仕事や人間関係などにおいて強いストレスが溜まると、適応障害(適応反応症)を発症して日常生活に支障をきたしてしまう場合があります。適応障害の改善には、ストレスが溜まる環境から離れることが必要です。しかし休職や転職をするとしても、また働き始めて症状が現れたらどうしようと、不安に思う人もいるかもしれません。
本記事では、適応障害の概要や適応障害の方に向いている仕事、長く働き続ける上でのポイントを解説します。適応障害の方が利用できる就労支援制度も紹介するので、ぜひ参考にしてくださいね。
適応障害の方に向いている仕事はある?
適応障害で就労から離れた場合、次こそは自分に向いている仕事を見つけて働きたいと思うでしょう。しかし、適応障害に向いている仕事というものは、そもそもありません。
適応障害というのは本来、不適応になった場所(職場)から離れれば改善されるものです。ストレスのある環境から離れても困りごとが解消されない場合は、発達障害など生まれつきの特性によるものと考えられます。
つまり、適応障害に向いている仕事ではなく、生まれつきの特性に合わせた働き方や向いている仕事を選ぶことが大切なのです。
そもそも適応障害(適応反応症)とは?
適応障害とは、仕事や人間関係などでストレスが溜まることにより、心身のバランスが崩れて日常生活に支障をきたしている状態を指します。残業時間が月100時間を超えるなど、過酷な労働条件やハラスメントが横行している職場環境等に身をおいている場合は要注意です。
こうした心身に負荷がかかる環境で仕事を続けると業務効率も下がり、ミスやイライラなどにより業務に悪影響を及ぼす可能性があります。これらがさらにストレスとなり、症状が悪化する場合もあるため、症状が出始めたら早めの休養や医療機関への受診が重要です。
適応障害の原因と症状
適応障害は、遺伝と環境要因により引き起こされると言われています。つまり本人のストレス耐性とストレス度合いから、許容範囲以上にストレスがかかった場合に適応障害になると考えられます。
適応障害の代表的な症状は以下の通りです。
- 憂うつな気分が続く
- 不安が強くなる
- 不眠や食欲不振
- 倦怠感
- 自尊心の低下
これらの症状はストレスのかかる環境から離れることで改善されるケースがほとんどです。仕事や職場環境にストレスを感じている場合、無理をして働き続けると症状の悪化を招く恐れがあるため、まずは休養を心がけましょう。
うつ病との違い
適応障害とうつ病は、共に不眠や食欲不振、気分の落ち込みといった症状がみられることから、しばしば混同されがちです。
適応障害とうつ病の違いの1つとして「ストレスの原因が明確であること」が挙げられます。適応障害はストレス要因が明確な場合がほとんどなのに対し、うつ病ははっきりと特定できないケースが少なくありません。
また、適応障害はストレスが解消されたり、ストレス要因から離れたりできれば、おおむね6ヶ月以内に症状が改善するといわれています。しかしうつ病は、ストレス要因から離れても症状が続く場合も多くあります。
適応障害になりやすい方の特徴
適応障害は誰でもなり得る病気ですが、個人の性格や気質といった特性により発症のしやすさは異なります。適応障害になりやすい方の特徴を以下にまとめました。
- 真面目で責任感が強い
- 気持ちの切り替えが苦手
- 完璧主義・神経質
- 繊細で環境の変化が苦手
- 自分より他人を優先しがち
- 悩みを1人で抱え込みがち
- 他人の目や評価を気にする
上記の特徴に当てはまったとしても、必ず適応障害になるわけではありません。反対に上記の特性に当てはまらなくても、過度なストレスにさらされ続けると適応障害になる可能性がある点に留意しましょう。
適応障害の方に向いている仕事や業務内容
適応障害の方が仕事を探す際は、自分がストレスを感じる要因からなるべく離れられるものを探すと良いでしょう。
たとえば、イレギュラーな出来事にストレスを感じやすいのであれば、ルーティンワークが多い工場勤務や公的機関の事務職、データ入力などがおすすめです。また、生活音や他人からの視線が気になるという方は、在宅勤務ができるフリーランスやテレワーク主体の仕事も選択肢になります。他にも、対人関係にストレスを感じやすいのであれば、1人で業務を行えるドライバーやガス・電気などの検針員という仕事もあります。
もちろんどんな仕事にも多かれ少なかれストレスはあるでしょう。しかしその中でも、自分にとって1番のストレス源となる要素が少ない仕事を選ぶことが大切です。
適応障害の方が避けるべき仕事や職場環境
適応障害の方は、臨機応変な対応が求められる仕事や、人間関係に気を使うような職場環境にストレスを感じやすいといわれています。
たとえばコールセンターのスタッフや介護施設の職員などは、突発的な対応が求められる対人業務のためストレスを感じるケースが多いです。また、頻繁に転勤や異動が発生する仕事も、イチから人間関係を築く必要があるため苦痛に感じるかもしれません。
他にも、厳しいノルマが設定されている保険会社や証券会社などの営業職も、強いプレッシャーにさらされるためストレスを抱えやすいです。
適応障害の方が長く働き続けるためのポイント
適応障害の方が長く働き続けるためには、以下の3点が大切です。
- 適切な治療を継続する
- 自分のストレス要因を知る
- 職場に配慮を求める
1つずつ詳しく見ていきましょう。
適切な治療を継続する
