適応障害とは、日常生活や周囲の環境がストレスとなり、心身のバランスを崩してしまった状態を指します。発症原因が仕事の場合、このまま仕事を続けるべきか悩んでしまう方もいるでしょう。
この記事では、適応障害と診断された際に仕事を続けられるかどうかや、休職制度について解説します。適応障害の方が復職や就職を考えたときに利用できる支援機関も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
適応障害(適応反応症)とはどんな状態?
適応障害(適応反応症)とは、身の回りの環境や生活の変化にうまく適応できず、ストレスによって心身に不調をきたしてしまう状態のことです。
ストレスの原因は人によりさまざまで、パワハラや長時間労働が原因の場合も少なくありません。また、環境だけでなく、遺伝的な要素も発症に関係するといわれています。
適応障害の症状としてよく挙げられるのが、不安感や抑うつ、自尊心の低下などです。また、不眠や食欲の低下、動悸といった身体的な症状もあらわれやすいです。
近年では適応障害の診断基準のあいまいさを改善するため、適応を妨げる心身の反応に着目されるようになったことから、「適応障害」ではなく「適応反応症」という名称に変わりつつあります。
適応障害になりやすい方の特徴
同じような強いストレスにさらされても、適応障害になる人とならない人がいます。その違いは、気質や性格といった個人の特性にあるといわれています。
適応障害になりやすい方の特徴のひとつが、真面目さや責任感の強さです。また、他者とのコミュニケーションが苦手だったり、繊細で敏感だったりという例も挙げられます。
ほかにも、こだわりが強く完璧主義な傾向がある、人からの評価を気にしやすいタイプなども、適応障害になりやすいといわれています。
適応障害と発達障害との関連性
環境を変えたり、休職をしたりしても適応障害を繰り返す場合は、その根本に発達障害*が隠れている可能性があります。発達障害の特性により生きづらさやストレスを感じることで、適応障害などの精神障害を発症することを「二次障害」といいます。
発達障害は先天的なもので、特性と生涯付き合っていかなければなりません。対して適応障害などの後天的な精神障害は、適切な対処や治療により改善が見込まれます。
発達障害の特性と精神障害の特性は医師でも見分ける判断が難しく、適応障害がなかなか改善しないことから発達障害の可能性を知るケースも少なくありません。発達障害の二次障害として適応障害を発症していて、適応障害の症状が強い場合には、まず二次障害の治療を優先することが大切です。
適応障害と診断されたら
適応障害と思われる症状が心身にあらわれたら、まずはクリニック等を受診して医師の診断を受けましょう。医師に適応障害と診断されたら、症状に合わせた治療が始まります。
適応障害の治療でもっとも大切なのは、ストレスの原因から離れてゆっくりと休むことです。職場に休職制度がある場合は、休職も検討しましょう。
適切な休養を経て職場復帰できたとしても、ストレス要因が職場に残っているのであれば再発してしまうおそれがあります。まずは働く環境や業務内容などを変えられないか、人事や上司に相談してみましょう。
環境を変えられない場合には、転職を視野に入れても良いかもしれません。適応障害は長引くとうつ病を発症するリスクが高まるため、心身の健康を優先して進めていくことが重要です。
仕事は続けられる?
適応障害と診断されたら、まずはストレスの原因から離れ、休むことが大切です。そのため職場環境がストレス要因の場合には、仕事から離れることをおすすめします。
さまざまな理由から、適応障害と診断されても仕事を続けたい方もいるかもしれません。しかし、無理して仕事を続けると状態が悪化し、適応障害の症状が長引くおそれがあります。
会社に休職制度がある場合は、制度の利用も視野に入れましょう。
適応障害で休職する場合
休職とは、病気や怪我などで働けなくなった際、会社に籍を置いたまま一定期間休める制度です。休職に法的な規定はないため、会社によっては休職制度がないところもあります。その場合は残念ですが、休職制度の利用はできません。
休職できる期間は会社により異なりますが、最長でも2~3年と決めているところが多いようです。適応障害で休職する際は、会社が定めた上限の範囲内で休むことになります。
適応障害の休職期間の目安は、3ヶ月から6ヶ月程度です。しかしこれはあくまでも目安であり、症状によっては6ヶ月以上の休職が必要なケースも少なくありません。
休職制度の利用条件や具体的な流れは会社ごとに異なるため、休職したいと思ったらまず会社と相談しましょう。また、休職期間中は原則無給となりますが、経済的に不安な場合は傷病手当金などの制度を活用すれば、支給期間中は収入がゼロになることはないので安心です。
休職者の職場復帰を支援する制度
ゆっくりと休む時間をとり、症状が改善して主治医からも許可がおりたら、少しずつ職場復帰の準備をしていきましょう。しかし、いきなり休職前と同じように働けるとは限りません。そのため、リワークやリハビリ出勤といった支援制度を利用して、徐々に心身を慣らしていく方法が有効です。
いずれにしても無理をしないことが大切ですので、少しでも不調が出始めたら支援制度の利用中でも、休養をとりながら無理のないペースで進めていきましょう。
リワーク
リワークとは、適応障害などの心の不調で休職している方の職場復帰を支援する制度です。医療機関や後述する就労移行支援事業所などで実施されており、さまざまな作業訓練やプログラムを受けることができます。
就労移行支援でのリワークの場合、就職や復職を目的として実践的なスキルを習得できるのが特徴です。医療機関や公的機関のリワークでは難しい、就職後の定着に向けたフォローを受けられるのもメリットでしょう。
