ADHD(注意欠如多動症)の方は、特性により仕事でミスや失敗することが多く、衝動的に転職を繰り返しやすい傾向にあります。しかし転職しても新しい職場になじむのも楽ではないので、長く勤められる職場を見つけたいと思っている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、ADHDの方が転職を成功させるためのポイントを解説します。ADHDの特性をおさらいしつつ、特性をカバーするための具体的な対策や向いている仕事、利用できる支援機関などを紹介しているので、参考にしてください。
ADHDの方の転職を成功に導くポイント
転職を成功させるには転職を繰り返す「原因」を探り、そのうえで「対策」を考えるのが建設的です。この2点がはっきりすれば、進むべき道と避けた方が良い道の取捨選択がしやすくなります。
ここでは、ADHD(注意欠如多動症)の方が転職活動を始める前に押さえておきたい4つのポイントを紹介します。
なぜ転職を繰り返すのか原因を探る
最初に取り組むべきことは、なぜADHDの方は転職を繰り返しがちなのか、その原因を知ることです。
そもそもADHDの方には「集中力の持続が困難」、「細部まで注意が向かない」といった特徴が見られます。これらの特徴はケアレスミスや抜け漏れの多さにつながりやすく、仕事においてはミスを頻発する事態に発展する場合があります。
さらにADHDの方は「衝動性」のある方も多く、将来設計をしないまま突発的に退職してしまうケースがあります。つまり、ADHDの方が転職を繰り返しがちなのは、ADHDに含まれる複数の特徴が組み合わさった結果といえます。
医療機関を受診する
ADHDの特性には個人差があるので、インターネットで得た情報やセルフチェックなどだけでADHDであるかどうかの判断は不可能です。そもそもADHDの診断は医療機関でしかできません。自分で集めた情報から推測するよりも医療機関を受診するのが確実です。
なお、ADHDの診断は発達障害*に対応している精神科または心療内科で受けられます。医療機関を探す際には、都道府県のWebサイトにある発達障害の診療が可能な医療機関リストが参考になります。
より詳しく受診から診断までの流れを知りたい場合は、以下の記事をチェックしてください。
大人のADHDは何科に行けばいい?受診から診断までの流れや医療機関を探す方法を解説
働き方を決める
医療機関でADHDと診断され自分の特性の傾向が分かったら、次は特性に合った働き方を考えましょう。障害がある方の働き方として代表的なものは以下の通りです。
- 現在の職場で合理的配慮を求める
- リモートワークや時短勤務を活用する
- 障害者雇用で働く
- 就労継続支援で福祉的就労をする
合理的配慮とは、障害がある労働者に対して、事業主が可能な範囲で障害に対する配慮を行うことです。障害者手帳を取得していれば一般雇用・障害者雇用どちらも応募できます。なお、ADHDの方で知的な発達の遅れがない場合は精神障害者保健福祉手帳を、知的な遅れを伴う場合は療育手帳の取得が可能です。
障害者雇用については、以下の記事で詳しく解説しています。
障害者雇用とは?対象者や一般雇用との違い、メリットと注意点を解説
現状で就職が難しい場合は、一般企業への就労が困難な方に就労機会の提供を行う就労継続支援を活用する選択肢もあります。
就労継続支援については、以下の記事で詳しく解説しています。
就労継続支援A型とB型の違いとは?仕事内容や給与など8つの観点で解説
支援機関を頼る
障害の理解や困りごとへの対策をスムーズに進めるためにも、障害がある方を対象にした支援機関を積極的に頼りましょう。発達障害の専門知識を持つ職員に相談でき、各種就活サポートや障害に関する知識の習得など、さまざまな支援が受けられます。
支援機関ごとに受けられるサービスが違うので、自分に必要と思われる支援機関を見つけるのがポイントです。支援機関の種類やサービス概要などは後述します。
ADHDの特徴と向いている仕事
ここでは、ADHDによく見られる特徴で分類した「不注意優勢型」「多動・衝動優位型」「混合型」の3タイプから、向いていると考えられる仕事を紹介します。
- 不注意優勢型:うっかりミスが多く注意散漫で、集中力の長時間維持が難しい
- 多動・衝動優位型:1つの物事に集中するのが苦手で、感情のコントロールが効きにくい
- 混合型:「不注意優勢型」と「多動・衝動優位型」の両方の特徴がある
なお注意点として、これらのタイプ分けはあくまで特徴をベースにしたもので、パターン分けするとわかりやすいため敢えて用いています。医学的に使われている分類ではない点をご留意ください。
不注意優勢型の方に合う職場
不注意優勢型に当てはまる方は、特性により抜け漏れやうっかりミスを起こしやすい傾向にあります。これらのミスをなくす、または許容してもらうのは難しいので、仕事の環境や手順などにカバーできる仕組みがある職場を探してみましょう。
