ここでは発達障害*¹の方に「どんな仕事が向いているか」ではなく、発達障害の特徴のある方が職場で「どうしたら上手く働けるか」に焦点を当て、発達障害の代表的困りごとへの対処方法をまとめています。
その③では、職場では避けて通ることのできない読み書き計算が苦手(=LD:学習障害*²・限局性学習症傾向)だったり、手先が不器用だったり身のこなしがぎこちなかったり(発達性協調運動障害:DCD)、といった悩みへの対処方法を述べます。
【参考】大人のLD(学習障害)
あまり知られていない発達障害
LD(学習障害、限局性学習症以下LDと省略します)や発達性協調運動障害(DCD)はASDやADHDと併発している場合が多く、ミスの多さや作業効率の悪さや自閉傾向の背後にLDや発達性協調運動障害傾向が隠れていることもあります。一方でLDのみの障害でそのほかの障害を併発していない場合、読字障害のある方は空間認識能力に秀でている場合が多い」「LDの人は高IQ者の割合が高い」とも言われており、発達障害の全容・深淵に迫るための重要な鍵がLDの解明に潜んでいる可能性もあります。
きちんとLDを診断できる医師も限られており、幼少時にLDと診断されたものの、実際の読み書き計算の困難の原因は実は知的障害にあった、というケースも少なくありません。LDが疑われる場合は、信頼のおける専門機関で診察を受けることをお勧めします。
職業選択が決定的に重要
LDのある方は、苦手な作業をIT機器などで代替したり避けることさえできれば就労に問題がないことが多く、自閉度が高くなく限局性学習障害の単一障害のみの方は、おおよそ8割が一般就労されています。
LDの方の場合決定的に重要なのが職業選びで、不得意な作業をできるだけ避けて職種を選ぶことが必須です。LDがあっても活躍できる仕事の具体例としては、例えば宮大工、漁師、ネイリストなどが挙げられます。これらの職種は全て技術職で、マニュアルなどの文字情報よりも技術を見て覚える部分が重要な職種です。同じ職種でも環境や使用する機器によって適否が異なることもあります。例えばカフェで働きたい場合も、伝票を手書きするところは無理でも、タブレットでメニューを押す形式なら大丈夫かもしれません。
ただし、障害枠の事務作業においては、現実的にはほとんどの職場で読み書き計算は必要ですので、事務系の仕事に就きたい場合は、何がどうできないのか、どうしたらできるのかを自分で明確に理解しておく必要があります。
LDに加えて自閉が強くあったり他の発達障害による苦手があったり、読み書き計算の苦手の背後に知的問題があると、就業へのアプローチが変わってきますので、その場合は就労支援機関などに相談することをお勧めします。
ITを用いて苦手を代替
KaienではLDや発達性協調運動障害傾向のある人に限らず、全ての訓練生に多くの職種を試してもらい、個々人の職業的強みと苦手をきちんと自分で理解してもらいます。その上で、特にLD傾向のある人には、強みの職能が活かせそうで同時に障害の特性が目立たない職場を選ぶようにアドバイスします。また、職務上の苦手は、例えて言えば靴紐が結べないなら結び方を懸命に練習するより、まず紐のない靴を履くような選択――文字を書くことが苦手な場合なら、メモを取る別の手段(PCのメモ帳、ポメラ:メモ機能に徹したポケットワープロ)に変える、読むことに困難があれば読み上げソフトを使う――などを提案しています。ここでのポイントは正しい「音:発語が聞き取れる」ことと、LDの症状があっても「カナ文字」が読めることの2点です。
ある訓練生には、指示をもらいながらメモが取れない、という悩みがありました。聴覚障害(聴力に異常はないが聴いたことの運動神経への伝達が上手くいかない)と書字障害のため、メモも逐語でしかできず、後で見返しても何を書いているのかわからない状態でした。キーボードを打つことには苦手感がなかったため、メモを手書きからポメラに変えることを提案しました。すると瞬く間にメモが不自由なく取れるようになったばかりか、最上機種のポメラについたカレンダーやメール機能まで使いこなし、彼のビジネススキルは一挙に劇的に向上したのです。
