不安障害(不安症)の症状があり、就職や復職、転職を考えている方の中には、自分が働けるかどうか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。しかし不安障害があっても、自分に合った仕事に出会えれば仕事を続けることは可能です。ただし、無理して仕事を続けると症状の悪化につながるため、適切な方法で対処する必要があります。
本記事では、不安障害の基本知識や困りごとへの対処法について解説します。また、復職や転職、再就職を考えている方のために、おすすめの就労支援機関についても紹介するので参考にしてください。
不安障害(不安症)とは
不安障害(不安症)とは心配や不安な気持ちが高まり、日常生活にまで影響が出てしまう状態のことです。不安障害は不安などの精神的な症状だけでなく、動悸や息切れ、震えなどの身体的症状もあらわれます。
不安障害の代表的な種類は以下の通りです。
- パニック障害(パニック症)
- 社会不安障害(社交不安障害/SAD)
- 強迫性障害(強迫症)
- 全般性不安障害(全般不安症/GAD)
上記の障害の症状や特徴を、以下で詳しく解説していきます。
パニック障害(パニック症)
パニック障害(パニック症)とは、急に動悸やめまい、呼吸困難などの発作がおこる病気です。100人に1人の割合で発症すると言われており、ストレスや脳内の伝達物質の関与が指摘されていますが、明確な原因はわかっていません。
これらのパニック発作が繰り返されると、また発作が起こることへの「予期不安」や、発作が起きた場所に恐怖を感じる「広場恐怖」により、仕事や日常生活にも影響を及ぼします。また、密閉空間への不安から電車やエレベーターが利用できず、通勤が困難になるケースも少なくありません。ただし、発作が起きづらい環境であれば仕事の継続も可能なので、まずは職場環境を見直してみましょう。
社会不安障害(社交不安障害/SAD)
社会不安障害(社交不安障害/SAD)とは、人と関わることへの緊張や不安が強く、日常生活に支障がでてしまう病気です。会話や注目されることに恐怖を覚え、大勢の人が集まる場所へ行くと苦痛を感じることもあります。
対人恐怖症やあがり症が社会不安障害の症状に含まれるケースもあり、社会人の場合は会議やプレゼン、電話の応答など、強い緊張を感じる場面で業務に支障をきたしてしまうことも少なくありません。仕事に影響が出る場合は、リモートワークや在宅勤務などに変えてもらうのも1つの手段です。
強迫性障害(強迫症)
強迫性障害(強迫症)は、手の汚れや鍵の閉め忘れなど、些細なことが異常に気になる「強迫観念」と強迫観念を打ち消す行為を何度も繰り返す「強迫行為」が主な症状です。例えば手の汚れが気になるという強迫観念がある場合、何度も何度も手を洗ってしまう強迫行為が行われます。
強迫性障害は自覚があり、自分では止めたくても止められないどうしようもない気持ちから、周囲に変な目で見られることへの恐怖心が高まり、行動範囲が縮小する傾向にあります。また仕事の業務よりも強迫行為を優先してしまうため、作業に集中できず遅れが見られがちなのも特徴です。
全般性不安障害(全般不安症/GAD)
全般性不安障害(全般不安症/GAD)は、人間関係や日常生活で起こる様々な出来事に対して、極度な不安や心配を抱く病気です。不安になる対象が幅広いことや、症状が半年以上続くことも特徴として挙げられます。
全般性不安障害の主な症状は以下の通りです。
- 落ち着きがない
- 疲れやすい
- 集中力の低下
- 感情の高ぶりが見られる
- 緊張状態が続いている
- 不眠
上記の症状は一例ですが、全般性不安障害と思われる症状が見られたら、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
不安障害のサイン
不安障害の症状は様々ですが、精神面や身体面からサインがあらわれるため、以下のようなサインを見逃さないようにしましょう。
こころのサイン | 身体のサイン |
---|---|
落ち着きがなくなる 過剰に緊張する 何かに対し恐怖を感じる 1つのことに集中できない イライラしやすい | 筋肉が緊張する 寝つきが悪くなる 疲れやすい 呼吸が浅くなる のどが詰まる感じがする 手指が冷たくなる |
これらはあくまで一例ですが、上記のサインがあらわれたら、早めに医療機関を受診することが大切です。
