職場での発達障害*¹の現れ方とその人にあった対応策を具体的な人物像で描いてみました。いずれも当社の支援経験から複数の方のストーリーを組合わせた架空の人物像です。診断名だけでなく、それまでの成育歴や現在の環境によってどのように仕事に向けた対策が異なるかを注意してお読みください。
Aさん 35歳 女性 既婚
大卒後、事務職として職業人生スタート。当初半年程度は、細かな作業、静かな場所での作業、毎月の決まった仕事などを丁寧に仕上げていた。しかし口頭での指示を取り違えたり、電話が上手に取れなかったり、女性同士の会話についていけないなど、一部の人との対人関係が徐々に悪化し退職。結婚を挟んで再就職を目指しているが、目立った職歴がなく就職活動がうまくいかない。近所付き合いや友達付き合いもうまくいかない中、アスペルガー症候群の本をきっかけに病院を訪れ発達障害と診断される。その後は服薬もなく病院にも頻繁には通っていなかったが、就職を考え精神障害者保健福祉手帳を申請。
【解説】ADHDの不注意と広義のLDが併存しているタイプです。仕事が定型かつ落ち着いた環境で人間関係がさばさばしている職場には馴染めるでしょう。一般枠で十分に働ける力があっても、苦手や困難を理解してくれる安心した環境で働きたいという場合、障害者枠を希望する選択肢もあり得ます。実際に診断がついており、就職活動に支障もあるため、本人に取得意志があれば障害者手帳は問題なく出るはずです。
Bさん 23歳 男性 未婚
小さい頃に言葉の遅れが目立ち、また同い年の子との遊びの輪に加わらず、「発達が気になる」と受診し、診断を受ける。その後は周囲のサポートもあり、また本人もほんわかとした性格であり、特段大きな問題もなく小中高と進む。専門学校で就職活動をしなんとか1社内定。従業員50人程度のIT企業(派遣)に就職。しかしスピードや業務量についていけず半年で離職。その後、職業訓練を受けている。
【解説】IQが85程度。以前なら高機能自閉症、あるいは学習障害*²と診断を受けたケースかもしれません。成長しても言葉遣いにやや不自然さが見られるものの、”受動型”であるため周囲から煙たがれることもなく、特別な支援は受けずともするすると進学。ただし職場のスピード感には追いつくのが難しく、社会に出て障害特性を理解した支援を受けるタイプです。
Cさん 28歳 男性 未婚
中高一貫校から大学に進む。しかし研究と就職活動の両立が上手くいかず留年。特にレポート・論文で苦労する。通常より2年長くかかって卒業。その後も就職先がない。在学中から大学内の学生支援課などでカウンセリングを受ける。その後、大学病院でアスペルガー症候群と適応障害の診断を受ける。一般枠で就職活動を続けたものの1社も受からず、手帳を取得して障害者雇用での就職を考え始める。
【解説】IQが120ぐらい。高学歴に多い発達障害のタイプです。見た目にも頓着せず、あまり親しくない人からはガサツな人と思われがちですが、実はガラスのハートの持ち主という、表情や振る舞いからはわからない内面を持つ方が多いようです。このような方も高校や大学、そして社会人と年齢が高くなるごとに適応が難しくなってきます。学歴もあるためまずは一般枠で就職し、本人が自分の得手不得手を職場という環境で理解することが望ましいでしょう。
Dさん 40歳 男性 既婚
趣味は鉄道。小さいころから周囲との違和感はあったが、趣味の合う友達がいたり、のんびりとした地域で育ったため、特に困難もなく高校・大学と進む。就活で苦戦するが地元企業になんとか内定。その後、営業・総務・コールセンターを転々とする。どの部署でも仕事の覚えが悪い、怒られても申し訳なさそうにしていない、いつもは律儀だが時々感情的になり周囲をイラッとさせるなど、すれ違いが出て徐々に孤立。転職をするがそこでも適応が難しく、何か原因があるのではと思っていた矢先、妻から家庭でも気が利かないことを指摘され、発達障害を疑い始める。確定診断には至らなかったが、傾向があると複数の医師から見立てを告げられる。
【解説】律儀なアスペの典型でしょう。スピード感は遅いものの、ルール通りに、周囲の人への気遣いも(やや機械的ですが)出来、趣味を通して友達も作れるタイプです。この為、少し変わった人ということで成長し、就職も出来ますが、部下をみたり、複雑な案件で調整が必要となったりすると、苦しさが出てきます。無理に出世せず、そのまま専門職などで働けると一生幸せに暮らせるタイプです。
Eさん 31歳 女性 未婚
小さいころから”不思議ちゃん”と呼ばれる。学校に遅刻したり、物忘れがひどく、毎日平穏に過ごすこと自体に疲れを感じ始める。部屋は足の踏み場がないほど片付かず、そういった様子を振り返ると自分が情けなくなり一人さめざめと泣くことが多い。自尊心は常に低い。1対1で話をすることは得意なため、面接での評価は高いが、仕事が始まるとミスや抜け漏れが出ないように極度に神経を使うため、週末は何もする気が起きないほどで、ほぼ寝て過ごしてしまう。片づけられないというキーワードからADHDを疑い受診。服薬後はできなかった整理整頓や思考のまとめができるようになり、生きやすくなったと感じる。
【解説】女性に大変多いタイプです。ゆっくりとしていてどことなく愛嬌があり異性からの人気も高いでしょう。しかしご本人の脳内はかなり混乱しています。かつASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)の特性は弱いために自分が客観視できるので、自分の抜け漏れや周囲のがっかり感が認識できてしまい、自己肯定感が沈みがちです。このような症状はADHD治療薬で改善することもあります。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
発達障害といっても、様々なパターンがあります。そのパターンに合わせて、どういう支援が必要かを考えていくことが重要です。
しかし、血液型占いがうまくいかないように、どれだけ類型化し、体系的に理解しようとしても、なかなかうまくいかないのが心理学・精神医学の歴史でした。様々なパターン理解は教科書的な基本を学ぶのに重要で、実際の支援は専門家による個別的な対応と、知見やノウハウを貯めていくことが重要なんですよね。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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