発達障害のグレーゾーンとは?仕事への影響や困りごと、仕事探しのポイントを解説

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発達障害のグレーゾーンとは、発達障害*の特性や症状があるにも関わらず、判断基準をすべて満たしていないため確定診断が出ていない状態を指します。ただし「グレーゾーン」はあくまでも状態を指す言葉で、グレーゾーンという診断名があるわけではありません。

この記事では、発達障害のグレーゾーンに関して知っておきたいことやグレーゾーンの方の仕事探しのポイント、対処法を解説します。発達障害の特性により日常生活や社会生活に悩みを抱えている方は、ぜひ参考にしてください。

発達障害のグレーゾーンとは

発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の特性や症状があるものの、判断基準をすべて満たしているわけではないため、確定診断が出ていない状態を指します。「グレーゾーン」は正式な診断名称ではなく、グレーゾーンだからといって症状や特性が軽いというわけでもありません。

発達障害の特性の出方は個人によって異なり、グラデーションのように濃淡があります。特性には個人差があり明確な数値で測れるものでもないため、医師が明言を避けるケースもしばしばです。また、自身で発達障害の特徴を認めながらも、医療機関を受診していないため「グレーゾーンである」と自己認識している場合もあります。

症状や困りごとがあるのに診断がつかないのはなぜ?

発達障害の診断基準には、腫瘍マーカーやγ-GTPのような絶対的な医学的数値基準がありません。発達障害の診断は診断基準とされるDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル/最新版はDSM-5-TR)に基づき問診を中心に行われるため、診療した医師によって判断がわかれるケースがあります。

また、発達障害の特性のあらわれ方には幅があり、環境の違いや時期、個人によって異なります。その日の体調によっても変化するため、受診のタイミングによっては診断基準に当てはまらないと判断される場合もあるのです。

加えて、後述する過剰適応が起こっている場合、相手の意見や機嫌に合わせようと必要以上に気を遣い、本人が特性を意図的もしくは無意識下で矯正してしまうために見過ごされる可能性もあります。ただしこの場合は、無理をしている状態が続くため心身に負担がかかり、うつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まります。こうした二次障害から、初めて発達障害の特性に気づく方も少なくありません。

ほかにも医師によっては、発達障害の方が診断がつくことでショックを受けないよう、あえて明言を避けるケースもあります。しかし、障害者雇用などの福祉制度を利用するには発達障害の診断がなければなりません。発達障害の特性や症状があり仕事や生活に困っている場合は、福祉サービスを使いやすくするためにも、診断基準を良心的にとって診断をつけてもらえるよう、セカンドオピニオンも検討すると良いでしょう。

大人の発達障害の種類

大人の発達障害とは、進学や就職といった環境の変化で発達障害の特性や困りごとが目立つようになり、大人になってから医療機関を受診して初めて発達障害と診断される状態を指します。発達障害は先天的な脳機能のかたよりが原因のため、大人になってから後天的に発達障害になるということはありません。あくまでも「診断がついたのが大人になってから」という点がポイントです。

大人の発達障害には「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如多動症)」「SLD/LD(限局性学習症/学習障害)」の3種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASD(自閉スペクトラム症)には、「対人関係・社会的コミュニケーションの困難さ」や「特定のもの・行動への強いこだわりや反復性」「感覚過敏または鈍麻」といった特性が見られ、知的障害を伴うこともあります。ASD(自閉スペクトラム症)は幼少期から特性が認められる場合が多いですが、個人差があるため大人になってから強く困難さを感じて受診するケースも少なくありません。

ASD(自閉スペクトラム症)のグレーゾーンの方は、日常生活や社会生活において、以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • 曖昧な指示の理解が難しい
  • 急な予定変更に対応できない
  • 人間関係につまずくことが多い
  • 音やにおいなどが気になりやすい

大人のASD(自閉スペクトラム症)の詳細はこちらを参照ください。

大人のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)

ADHD(注意欠如多動症)