たとえば、1つの仕事に対してダブルチェックが義務付けられている職場や、マニュアル整備が行き届いている業務、チェック専門の部署がある職場などが考えられます。職業でいうと、配送業務や清掃業務などが当てはまりやすいです。
多動・衝動優位型の方に合う職場
多動・衝動優位型に当てはまる方は、1つの場所に留まったり同じ作業を続けたりするのが苦手で、集中力の維持が難しい傾向にあります。そのためケアレスミスを起こしやすく、数字を追うような仕事やルーティンワークなどではミスを頻発する恐れがあります。
この点をカバーするには、時間や場所の制限が少ないフレックス制やリモートワークが可能な職場が向いているでしょう。また、興味のある物事には高い集中力を発揮する傾向があるので、興味のある分野に集中できる環境に身を置くのもよいでしょう。
ADHDの方の転職先の選び方
ADHDの方が転職先を見つける際には、次の3ステップで進めていくと効率的です。
- 自分の強みを生かせる仕事を考える
- 転職サイトで求人チェックする
- 支援機関や相談先でアドバイスをもらう
自分で大まかな目星をつけたあとに、支援機関や相談先で専門家と一緒に職場との相性を踏まえて将来設計していく流れです。では、各ステップのポイントを見ていきましょう。
自分の強みを活かせる仕事を考える
ADHDの特性は決してネガティブなものばかりではなく、「発想力」や「独創性」といったクリエイティブな能力や、仕事に対する「行動力」や「決断力」などポジティブなものも含まれています。さらに好奇心旺盛であるという強みもあるため、以下のような職種であれば、自己のポテンシャルを最大限発揮できる可能性があります。
- 好奇心の強さや行動力を生かす:編集、記者、ディレクター、カメラマン、など
- クリエイティビティの高さを生かす:イラストレーター、プログラマー、アニメーター、デザイナーなど
- 探求心や集中力の高さを生かす:研究者、学者、教員など
転職サイトで求人をチェックする
求人情報を探す際は、通常の転職サイトに加えて障害がある方向けのサイトもチェックしてみましょう。たとえば障害者雇用を専門に取り扱っている「マイナーリーグ」では、「とがりを活かす」のキャッチコピーのとおり、障害特性に配慮しながら強みや専門性を活かせる仕事が多数掲載されています。
また、応募前の企業に質問できたり、配慮事項を事前に確認できたりと、仕事を見つけやすい工夫が施されているのも嬉しいポイントです。大手企業も多数掲載されており、気軽に参加できるオンライン採用説明会も随時開催されているので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
支援機関や相談先でアドバイスをもらう
ある程度職種や求人を絞り込めたら、障害のある方を対象とした支援機関や相談先でアドバイスをもらってみましょう。
たとえばハローワークでは、障害の専門知識を持った職員による履歴書の添削や面接の練習を受けられます。また地域障害者職業センターでは、ハローワークと連携した適正チェックも行なっています。
なお、一箇所で総合的な就労に関する支援を受けたい場合は、障害がある方の一般就労をサポートする「就労移行支援」が力になってくれるはずです。スキルや知識の習得から就活準備、職場定着までを一貫して支援してくれます。
ADHDの方が転職で利用できる支援機関
ADHDの方が転職で利用できる代表的な支援機関について、支援内容やメリットなどをまとめて紹介します。
- 就労移行支援事業所
- 自立訓練(生活訓練)
- 少人数面接会
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
上記は支援機関の一例ですが、自分に合いそうなサービスがあったら、百聞は一見に如かずなので見学や体験利用などを申し込んでみましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、就業に関する相談や準備支援、職務の選定、定着支援など、就職に向けた基礎作りから職場定着までのサポートを総合的に受けられます。
たとえばKaienでは、100種類以上の実践的な職業訓練や50以上のスキルアップ講座が受けられ、そのうえで強みを生かせる職場とのマッチングも行っています。
障害者雇用の求人は、業務内容が単純なものや専門性が低い仕事が多いという課題がありますが、Kaienでは200以上の会社と連携することで多様な職種を提供しています。
さらに収入面でも、3人に1人が月給20万円以上を受け取っており、自分の強みを磨きながら、しっかり収入を得られる仕事を見つけられます。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)とは、障害がある方が自立した日常生活や社会生活を送るためにとり組む訓練のことです。