前年度の所得にもよりますが、多くの方は利用料が無料という点も利用のしやすさにつながっています。復職や退職後の職場復帰に不安を感じている方は、リワークの利用を検討してみましょう。
リハビリ出勤
リハビリ出勤とは、本格的に復職する前に心身を職場に慣らすための出勤制度です。法律で決められた制度ではないため、リハビリ出勤制度の有無やその内容は、会社によって異なります。
リハビリ出勤の内容は、「自宅と職場の往復」「出勤後に一定時間自席で過ごす」などさまざまです。会社によって進め方が違うので、まずは人事にリハビリ出勤ができるか確認してみましょう。
リハビリ出勤を行う際も無理は禁物です。体調を優先し、少しずつ慣らしていきましょう。
適応障害の方が就職や転職に利用できる支援機関
適応障害の方の中には、転職や再就職を検討している方もいるでしょう。その際におすすめしたいのが、国や自治体の支援機関です。
例えばハローワークでは、就職や転職に関するさまざまな支援を実施しています。専門知識のある職員が配置され、障害のある方の就職・転職支援を行っているので、適応障害で不安を感じている方は相談してみましょう。
精神保健福祉センターは、適応障害など心の病気の方向けに自立や社会復帰を支援する機関です。各都道府県に設置されており、医師や臨床心理士といった専門家が在籍しています。精神科のデイケアなどを実施しているところもあるため、お近くのセンターの支援内容を確認してみましょう。
ほかにも、後述する就労移行支援や地域若者サポートステーション、障害者就業・生活支援センターなど、さまざまな支援機関があります。利用を検討している方は、お住まいの近くにどんなものがあるか調べてみましょう。
復職や再就職を考えるなら就労移行支援がおすすめ
就労移行支援は、障害のある方を対象とした福祉サービスの1つです。一般就業を目指して、通所しながら就労に関する一貫したサポートが受けられます。就労移行支援は退職した方だけでなく、休職中で復職を検討している方も利用可能です。
主な支援内容としては「職業訓練」「就活支援」「定着支援」が挙げられ、スキルや知識の習得を支援するサービスが受けられるのが特徴です。「障害福祉サービス受給者証」があれば利用できるため、いわゆるグレーゾーンの方や障害者手帳を取得していない方でも利用することができます。
Kaienの就労移行支援
Kaienでも就労移行支援を行っており、利用者の方のペースに合わせてプログラムを進めることを大切にしています。社会福祉士などの専門資格保有者や、発達障害の支援経験のあるスタッフが、手厚くあなたの就労に向けたサポートを実施します。
Kaienの職業訓練は、100種類以上の実践的な職業体験を通して、利用者の方の特性に合った仕事を探していきます。同時に苦手分野や困りごとへの対処方法を学び、社会スキルの習得へつなげます。
就活サポートでは、他事業所にはない独自の求人も紹介可能です。発達障害や適応障害などの精神障害に理解のある企業200社以上と連携し、利用者の方に合う職場を見つけていきます。
担当カウンセラーが二人三脚でサポートするので、あせらず自分に合う仕事を探していきましょう。
就職後には定着支援を行い、スタッフが生活上の問題や業務の困りごとなどを解決に向けてサポートします。
Kaienでは無料で見学会や体験利用を随時開催していますので、気になる方はぜひ、お気軽にご連絡ください。
適応障害と診断されたら治療と休養が大切
適応障害と診断されたら、まずはゆっくりと休みましょう。最初は休養を取ることに戸惑いを感じるかもしれませんが、心身を休ませることが症状改善には大切です。会社に休職制度がある場合は、制度の利用も検討しましょう。
適応障害の方の中には、復職や再就職に不安がある方もいるかもしれません。その場合は、就労移行支援の利用がおすすめです。1人で無理をして頑張ろうとせず、支援機関に頼りながら一歩ずつ改善を目指していきましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
適応障害はメンタルヘルス領域では20%ほどを占めていると言われ、非常にメジャーな疾患です。精神医学の教科書を見ると、「原因となる対人関係などが除去されると症状は改善される」と良く書かれていますが、実際はさまざまな理由からすぐに人間関係を離れることは容易ではなく、得てして慢性化することがあります。
そのようなとき、医学の視点から離れてケア(看護)の視点から適応障害を眺めると、治療ヒントが得られると思います。その一つがシスター・カリスタ・ロイというアメリカの修道女でボストン大学看護学教授の呈示した「ロイの看護の適応モデル」です。
このモデルの細かい説明は省きますが、要点は「人間はオープンで適応的なシステムを持っており、ストレスに対処するスキルを持っている」という信頼に基づいています。人間は主体的・能動的で、自身の健康や周囲の環境、そして他者からのケアを積極的に利用することで、ストレスを軽減していくというのです。ロイのモデルはやがて、個人から家族関係の評価にも発展することになります。(ロイのモデルについては、Wikipedia英語版を参照しました。)
いろいろなケア担当者とああでもない、こうでもないと話し合いながら、段々自分の進むべき方向が見えてくるって、どこかで聞いたことがありませんか?そう、ロイのモデルはオープン・ダイアローグに似ているんです。答えは一つだけでなく、さまざな考えを持っていいんだとする態度は新たな精神療法とも言われていて、メンタルヘルスの治療は時代の影響を受けながら、一人の中の多様性を容認する方向に向かうのかもしれません。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。