発達障害*の方は能力の凹凸が大きく、仕事で苦労する場合も少なくありません。発達障害の特性を活かして安定した生活を送るためには、自分にあった仕事や働き方を知ることが大切です。
この記事では、発達障害の種類ごとの特徴と困りごと、得意を活かせる仕事や職業などを紹介します。発達障害の方の就職・転職活動のポイントについても解説しているので、自分に合った仕事を見つけたい方はぜひ参考にしてください。
発達障害の方に向いている仕事はある?
発達障害には主に以下の3種類があります。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- SLD(限局性学習症)
それぞれの特性や仕事で生じやすい困りごとは異なるため、発達障害の方にはこの仕事が向いていると一概にはいえません。向いている仕事を探すというよりも、困りごとを避け、自身の特徴に合った仕事を見つけるのがよいでしょう。
ここからは、それぞれの発達障害の特徴と困りごとの例を紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と困りごと
ASD(自閉スペクトラム症)は遺伝的な要因が複雑に関係した脳機能障害によって、対人関係が苦手であったり、強いこだわりを示したりする特性がある発達障害です。かつては広汎性発達障害やアスペルガー症候群、自閉症などと呼ばれていましたが、現在はASDで統一されています。
ASDの方の特性と、仕事で起こりやすい困りごとをまとめたのが以下の表です。
主な特性 | 困りごとの例 |
コミュニケーションの障害 | ・他人の気持ちの推測が難しい・自分の気持ちをうまく表現できない |
対人関係・社会性の障害 | ・人間関係を築けない・冗談や誇張表現、遠回しの表現などをそのまま受け取ってしまう |
興味・関心の著しい偏り | ・一部にこだわりすぎて全体を考えられない・複数の業務を並行してできない |
パターン化した行動 | ・マニュアルや明確な指示がないと作業ができない・予期しない変化に対応できない |
感覚過敏 | ・蛍光灯の明るさに耐えられない・特定の音や匂い、感触に大きなストレスを感じる |
過剰適応 | ・周囲に合わせるために、空気を読もうと頑張りすぎてしまう・気配りをしすぎてすぐに疲れてしまう |
ADHD(注意欠如多動症)の特徴と困りごと
ADHD(注意欠如多動症)は不注意と多動・多弁、衝動的な行動を特徴とする発達障害です。詳しい原因はわかっていませんが、ドパミンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質が不足して起こるとされています。
ADHDの特性と困りごとの例は以下のとおりです。
主な特性 | 困りごとの例 |
不注意 | ・目標に向けて行動中、他の刺激に反応してしまう・忘れ物やなくし物がとても多い |
多動・多弁 | ・職場や持ち場にじっとしていられない・場に合わないことをしゃべり続けてしまう |
衝動的な行動 | ・思ったらすぐに行動してしまう・我慢できない・会議や打ち合わせで話す順番を待てない |
SLD(限局性学習症)の特徴と困りごと
SLD(限局性学習症)は、知的な遅れがないものの、読む・書く・計算の一つまたは複数の学習能力に著しい困難がある発達障害です。
SLDの特性と困りごとの例は次のとおりです。
主な特性 | 困りごとの例 |
ディスレクシア(読字不全) | ・書類を読むのに時間がかかる・文章の一部を読み飛ばしてしまう・意味のまとまりを理解できない |
ディスグラフィア(書字表出不全) | ・メモをうまくとれない・資料や報告書を書けない・書く文字が鏡文字になったり、マス目を大きくはみだしたりしてしまう |
ディスカリキュリア(算数不全) | ・計算や集計作業ができない・レジや会計業務ができない・時計を読むのが苦手で時間管理ができない |
発達障害の方の得意を活かす仕事とは?
発達障害の特徴は個々による差が大きく、意欲や経験も関係しますが、発達障害の傾向で得意とする仕事・業務を大きく分けると次の通りです
「ASD(自閉スペクトラム症)」傾向の場合は作業内容が固定化された型にハマったような仕事、「ADHD(注意欠如多動症)」傾向の場合はご自身の興味関心にあった上でミスや抜け漏れが目立たない仕事が良いでしょう。「SLD(限局性学習症)」傾向の場合は読み・書き・計算のない業務で能力を発揮しやすい傾向があります。
それぞれ具体的な職種や業務内容をあげながら解説します。
ASDの方に向いている仕事や職業
- 経理
- IT関係
- 事務
ASD傾向の発達障害の人の適職の例として「経理職」が上げられます。「IT関係」の仕事も適性が当てはまることが多いようです。人間相手の微妙な頃合いで正解が変わるものではなく、ある程度合理的に仕事が進んでいく、成果物も○×がわかりやすいという点がフィットしています。「事務作業」も対人折衝が少なければ得意なことが多いでしょう。
詳しくは以下の記事で紹介しているので、併せてご覧ください。
ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)に向く仕事・働き方
ADHDの方に向いている仕事や職業
- クリエイティブ関係
ADHD傾向の方の適職は、ユニークな発想を活かせるクリエイティブな仕事や、その場でやりとりが完結するような業務が得意な傾向があります。重要なのはご本人の集中力が薄れないこと。いくつもの業務や役割を同時に任されることよりもその業務に専属で取り組めることも重要になります。