ADHD(注意欠如多動症)には、じっとしていることが難しく落ち着きがない「多動性・衝動性」と、集中力の持続が難しい「不注意」といった特性があります。ADHDの方は多動・衝動優位型、不注意優勢型、両方が混合している混合型など、特性のあらわれ方にいくつかのタイプがあり、個人差が見られます。ADHD(注意欠如多動症)は、その特性が子どもに見られる特徴と重なりやすく、見過ごされやすいため幼児期に診断するのが難しいといわれています。

ADHD(注意欠如多動症)のグレーゾーンの方は、日常生活や社会生活において以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • 注意散漫でケアレスミスが多い
  • マルチタスクが苦手
  • 落ち着いて座っていられない
  • 衝動的な言動により人間関係が険悪になりやすい

大人のADHD(注意欠如多動症)の詳細はこちらを参照ください。

大人のADHDとは?仕事への影響やストレスを溜めない働き方、支援先について解説

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)は、読む・書く・計算するといった特定分野の学習に困難が見られる状態です。SLD/LD(限局性学習症/学習障害)には読むことが困難な「ディスレクシア(読字不全)」、書くことが困難な「ディスグラフィア(書字表出不全)」、数字や計算の理解が困難な「ディスカリキュリア(算数不全)」の3つに大別され分ます。就学期に診断されるケースが多く、知的障害は伴いません。

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)のグレーゾーンの方は、日常生活や社会生活において以下のような困りごとを抱えやすいです。

  • お金の計算や管理が難しい
  • マニュアルや指示書を読むのが困難
  • 不正確な文字を書いてしまう
  • 業務中のメモ取りができない

SLD/LD(限局性学習症/学習障害)の詳細はこちらを参照ください。

大人の学習障害/限局性学習症(LD/SLD)とは?特徴や診断方法、対処法を解説

グレーゾーンだから放っておいても良いと判断するのはNG

発達障害の診断基準をすべて満たさない(=グレーゾーン)からといって、発達障害の症状や困難度合いが軽いわけではありません。発達障害の症状や特性は、環境や体調などの要因でグラデーションのように変化します。グレーゾーンの方も同じで、困難の程度が重い時・軽い時が帯のようにつながっています。

困りごとを抱えた時に「自分は診断を受けていないから、ただ甘えているだけかもしれない」と周囲に配慮を求めず頑張りすぎてしまうと、後述する二次障害を起こしてしまう危険性もあるため注意が必要です。

グレーゾーンの方に多く見られる過剰適応とは

「過剰適応」とは、薄い自閉傾向がある(グレーゾーン)方が発達障害の特性や困りごとを抱えながらも、周囲に過剰に気配りするあまり精神的に消耗してしまう状態のことです。特にASD(自閉スペクトラム症)の方の場合、相手の意図を正確に読むことが難しいため、相手の意見や機嫌に合わせようと必要以上に頑張りすぎてしまい過剰適応を起こすケースがあります。

精神的に疲弊してしまうとうつ病を発症するなど、過剰適応は後述する二次障害へつながる恐れがあります。心の健康を保つためにも、グレーゾーンの方も発達障害の方と同じように特性や症状、困りごとに適切に対処し、場合によっては周囲に配慮を求めることが大切です。

発達障害の二次障害が起こる可能性

発達障害の二次障害とは、発達障害の特性が要因となって起こる後天的な精神疾患を指します。発達障害の方やグレーゾーンの方は、その特性により日常生活や社会生活で困りごとが起こりやすく、ストレスなどから自己肯定感やモチベーションが低下していくケースが少なくありません。その結果としてうつ病や適応反応症といった精神疾患を引き起こしてしまうのです。

また、困りごとの大元に発達障害の特性があるにも関わらず、大人になるまで診断がつかずに代わりに他のさまざまな精神疾患が診断されてしまう「重ね着症候群」になっている方も珍しくありません。

グレーゾーンの方に起こりやすい仕事のトラブル

発達障害のグレーゾーンの方に起こりやすい仕事のトラブルとして、周囲との適応に関わるものが挙げられます。ほかにもASDやADHDの特性がある場合は、認知や判断の部分でトラブルが起こりやすい傾向にあります。主な例として見られるトラブルは以下の通りです。

