ひきこもりの状態から社会復帰を考えている人の中には「ひきこもりでも就職できるだろうか」「何から始めればいいのか分からない」と不安に思う方もいるでしょう。
この記事ではひきこもりから就職を目指すステップや、利用できる支援サービスについて解説します。ひきこもりの方が働きやすい環境や仕事も紹介しているので、社会復帰を目指している方はぜひ参考にしてください。
ひきこもりとは
ひきこもりとは、さまざまな原因によって人や社会とのかかわりを極端に避け、長期間にわたって家や部屋に閉じこもる状態を言います。精神的な問題、家庭内の問題、学校や職場でのストレス、社会的な孤立感などきっかけはさまざまです。
厚生労働省によると「社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」と定義され、具体的な症状や状態には個人差があります。自室からほとんど出ない「ひきこもり」や普段は家にいるが近所のコンビニなどには出かけられる「予備軍」など、外出できる範囲を基準に分類されています。
詳しい外出状況の分類は以下を参照ください。
関連記事:ひきこもりでも就職できる?原因や心理に寄り添う就労移行支援で社会復帰を目指そう
ひきこもりは病気なの?
ひきこもりは、社会的な問題や対人関係などさまざまな要因が影響しているため、単なる1つの疾患ではありません。例えば、学校や職場の環境に適応できなくなった結果、ひきこもりになるケースもあります。
ひきこもりという病名はなく、背景には精神疾患が関連していると言われ、中でも発達障害*が大きく影響していると考えられています。厚生労働省の調査によると「精神保健福祉センターにおけるひきこもり相談者の約30%が発達障害と診断された」という結果も報告されています。
ひきこもりの方が就職困難な理由
ひきこもりで社会的な活動にブランクがあると、就職は困難と考えられています。主な理由は、対人スキルやコミュニケーション能力の低下です。ひきこもりの期間は社会との関わりが少なくなるため、社会的なコミュニケーション能力が低下しています。そのため、面接や職場でのコミュニケーションが上手くいきづらいと考えられているのです。
また、ひきこもり期間が長いと生活のリズムが不規則になり昼夜逆転が起こりやすいため、日中に動けない(働けない)可能性が高まります。
そのほか、求人の探し方や履歴書の書き方など、就職活動に関する情報が少ないことや就労に対するモチベーションの低さなども、就職が困難になる理由の1つです。
ひきこもりの方に向いている仕事
ひきこもりでブランクがあっても回復途上にある方であれば、働きやすい環境を選ぶことで適した仕事はいくつかあります。どのような仕事を選べばよいか不安な方は、以下の条件で仕事を探してみましょう。
- 未経験OK
- 研修などサポートが手厚い
- 障害に理解がある
- 人との関わりが少ない
- 在宅勤務やリモート
経験やスキルを問わず未経験からでも始められる仕事は、研修やサポート体制が整っていることが多く、しばらく社会から離れていた方でも対応しやすいでしょう。在宅やリモートなど、人との関わりが少なく一人で完結できる仕事も向いています。
また、ひきこもりになった原因が分かっている場合は、その原因が対策されている職場や仕事内容を探すと安心して働けるでしょう。
ひきこもりの方の社会復帰までのステップ
ひきこもりの方が社会復帰を果たすためには、個人の状況に合わせて行動することが大切です。以下のステップを参考に、無理をせず自分のペースで一歩ずつ進めていきましょう。
専門機関へ相談
社会復帰への第一歩は、専門機関やカウンセラーに相談することです。専門家はひきこもりの方の状況を理解し、適切な支援やアドバイスを提供してくれます。カウンセリングを受け、自身の問題や目標を整理し、次のステップに向けて計画を立てましょう。
ひきこもり地域支援センターでは、有資格者がひきこもりに関する相談や一人ひとりの状況に応じたさまざまな支援を行い、社会復帰をサポートします。
心の悩みに関する相談をしたいときは、全国各地にある精神保健福祉センターでカウンセリングや居住支援、生活訓練プログラムなどを提供しているので、ぜひ活用しましょう。
医療機関の受診
ひきこもりは精神疾患が関与している可能性が高く、治療が必要な場合があります。うつ病などの疾患がある場合、時間がたつと状態が悪化し回復が長引く可能性もあるので、放置は危険です。
まずは、ひきこもりの原因が精神疾患によるものなのかを、正しく見極める必要があります。現状どのような精神・健康状態であるかを確認するためにも、早めに医療機関を受診しましょう。
現在の状況を把握することで精神的に安定する効果もあるため、安心して就職活動を始められるよう、できるだけ受診してください。
生活習慣の乱れを改善
社会復帰には健康的な生活習慣の確立が欠かせません。ひきこもり状態のときに不規則な食生活、運動不足、睡眠障害などがあった方は、まず生活リズムの乱れを改善しましょう。そのためには、適切な栄養摂取や運動、十分な睡眠など、生活習慣を整えることが重要です。