Kaienは自立訓練(生活訓練)を「じぶんを再定義し、未来を再設計する場」と考え、生活リズムや生活習慣の改善、料理や洗濯といった家事の訓練、コミュニケーションの練習といった、日常生活の基礎固めに取り組んでいきます。
自立訓練(生活訓練)では生活の基盤を築くことが第一なので、まだ就職のことは考えられないという方にもおすすめです。就労移行支援へのステップアップも可能なので、就活を始める前に自分を見つめ直し、自信を養う場として自立訓練(生活訓練)を使うのもよいでしょう。
少人数面接会
少人数面接会とは5人以下のような少人数で面接を行う場のことです。一人当たりの発言時間を多くとれるので面接官とコミュニケーションが取りやすく、発言へのストレスも少ないでしょう。
Kaienの「マイナーリーグ」でも少人数面接会を取り入れており、オンラインでの採用説明会を随時実施しています。少人数なので具体的な話ができ、その場で障害に対する配慮を確認することも可能です。
また、どうしても質問しにくいことは、匿名でのチャットで担当者に確認することもできます。
ハローワーク
ハローワークでは障害者雇用の求人を取り扱っているほか、障害について専門的な知識をもつ担当者を通じた情報の提供や、就活相談などを実施しています。
また、障害者雇用の求人情報では「職場適応援助者(ジョブコーチ)の有無」や「エレベーターの有無」など、障害のある方に対する配慮事項の確認も可能です。
自分が仕事に向いているのか確認したい場合は、地域障害者職業センターと連携した適性チェックも受けられます。さらに職業訓練を活用すれば就職のために必要な知識や技術の習得も可能です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターとは、障害がある方に専門的な職業リハビリテーションを提供する施設です。全国の各都道府県に設置されており、以下のような就職支援事業を行っています。
- 職業準備支援:職業紹介やジョブコーチ支援などを受ける準備段階として作業体験、職業準備講習、社会生活技能訓練といった基本的訓練を行う
- ジョブコーチ支援事業:労働者と事業主の双方に対して、派遣したジョブコーチを通じた支援を行う
- 精神障害者総合雇用支援:主治医や医療機関と連携して、精神障害がある労働者と事業主双方の支援を行う
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害者のある方の就業面と生活面の一体的な相談・支援を行うための施設です。
就業に関する支援としては、職業準備訓練、 職場実習のあっせん、障害のある方の特性、能力に合った職務の選定、職場定着に向けた支援などが受けられます。
また、生活面に関する支援としては、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理といった日常生活の基礎に関する支援や、地域生活と生活設計に関するサポートなどが受けられます。
ADHDの方の転職は特性に合った働き方選びが大切
ADHDがあっても自分の特性をしっかり理解できれば、快適な働き方や自分が活躍できる職種を探すことは十分可能です。実際に動き出すときには、転職を繰り返す原因や多様な働き方などを理解し、今回紹介したポイントを振り返りながら自分のペースで少しずつ進めてみてください。
近年はADHDなど発達障害の方が利用できる支援機関も増えてきていますので、一人で抱え込まずに前向きな利用を検討してみましょう。Kaienの就労移行支援はオンラインでも利用可能なので、通所でも家にいながらでも第一歩を踏み出すことができます。無料の見学会や体験利用も随時実施していますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
大人のADHD診断は本当に増えてきました。診断がくだされる、ということは単にADHD特性があるだけではなく、特性ゆえの社会生活上の障害となっている部分があるはずです。その意味で、どんな特性が自分の生活上の問題点になっているのかは主治医や支援者と話しながら把握していけると、対策が取りやすいはずですね。転職をするのであれば、記事にある通り、何が自分の強みで、どこを工夫すると次の仕事が上手くいきそうか、しっかり相談しながら就職活動を進めてもらえればと思います。仕事の継続には色々な要素が関係します。仕事そのものやお金を稼ぐことでできることへのモチベーションも大事ですね。必ずしも一般的に向いている、向いていないと言われる仕事で判断できるわけでもないので、気になる仕事があれば支援者の方と相談してみてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。