  • 漠然とした指示を理解するのが難しく混乱してしまう
  • 認知にかたよりがあり、思い込みや勘違いが多い
  • 常識的な判断が難しく、自己流のやり方で仕事を進めてしまう
  • 仕事の段取りが苦手で、期日を守ることが難しい
  • 注意散漫になりケアレスミスが多い
  • 一度に複数の業務をこなすことが困難
  • 業務上のリスクの想定ができない

発達障害のグレーゾーンの方は、診断が出ていないからといって診断が出ている方よりも適応できるかというと、そうではありません。グレーゾーンであっても心理状況によっては診断のある方よりも特性が色濃く出る場合もあります。未診断の方も、特性が見られる場合は対処や周囲の理解が必要です。

グレーゾーンの方の仕事探しのポイント

発達障害のグレーゾーンの方が就職や転職を行う際は、専門の支援機関を活用するのがおすすめです。発達障害の診断がなくても利用できる支援機関も多いので、有効活用しましょう。以下でグレーゾーンの方の仕事探しのポイントを詳しく紹介します。

支援機関やサービスを活用する

グレーゾーンを含む発達障害の方が仕事を探す際に活用できる主な支援機関は、以下が挙げられます。

  • 発達障害者支援センター
  • 就労移行支援事業所
  • 障害者就業・生活支援センター
  • ハローワーク

発達障害者支援センターは日常生活のサポートのほか、就労支援機関と連携した仕事探しや入社前後の支援も行っています。就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターも、個別相談や就労支援プログラムを通して雇用をサポートしているのが特徴です。

ハローワークには発達障害に関する専門知識を持つ職員が配置されていることも多いため、グレーゾーンの方の就職や転職の相談もしやすいでしょう。いずれも発達障害の診断がなくても利用できるので、自分に合った支援内容を選んで利用を検討してみてください。

障害者雇用には応募できない

障害者雇用に応募するには、障害者手帳が必要です。グレーゾーンの方は、例え発達障害の特性や症状があったとしても確定診断されているわけではないため、障害者手帳は取得できません。

障害者雇用で働くことを考えているならば、医師から発達障害の診断を受け、手帳を取得する必要があります。障害者手帳を取得すると、障害者雇用に応募できるほか、さまざまな福祉サービスを受けられます。発達障害の特性による困りごとを軽減できる可能性もあるので、働き方を悩んでいる場合には障害者手帳の取得を視野に入れても良いでしょう。

グレーゾーンの方ができる仕事の対処法

発達障害のグレーゾーンだからといって、状態や特性が目立たないわけではありません。そのためグレーゾーンの方も、発達障害の方向けの対処法を取り入れると困りごとの解決に役立ちます。自身の特性を理解し、周囲へ伝えることで職場でも配慮してもらえる可能性があるので、グレーゾーンの方に有効な仕事の対処法を覚えておきましょう。

自分の特性を理解する

もっとも重要なのは、自身の特性を理解することです。グレーゾーンの方は、発達障害の特性によって困難を抱えているにも関わらず、診断がついていないため「つらいと感じるのは甘えだ」「もっと頑張らなければ」と自分を責めてしまうことも少なくありません。

まずはグレーゾーンだからといって発達障害の状態が軽いわけではない点を理解し、困りごとは決して自身の努力不足ではないと自覚しましょう。そのうえで、発達障害の特性が出やすい状況や苦手な業務を整理し、自身の負担が少なく仕事を進められるパターンを考えてみましょう。

周囲に相談する

発達障害の特性により仕事に支障が生じないためにも、職場の人へ自身の特性を伝え、相談することも大切です。「診断はついていないが、こういった特性がある」と伝えておくと、苦手な業務や困りごとに対して配慮してもらえる可能性があります。

例えば漠然とした指示の理解が難しい旨を伝えれば、具体的な内容や期限を指示してもらえるかもしれません。また、マルチタスクが苦手な特性を考慮して、指示を1つずつ丁寧に出してもらえる可能性もあるでしょう。職場によってできる範囲は異なりますが、合理的配慮が義務付けられた昨今だからこそ、周囲の理解を得ることが働きやすい環境づくりには必要です。

