うつ病は日本人の約15人に1人が一生で一度はかかると言われる身近な病気です。うつ病で休職や退職しても、十分な休養や適切な治療を行いしっかり準備をすれば、復職や再就職できる可能性は十分あります。ただし、社会復帰までのプロセスにおいていくつかの注意点があるため、覚えておきましょう。
なお、うつ病になったとしても社会の一員であることに変わりはありません。本記事でいう「社会復帰」は職場復帰を意味して使用している点にご留意ください。
この記事ではうつ病の方が社会復帰を目指す際の準備や流れ、利用できる支援機関や支援内容について解説します。
うつ病の方が社会復帰を目指す際の注意点
うつ病で休職や退職した後に社会復帰を目指す際は、焦らず、しっかりと休養・治療をすることが大切です。また、うつ病の原因にはさまざまな要因が挙げられますが、発達障害*の二次障害としてうつ病になる場合もあることを知っておきましょう。
それぞれについて以下で解説します。
社会復帰を焦らない
一般的にうつ病の治療には長い時間がかかりますし、再発しやすい病気とも言われています。そのため、気分の落ち込みなどの精神症状や動悸(どうき)などの身体症状が軽減しても、すぐに職場復帰や再就職ができるとは限りません。うつ病の再発を防止するためにも、十分に回復するまでは「早く働かなくては」と社会復帰を焦らないことが大切です。 社会復帰の適切なタイミングについては、主治医とよく相談するようにしましょう。
くり返すうつ病は発達障害の可能性も
発達障害とは、生まれつきの脳機能のかたよりから生じる特性によって生きづらさを感じる状態で、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などが含まれます。発達障害のある方は生きづらさから大きなストレスを抱えていることが多いため、その二次障害としてうつ病や不安障害などの精神疾患を発症する場合があるのです。
うつ病の治療を継続しても症状がなかなか軽減しなかったり、一時的によくなっても何度も再発を繰り返したりする場合は、二次障害としてうつ病があらわれた可能性も視野に入れ、発達障害へのアプローチも検討したほうがよいかもしれません。
うつ病から社会復帰する際の選択肢
うつ病で休職・退職してから社会復帰する際には、復職、転職(再就職)、就労継続支援などさまざまな働き方の選択肢があります。どれを選ぶかは、元の職場の環境や相性、自身の体調などによってケースバイケースです。働き方の選択肢について、それぞれ以下で見ていきましょう。
復職
会社によっては福利厚生として、従業員が病気やけがなどをした場合に在籍したまま療養休暇を取得できる「休職制度」があります。その場合は休職制度を利用し、適切な休養と治療を経て十分に回復してから元の職場に復帰することが可能です。
最初からフルタイム勤務で復職するのではなく、試し出勤や短時間勤務などの制度を利用できる場合もあるので、会社の上司や人事部と相談してみましょう。また、会社から主治医に対し業務内容や復職で利用できる制度などについて説明してもらうことができれば、より適切な判断を下しやすくなります。
転職(再就職)
うつ病の治療のために、いったん退職する場合もあるでしょう。その場合は休養と治療をして十分に回復してから就職活動を行い、再就職をする流れになります。
現在休職中の方も、転職や一旦退職してからの再就職も視野に入れて考えてみましょう。つまり、なじみのある職場に復職するほうが自分にとって負担が少ないのか、それとも、もっと心身のストレスを回避できて無理なく働ける環境を探すほうがよいのかで判断するのです。
就労継続支援
就労継続支援とは病気や障害のある方に就労機会を提供する福祉支援サービスで、「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2つに分かれています。いずれも利用料(上限あり)を支払う必要がありますが、工賃も受け取れます。作業内容は事業所によってさまざまです。
A型は事業所と雇用契約を締結し、法定最低賃金以上の工賃が保証されます。一方、B型は50歳以上または障害基礎年金1級受給者、就労経験はあるが年齢・体力面などで一般企業での就労が難しい方を対象とする支援サービスで、事業所との雇用契約は結びません。また、B型の工賃は日額制または作業量に応じた歩合制で支払われます。
就労継続支援については、こちらの記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
就労継続支援A型とは?対象者や仕事内容、利用の流れや事業所選びのポイントを解説
うつ病から社会復帰するまでの流れ
うつ病になってから休職・退職し、回復して社会復帰するまでの主な流れとして、次の4段階が挙げられます。
- うつ病の診断を受ける
- 休養をとる
- 復職や再就職の意思表示をする
- 復職や再就職の準備をする
それぞれの段階について以下で解説します。
うつ病の診断を受ける
まずは、心身の不調の原因がうつ病であるという診断を受ける必要があります。2015年から企業は従業員に対して年1回以上のストレスチェック制度が義務付けられています。厚生労働省のサイトでは簡易版のストレスセルフチェックも可能です。これらのチェックでうつ病の兆候がみられたら、心療内科や精神科など専門の医療機関を受診しましょう。
「うつ病のため休職が必要」という診断を受けたら、休職手続きに必要となる「病気休業診断書」を主治医に発行してもらってください。