適応障害の治療では、ストレス要因から離れてゆっくり心身を休めることが大切です。仕事を続けている場合には、医師から休職など休養を勧められることもあるでしょう。まずは適切な休養をとり、就労に対する意欲が戻ってきて、医師からもOKが出たら、復職や転職などを視野に考えてみましょう。
治療を継続したり、ストレス要因から離れたりしても適応障害を何度も繰り返す場合、適応障害を引き起こす要因は別にあるかもしれません。例えば発達障害*の二次障害などが挙げられます。二次障害とは、元々ある疾患の影響により引き起こされる二次的な障害のことです。
発達障害にはコミュニケーションの困難さやケアレスミスの多さといった特性があります。こうした特性によるストレスが適応障害を引き起こすトリガーとなるため、発達障害が背景にある場合は適応障害の治療だけでなく、二次障害の要因となる疾患への対処も必要です。
自分のストレス要因を知る
適応障害は、特定のストレスが原因となり発症します。そのため、適応障害の方が長く働き続けるには、自分がどんなことにストレスを感じやすいか、その傾向を把握することがとても大切です。自分のストレス要因がわかれば、仕事を選ぶ上でのひとつの指標になります。
原因となるストレスがわかっている場合は、ストレスの内容を掘り下げていき、段階ごとのストレス度合いを考えてみましょう。また、適応障害は強くストレスを感じてから3ヶ月以内に発症する傾向があるといわれています。ストレス要因がはっきりしない場合は、自分に症状があらわれる3ヶ月前にどんな変化があったか、振り返ってみると良いでしょう。
職場に配慮を求める
職場に自身の症状について相談し、配慮を求めるのも1つの方法です。適応障害の方は、会社に合理的配慮を求める権利があります。合理的配慮とは、障害のある方が社会生活の場に障害のない方と同等に参加できるよう、それぞれの特性や困りごとに合わせて行われる配慮のことです。適応障害の方の合理的配慮の例として、以下が挙げられます。
- 時差出勤や短時間勤務、在宅勤務など柔軟な勤務形態の許可
- メールやチャットなど、対面以外のコミュニケーション方法の工夫
- 負担の少ない業務への配置転換
- 静かな作業スペースの提供など、職場環境の調整
2024年4月1日から、職場などでの合理的配慮の提供が義務化されました。合理的配慮を求めることは権利として認められているので、必要だと感じたら職場に相談してみましょう。
適応障害の方が利用できる仕事に関する支援制度
適応障害の方が利用できる仕事に関する支援制度として、復職準備支援や就労移行支援など、さまざまなものが挙げられます。その中のいくつかを見ていきましょう。
復職準備支援
復職準備支援として挙げられるのが、リワークやリハビリ出勤です。医療機関や障害者職業センター、就労移行支援事業所などでは、復職準備支援として「リワークプログラム」を受けることができます。
リワークでは、基礎体力や持久力の向上を目指すプログラムや自己管理・ストレス対処の方法を習得するプログラムなど、さまざまなものが用意されています。また、業務を想定した実践的なプログラムがある点も特徴です。
「リハビリ出勤」とは、本格的に復職する前に心身を職場に慣らすために企業が設ける試し出勤制度を指します。「自宅と職場の往復から始める」「出勤後一定時間自席で過ごす」など、リハビリ出勤の内容は会社によって異なります。会社によっては実施していない場合もあるので、まずは人事に確認してみましょう。
就労支援
適応障害の方が受けられる就労支援には、さまざまなものがあります。
例えば就労移行支援事業所では、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」などを受けることができます。退職した方だけでなく、条件によっては休職中の方も利用できる点が特徴です。
地域障害者職業センターでは、障害のある方を対象に専門的な職業リハビリテーション支援を行っています。
障害者就業・生活支援センターでは、面談をもとに利用者の希望や適性に合わせた支援計画を作成しています。ハローワークは障害の有無を問わず誰でも利用できますが、障害や疾患のある方の就職や転職支援のほか、再就職への相談にも応じています。
Kaienでは、100種類以上の職種を実践的に体験できる就労移行支援のほか、生活スキルやソーシャルスキルの習得を通して将来を設計できる自立訓練(生活訓練)を提供しています。無料で見学会や体験利用を随時実施しているので、気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。
就労移行支援で自分に合った仕事探しを!
適応障害がある場合は、ストレスのある環境から離れて心身ともにゆっくり休むことが大切です。ストレス要因から離れたにも関わらず、適応障害が改善されない場合は、発達障害などの生まれつきの特性が関係している可能性があります。
適応障害の方が向いている仕事を探す際は、自分がどんなことにストレスを感じやすいか、傾向を把握することが大切です。
特性に合わせた困りごとの対処法や、自分に向いている仕事を探す時には、就労移行支援事業所をはじめとした就労支援・復職準備支援の利用がおすすめです。十分な休養をとり医師からのOKが出たら、少しずつ動き出してみましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。