ここでは発達障害*¹の方に「どんな仕事が」向いているかではなく、発達障害の特徴のある方が職場で「どうしたら上手く働けるか」に焦点を当て、発達障害の代表的困りごとへの対処方法をまとめています。その②では、「作業が遅い、優先順位がつけられない」「抜け、漏れ、ケアレスミスが多い」「指示とズレてしまう」といった、「仕事できない症候群」とでも呼ぶべき問題の原因と対策についてお話しします。
優先順位がつけられない
優先順位がつけられないためマルチタスクに対応できない、という声は頭が多動なタイプのADHD(注意欠如多動症)の方からよく聞かれます。こうしたタイプの方には混乱しがちな頭の中で物事を解決しようとせずに、一日の予定・課題を書き出し、タスクリストを読み返すことで、改めて重要な課題をクリアにすることをお勧めします。
リストは手書きでも構いませんが、Googleカレンダー、OneNoteとOutlookといったアプリにはタイマー機能、アラーム機能や詳細なタスク管理機能など、便利な機能が沢山ありますので試してみましょう。
複数の作業をこなさねばならない時は、タスクリストに順番を付けて優先順位をつけます。簡単なものや苦にならない作業から手を付けてしまいがちですが、締め切りが早いものや重要度の高い仕事を優先させることが肝心です。
また、タスクリストは書きっぱなしにせず、作業の途中でも定期的に確認すると効果的です。集中し過ぎたり気が散ってしまうと、初めに書いたリストが頭の中からすっかり抜け落ちてしまうこともあり得ますから、小休憩を挟むようなタイミングで、どこまで作業が進んだか進捗を確認する習慣をつけてください。その際タスクを再確認し、残りの時間で何をどこまで進められるか作業計画をし直すとより効果的です。
集中が続かない方は、休憩を小刻みに挟んでリフレッシュしながら作業をする、作業負荷がかかると眠くなる方はカフェイン入りの飲料やキャンディーなどを摂る、といった工夫も各自採り入れましょう。
ミス、抜け漏れが多い
ミス、抜け漏れが多い場合は、まず作業の指示から完了までのどこでミスが起きるか特定するところから対策が始まります。
口頭での指示の受け取りにズレや漏れが多い場合、指示をなるべく文章やメールでしてもらえるよう、上司にお願いしてみましょう。またそれが不可能な場合、メモを取り、メモをまとめ直すことで内容や全体行程を理解し、メモをチェックしながら作業をすることで漏れを防ぎましょう。自分向けの作業マニュアルを作るようなイメージです。ノートの左半分をメモ用に、右半分をまとめ用に使うなど工夫してみましょう。まとめ直したメモを上司に確認してもらうのも、ズレ・モレをなくすためには有効です。また、まとめの途中でわからないことが出てきたら、疑問点もまとめて後で上司に質問するといいでしょう。
メールの誤送信が多い方は、内容を書き終わって「送信」を押す前に一工夫してみましょう。例えばGmailでは送信してから取り消しができる時間を最大30秒まで設定することが可能です。また、書いている途中での誤送信を防ぐために、宛先は最後に書き込み、特に入念にチェックする習慣をつけましょう。
ミスの原因が読み間違いや見落としである場合は、そのミスがどんな状況で頻繁に起きるか考えてみましょう。モニタに多量の文字や数字が並ぶ場合に起きるミスは、画面を指でなぞったり、定規をあてて読むことで減らせることがありますし、目線の移動が大きい場合、あるいは特定の目線移動で起こるミスは、モニタやキーボードの位置や高さを変えることで防ぐことができます。人によっては特定の紙の色とインクの色、書式などの組み合わせでミスが減る場合もあります。このタイプの方は、職場の困りごと対策③でご紹介しているLD(学習障害*²、限局性学習症)の方へのアドバイスが有効な場合が多いことも付け加えておきます。
指示からズレてしまう
ASD(自閉スペクトラム症障害、アスペルガー症候群)傾向がある場合、一生懸命仕事をしている積りなのに、完成したものが上司の指示と大きく食い違ってしまう、という問題が頻繁に起こるようです。こうしたズレを防ぐためのアドバイスは、以下の3点です。
①メモと復唱で「受信力」を高める
コミュニケーションというと、言いたいことを上手く人に伝えられないという「発信」に苦手意識を持つ人が多いようですが、実はコミュニケーションの肝は「受信」にあります。
業務の指示など必要な情報を確実に受け取るために大切なのが、メモと復唱です。話を聞く時にはペンとメモ帳を準備して記憶が薄れる前に聞いた内容を書き留めておきます。また話を聞き終わったらメモに書いてあることを読み上げて相手に確認してもらいます。もし聞きもらしや理解のズレがあっても相手から指摘してもらえるので、情報の受け渡しが確実です。復唱する前に「伺った内容を確認していただいてもよろしいでしょうか?」と一言尋ねるとよいでしょう。
②リーダーや先輩のやり方を踏襲する
もしあなたが新入社員や新しい職場に転職や異動をした場合、業務を覚えて仕事の流れが見えるようになるまでは、自分流は封印しリーダーや先輩からの指示を確実に実行することを心がけましょう。組織は最大効率を発揮するために作られており、そのリーダーや先輩のやり方は、その組織にとって最も相応しい方法である可能性が高いですし、何か問題があった場合に責任を取るのは彼らだからです。さらに業務上必要であれば、必ずしも同意できない方法であっても、指示を素直に受け取り自らのやり方を変えることにも挑戦してみてください。
③自己判断で作業手順を変えない
ASD傾向のある方は、自分なりにもっと良い方法を思いつくとその方法に固執する傾向があります。しかし今あるオペレーションは、これまでの担当者が経験を踏まえて導き出した会社として最善の方法と考えられます。また会社ではメンバーの業務の進め方についても上司が責任を持っているので、メンバーが自己判断で作業手順を勝手に変えることはできないと考えてください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
仕事をうまく、ミスなくするというのは古今東西問わず、皆悩むことです。ASDの人によくあるように、一つ一つの行動に思い悩むというのは、効率が悪く、他の人から足を引っ張っているように思われがちです。自分でもそう思い、悩んでしまうこともあるでしょう。
でも、他の人も同じように悩んだこともあるし、そこまで非難しているわけではなかったりします。長い目で見れば、一つ一つの行動を悩む人の方が、仕事は丁寧であり、伸びていきます。ミスを長い時間軸で考えてもらえる職場だと良いですね。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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