周囲の人に合わせる、自分を押し殺すという意味で受動型に近いタイプといえます。過剰適応型の方は、周囲に過剰に気を配り、自分の考えや行動を相手に合わせがちです。過剰適応型の方の場合、この「いい人で居たい」「嫌われたくない」という考え方自体がこだわりなのです。

その結果、社会生活を送るうえで大きなストレスを感じ、強迫症などの二次障害(発達障害の特性によるストレスなどで後天的に発症する精神疾患)に発展するケースも珍しくありません。

過剰適応型になりやすいのが、ASDのグレーゾーンの方です。グレーゾーンとは、明確な診断は得られないもののASD的な傾向が認められる状態のことで、「隠れASD」や「薄い自閉」とも呼ばれます。

易疲労性型

易疲労性型は、先述した感覚過敏などの特性によって過剰に疲れてしまうタイプです。光や音、においなどに敏感な方は常に刺激にさらされている状態であるため、普通に生活しているだけでほかの人より疲れてしまう傾向にあります。

易疲労性型の方は、サングラスをかける、耳栓をするなど、特性に応じた対策を講じることで疲れやすさを軽減できるでしょう。

また、ASDの易疲労性は、周囲に合わせようとしすぎることも関係しています。相手の感じていることなどを察するのが苦手で、常に緊張状態で人と接している場合、ただの雑談などでも疲れてしまうことが多いです。過剰適応型と同様に、易疲労性型の方も「他の人と同じように〇〇しなければならない」など考え方にこだわりがあるために、事態が悪化してしまうことも少なくありません。

ASDの診断方法

ASDの診断は、精神科や心療内科などの医療機関で受けられます。ASDかどうかを簡単にセルフチェックできる方法もありますが、診断を確定できるのは医療機関のみです。自身のこだわりの強さが発達障害の特性ではないかと考えている方は、医療機関で相談してみることをおすすめします。

ASDのセルフチェックの方法や診断基準などについて、詳しくは以下の記事を参照ください。

ASDの診断テストとは?セルフチェックの方法と診断基準

ASDのこだわりの強さによる困りごと

ASDのこだわりが強い特性による困りごとには、以下のような例があります。

  • 自分で決めたルールに執着し、物事が順調に運ばないとイライラする
  • 関心が強い特定の作業にこだわるあまり、ほかの作業をないがしろにする
  • 自分が絶対に正しいと思い込み、他人の言動に怒りがわくことがある
  • 突然予定が変更になったときなど、臨機応変な対応が難しい
  • 何事も白黒をつけないと気が済まず、曖昧なままにしておけない
  • 寝る時間や食事の時間などにこだわり、規則正しい生活を送れないと不安になる

こだわりの強さは大人の場合、仕事でのトラブルなどに発展するケースも少なくないため、困りごとへの対処法を身につけておくと安心です。

こだわりが強い特性への対処法

ASDのこだわりの強さは、社会生活を送るうえで生きづらさの原因となることも多いです。しかし、工夫次第で困りごとは解消できる可能性があるため、諦めずに方法を模索する姿勢が大切です。自身の特性への対処法を知り、こだわりの強さを長所に変えていくとよいでしょう。

強迫症などの二次障害で見られるこだわりは、認知行動療法や暴露療法、薬物療法などが有効です。ただし、ASDのこだわりは先天的で変えづらく、悩んでいる方も多いでしょう。

ここからは、ASDのこだわりが強い特性への対処法を3つ紹介します。

職場に相談する

こだわりの強さで困っている場合、特性について職場の上司や同僚に相談する方法が有効です。ASDの特性で仕事に支障をきたしているなら、生産性の観点から会社としても解決してほしいはずです。職場で自身の特性について相談し、上司や同僚に問題解決のため協力してもらうのが合理的といえるでしょう。

例えば、「適当に」「いい具合に」などのあいまいな表現を避け、具体的でわかりやすい指示を出してもらうなど、配慮を求める方法が考えられます。また、自分でもメモと復唱を徹底し、自分のこだわりに影響されず、指示のとおりに仕事がこなせるよう努めるとよいでしょう。

障害者差別解消法によって、事業者にはこうした「合理的配慮」の提供が義務づけられています。合理的配慮とは、障害のある方一人ひとりに適切な配慮をしようという概念を指します。障害者雇用だけでなく一般雇用においても適用されるため、困りごとがある場合には我慢せずに早めに相談することが大切です。