不安障害と発達障害の関係性
発達障害*の方は、人間関係や日常生活などへの不安やストレスが大きい傾向にあります。自身の特性からくる生きづらさや失敗体験などが重なると、不安が徐々に膨らんで二次障害を発症するケースも少なくありません。何度も不安障害の症状を繰り返す場合は、不安障害が発達障害の二次障害である可能性があります。
二次障害は、先天性である発達障害の影響で不安障害などの精神障害が後天的に引き起こされることからそう呼ばれています。発達障害と不安障害は区別がつきにくく、見落とされて適切な対応が遅れてしまう場合があるため注意が必要です。
また、就職などにおいて環境の変化に早く適応しようと頑張りすぎてしまう「過剰適応」には要注意です。過剰適応の際は交感神経が優位に働き、疲れがマスキングされている状態になります。このような状態が続くと不安障害などになりやすいため、無理をせず休息を心がけましょう。
不安障害の方の仕事での困りごと
不安障害の症状が出始めると、仕事や日常生活への影響も強くあらわれます。例えば仕事では、以下のような困りごとが見られることがあるでしょう。
- 不安や恐怖で電車に乗れなくなり通勤が困難になる
- ミスを恐れて過度に確認してしまう
- 仕事中に不安を感じることが多くストレスや疲れが溜まりやすい
- 人と話すのが苦手で緊張や不安が強い
- 気持ちが不安定になり仕事が手につかない
- 対人恐怖から人と上手く話せない
上記はほんの一例ですが、不安障害の症状の出方は様々で、困りごとも生活環境や職場環境などによって大きく変わります。まずは自分が何に対して不安や恐怖を感じているか自己理解を深め、適切な対処をとることが大切です。
不安障害と付き合いながら仕事を続けるための対処法
不安障害があっても無理なく仕事を続けるためには、ストレスをかけないことが重要です。職場環境に問題がある場合は、休職や転職も視野に入れましょう。症状を自覚している場合は無理をせず、早めに精神科やメンタルクリニックなどの医療機関を受診することをおすすめします。
また、生活習慣や食生活を整えることも有効な対処法です。適度な運動や十分な睡眠など、規則正しい生活を心がけましょう。職場でもストレッチや腹式呼吸などを行うことで、心身をリラックスさせることができます。職場で自分がリラックスできる方法をいくつか用意しておくと安心です。
不安障害の方の就職・復職・転職のポイント
不安障害への対策を講じても、職場環境や業務内容によっては改善が難しい場合もあるでしょう。その場合は思い切って、休職や転職をするのも1つの手です。不安障害がありながら就職活動ができるか不安に思う方もいるかもしれませんが、福祉サービスを頼ることで選択肢が広がります。
ここでは、不安障害の方の就職・復職・転職への可能性を広げる方法として、障害者手帳の取得や就労支援サービスの活用について詳しく解説していきます。
障害者手帳を取得する
働き方の選択肢を増やすために、障害者手帳の取得も視野に入れましょう。障害者手帳にはいくつか種類があり、不安障害の方は「精神障害者保健福祉手帳」が交付対象となります。等級は1~3級に分かれており、症状の重さにより区分される仕組みです。
障害者手帳を取得すると障害者雇用での就職が可能になります。他にも税金が安くなる、医療費の助成、公共交通機関などの料金の割引など、金銭面でのメリットが大きいことも魅力です。
ただし、障害者手帳の取得には医師の診断書や手続き等が必要で、時間と手間がかかります。また、障害者手帳を取得することで周囲の目が気になるケースもあるため、こうしたデメリットも踏まえた上で取得を検討しましょう。
就労支援サービスを活用する
適切な休養をとり、就労を考えられる段階になったら就労移行支援やハローワークなどの支援制度を活用するのがおすすめです。就労移行支援では、障害のある方が一般就労を目指すためのスキルや経験を積むサポートを行います。自分の症状に合った働き方を見つけるだけでなく、障害者雇用での就職も可能です。
ハローワーク(公共職業安定所)は厚生労働省が運営する総合的雇用サービス機関です。主に、就職の相談や紹介をします。障害のある方への就活サポートも充実しており、面接への同行や就職面接会の開催などを行っている安定所もあります。
就労移行支援やハローワークの利用は障害者手帳の必要はないため、障害者手帳の取得が難しい方や取得しない方でも利用可能です。
