高次脳機能障害は、事故や後天的な病気によって脳機能の一部に障害が出る後遺症の1つですが、発達障害*¹と共通する症状や困りごとが多く見られます。
この記事では、高次脳機能障害の概要やよくある症状、職場での困りごとについて解説します。また、それらの対処法や仕事を探す際の支援機関についても紹介しているので、高次脳機能障害でお悩みの方やご家族は、ぜひ参考にしてください。
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳卒中などの脳血管障害や交通事故などによる脳外傷、心肺停止による低酸素脳症などが原因で脳がダメージを受けたことにより、思考力や記憶力、注意力、言語、感情コントロールといった脳機能の一部に障害が起きた状態です。高次脳機能障害は外見からは分りにくいため、周囲から十分に理解してもらえない場合や誤解されやすいことも多く、ご本人は大きなストレスを抱えることがあります。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状は、主に以下の6つが挙げられます。
- 注意障害
気が散りやすく、ぼんやりするなど集中力が続かず、ミスをしやすくなります。マルチタスクや同じ作業を長時間続けることも困難です。
- 記憶障害
新しい出来事を覚えられない、何度も同じ質問をする、物の置き場所を忘れるといった症状が出ます。
- 失語
言いたい言葉が出てこなかったり、人の言うことを理解できなかったりします。
- 遂行機能障害
優先順位がつけられず、自分で計画して実行したり段取り良く進めたりするのが難しくなります。約束の時間に間に合わなかったり、指示してもらわないと何もできなかったりするケースもあります。
- 半側空間無視
視覚には問題がないのに片側への注意が欠落してしまうため、ぶつかったり見落としたりしがちです。
- 社会行動障害
感情や欲求のコントロールが難しくなり、興奮する、思い通りにいかないと大声を出す、暴力をふるう、人柄が変わってしまうといった姿が見られます。また、意欲低下も見られる場合があります。
発達障害と高次脳機能障害の違い
発達障害と高次脳機能障害はどちらも脳機能の一部に障害が出る状態ですが、発達障害は先天的、高次脳機能障害は後天的なものである点が異なります。実際に、高次脳機能障害の診断基準において発達障害は除外されています。
とはいえ、発達障害と高次脳機能障害はどちらも脳機能の連携のバランスに偏りがある状態であり、共通する症状も少なくありません。主な共通点は次の通りです。
- 発達に伴う機能の獲得に遅れや障害がある(発達障害全般)
- 人間関係やコミュニケーションが困難(自閉スペクトラム症/ASD)
- 多動性・衝動性・不注意(注意欠如多動症/ADHD)
- 読み書き・計算能力の障害(学習障害*²(限局性学習症)/LD(SLD))
よって、発達障害の方と高次脳機能障害の方は、症状や状態によっては共通の方法で困りごとに対処していくことができます。
高次脳機能障害の方の仕事での困りごと
高次脳機能障害になりながらも、職場に復職したり再就職したりと、再び社会生活に戻られる方も少なくありません。しかし、高次脳機能障害の方は職場で次のような困りごとを感じるケースが多いようです。
- 仕事を覚えるのに時間がかかる
- 作業内容などを一度覚えても忘れてしまう
- 自分のやり方にこだわり、マニュアルや指示があっても途中から自己流になってしまう
- うっかりミスが多く、特に作業時間が長くなるとミスが出やすい
- いつも同じことを間違えるが本人は気がつかない
- 一度に複数の指示をされたり、同時に複数の作業をやろうとしたりすると混乱する
- 左右のうち片側にある部品や書類などを見落としやすい
それでは、このような困りごとに対処していく方法を次で紹介します。
困りごとへの対処法
高次脳機能障害の方は記憶力や集中力、遂行能力が低下したり、言語コミュニケーションなどが苦手だったりするため、次のような対応を職場にお願いしてみましょう。
- 仕事の手順書やマニュアルを作成し、作業を確実化する
仕事の手順や優先順位が判断できなかったり、作業内容を忘れてしまったりしても、手順書やマニュアルを見ながら作業できます。
- 職務分担をする
高次脳機能障害の方はマルチタスクや計画して遂行することが困難なため、定型化した作業からこなせるよう分業化して、本人に合う仕事を振り分けてもらうと作業しやすくなります。
- 具体的な指示と指示者の明確化
手順書やマニュアルは視覚的な分かりやすさを意識し、口頭指示のみにせず慣れるまでは一緒に作業することがポイントです。また、作業中に迷った時は複数の指示で混乱しないよう、「誰に聞くのか」を明確化して混乱を防ぎます。
- 代償手段や環境調整
業務内容や口頭指示を覚えられない方は、代償手段としてメモ帳やスケジュール帳、作業手順書などを活用しましょう。また、作業手順などを目に付く場所に掲示する(物理的環境調整)、職場の人に声掛けやフォローをお願いする(人的な環境調整)のも有効です。
高次脳機能障害の方に向いている仕事