もし自分だけで自立した生活を送るのが難しい場合は、自立訓練(生活訓練)のサービスを利用する方法もあります。自立訓練(生活訓練)では生活スキルの習得や特性の理解、カウンセリングなどを通し、生活習慣の自立を目指します。詳しいサービス内容については以下をご覧ください。
関連記事:自立訓練(生活訓練)サービスについて
就労支援サービスの利用
心身ともに回復し生活が安定してきたら、社会復帰に向けて就職活動をスタートさせるタイミングです。しかし、一人では何から始めたらいいのか分からずに不安になる方もいるでしょう。そのような方には、ひきこもりの方の就労をサポートする「就労支援サービス」の利用がおすすめです。
就労支援サービスはさまざまな機関が提供しており、代表的なところではハローワークや就労移行支援などが挙げられます。これらは社会活動にブランクがある方に向けて、就職に必要なスキルや知識、困りごとへの対処法などを習得するためさまざまなサポートを行っています。就職先を紹介するだけでなく、カウンセリングや適性診断も可能です。
各機関が提供するプログラムやサービスを活用すれば、能力や特性に合った職場を見つけ、自立した生活を取り戻すきっかけができます。ひきこもりから就職を目指す方は、利用を検討してみましょう。
就労移行支援はひきこもりの方におすすめ
就労支援機関の中でも「就労移行支援」は、ひきこもりから就職を希望する方が利用しやすいサービスです。障害のある方や、ひきこもりなどの理由で働くことが難しい方が就職できるように、さまざまなサポートを実施しています。Kaienでも就労移行支援を行っており、主な支援内容は以下のとおりです。
- 実践的な職業訓練
- 独自求人を含む求人紹介や就活サポート
- 手厚い定着支援
Kaienでは、常時100職種以上の職種体験ができ、自分の特性を活かせるチャンスが広がります。ビジネススキルなども一から学べるので、就労経験のないひきこもりの方でも安心です。
就活サポートにおいても、障害に理解のある企業200社以上と連携し、他事業所にはない独自求人を紹介することができます。一人ひとりに担当カウンセラーがつくため、悩みごとや困りごとの相談がしやすいのもKaienの強みです。
就職後も生活上の困りごとや職場との関係など、スタッフが親身になって相談に乗り、手厚い定着支援を行っています。Kaienでは無料で見学会や体験利用を随時開催していますので、興味のある方はお気軽にご連絡ください。
ひきこもりの方の就職は就労移行支援におまかせ
ひきこもりから社会復帰を目指す際は、何から始めればいいのか分からず不安に思う方も多いでしょう。まずは医師や専門機関に相談し、心身の健康を取り戻すことが大切です。ひきこもりの状態が回復に向かい就労への意欲がわいてきたら、就労移行支援サービスなどの支援機関を活用し、自分に合った仕事を探しましょう。
Kaienでは、就労に必要なスキルの習得や実践を想定した職業訓練など、さまざまなサポートを行っています。専門的な知識と経験のあるスタッフが、発達障害の方やひきこもりの方の社会復帰をお手伝いします。「現状から一歩踏み出そう」と考えている方は、お気軽にご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
監修者コメント
ひきこもり、は本文にある通り厚労省によって「6ヶ月以上概ね家庭内にとどまっている状態」とされています。あくまでもこれは厚労省の定義なのは注意が必要ですが、疾患でもないし、理由も様々です。発達障害の関与する可能性が30%とも言われますが、これは多いとも少ないとも言えない気もします。要は様々な理由によって生じているということであり、原因探し、はこれからを考えたときには役に立たないこともあります。
私の外来にも、ひきこもり状態の方はおられます。初診時2年以下の方が24%だった一方で、10年以上の方もほぼ同数おられました。ただ、これは希望でもあると思いますが、その後の社会復帰に関しては、何年以上だと難しいなど一定の傾向はありません。中には18年にも及ぶひきこもり状態から脱して、今は元気に就労しておられる方もいます。そして、ひきこもり状態を脱した方の一番の要因が就労移行支援事業所を利用できたことであったのは確かです。ひきこもり状態が長引くと、やはり一足飛びに状態を脱して社会参加するのは難しいものです。自分に適した支援者、支援組織を見つけて頼っていただけると良いと思います。
監修 : 松澤 大輔 (医師)
2000年千葉大学医学部卒業。2015年より新津田沼メンタルクリニックにて発達特性外来設立。
2018年より発達障害の方へのカウンセリング、地域支援者と医療者をつなぐ役割を担う目的にて株式会社ライデック設立。
2023年より千葉大子どものこころの発達教育研究センター客員教授。
現在主に発達障害の診断と治療、地域連携に力を入れている。
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、医学博士。