不安障害の方は就労移行支援の利用がおすすめ
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの1つです。障害のある方の就労をトータルサポートするのが特徴で、サービス内容は「職業訓練」「就活支援」「定着支援」などが挙げられます。
対象者に該当する方は以下の通りです。
- 18歳以上65歳未満の方
- 難病や身体障害、知的障害、精神障害などの障害がある方
- 一般就労を目指しており、かつ職業訓練・就活支援などによって一般就労が可能だと見込まれる方
職業訓練ではスキルの習得や実務体験などを行い、就活支援では面接の練習や履歴書作成といった就活に関わるスキルを学びます。定着支援では、企業へ入社した後に生じる様々な問題の相談に乗り、不安を和らげるなどのサポートを行うのが特徴です。
就労移行支援の魅力は、障害者手帳がなくても利用できることです。「障害福祉サービス受給者証」を取得すれば利用可能なので、障害者手帳の取得が難しいグレーゾーンの方や症状が軽微な方でもご利用いただけます。
就労移行支援は全国各地に事業所を設けており、支援内容や得意分野はそれぞれ異なります。利用の際は、雰囲気や習得できるスキルなど、自分の希望とマッチしているかどうかを考えながら選ぶようにしましょう。
Kaienの就労移行支援
Kaienでも就労移行支援を行っています。就職実績は過去10年間で約2,000人(1事業所あたり年間就職者15名以上)、就職率が86%に対して就職から1年後の離職率は9%と低いのも強みです。
Kaienでは主に以下のような支援を実施しています。
- 100職種以上の実戦的な職業訓練
- 独自のカリキュラムで多方面のスキル習得
- 豊富な求人を扱う就活サポート
- 就職後も安心の定着支援
職業訓練では適職を見つけるための実践的な訓練が100種類以上もあり、自分の得意分野や特性を活かせる仕事探しが可能です。豊富な独自カリキュラムの中には、クリエイティブコースのように専門性を高められるプログラムもあります。
また、ライフスキル講座やスキルアップ講座など、自分の強みや弱みを客観的に確認できるカリキュラムや、ビジネスマナーが学べる講座など、困りごとや苦手分野への対策も充実しています。
就活支援ではKaien独自の求人があり、発達障害や不安障害に理解のある企業200社以上と連携し、あなたに合った求人を見つけるサポートを行います。働き方も様々で、3人に1人が給与20万円以上の企業へ就職できていることも強みです。
長く安定して働くために適切なサポートを受けよう
不安障害と一言でいっても様々な種類があり、不安や恐怖の程度も人により異なります。長く仕事を続けるためには、障害への自己理解や自分に合った仕事探しが大切です。
就労移行支援では、不安障害のある方の復職や転職、再就職に向けて、あらゆるサポートを行っています。Kaienでも一人ひとりの症状や特性に寄り添った就労移行支援を実施しておりますので、不安障害の方で仕事に対してお悩みがある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
不安、は悪いものと決めつけがちですが、不安そのものは人、というより動物が進化の過程で身につけた大事な反応の1つです。私達は、刺激に対して適切な不安を覚えることで、危険を避けて身体の安全を守ったり、病気を防ぐための生活改善をしたり、自らの能力向上のための努力をしているのです。ですが、過ぎたるは及ばざるが如し、その不安があまりにも強いと生活に大きな悪影響が生じます。それが不安症であり、不安を和らげて生活しやすくする対応、治療を必要とするわけです。本記事にある通り、不安の種類や、生活への影響の仕方は様々ですので、不安に応じた治療があります。認知行動療法は不安症への良い適応ですし、薬物療法も効果があり、それぞれの組み合わせも時に必要となります。いずれにしても不安症の一番厄介な点は、症状によって生活範囲が狭まってしまうことにあります。適切な治療を受けて、社会活動を維持したり、回復させることが肝心です。休養が長くなってしまった時には、急に仕事への復帰は難しいこともあるでしょう。社会資源としての就労支援サービスの利用も考えて、徐々に社会活動を増やしてみてください。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。