境界性パーソナリティ障害の方は極端な個性があることから、日常生活や仕事などの場面で周囲を巻き込んで問題を起こしてしまうことがあります。特に人間関係のトラブルが生じやすいため、仕事選びには慎重な判断が必要です。しかし、障害がありながら適職を探すのは簡単なことではないでしょう。
そこで本記事では、境界性パーソナリティ障害の方の特徴や対処法、仕事選びのポイントについて解説します。就職事例も紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
境界性パーソナリティ障害とは
パーソナリティ障害とは、考え方や行動が大多数の人とは異なることで大きな苦痛を感じ、強い不安感やイライラが抑えきれなくなったり、衝動的な行動を起こしたりして日常生活に支障をきたす障害のことです。
パーソナリティ障害自体には10種類ものタイプがあり、大きくA群、B群、C群の3タイプに分けられます。境界性パーソナリティ障害はB群の分類です。
B群に含まれる境界性パーソナリティ障害は、見捨てられることへの不安から感情がコントロールできず不安定で、周囲を巻き込む問題行動を起こしやすいと言われています。相手が離れていくと感じると、かんしゃくや自殺未遂といった過激な行動をとるケースも少なくありません。
ただし近年では、境界性パーソナリティ障害が原因で他の精神障害を併発し、それらの精神疾患が前面に出るケースや、発達障害*など別の病名で症状の説明や診断がされる機会も増えているため、パーソナリティ障害と診断される例は大きく減ってきています。
境界性パーソナリティ障害の方の特徴
境界性パーソナリティ障害の方は、「自分が見捨てられる」ことへの強い恐れが根本にあります。周囲の自分に対する行動や言動が自分の意に反する際に、些細なことでも激しい怒りが生じたり、傷ついたりしやすいのが特徴です。
人が自分から去って行きそうだと不安や孤独を感じる出来事が起きると、怒る・泣くなどして相手を動揺させたり、衝動的な行動を取ったりすることもあります。このような行動をすることにより、自分から離れないよう相手を操作する傾向があるため、周囲の人々がついてこられずトラブルも起こりやすくなるのです。
また、境界性パーソナリティ障害の方は、「白か黒か」「敵か味方か」のような二極思考に偏りがちです。本来は思いやりを持った行動ができるのに、スイッチが入ると極端な思考に走り問題行動を取ってしまうのは、この二極思考が影響していると言われています。
境界性パーソナリティ障害と発達障害の関連性
境界性パーソナリティ障害と発達障害は似ている症状が多く、医師ですら診断に迷うケースがあるほど見分けにくい障害です。
ただし前提として、発達障害は先天性であるのに対し、境界性パーソナリティ障害は後天性であることが挙げられます。境界性パーソナリティ障害は生まれつきの気質や遺伝、幼少期の生育環境や社会的要因などさまざまな原因が絡み合って発症するといわれており、発達障害のように生まれながらの脳機能の障害といった明確な発症理由は存在しません。
一方で、「対人関係の困難に立ち向かう術に欠けている」といった発達障害の特性がベースとなり、二次障害として境界性パーソナリティ障害を発症するケースもあります。この場合、二次障害の症状が強い状態であれば、境界性パーソナリティ障害の対応を優先することが重要です。
境界性パーソナリティ障害の治療法
境界性パーソナリティ障害の治療の基本は精神療法で、カウンセリングや周囲の環境設定を行い、本人と周囲の生きづらさを改善していきます。
不安や抑うつといった症状を和らげるために薬を用いることはありますが、パーソナリティ障害そのものへの薬物治療はできません。
「問題の原因が自分にあると理解する」「パーソナリティの特性を認める」「社会不適応と思われる行動を減らす」など、自身の状態を認知し、行動を変化させられるようアプローチしていきます。
境界性パーソナリティ障害の方の仕事の困りごと
