障害者雇用促進法などの影響を受け、企業における障害者の雇用が増加傾向にあります。障害が日常生活で困難を来すことはあっても仕事に支障がないケースもあり、特性や向き不向きを考慮することで、自分に合った仕事に就ける可能性は高まるでしょう。
本記事では、障害でも働ける仕事の種類や向いている仕事の例、障害者にとって働きやすい職場の条件などについて解説します。障害者の就労についての相談先も紹介しますので、障害のある人にとって働きやすい仕事に就くための支援を検討するためにもぜひご覧ください。
障害者でも働ける仕事は多い
そもそも障害は日常生活での困難さが審査基準であるため、仕事をする上で支障がない人もいます。また、業務面で支障がある場合でも、職種によってはその支障が出づらい、あるいは関係しにくいこともあります。
よって、障害があるから働けないという職種は存在しないと言えます。とはいえ、特性や苦手を考えて仕事を選ぶ必要があり、多くの場合、就職活動における手間や工夫が必要になることは事実です。
厚生労働省が公表している「令和5年の障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の雇用障害者数は約64.2万人で、前年度に比べて約2.8万人増えています。また、実雇用率は2.33%、前年度比+0.08ポイントと雇用者数とともに過去最高を更新しました。
また、障害者雇用促進法で事業主に義務付けられている障害者の法定雇用率(民間企業は2.3%)を満たした企業の割合は50.1%と半数を超えています。
加えて、公的機関と独立行政法人などでの雇用障害者数と実雇用率も前年度を上回りました。結論として、障害のある人が働ける職場や仕事は年々増えていることがわかります。
障害者でも働ける仕事の例とは?
障害者が働ける仕事にはさまざまなものがあります。ここでは、障害のタイプ別に向いている職種や仕事について具体的に紹介します。
身体障害者の方に向いている仕事
「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によれば、身体障害者の雇用数が多い業界は以下の通りです。
- 製造業
- 卸売業、小売業
- サービス業
- 医療、福祉
また、職業別の雇用者数の割合では、事務的職業が26.3%と最も多く、次いで生産工程の職業
(15.0%)、サービスの職業(13.5%)が多くなっています。
個人の特性や心身の状態によって、無理なく行える業務範囲は異なりますが、身体障害者の人に向いている仕事の一例として以下のようなものが挙げられます。
- 製造業での簡単な組み立て作業
- メールでの問い合わせ対応
- データ入力や従業員のサポート業務
精神障害者に向いている仕事
前述のデータにおける精神障害者の人が多い業界は以下の通りです。
- 卸売業、小売業
- 製造業
- サービス業
- 医療、福祉
また、職業別の雇用者数の割合では、最も多いのが事務的職業(29.2%)で、専門的・技術的な職業(15.6%)、サービス業(14.2%)、運搬・清掃・包装などの作業(11.1%)が多くなっています。
精神障害者の人に向いている仕事の一例としては以下が挙げられます。
- 電話やメールでの問い合わせ対応
- データ入力・書類作成など
- 簡単な接客作業
- 清掃業務
- 梱包・入出荷などの作業
発達障害者に向いている仕事
前述のデータによると、発達障害者が多い業界は卸売業・小売業(40.2%)が圧倒的で、続いてサービス業(14.6%)、製造業(10.2%)が多くなっています。職業別の雇用者数の割合は、サービス業(27.1%)、事務的職業(22.7%)、運搬・清掃・包装等の職業(12.5%)が上位を占めています。
発達障害*の特性や心身の状況によって、向いている仕事や業界は異なります。例えば、ADHD(注意欠如多動症)の場合、自分の興味を発信できる編集者やカメラマン、専門分野に特化した研究者などです。一方、ASDの場合はルールやマニュアルに沿って作業する経理やコールセンター、ルーティン系の仕事などが向いています。
また、筑波大学と株式会社Kaienが共同で実施した「発達障害のある方の就業実態調査」では、LD/SLD(学習障害/限局性学習症)の診断のある人は、デザイナーや通訳、編集者など、法務・経営・文化・芸術等の専門的職業に就く割合が多いという結果が出ました。