休職も含む休養をとる
会社に「病気休業診断書」を提出して直属の上司や人事部、産業医などと面談を行い、休職期間や休職中の注意事項、傷病手当金などについて話し合った上で休職(あるいは退職)となります。会社から確認・注意事項として伝えられることが多い内容は、「休職中の連絡方法」「休職中にSNSなどに投稿する内容については配慮すること」などです。
うつ病の治療においては、ゆっくり心身を休める必要があります。「早く回復して仕事に復帰したい」と焦ってしまうこともあるかもしれませんが、まずは、休養と治療に専念してください。
復職や再就職の意思表示をする
うつ病のプロセスには「初期」「急性期」「回復期」「再発予防期」の4つがあり、回復期に入るとよく眠れるようになって食欲も出てきます。回復期の後半になると、散歩や片付けなど軽い生活行動も少しずつできるようになり働く意欲も出てくるので、主治医に「復職または再就職したい」という意志を表明しましょう。また、職場復帰に向けて「早寝早起き」「規則正しい生活」など、生活リズムを整えるよう意識します。
うつ病のプロセスについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
うつ病でも働ける場所はある?向いている仕事とは?利用できる制度や支援先についても紹介
復職や再就職の準備をする
主治医に「職場復帰が可能」と判断されたら、復職・再就職の準備を始めましょう。厚生労働省の手引きによる職場復帰の判断基準は次の通りです。
- 十分な労働意欲がある
- 1人で安全に通勤できる
- 決まった勤務日・時間に継続して就労できる
- 業務に必要な作業ができる
- 作業による疲労が翌日までに十分回復する
- 睡眠覚醒リズムが整っていて業務中に眠気がない
- 業務に必要な注意力・集中力が回復している など
それでは、うつ病の方が社会復帰するための準備方法について、次で見ていきましょう。
うつ病の方が社会復帰するための準備方法
うつ病の方が社会復帰するには、しっかりと準備することが大切です。具体的な準備方法としては、主に次の4つが挙げられます。
- 治療の継続
- 働き方や雇用形態を検討する
- 専門の支援機関に相談
- リワークプログラム
それぞれの方法について以下で詳しく解説します。
治療の継続
一度は回復したと思っても、無理をするとうつ病が再発してしまうことがあります。そのため、しばらく休養と治療をした場合でも「心身の調子が良くなった」「もう治った」と思い込まないよう、注意が必要です。自己判断で服薬や通院を中断することはおすすめできません。必ず、主治医の指導に従って通院や服薬などの治療を継続するようにしましょう。復職や再就職をした後に調子を崩すことがあっても、治療を続けていればすぐに相談できるので安心です。
働き方や雇用形態を検討する
復職や転職(再就職)と言っても、フルタイム就労や正社員雇用だけが社会復帰ではありません。心身に負担がかからないように気をつけ、柔軟な働き方や雇用形態を検討しましょう。
例えば、もともとは正社員だった方も休職後はまずパートやアルバイトとして職場に復帰し、時短勤務をするといった方法があります。あるいは、リモートワークにしてもらったり出社日を少なくしてもらったりできないか、上司や人事部と相談してみるのもよいかもしれません。また、障害者雇用を利用することにより、体調に合わせた働き方がしやすくなる場合もあります。
専門の支援機関に相談
復職や転職(再就職)を考える段階から職場復帰後まで、困りごとがあれば気軽に相談できる場所を作っておくとさらに安心です。例えば、定期的に医療機関でカウンセリングを受けたり、産業医と面談したりすると良いでしょう。また、後述する転職や再就職について相談できる専門の支援機関も複数あるので、ぜひ活用してみてください。
リワークプログラム
リワークプログラムとは、うつ病や不安障害などメンタルヘルスのトラブルで休職している方の職場復帰を支援する制度を言います。リワークプログラムの主な目的は次の通りです。
- 生活リズム・心身のコンディションなどの自己管理ができるようになること
- 基礎体力・集中力・持久力など就労に必要な能力の向上
- ストレス対処法や対人スキルの習得
リワークプログラムの内容は、実施する支援機関によって異なります。例えば、医療機関では医師や臨床心理士の下で医学的リハビリテーションや心理療法を受けることが可能です。一方、地域障害者職業センターでは職業カウンセラーのサポートを受けながら休職者と雇用者、主治医の意見をすり合わせた職場復帰プランを作成し、トレーニングを実施します。
また、就労移行支援では復職サポートのほか、現在就労していない方の就職サポートを主に行っています。さまざまな職種の実践的なスキルを習得できたり、就労後の定着支援もしてもらえたりする点が、就労移行支援のリワークプログラムの特徴です。うつ病などの精神疾患だけでなく、発達障害など幅広い障害に対応しているため、退職後にブランクがある方や発達障害があってうつ病の再発を繰り返している方も利用しやすいといえます。
うつ病で復職をする場合
ここでは、うつ病で休職していた方が復職する場合の流れについて説明します。
主治医から「復職しても問題ない程度に症状が寛解した」と判断を得たとしても、段階を踏んで復職するほうが心身への負担を軽くできます。例えば、会社に試し出勤(リハビリ出勤)制度がある場合は、フルタイムで正式に職場復帰する前に利用するとよいでしょう。