専門機関を頼る

困りごとへの対処法がわからない、自分だけでは解決できないといった場合は、専門機関へ相談してみましょう。先述した発達障害者支援センターや就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センターなどは、未診断のグレーゾーンの方も利用できる専門機関です。

例えば就労移行支援事業所では、「職業訓練」「就活支援」「定着支援」を通して、利用者の一般就業に向けトータルサポートします。発達障害の特性のある方が働きやすい職種や環境を一緒に考えてくれるので、就労に不安のある方でも安心です。

Kaienの就労移行支援

Kaienの就労移行支援は、発達障害の診断がないグレーゾーンの方でも、障害福祉サービス受給者証があればご利用いただけます。

Kaienでは、常時100種類以上の職種を体験できる実践的な職業訓練を行っているのが特徴です。さまざまな仕事の体験を通して自身の特性に合った職種を探せると同時に、障害理解を深めて対処法を学ぶことで、社会スキルの習得も目指します。

就活サポートでは、Kaienと連携した200社以上の企業の求人を中心に、スタッフと二人三脚で利用者の方に合った仕事を見つけていきます。連携企業には、発達障害に理解がある企業が多い点も強みです。就職後には「定着支援」として、業務への困りごとや生活上の悩みの解決をサポートします。

Kaienは無料で見学会や体験利用を実施していますので、気になる方はぜひ、お気軽にご連絡ください。

Kaienの自立訓練(生活訓練)

Kaienでは自立訓練(生活訓練)を通して、自身の特性理解や自立スキルの習得を目指し、発達障害の方が自分らしく日常生活や社会生活を送れるようサポートします。

Kaienの自立訓練のプログラムは、これまでサポートした数千人のデータをもとに、本当に必要なスキルを厳選してつくられています。プログラムは生活スキルやコミュニケーションスキル、特性への理解を身につける「ソーシャルスキル講座」、講座で学んだ内容を2~8週間かけて実践する「マイ・プロジェクト」、日々の振り返りや将来に向けての強みをスタッフと1対1で探す「カウンセリング」の3段階に分かれています。

実践的な内容が多く取り入れられているので、仕事以前にどのように自立して生活していけばいいか悩んでいる方にもおすすめです。

グレーゾーンでも特性や困りごとに合わせた対処法を

発達障害の診断には絶対的な医学的数値基準がないため、特性や困りごとがあっても診断がつかないことが少なくありません。ただし発達障害の診断のないグレーゾーンだからといって、特性や状態が軽いわけではない点に留意しましょう。無理に周囲に適応しようとすると、うつ病などの二次障害を引き起こす可能性もあります。

グレーゾーンの方にとって、自身の特性を理解し、状況に合わせた対処法や相談先を知ることは重要です。適切なサポートを受けて、困りごとやストレスを1人で抱え込まないようにしましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

監修者コメント

「グレーゾーン」は悩ましい言葉です。発達障害特性があるのに診断しない/できないと言っているわけですから。また、発達障害に限りませんが、精神科診断は検査値によって自動的につけられるものではありません。そのため診察する医師によるバラツキが避けられない面もあります。医師からすれば発達障害診断をすることでそれがその人の生活をどのように変えるのかを懸念することもあるでしょう。とはいえ、診断によって初めて得られる支援手段もあるので、やはり必要なときは必要です。1度掛かった医療機関で診断の説明に納得がいかない場合には、改めて別な医療機関に掛かるのも1つの選択肢です。また、たとえ発達障害診断には至らないとされても、「発達障害の困りごと」への対策本は役立つ情報が多く載っていますので、参考にされても良いでしょう。尚、私自身は「グレーゾーン」という言葉は基本的に使わないようにしています。特性があることに関して、本人と認識が一致し、医療者に頼る必要があるのであれば、診断によって、様々な支援や、生きやすさに繋がることを期待しています。

監修 : 松澤 大輔 (医師)

2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。


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