ここでは発達障害*の方に「どんな仕事が向いているか」ではなく、発達障害の特徴のある方が職場で「どうしたら上手く働けるか」に焦点を当て、発達障害の代表的困りごとへの対処方法をまとめています。
その④では、発達障害の特性上業務に支障が出る場合に、どうしたら適切な配慮を受けられるか、について述べてみます。
合理的配慮を勘違いしない
業務が上手く行かなかったり、職場の人間関係が気まずくなったりした時、発達障害の方はすぐにその職場を辞めなければならない、と感じてしまう傾向があります。今この記事を読んでいる方がそんな気持ちだったら、ちょっと待って。落ち着いて下さい。
日本の学校や企業は「障害者差別解消法」によって、障害を理由に雇用の機会が奪われたり制限されるような扱いを禁止されていますし、障害者に対しては合理的配慮の提供義務を負っています。職場に配慮を求めることによって、問題を改善する可能性をまず考えてみましょう。
配慮は黙っていて与えられるものではありません。自分から求める必要があります。その際、働きづらさが発達障害の特性のためであることを周囲に納得させるためには、本人自身の訴えだけでは十分でない場合が多く、障害者手帳や医師の意見書など第三者の専門家や公的機関による障害の証明がないと実際には難しいことは知っておきましょう。
勘違いしやすいのは「配慮によって求められる仕事のハードルが下がる」「苦手な仕事は配慮によって免除されて当然」と考えてしまうこと。配慮はあくまでも給与に見合った成果を出すために提供されるもので、給与とパフォーマンスのバランスを障害のために崩しても許される、と考えるのは誤りです。
一般枠か障害者枠か
従来一般枠で働いてきた方が発達障害の特性上職場で働きにくさを感じた場合、まずはそのままの働き方で配慮を求めるか、障害者枠に変えてもらった方が働きやすいか、考えてみましょう。初めて就活する方や、一旦退職してから新たに求職する場合でも、一般枠で働くか障害者枠で働くかは、提供される配慮だけでなく、今後の働き方や人生設計に大きく影響してきます。以下、重要な比較点を表にまとめてみます(あくまで発達障害者が就職した場合の一般的傾向です)。
一般枠 | 障害者枠 | |
会社規模 | 中小零細が多い | 大企業が多い |
受けられる配慮 | ☓ 現実的に期待薄 | ◎ 配慮有りが前提 |
賃金・報酬 | ◯ まちまち | △ 昇給は少なめ |
安定 | ☓ 社内外の競争 | ◯ 雇用維持が前提 |
働きがい | ◯ 刺激・多彩・達成感 | △ まちまち(単調な場合も) |
「私の取扱説明書」作成のすすめ
実際に配慮を求める際には、自分の長所と障害について採用・人事担当者や上司にいかに具体的に伝えられるかが肝になります。そのためには「ナビゲーションブック」のようなフォーマットに、セールスポイントと障害とその対策について書き出して、「私の取扱説明書」を作ってみることも良いでしょう。「取扱説明書」という響きは自分を物にしているような印象があるとは思いますが、「周囲に接してほしい方法を書いた本」という意味とご理解ください。
業務に悪影響を与える可能性のある特性がある場合は、なおさら仕事上のセールスポイントを具体的に整理しておきましょう。企業にしてみれば「会社にとってどう役に立ってくれるか」こそが大切で、そのために配慮をする訳ですから、障害部分や配慮要求ばかりを前面に出すことは、自分を不利な立場に置くだけです。
障害は対策まで具体的に
障害特性を伝える際は、漠然と伝えると拡大解釈されてしまう恐れがあるので、できないことや困りごとを絞って具体的に説明できるようにしましょう。また、何をどう対策すれば業務への影響が減らせるかも具体的に伝えることがとても大切です。
例えば、「ミスが多い」と言っても、そもそも思い込みが激しくて指示を曲解してしまうのか、指示を忘れてしまって抜け漏れが出るのか、すべてを行うもののケアレスミスが多いのか、によって対策も変わってきます。
「電話が苦手」な場合も、一切電話は受けられないか、外線は無理だけれど内線なら対応可能なのか、「エクセルの作表が苦手」といっても、一切無理なのか、時間をかければできるのか、難易度を下げればできるのか、そういったレベルまで具体的に伝えることができてはじめて、企業サイドと対策や配慮についての交渉ができるということを理解しておきましょう。
第三者(支援機関等)を利用して、落としどころを模索
職場ですでに問題を抱えていて、その問題に関して配慮を求めたい場合、直属の上司に相談をもちかけると、その上司も既に問題の当事者である場合が多く、感情論になりがちです。できれば人事や就労支援所など第三者に相談するか巻き込むようにしましょう。なお、配慮についても1か0かではなく、双方の納得できる落としどころを探るようにするといいでしょう。
【参考】就労定着支援とは?
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
発達障害と言っても、人によってタイプは様々で、職場での必要な配慮もそれぞれによって違います。各々の職場でできることも違うので、なかなか一般論でまとめることは難しいです。だからこそ上手に配慮を求めるスキルが求められるのが発達障害の人でしょう。
加えて、相手の能力や適切な仕事量の把握というのは”定型発達”の人に対してでも簡単なことでは有りません。記事にもあるように相手に配慮を求めていくことも重要ですが、自ら自分の得意な苦手が少ない場所を探すことも重要だと思います。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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