障害理解

ASDの特性による困りごとを解消するためには、自身の障害特性を理解し、特性に合わせた対処法を実践することが重要です。

具体例として、ノートに行動と怒りのポイントなどを記録して可視化し、振り返れるようにすることが挙げられます。自分の感情を客観視することで、「怒るようなことではなかった」などと思えるようになり、独特のこだわりから離れやすくなるでしょう。

また、自分と他人を切り分けて考えるよう心がけることも大切です。こだわりの強い方は他人の不正などを許せない傾向にありますが、「自分は自分、他人は他人」と割り切ることができれば余計なトラブルは避けられます。

障害への理解を深めて自身を顧みれば、妥協点を見つけながら社会生活を続けやすくなるはずです。

ソーシャルスキルの習得

仕事などを円滑に進めるためにも、ソーシャルスキルの習得が必要です。ソーシャルスキルとは、自分の感情をコントロールしたり、他人の感情を理解したりして、社会生活を送るうえでスムーズな対人関係を構築していく能力のことです。

ソーシャルスキルを身につけることで、こだわりが強い特性に悩んでいる方も暮らしやすさや働きやすさを向上させられます。

発達障害者支援センターや就労移行支援事業所などでは、発達障害のある方を対象に、特性に合わせた支援を行っています。現在の悩みを克服するためにも、これらの福祉サービスを積極的に活用するのがおすすめです。

Kaienの就労移行支援

Kaienの就労移行支援では、一般企業での就業を目指す障害のある方に手厚いサポートを提供しています。職業訓練では100種類以上の職業を体験できるほか、専門的な技術を身につけたい方はプログラミングなどのコースも選択可能です。

また、講座を通して障害特性への理解を深め、苦手への対処法やソーシャルスキルを身につけられます。就活においても、障害に理解のある企業200社以上と提携しており、希望に合った求人を紹介してもらえるのがKaienの魅力です。

困りごとへの対処法を習得して就職を目指すためにも、Kaienの就労移行支援のご利用をぜひご検討ください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

Kaienの自立訓練(生活訓練)は、自分を見つめ直したい、将来を再設計したいという方におすすめの福祉サービスです。

プログラムでは、障害理解や自立生活、進路選択といったジャンルの知識やソーシャルスキルを習得できます。そのうえで、実践的なプロジェクトを経て習得した知識・スキルをしっかりと身につけられるのが特徴です。

また、担当スタッフとのカウンセリングでは二人三脚で日々の振り返りを行い、将来に向けての強みを探していきます。Kaienの自立訓練(生活訓練)を通して自分の障害特性を見つめ直し、自立に向けて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

こだわりが強い特性を強みに変えて

こだわりの強さで日常生活や社会生活に支障をきたしている方は、ASDの可能性があります。ASDには孤立型や積極奇異型、グレーゾーンの方に多く見られる過剰適応型など、タイプはさまざまです。

ASDが疑われる場合は、医療機関で診断を受けたうえで、障害特性の理解やソーシャルスキルの習得といった対処法を講じるとよいでしょう。

Kaienの就労移行支援や自立訓練(生活訓練)では、無料の見学会や説明会を随時開催しているので、興味がある方はぜひご参加ください。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

こだわりの強さ、は確かに発達障害特性、特にASD特性として強く顕在化していることがあります。こだわりは、悪いことばかりではなく、ミスなく細かいところも遺漏なく作業することが、職人芸や芸術性に反映されている場合にはとても優れた特質とも言えます。一方で、周囲の人が困っているときもあります。例えばある計測系の仕事に就いていた方は、計測機器の見方として、ある程度の誤差は許容範囲として先に進めていくべきところ、どうしても正確な値の読み取りに固執してしまい、仕事が滞っていました。このような特性は、確認強迫や洗浄強迫に代表されるような強迫症とどう違うかと言えば、強迫症のこだわりは本人に苦痛が大きいのに対し、ASD特性によるこだわりは自分自身には違和感がない、という部分にあります。そのため、指摘されても変える必然性を意識することが難しいとも言えます。また、こだわりを捨てられない背景に、現状が変わることへの不安が強いという側面もよくあります。いずれにしても、こだわりが生活や仕事上の問題になっていると指摘されたときには、より適応力を上げていくために変える部分を作る必要があるでしょう。落とし所を支援者と共に見つけていけると良いかもしれませんね。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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