起業家やフリーランスには発達障害、特にADHD傾向のある方が多いと言われます。確かに起業家にADHDが多いのは実際に調査結果でも出ています(英語資料)。しかし得意を活かせるものの、営業や経理まで一人でこなさねばならない点では不向きな働き方です。起業やフリーランスでの働き方を選ぶ場合は、自分の苦手をカバーしてくれるビジネスパートナーや取引先、支援者との協力関係を築くことが何より重要です。
詳しくは以下の記事で紹介しているので、併せてご覧ください。
SLDの方に向いている仕事や職業
- 接客
- クリエイティブ関係
SLDの方は読み・書き・計算が苦手ですが、知的能力に障害はありません。そのため、タブレットやバーコードなどで応対できる接客業なら「凹」の部分が出にくく、社交性があるような人は「凸」が発揮しやすいでしょう。
また、SLDの方は視空間(図形)能力が優れている人が多くいるという傾向もあり、実際、美術学校には文字の読み書きが苦手なSLD(ディスレクシア)の方が多いという研究結果もあります。
そのため、イラストレーターやグラフィックデザイナー、カメラマンといった非言語中心の職業で才能を活かしているSLDの方もいます。たとえ特別な才能がなくても、読み・書き・計算がない仕事であれば、ハンデキャップを感じることなく働きやすいでしょう。
発達障害の方が苦手な業務や職場環境
発達障害の方が苦手としやすい仕事・業務は残念ながらたくさんあります。以下がその一例です。
- 電話応対の多い業務
- 接客業務(特にASD傾向の強い場合)
- 営業
- 書類の作成業務
- SE
- プロジェクトマネ―ジャー
「電話応対の多い業務」や同時並行が多く相手の気持ちも汲みながら働くような「接客業務(特にASD傾向の強い場合)」、段取り良くかつ時には話を盛る必要もある「営業」、ミスが許されない「書類の作成業務」などがあげられます。
向いているとされるIT関連でも、調整の役割の多い「SE」や、プロジェクト全体の予算や進行工程、人の管理を行う「プロジェクトマネ―ジャー」といった職種は基本的には避けたほうが良いでしょう。
発達障害の方の就職・転職活動のポイント
発達障害の方が仕事を探す際は、働き方を考えることが大切です。雇用形態や障害開示などの知識と方法を知り、仕事上の困りごとをなるべく減らすとよいでしょう。また、障害のある方が利用できる支援機関を頼り、就職・転職活動の負担を軽減することも重要なポイントです。
ここからは、発達障害の方が就職・転職活動に臨む際に大切な2つのポイントを紹介します。
働き方を考える
発達障害の方が一般企業で働く際には、主に「一般雇用」と「障害者雇用」の2種類の働き方があります。一般雇用と障害者雇用のどちらで就職するかを決めるには、「年齢」、「精神的な強さ」、「知的水準」、「発達障害による苦手の多さや深刻さ」、「ご家族のサポートの状況」など多くのことがらについて考えなければなりません。
障害者手帳が必要な障害者雇用の採用プロセスでは、実習が重視される傾向です。知的レベルが高ければ一般雇用に向いていると思われがちですが、そうとは限らずコミュニケーション能力や環境への適応能力などを考慮する必要があります。
一方、一般雇用で長く働きたいなら、自身の障害を打ち明ける「障害開示」をするのが有利です。一般雇用であっても、自分の力を発揮するために必要な配慮(合理的配慮)を受ける権利は法律で保障されています。定着率も高くなるため、一般雇用でも障害開示をして働きやすさを向上させるのがおすすめです。
近年では一般雇用と障害者雇用のボーダレス化が進み、障害者雇用でも仕事の選択肢が大幅に増えました。30万円以上の月収を得たり、正社員に登用されたりする事例もあり、「障害者雇用は制約が多い」とは一概にいえない状況になってきています。
支援機関を頼る
発達障害の方が一人で就職・転職活動に臨むのは困難です。ハローワークや障害者職業センター、就労移行支援事業所などの支援機関を頼りながら、将来的なキャリアの選択肢を増やすとよいでしょう。
ハローワークでは、障害に関して専門知識を持つスタッフを配置し、きめ細かく相談に対応しています。障害者職業センターは、障害のある方に対する専門的なリハビリテーションを提供する施設です。
就労移行支援事業所では、一般就労を目指す障害のある方に、職業訓練や就活サポートなどの支援を提供しています。これらの機関と連携し、自分がどのような企業に就職できるのか模索することをおすすめします。
発達障害の特性を活かした仕事・職種選びが重要
発達障害の方は仕事で困りごとを抱える場合が多いため、特性を活かせる仕事や職種を選ぶことが重要です。職場での困りごとについては企業側に合理的な配慮を求められますが、これにも限界はあります。負担が多すぎると感じているなら、専門的な知識を持ったスタッフがいる支援機関に相談し、特性を生かした職種や業務への転職を検討するとよいでしょう。
Kaienの就労移行支援では、特性に合わせた職業訓練や実践的な講座、障害に理解がある企業の求人紹介といった就労に関するトータルサポートを行っており、高い実績を誇っています。
また、Kaienでは自立訓練(生活訓練)も実施しています。働く自信はまだないけれど生活の基盤を築きたい、障害理解や自立生活に役立つプログラムを通じて自分の将来を再設計したいという方におすすめです。
発達障害の特性により仕事の困りごとを抱えている方は、お気軽にKaienまでご相談ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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