双極性障害とは以前は「躁うつ病(そううつびょう)」と呼ばれ、気持ちが著しく高ぶる躁状態と、憂うつで何もする気にならないうつ状態が、交互に現れる気分障害です。
気持ちの揺れ幅が大きい双極性障害は患者本人の負担が大きい病気ですが、周りにいる友人にとっても接し方に苦労する病気といえるでしょう。「双極性障害の友人に振り回されて疲れた」「何が気に障るのかわからないので気を使う」といった人もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、双極性障害の友人に疲れたらどうすればいいのか、疲れてしまう原因と対処法、一人で手に負えないと思ったときの相談先などを解説します。友人として付き合い続けていくための参考にしてください。
双極性障害の友人に疲れたときはどうすれば良い?
双極性障害の友人との付き合いに疲れてしまった場合は、どうしたらよいのでしょうか。ここでは友人として上手に付き合うための心構えや対処法について紹介します。
双極性障害について理解を深める
双極性障害についての知識を持っていると、双極性障害の方の言動にとまどったり傷ついたりする機会を減らせます。
双極性障害を発症していると、躁状態のときは尊大になり人を見下したようなわがままな言動をとる場合が少なくありません。逆にうつ状態のときは、何を話しかけてもむっつりと黙り込んでしまうようなことも多いでしょう。こうした際に、「これがこの人の本性なのだ」「性格に問題がある」などと思ってしまえば、友人として付き合うのが嫌になってしまいます。
しかし、病気がこのような言動を起こさせていると考えれば、無用なストレスや不安などを抑えやすくなります。はじめはインターネットで基礎知識を知るだけでもかまいませんので、双極性障害について理解を深めていくとよいでしょう。
適切な距離感を保つ
双極性障害の友人との付き合いで疲れないようにするには、適切な距離感を保つことが必要です。「心配なので常にそばにいなければならない」などと無理をすると、お互いの関係が悪化する場合があります。例えば、衝動的な躁状態の友人の近くにいれば、言い争いやケンカになってしまいやすいものです。また、うつ状態の友人と一緒にいると、こちらも気持ちが落ち込んでしまうこともあります。
適度な距離感を保つには、「自分が無理せず付き合える距離感」「友人として好意を持ち続けられる距離感」が目安になるでしょう。会う時間や頻度を減らすなどして距離をとり、気持ちに余裕を持てるようになったら、また友人として付き合いはじめるのもよい方法です。
一人で対処できないときは病院などに相談する
自分一人の手に負えないと感じたら、病院や行政の福祉機関などに相談するとよいでしょう。双極性障害は重大な結果をもたらす可能性がある病気ですので、友人として支えるのは限界とリスクがあるからです。
実際、著しい躁状態になった双極性障害の方は、傷害事件や器物破損といった事件を起こしてしまうケースがあります。また、うつ状態になると自殺を試みてしまう人も決して珍しくありません。危険な兆候をみつけたら専門家に助けを求めるとよいでしょう。
気軽に相談できる窓口としては都道府県・政令指定都市が運営している「こころの健康相談統一ダイヤル」や、全国精神保健福祉連合会が運営している「みんなねっと相談室」があります。本格的に相談したい場合の窓口については、後ほど紹介します。
双極性障害の友人に疲れたと感じてしまう理由とは?
双極性障害の友人と付き合いが疲れると感じるのは、双極性障害の特性が関係しています。ここでは、うつ状態と躁状態のときのギャップが大きい点と、症状の変化が予測しづらい点を解説します。
うつ状態と躁状態のときのギャップが大きい
双極性障害は躁状態とうつ状態という「2つの極」が交互に現れるため、気分の振れ幅が大きいのが特徴です。時には同じ人間とは思えないくらい言動が変わります。
躁状態とうつ状態の対照的な症状をまとめたのが次の方法です。
躁状態のとき | うつ状態のとき |
---|---|
気分が高揚している(ハイテンション) | 気分が落ち込んでいる(ローテンション) |
自己肯定感や万能感が強い | 自己肯定感が低く、何事もネガティブに捉える |
衝動的、イライラしている | 感情が動かない |
食欲や性欲などが旺盛 | 食欲や性欲などが低下 |
不眠または短時間の睡眠で活動し続ける | 不眠または過眠になる |
上記のようなギャップの激しい友人と付き合うのは大変です。これらの症状に合わせて接し方を切り替えなければならないため、振り回されているように感じ、疲れてしまう人が少なくありません。
症状の変化が予測しづらい
双極性障害の方のなかには日数や季節で定期的に躁状態とうつ状態が切り替わる人もいますが、症状の変化が予測しづらい人も少なくありません。例えば、環境の変化や生活リズムの乱れなどで症状が変化する場合もあれば、理由なく症状が切り替わる場合もあります。
特に注意が必要なのは、躁状態における変化です。躁状態では陽気でエネルギッシュな好人物になる場合がありますが、一転して攻撃的になったり、自分には人並み外れた能力があるなどと考えて常軌を逸した行動に走ったりしてしまいます。他人からみると「人が変わった」「何かにとりつかれた」といったようにしか思えず、驚いてしまうのです。
双極性障害の友人への接し方のポイント
ここからは双極性障害の友人への接し方のポイントを具体的に解説します。双極性障害はうつ状態と躁状態で全く症状が変わるため、2通りの接し方を知っておくことが大切です。
うつ状態のときのポイント
うつ状態のときは、心のエネルギーがなくなっている状態です。このため、共感を持ちながら優しくそっと見守るのが基本です。「頑張れ」「気晴らしにどこか行こう」などと積極的なアプローチをすると、かえって症状が悪化する可能性があるので避けましょう。