知的障害者に向いている仕事
前述のデータにおける精神障害者の人が多い業界は以下の通りです。
- 卸売業、小売業
- 製造業
- サービス業
- 医療、福祉
- 宿泊業、飲食サービス業
また、職業別の雇用者数の割合で最も多いのはサービス業(23.2%)で、運搬・清掃・包装等(22.9%)、販売業(16.8%)が続いています。
知的障害者の人に向いている仕事の一例は、以下のとおりです。
- 簡単な組み立て作業・仕分け作業
- 商品のピッキング作業、梱包・検品作業
- ホテルや施設での清掃業務
- 商品の整理整頓
- レストランでの盛り付け作業
障害者にとって働きやすい働き方の選択肢
障害のある人が働きやすい仕事を選ぶ際には、職種や業務内容だけでなく働き方や働く環境も考慮する必要があります。ここでは、障害のある人にとって働きやすい仕事を選ぶための働き方の選択肢を紹介します。
在宅勤務で働く
在宅勤務が可能な仕事や職場は通勤の負担がなく、自家用車や公共交通機関などによる通勤が困難な人でも継続的に働きやすいでしょう。また、自分の体調や障害の程度に合わせて仕事がしやすく、人とコミュニケーションを取ることが苦手な人や補装具を使う必要がある人にとってストレス軽減につながります。
在宅勤務でできる仕事の一例としては、パソコンを使ったデータ入力やライティング業務、プログラミング、デザインなどです。他にも、商品封入やラベル貼りといった内職や軽作業、コールセンター業務もあります。
オープン就労で働く
オープン就労とは、障害や疾患などを企業に開示した上で就労することです。障害のある人を対象とした求人が多いですが、障害者に限定しない通常の求人によって就労ができる可能性もあります。
入社の際に企業へ自分の特性や症状について相談し、職場環境や仕事内容などへの必要な配慮を受けながら働くことができます。また、就労移行支援事業所などの支援機関と職場が連携し、定期面談やサポートを受けられる場合もあります。
その日の体調に合わせた短時間勤務や早退など、柔軟な働き方にも対応してもらえる可能性もあるでしょう。
障害者雇用で働く
障害者雇用は、障害者手帳を持っている人が企業の障害者雇用枠で就労することです。障害者雇用促進法の「障害者雇用率制度」に基づき、企業の全従業員のうち、一定の割合で障害者を雇用することが事業者に義務付けられています。
障害者雇用を積極的に進めている企業の多くは、障害者が働きやすいように就労環境や教育、支援に関する制度などを整備しています。採用時に障害や特性に関する不安や配慮について相談することで、勤務時間や勤務体制に関する必要な配慮、通院への理解などを得られやすくなるでしょう。
障害者雇用に応募できるのは、原則として障害者手帳を取得している人に限られます。
特例子会社で働く
特例子会社とは、障害者の雇用促進や安定を図るために設立された会社のことです。一般的な企業に比べて、就労環境や勤務体制、体調管理などさまざまな面における配慮があり、障害のある人が働きやすい環境が整っています。
また、専門の相談員や担当者も配置されているため、より柔軟な働き方がしやすい傾向にあります。加えて、特例子会社は一般的に大企業のグループ会社として設立されるため、雇用が安定している可能性が高いでしょう。
ただし、仕事内容が限定的なケースもあり、スキルアップやキャリアアップを目指す場合には物足りなく感じられるかもしれません。
福祉的就労で働く
福祉的就労とは、障害のある人が社会に参加し、自己実現に向けた支援を受けながら働く制度のことです。個人の特性や障害の程度に応じて支援を受け、自分のペースで働けるように配慮されています。
福祉的就労に対し、障害の有無によらず一般の企業や組織と雇用契約を結び、定められた条件のもとで働くことは一般就労と呼ばれます。福祉的就労は一般就労と異なり、個人の障害に合った個別の支援を利用でき、労働時間や仕事量などの条件の調整も可能です。一方で、職種の選択肢が多い一般就労に比べて提供される職種が少なくなる場合があります。
福祉的就労では、就労継続支援のA型事業所やB型事業所、地域活動支援センターなどの施設で働くことができます。
障害者の就労に関する相談先