「できる」「喜ばれる」体験で就労意欲を高める
LDと自閉傾向が重なったり、成長の過程で自尊心に悪影響を与えていたりする場合は、得意部分に焦点を当て「できる」体験を積み上げ「役に立った・達成した」という成功体験を重ねることを大切にしています。
LDが主診断でASDを伴うある訓練生の場合、訓練開始当初はこれまでの人生でこれといった成功体験がなく自信がなさそうでした。封筒を作る訓練の際、その方は文字情報を得にくいという特性から、教える方の動きを観察して作業手順を習得しようとしていました。そこでその様子を見ていたスタッフが、作業手順を動画化する提案をしたところ、卓越した空間認識能力を活かしたわかりやすい動画ができました。動画作成過程で他の訓練生から意見を聞いたり、キャプション挿入に際し協力を得ることができ、さらに作品の評判が良く周りから感謝を伝えられることで、ご本人は大きな達成感を得たようです。その後色々なことにチャレンジする気持ちが芽生え、結果として就労意欲も高まって行き、現在は映像関係で大道具の仕事に就かれています。
【参考】封筒の作り方①~⑨より③、同じく⑤(YouTube)
すべての発達障害者のミス解消への手掛かり
LD傾向のある人のミスは多くの他の発達障害者と共通しており、以下にあげるその防止解消のテクニックは、むしろASDやADHDなど発達障害傾向のある全ての方のミスを防止するための基本ともいえる方法です。
①目線の移動や見比べを楽にする
モニタ・スタンドやラップトップ・スタンド、書見台、タブレットなどを用いて、目の高さとモニタ、キーボード、参照する資料の間の距離をできるだけ小さくしたり、モニタを2段重ねや横並びで複数使いする、エクセル図表を読む際には、定規を当てて目線がズレないようにするなどの工夫をこらしてみましょう。
②手書きを避ける、減らす
ポメラのようにメモ機能に徹しネット環境がなくても使用できる機器、PCやスマホのメモ機能、ボイスメモ機能などを状況に応じて活用しましょう。また、指示のスピードについて行けない場合、その場ではキーワードだけをメモするなど、書く負担を減らす方法も試してみましょう。
③数を扱う負荷を減らす
数字が関わると業務でミスが増えてしまう人は、数字を扱う負荷を最小限に減らすことができないか検討しましょう。例えばExcelなどの表計算ソフトに数字を直接入力するとたくさん入力間違いがあった人も、入力を選択式にしてプルダウンメニューから選ぶ形にすればミスを減らすことができます。
また時計を見ても作業の残り時間がイメージできない場合は、PCやスマートフォンの機能を活用して、作業終了時間の30分前などにポップアップやバイブレーションで知らせるよう設定しておくのもよいでしょう。シンプルに例えば「15:00で作業完了させる」と書いた付箋をPCモニタや時計に貼っておくだけでも気づきやすくなります。
メモの取り方を目的に応じてブラッシュアップする
書字のスピードが遅い人は図や記号を多用してメモをするのもよいでしょう。また、話がまとまらない人も、あらかじめ話の要点と流れをメモ化し、メモを見ながら話をすることで抜け漏れなく自然に話がすすめられます。このように、各自の苦手や目的によって、効率的なメモの取り方を身に着けておきましょう。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
LDの人はあまり知られていなかったり、本人も自覚がなかったりします。スポーツや芸能で成功した人やビジネスの世界でも、自伝やインタビューを見ると医師から見ても「LDなのかな?」と思う点が度々あります。本人も編集者の人もそのまま載せてるのを見ると、周囲の人も含めて誰もLDについて気づいていないのかもしれません。解決や苦手軽減には様々な方法がありますが、まずは自分の特性に気づくこと。そしてそういう時こそ、専門家のアドバイスが役立つと思います。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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