例えば、家に閉じこもっているなら、本人が出かけたいと思うまで待つのが基本です。行動や生活環境などを変えようするのは避けましょう。
また、うつ状態の双極性障害の方は決断力や判断力が鈍っているため、「入院するか早く決めたほうがいい」「休職したらどうか」などと決断を迫るような話も避けます。心が弱っているときに負担を増やすと、回復のためのエネルギーを奪ってしまいかねません。
うつ状態の症状が落ち着き、自分から話をするようになれば、聞き役に徹することが大切です。つらい気持ちや不安を吐露したときは、理解や共感の言葉を述べるにとどめて、助言や励ましなどは挟まないようにします。
躁状態のときのポイント
躁状態のときは気分が高揚し、エネルギーに満ちた状態になっています。しかし、ポジティブな面だけでなく、イライラして攻撃的になったり、傲慢で自己中心的な言動が増えたりするのも特徴です。そのため友人としてのよい接し方は、一言でいえば冷静であることです。
例えば眠らずに終日遊びまわっているのであれば、叱ったり反省を促したりせずに、「体が心配だから病院にいったらどうか」などと客観的な観点から受診をすすめます。躁状態の双極性障害の方は自分を病気だと思っていない場合が多いため、直接的に障害に言及しないほうが説得できる場合が多いようです。
また、双極性障害の人が話を聞く親や目上の人などに、自分が言いたいことを伝えてもらうのもよいでしょう。
躁状態の友人の問題行動が多すぎるときは、物理的に距離をおくことも必要です。特に暴力や暴言がひどい場合には、自分を守るために一度距離をおいたほうがよいでしょう。事件や事故に発展する恐れがあるときは、主治医や行政機関、警察などへの連絡も検討します。
双極性障害の友人との接し方で悩んだら?病院以外の相談先
双極性障害の友人との接し方で悩み、自分だけでは解決できないと思ったときは、専門的な知見を持ったスタッフがいる相談窓口が頼りになります。ここでは、病院以外の相談窓口として自助グループ・家族の会、精神保健福祉センター、保健センターを紹介します。
自助グループ・家族の会
自助グループ・家族の会は、同じ障害や問題を抱える方やその家族などが集まり、相互理解や支援をしあうグループです。
自助グループ・家族の会は自治体の福祉機関や非営利団体などによって運営されています。グループによって目的や規模はさまざまですが、病気について学ぶ機会を提供していたり、悩みを打ち明ける場を提供していたりするのが一般的です。
また、精神科医師やソーシャルワーカー(生活相談員)が参加している場合も多く、専門的な観点からアドバイスをもらうことができます。
自助グループ・家族の会の多くは、双極性障害の方本人か家族の方が対象です。そのため友人として参加できるとしても、本人と強い信頼関係があり、かつ日常的に接しているような人が向いています。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、地域住民の精神的健康の保持増進や精神障害の予防を目的に各都道府県に設置されている行政機関です。社会復帰や生活の自立、就業なども含めて幅広く相談できるのが特徴です。
電話相談・来所相談の窓口では、心の悩みを持つ本人やそのご家族の相談を受け付けています。例えば、双極性障害が原因で職を失ってしまった場合に、社会に適応していく力をつけるための指導と援助を受けられます。
保健センター
都道府県別市町村保健センターは、健康相談や保健指導、健康診査などを地域住民に対して提供している行政機関です。全国に2,422カ所(令和6年4月1日時点)あるので、通いやすい保険センターを選べるでしょう。
保健センターの障害事務係では、精神障害の方による暴言・暴力、問題行動などについての相談を受け付けています。また、生活保護・生活困窮者自立支援の窓口では、双極性障害の方の経済的な困窮や、生活上の困りごとなどについて相談できます。
疲れたときは無理せず周りに頼ろう
うつ状態と躁状態が交互に現れる双極性障害は、本人はもちろんのこと、その家族や友人にも大きな負担を与える場合があります。双極性障害の特徴を踏まえながら、症状が落ち着くような接し方を心がけていくとよいでしょう。
しかし、いくら対処法を知っていても双極性障害の友人との付き合いに疲れてしまう場合もあります。このようなときは適切な距離を保つのが効果的です。また、自分の手に余ると感じたときは、病院や行政機関、自助グループ・家族の会などの専門的な知識や経験を持つ人に相談できます。
双極性障害の方は極端な行動をとる場合もあるので、危険なサインをみつけたら無理せず周りに頼りましょう。
監修者コメント
双極性障害は統合失調症と並んで、その診断と治療が精神科の歴史といえる診断です。歴史がある分、様々な知見が溜まっており、治療法も薬の進歩と共に随分とかわってきました。ただ、歴史はあると言っても、治療前の患者さんそれぞれの苦しみや生活の負担は昔と同じように大変ですし、治療に導入されてもやはり波が消えるわけではありません。患者さん自身も、そして患者さんの近くで寄り添う人もその波とどう付き合うかが大事になってきます。友人の立場では、状況によっては少し距離を取ることも肝要です。やきもきして不安にもなるでしょうが、本人が或る意味病気のベテランになるまで待つ必要もあります。自分の気持ちがどうなると上がっているのか、もしくは下がっているのか、そんなモニターができるようになると友人としても付き合いやすくなると思います。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。
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