障害のある人の仕事探しや就労に関して聞きたいことがある場合には、いくつかの相談先が利用できます。ここでは、主な4つの相談場所を紹介します。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、国が厚生労働省設置法に基づいて運営する総合採用サービス機関です。仕事を探している人と求人を募集したい事業主の双方に対し、さまざまなサービスを無償で提供しています。
求人が多数集まるハローワークは、障害者雇用枠の求人も多く扱っています。また、障害について専門知識をもつ職員や相談員を配置し、障害のある人の就職活動支援や仕事に関する情報の提供、就職相談なども利用できます。
加えて、個人にあった求人の提出を事業主に依頼することや採用面接への同行、障害のある人向けの就職面接会なども行っています。場合によっては、障害者を対象とする求人以外にも、一般の求人にも応募が可能です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターとは、ハローワークなど地域の就労支援機関と連携し、障害のある人に対して専門的な職業リハビリテーションを提供する施設です。全国47都道府県に設置されています。
具体的には、ハローワークでの職業紹介やセンター内での作業体験、職業準備講習、社会生活技能訓練など個人のニーズに応じた各種支援を行っています。利用者は基本的な労働習慣を体得し、職業能力やコミュニケーション能力の向上を促し、就労を目指すことが可能です。
サービスを利用するためには、障害者手帳は必須ではありません。また、障害や難病があると認められている人だけでなく、障害の疑いがある人も相談できる場合があるので問い合わせてみましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、障害者の職業生活における自立を目的とした支援機関です。雇用・保健・福祉・教育などの関係機関と連携し、障害者の身近な地域での就業や生活における一体的な支援を通して、障害者の雇用の促進と安定を図ります。
就業面では、就業相談や職業準備訓練、職場実習のあっせんなど就職に受けた準備、就職活動、職場定着などに関する支援が受けられます。また、生活面について、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理など自己管理についてのアドバイス、住まいや地域生活に関する相談が可能です。求人紹介は受けられませんが、相談や支援は無料で利用できます。
就労移行支援
就労移行支援とは、障害のある人が一般企業への就職を目指し、スキルや知識の習得を支援するサービスです。個人の特性や希望に応じて個別の就労プランを立案し、就労移行支援事業所に通所しながら計画に沿って、スキル習得や就職相談などを実施します。
長く安定して同じ職場で働き続けられるよう、体調管理やコミュニケーション能力を身に付けるためのサポートも利用可能です。また、就職して終わりではなく、就労後の継続した支援も受けられます。
受講できるプログラムは就きたい職業や事業所によって異なりますが、ビジネスマナーや書類作成だけでなく、WordやExcelなどのパソコントレーニング、デザインやプログラミング言語の習得など専門的なプログラムを提供する事業所もあります。
障害者が働ける環境は増えている
厚生労働省の調査データでは障害者の雇用は年々増加しており、障害がある人でも希望する職場や仕事に就ける環境が整ってきています。障害のある人が働ける職種そのものには制限はありませんが、個人の特性や心身の状況を踏まえた上で、適した仕事内容や働き方を考えることが重要です。
企業によっては在宅勤務などで柔軟に勤務条件を調整してもらえる場合もあります。また、障害者雇用などの制度や専門の相談先を利用することで、必要な支援やサービスを受けながら就労を目指すことも可能です。
Kaienでは、職業訓練やスキル向上プログラム、独自求人の紹介などの充実した就労支援を提供しています。さまざまな分野の専門知識と経験を持つスタッフによるサポートを受けながら、安定就労に向けて計画的に動くことが可能です。希望する仕事や働きやすい仕事に就くために、必要な支援制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。