境界性パーソナリティ障害の方は、全パーソナリティ障害の中で最も患者数が多く、人間関係において感情の起伏が激しい、人に依存したり操作したりする問題行動が多いという傾向があります。
根底には見捨てられることへの不安や孤独への恐怖心があり、親密だと感じている相手が少しでも自分の期待に外れた行動や言動をとると、拒絶されていると極端な捉え方をしてしまいがちです。
仕事上でも職場の対人関係において、特定の人に依存したり操作したりする、不安や怒りを抑えきれずに突然怒りだす、衝動的な行動をとるなど、周囲を動揺させるトラブルを起こしやすいといった困りごとを抱えています。
境界性パーソナリティ障害の方の仕事選びのポイント
境界性パーソナリティ障害の方は、特に人間関係において問題が生じやすいことから、職場環境や業務内容によっては不適応と判断されてしまう可能性も考えられます。
しかし、働く能力や意欲に問題がなければ、適切な職場を選ぶことで自身の力を発揮し、企業にとっても有益な存在となれるでしょう。
ここでは、境界性パーソナリティ障害の方が仕事を選ぶ際のポイントを3つ紹介します。
障害に理解ある職場を選ぶ
境界性パーソナリティ障害の方が障害に理解のない職場で働くと、業務内容や周囲とのコミュニケーションが上手くいかなくなり、強いストレスから周囲とのトラブルが避けられない状況に陥る可能性が高まります。
障害に理解のある職場を選ぶことで、適切な配慮を受けられることが期待できるため、大分働きやすくなるはずです。業務の割り当てや不安を減らす配慮、コミュニケーションの取り方など、障害に理解のあるサポートを受けやすい職場を選びましょう。
定期的に職場を変える
境界性パーソナリティ障害の方は、仕事内容や職場の環境に慣れると不満が生じやすくなります。同じ職場、業務内容だと単調になり、刺激不足になることがトラブルの引き金になることもあるため、定期的に職場を変えるのも有効です。
例えば、新しい資格を取得して同じ業種で2~3年を目安に職場を変えれば、新しい刺激が加わるため不満が生じにくく、自分自身もスキルアップして働けます。
同じ職場で働きたいならメリハリのある環境を意識し、単調な業務内容は避けるようにしましょう。異動があったり新しい情報に触れたりと、適度な刺激のある職場がおすすめです。
人との関わりが少ない仕事を探す
境界性パーソナリティ障害は、特に対人関係にストレスを抱える場合が多いため、なるべく人との関わりを避けて取り組める仕事を探すのも良いでしょう。
対面で人と接しながら行う仕事の場合、相手の行動や言動によって激しく感情が変動し、それによって感じるストレスは生活リズムにまで影響を及ぼす可能性が少なくありません。
在宅勤務にして人との接触を避ける、ノルマなどのプレッシャーがないなど、自分のペースで進められるような仕事が適しています。
境界性パーソナリティ障害の方が就職・転職するには
境界性パーソナリティ障害の方の場合、障害に理解があり適度な刺激を継続的に得られる、人との関わりが避けられるなどの条件を満たす職場を探せるとベストです。
しかし、膨大な求人の中から、条件に合う働きやすい職場を見つけるのは簡単なことではありません。そこでおすすめなのが、就労移行支援の利用です。
ここからは、障害のある方が就職・転職をする際に頼れる支援機関である、就労移行支援について詳しく解説します。
就労移行支援の利用がおすすめ
就労移行支援とは、障害のある方の再就職・転職活動をはじめ、就労に向けた職業訓練や就職後の定着支援を行うサービスをいいます。障害がある方にとって、自分が働きやすい職場探しや就職活動を一人で行うのは不安が大きいものです。
就労移行支援を利用して就職活動をする場合、障害に理解ある求人の紹介や選考のフォローなどの就活支援が受けられます。
原則として利用期間は最長2年間という決まりがありますが、2年以内に就職が決まれば、その後は定着支援を受けることも可能です。障害に理解のある専門のスタッフによる心強いフォローがあることで、安心して困りごとへの対策や就職活動に臨めます。