復職にあたっては、主治医に復職診断書を発行してもらって会社に提出する必要があります。また、上司や人事部、産業医などと復職の段取りや必要な手続きについて確認し、今後の働き方について相談することも大切です。時短勤務にしてもらったり、残業や出張を減らしてもらったりできれば心身への負担を抑えられ、再発防止にもつながります。
うつ病で再就職する場合
次に、うつ病で退職した方が再就職する場合に受けられる支援について説明します。
就職活動を行う際は、自分1人ですべてやろうと気負わずに、さまざまな支援機関が提供している福祉制度を活用してみましょう。うつ病の方が再就職の際に利用できる主な支援先と、主な支援内容は次のとおりです。
- 就労移行支援事業所:職業訓練や生活相談、就活支援、職場定着支援など
- ハローワーク:幅広い業種・雇用形態の求人を紹介・相談対応
- 精神保健福祉センター:臨床心理士や精神保健福祉士による支援
- 地域障害者職業センター:医療関係者との連携による専門的・総合的支援
- 障害者就業・生活支援センター:関係支援機関と連携しながら職業訓練や適職選定などの支援
- 発達障害者支援センター(発達障害の二次障害としてうつ病が出た場合):保健や医療、福祉、教育、労働など各関係機関との連携に基づく支援
うつ病の方が復職・再就職するときにおすすめの支援先
前述した支援機関の中で、うつ病の方が復職・再就職のサポートを受ける際におすすめしたいのが就労移行支援です。ここでは、Kaienが実施している就労移行支援と自立訓練(生活訓練)について詳しく紹介します。
Kaienの就労移行支援
就労移行支援とは、うつ病などの障害がある方の復職や転職(再就職)をサポートする福祉サービスです。就労移行支援事業所にはさまざまな専門資格や知識を持つスタッフが在籍し、利用者の状態に応じた支援を行います。
Kaienにおいては、在籍スタッフの約90%が社会福祉士などの専門資格保有者です。利用者1人ひとりに担当スタッフが付き、きめ細かいカウンセリングや就活支援、職場定着支援などを行なっています。また、障害に理解のある企業200社以上との連携により、他事業所にない独自求人も豊富に取り扱っています。
加えて、模擬職場でのトレーニングや100種類以上の職種体験、ビジネススキル講座や就労後のキャリアプランニングなど、就労に役立つカリキュラムが充実していることもKaienの就労移行支援の特徴です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
入眠障害や早朝覚醒などが起こりやすく「夜型生活が定着してしまって、なかなか昼型に戻れない」といった困りごとも、うつ病の方にはよくあります。生活リズムが乱れてしまった方や、職場復帰にまだ自信が持てない方には自立訓練(生活訓練)がおすすめです。
自立訓練(生活訓練)で身に付くスキルには次のようなものがあります。
- 食生活やセルフケア、生活リズムなど生活全般の基礎スキル
- 金銭管理や家事、服装など自分の生活の基盤づくり
- 人間関係やコミュニケーションを含む自己理解
- 就労や恋愛・結婚・育児など社会生活を充実させるスキル
- 社会保障制度や障害福祉制度など自分の権利の守り方
Kaienでは、発達障害の強みを活かせる自立訓練(生活訓練)や自己理解に役立つ講座などを実施しています。
就労移行支援と自立訓練(生活訓練)は原則として併用できません。自分にはどちらが合っているか迷う方は、お気軽にご相談ください。
うつ病からの社会復帰は焦らず適切な支援を
うつ病は、多くの日本人がかかる可能性が高いだけでなく、再発も多い病気です。また、発達障害のある方は生きづらさからくるストレスからうつ病を発症しやすく、再発を繰り返す場合もあります。
うつ病で休職や退職をした方は、焦らずまずはしっかりと休養と治療に専念しましょう。そして、社会復帰を目指す際は支援サービスを活用することがおすすめです。Kaienは発達障害に特化した就労移行支援・自立訓練(生活訓練)を実施する事業所として全国展開しています。無料で見学会や体験利用も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
メンタル疾患の休職でうつ病は最も多い疾患の一つです。このため、多くの患者さんの社会復帰を拝見してきました。まず注意していただきたいのが、復職を焦らないことです。早く復帰したいと焦る方ほど、職場との往復だけで疲れてしまうくらい体力的に戻っていないことが多いと感じます。
睡眠や食事が問題なく取れるようになったら、徐々に体力回復に取り組むと良いでしょう。最初は手軽に取り組めるウォーキングがお勧めですが、身体疾患のある方もいらっしゃると思いますので、主治医とよくご相談ください。
次に主治医から復職OKと言われても即、社会復帰とならないことにご留意ください。主治医のゴーサインが出てから会社の産業医や人事部、上司との面談や部内の調整があります。このため会社の規模にもよりますが、1、2週間はかかると考えておいた方が良いでしょう。
無理のない復職のため、主治医やスタッフに良くご相談くださいね。
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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