高次脳機能障害の方は苦手な作業を回避すると仕事しやすくなります。例えば次のような作業です。
- 作業工程が多い
- 作業範囲が複雑
- 作業内容が日によって変わる
- イレギュラーな作業が入りやすい
- 臨機応変な対応が必要(接客など)
- 複数の人とコミュニケーションを取りながら協力して行う
上記を避けられる仕事はいろいろありますが、高次脳機能障害の方は手順書やマニュアルを見ながら1人で黙々と作業できる仕事が向いているといえるでしょう。例としては、データ入力などの一般事務や商品の整理、荷物の仕分けや梱包といった軽作業、清掃業務などが挙げられます。
高次脳機能障害の方の仕事に関する支援先
高次脳機能障害の方が復職や再就職の際に利用できる、主な支援サービスは次の通りです。
- ハローワーク(公共職業安定所):地域障害者職業センターなどと連携した職業紹介・相談対応
- 地域障害者職業センター:職業評価や職業準備支援、職場適応支援
- 障害者就業・生活支援センター:基礎訓練・職場実習・生活に関するアドバイス
- 職業能力開発校:職業訓練・職場定着支援
- 就労移行支援:一般就労に向けた支援・職場定着支援
- 就労継続支援:就労支援や就労機会の提供 など
上記の中でも、就労移行支援は自己理解や仕事に必要なスキルの習得、職業訓練、就活支援、職場定着支援など就労のための総合的な支援を受けられます。
Kaienの就労移行支援
Kaienは主に発達障害の方向けの就労移行支援を行っていますが、上述のとおり発達障害と高次脳機能障害の症状には共通点が多いため、当社の考えや方針が当てはまりやすいです。
Kaienでは100職種を超える実践的な職業訓練を体験できるため、自分の適職が分かります。また、社会スキル・自己理解講座などが50講座以上あり、自分の強み・弱みを理解して苦手なことに対処できるようになります。
また、Kaienは障害に理解のある200社以上の企業と連携しており、他事業所では扱っていない独自求人の紹介が可能です。就活支援においては担当カウンセラーが二人三脚でしっかりとサポートし、あなたに合う職場を見つけます。就職後も3年半の就労定着支援や定着支援SNSで安定就労をサポートするので安心です。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienは自立訓練(生活訓練)も行っています。まだ働く自信や就活への意欲がない方や、就活準備の前に生活リズム・生活習慣の改善と、自立生活に必要なスキルの習得から始めたい方には自立訓練がよいかもしれません。
Kaienの自立訓練では次のようなスキルを身につけられます。
- 自分の障害特性(得意・不得意)を見つめ直して自己理解する
障害名と特性、服薬、ストレス対処、自分の権利の守り方など。
- 自立生活に必要なスキル
食生活や睡眠、家事全般、金銭管理など。
- 周囲への配慮の仕方や要求の仕方を覚える
感情コントロールや合理的配慮など。
- コミュニケーションスキル
職場でやり取りする各場面をシミュレーションし、周囲の人とうまくやっていくスキルを実践的に学べます。
原則的に就労移行支援と自立訓練(生活訓練)は併用できません。自分にはどちらが合っているか迷う方は、お気軽にご相談ください。
無理なく働ける仕事探しは就労移行支援におまかせ
高次脳機能障害の方は集中力が続かない、ワーキングメモリが弱い、コミュニケーションやマルチタスクが苦手など、発達障害と共通した困りごとを抱えるケースがよくあります。高次脳機能障害の方の仕事探しは、発達障害に特化したKaienの就労移行支援におまかせください。Kaienの就労移行支援なら、あなたの強みを活かし弱みに対処する方法を学べます。無料の見学会や体験利用、個別相談会も実施していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
監修者コメント
高次脳機能障害は、今まで認知機能に問題なかった方が外傷やくも膜下出血などのイベントをきっかけに、今まで出来たことが出来なくなってしまう、忘れっぽくなる、抑うつ状態になってしまう、怒りやすくなってしまうなど認知機能に大きな障害が出る疾患です。今まで健康だった方がある日を境に出来ないことが増えるため、ご本人はもちろん、ご家族や友人も受け入れがたいのではないでしょうか。
なかには非常にまれですが、交通事故による高次脳機能障害によって絵画の突出した才能を開花させた、GOMA氏というディジュリドゥ奏者がいます*。「サヴァン症候群」と呼ばれる病態なのですが、GOMA氏の精密な点描が織りなす独特の世界観を覗くと、高次脳機能とは何か、そして認知とは何なのか、と考えさせられるのではないでしょうか。
*https://gomaweb.net/news/4143/
監修:中川 潤(医師)
東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。
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