Kaienの就労移行支援のサービス内容
Kaienでは発達障害の方に特化した就労移行支援を行っています。ユニークで実践的なプログラムや、担当カウンセラーによる二人三脚のアシストにより、就職から定着まで一貫した手厚いサポートが受けられます。
主なサービス内容は以下の通りです。
実践的な職業訓練と豊富なカリキュラム
オフィス事務、作業系・伝統工芸、IT・デザインなど、実践型の職業訓練が受けられます。例えばオフィス事務では、総務、人事、経理などの部署を想定したロールプレイが体験できるなど、自分に適した職種や働き方を探せます。
さらに、特性による困りごとへの対策として、さまざまなスキルの習得が可能です。電話対応をはじめとしたビジネススキルや就活講座、パソコンのスキルアップなど、100種類以上の多彩で質の高いカリキュラムを受講できるため、就職に向けて着実に準備を進められます。
独自求人紹介を含む就活サポート
障害に理解のある企業200社以上と連携し、他にはない独自の求人も紹介できます。職種や業務内容にも幅があり、豊富な求人の中からきっと適職が見つかるはずです。
手厚い定着支援
就職後も3年半に渡り、職場訪問や定着支援SNSなどを通して安定就労をサポートします。就労後に生じた生活上の問題や、業務で困ったことがある場合に相談できる環境が整えられているのもKaienの強みです。
就労移行支援の利用で自分に合った仕事探しを
境界性パーソナリティ障害の方は、見捨てられることへの不安が大きいことから感情の起伏が激しく、周囲を巻き込んだ問題行動を起こしがちです。障害に理解のない職場で働くと、業務内容や人間関係で強いストレスや不安を感じやすく、周囲と衝突を繰り返してしまうことも考えられます。
精神療法を基本に治療を試みることや、自分に合った仕事や職場環境を見つけることで、生きづらさが軽減され働きやすくなるはずです。適職を探し、就職活動のサポートを受けたいと考えている方は、ぜひKaienの就労移行支援の利用を検討してみてください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
パーソナリティ障害は時代の病として、1960-1980年代は多くの患者さんがいて、盛んに治療法が議論されていました。「17歳のカルテ」は境界性パーソナリティ障害を扱った映画で、アンジェリーナ・ジョリーやウィノナ・ライダーの出世作となったことをご存知の方は多いでしょう。
しかし、現在ではパーソナリティ障害の診断数は減っていて、双極性感情障害や発達障害の診断に代わっています。この変化のはっきりした原因は分かっていないのですが、いくつかの理由が考えられます。・精神科医がより生物学的、科学的に患者さんを診療するようになったこと。・クスリが発展して症状のコントロールが容易になったこと。・SNSの普及で生身のコミュニティが縮小して、パーソナリティ障害を持つ人が他者と接する機会が減ったこと。このように、医療やライフスタイルの変化が精神障害の概念を短期間で変えてしまうことがあるのです。言い方を変えると、パーソナリティ障害の変化は、社会構造の鏡と言えるかもしれません。
現在、問題になるパーソナリティの問題は、以前のような他人を操作する人ではなくて、自己愛が肥大した人だと考えられています。はっきりした障害とまで言えなくても、SNSでちょっとした優越感を感じさせるエピソードをアップロードして賞賛を得ようとする人が増えました。そこに他人の存在はなくて、自分しかいないのです。さらにパーソナリティ問題の行き着く先は自分すらない人で、すでに「コンビニ人間」という題名の小説で村田沙耶香氏が芥川賞を受賞しています。
(註:「コンビニ人間」については、佐藤優氏の「嫉妬と自己愛」:「負の感情」を制した者だけが生き残れる(中公新書ラクレ)を参考文献として用いました。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。